第十四話
「――――!」
「――――!」
二人で同時に呪文を唱える。
すると、頭の中に自分のものではない「思い」が再生された。
『へえ、俺は正義を殺さなければいけないのか』
『お、なんか面白そうなサイトだな。……あ、これ良い! でもリスク高えな……』
『そういや正義を殺すって言っても具体的に何をすれば良いんだろう。そうだ、無差別に殺人をすればいいのか。あれ、俺どうしてこんなことを考えているんだっけな? あ、そうだ、予言だ。運命なら従わないとな。元々人を殺したいって思っていた所だし、丁度良いや』
『ふーん、永園には妹がいるのか。魔法は使えるのか?』
『どうやら使えるらしいな。そうだ、伊田のふりをすれば使い方を知る事が出来るかも』
『すげ、成功した。へえ、呪文はそういうメカニズムだったのか。俺の場合は……』
『よし、記念すべき第一回の殺人成功。いやー、血の色って綺麗だったな……』
『この調子で第二の殺人計画を進めよう。次はこのあたりでやらない方が良いな』
…………。
企みも何もなかった。
ただ、自分が殺したいと思ったら殺す。無差別に。
まるで獣の様に、自分がやりたいがままに、人を殺すのか。いや、獣は生きる為に殺すのだから、違う。
小さい子供が無邪気に、バッタの足をもいでトンボの羽を毟る。それと同じだ。
僕等は、その思考回路が理解できなかった。
だが、そういう人間ではない様な人間の事を、何と言うのかは知っている。
サイコパス。
良心や善意を持たず、何が罪かも分からず、嘘を吐いたりするのに躊躇いが無い。
人を殺してもなんとも思わない、そんな、哀れな、ヒト。
――まさか、こんな近くにいるとは思わなかった。
やがて知りたかった全ての伶太の「思い」の再生が終わった。
僕と巧真は、ぐったりとしていた。
とても、疲れていた。
恐ろしかった。
怖かった。
さっきから、サイコパスの文字が頭の中を旋回している。
「……春希、俺もう帰るわ」
「うん。作戦会議は明日ね」
「ああ。じゃ」
「じゃあね」
巧真は呪文を唱えて、自分の家に帰った。
***
次の日。
登校し、席について本を読む。
けれど、頭の中は伶太の事で占められていて、文字が意味の持たない記号にしか見えない。
何回も何回も同じ文を読み返す。
だが意味は無く、僕は開き直って本を閉じ、考えに集中することにした。
まず、伶太は第二の殺人を実行しようとしている。それを止めたうえで、伶太が今後殺人や悪事を働かないようにしなければならない。
でも、具体的にどうすればいいのかが分からない。
――やっぱり、殺すしかないのだろうか。
今までの決戦でも、敗者は全員死んでいる。
だから……。
そうなると、覚悟を決めなければならない。大きな罪を背負う覚悟を。
今日の授業は、全く頭に入らなかった。かといって、テストの心配なぞしている余裕はなかった。
***
放課後。
今日も僕の家に集まった。
僕は、切り出した。
「伶太を止めるには、やっぱり殺すしかないと思う」
「それは駄目だ。伶太と同類になってしまう」
やっぱり、止められた。
巧真は続ける。
「他に方法があるはずだ。例えば、良心を植え付ける事は出来ないのか?」
僕もそれを考えたのだけれど、
「無理だよ。人の考えや思いには干渉できないんだ。それもまた自然の法則から大きく外れる事だから」
「なら、悪の心を小さくするのは?」
「まず『善悪』の概念がないんだよ、サイコパスだから」
「そうとは限らない。ただの中二病かもしれない」
「普通だったら、人を殺すことにはブレーキが掛かるはずなんだよ。それが掛からなかったとい言う事はつまり」
「サイコパスということか……。救いは、救いは無いのか!? ただ、どうにもできないから殺すしかないのか!? もっと他に……方法は、無いのか……?」
僕も、思っていた。
救いは無いか。
方法は無いか。
サイコパスはサイコパスのままなのか。
本当に、彼に良心は無いのか。
自然の法則から本当に外れているのか。
でも――――。
無かった。
僕の頭では分からなかった。
それを言うと、巧真も諦めたのか、黙りこくってしまった。
気まずく、重く、苦しい沈黙。
やがて巧真が口を開いた。
「――やるしか、ない。俺は、人を殺す。罪を、一生背負う」
その目には、涙が浮かんでいた。
僕も、覚悟を決めた。
***
「お母さん、春花。僕と巧真は、正義を殺す者の命を奪う事になった」
夕食が終わった、直後。
僕はダイニングで宣言した。
「そんな、お兄ちゃん……。他に方法は……?」
「無い。結局、僕等は思い付かなかった。これは、最終手段だったんだけれど……」
「でも!」
尚も止めようとする春花に向かって、首を横に振る。
「……っ!」
春花は、歯を食いしばって引き下がった。
けれど、お母さんはまだ止めようとする。
「駄目よ、春希。人を殺しては。正義を殺す者と、同類になって……」
「分かってる。それはちゃんと理解しているし、理解したうえで決めたんだ。覚悟もした。誰かが必要悪とならなければいけないんだよ」
「駄目、駄目よ! 絶対に駄目っ! お母さんは、春希に、罪を背負って欲しくないのよ!」
「……ごめんなさい。でも、じゃあ、僕じゃない、他の誰かが罪を背負えばそれで良いの? 知らない人が僕の代わりに苦しんでも? それとも、誰も止めずに、伶太が殺人をするのをぼーっと見過ごすの!?」
「春希……」
「僕は、そうなって欲しくない。誰かが止めるんだ。誰かが、罪を背負うんだ。その誰かは、僕と巧真だ。もう決まったんだ」
「そんな……そんな……酷いわ……」
「本当に、ごめんなさい。お母さんの息子に、殺人を犯させて」
すすり泣くお母さんに、僕は何回も謝り、頭を下げた。
……とそこに、
「コラーッ!!!!」
と叫びながら、お祖父ちゃんが現れた。僕達はそれぞれ、
「えっ、お、お祖父ちゃんっ!?」
「いらっしゃい……?」
「お父さん、何を怒っているの? やっぱり、春希と巧真くんが殺人をしようとしている事?」
そう反応したが、お祖父ちゃんは首を横に振って、言った。
「何故、わしだけ仲間はずれなんだー!」
……はい?
まさか、それだけでこんなに怒っているの? いや、怒っているというより、拗ねている?
きょとんと呆気にとられる僕達を気にせず、お祖父ちゃんは続ける。
「全く、わしはこの件に関わる人間の中で最も年上だろうが。一番経験豊富で知識もたっぷりある。だというのに一度も相談せず、勝手に赤居伶太を殺そうと決意して! わしは呆れた!」
「……」
「……」
「……」
シーン……。
気まずい沈黙。
昨日巧真と話していた時とはまた違う気まずさ。
やがて、
「ぷっ……クク…………アッハハハハハッ!」
三人で大爆笑。
そして、
「お祖父ちゃん、子供みたい!」
「いい歳して、お父さんったらもう……」
「精神年齢ひっく!」
総ツッコミ。
お祖父ちゃんはますます拗ねてしまった。
「ふん、三人そろって馬鹿にしよって。折角お前等が殺人をしなくて良い方法を持ってきたというのに」
「アハハ、へえ、そう。……。えっ!?」
今何て言った!?
「だが、そんなに馬鹿にするのなら教えてやらんぞ。それでも良いのか?」
「良くない良くない良くないです! ごめん謝るから教えてーっ! この通り!」
僕は手を合わせて頭を下げる。
「まあ、そこまで言うのならよかろう。巧真も呼べ。話はそれからだ」
「分かった! 今すぐ呼びます!」




