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第十三話

 「は? 伶太が? そんな訳ないじゃん。だって証言からしても、伶太どころか誰も後ろを通ってなかったんでしょ?」


 僕は思わず疑問の声を上げた。

 だが、巧真は首を横に振る。


 「確かにそうだけど、もし、伶太が魔法を使えていたら? その可能性が無いとは限ら……」

 「限るよ! だって、書庫になんて用は無いはずだし、それに呪文について話したのも家だったし!」


 僕は巧真の言葉を遮って否定したが、


 「あいつは、俺らがこそこそと周りを気にしながら書庫に入ろうとしていたのを疑問に思って、勝手に見に来たのかもしれない。そこで自分が『正義を殺す者』だと知り、更にお前が魔法を使って、その呪文を唱えたことから呪文を見付けてしまったのかもしれない」


 と諭された。

 言われてみれば、その可能性は無きにしも非ず。


 「でも、呪文は、簡単には分からないようになっているし……」

 「――それもそうだな。だが、あいつは頭が悪いわけではない。最悪の事態は想定しておくべきだと思う」

 「…………そう、だよね」


 僕は、納得したけれど、それはそれで怖かったしもどかしかった。


 「じゃあ、伶太が魔法を使えるようになっているかどうかを確かめないとな」

 「いや、もし魔法が使えるのなら、伶太の様子を見ていた時に分かったはずだよ」

 「魔法は意思と想像力で、自然界の法則に大きく外れなければ何でも出来るんだろう? だったら俺たちに見られても大丈夫なように、何かしらの対策をしているはずだ。それを上回る魔法を使って確かめないといけない」

 「うん、じゃあ今からやろう」

 「そうだな」


 言い忘れていたが、ここは僕の家だ。だから周りに気を使わなくとも話ができる。

 僕等は早速、実行した。

 『伶太の様子を、彼がかけた魔法が効かないように見る』と、想像力じゃ足りないので、意思を強く持って、それぞれ呪文を唱える。

 すると、いつも覗いている伶太の部屋が現れたが、いつもとは違って、パソコンを凝視していた。


 「あのパソコンで何をしているか見てみよう」

 「うん」


 『パソコンの画面』と念じて、また呪文を唱える。

 映っていたのは、『猟奇犯罪提案データベース』というタイトルのサイトだった。タイトルからして闇サイトとか違法サイトっぽい。


 「わーお。これは秘密にしたいわけだ。この中から犯罪を選んで、実際に魔法でやってみたってか」


 巧真が冗談めかしして言うが、その顔つきは真剣で、怒っているようにも見えた。僕はそんな巧真を横目で見ながら、パソコンで『猟奇犯罪提案データベース』と検索する。普通の検索エンジンなら出てきたりしないだろうが、僕等には魔法があるから、検索ボタンを押すときに『闇サイト、違法サイト含む、アクセスは無かった事に』と魔法を掛ければOK。

 『猟奇犯罪提案データベス』は、黒い背景に白い文字の見た目からして怪しいサイトだ。

 中身も怪しい。というより、犯罪を促進するような内容なので、怪しいを通り越して危険だ。

 サイトのトップには『普通に殺人』『事故に見せかけた殺人』『自殺に見せかけた殺人』とカテゴリ分けしてあり、そこをクリックすると殺人方法の一覧表が出てくる。


 そして、その中にあった。

 『学校での殺人に。技術室の大きな刃物の前に立った人を、誰も見ていない隙を見計らい、背中をドン! 警察には話を聞かれるでしょうが、「いきなりこけた」などと証言しておけばOK。リスクは高いので、実行には注意!』

 という『殺人方法』が。


 僕等は、押し黙った。

 静寂が、痛い。

 暫くして巧真が


 「これ、か」


 ぽつりと言った。さっきより短い言葉だが、そこには怒りが凝縮されていた。僕は、


 「そうみたいだね」


 と返すのが精一杯だ。

 会話それ自体にはあまり意味は無いが、何か喋らないとやっていけない程に、雰囲気が重たかった。

 これを実際に起こそうとするやつがいるなんて、信じたくなかったが、既に実際に実行されているのだ。


 僕等の学校で。

 たった十三年しか生きていない少年が。


 彼は、分かっているのだろうか。

 人の命を奪うという行為の罪深さを。

 人が死ぬと悲しみが生まれるが、人が奪う事で、本来生まれるはずのなかった怒りが生まれる事を。

 分かっていないからできるのか。それとも分かった上で……?


 魔法を知った所為で、赤居伶太の実行力が上がってしまった。

 僕等は気付かないうちに彼の殺人計画に加担していたのだ。

 罪悪感が、静寂と共に、この場の王者となって支配を始めた。

 苦しかった。

 暫くして、僕は言った。


 「このサイトは、危険だね」

 「ああ、そうだな」


 何かを喋って、苦しさから解放されたかったが、意味は無かった。

 寧ろ、そんな逃げようとした自分に対しての嫌悪が、僕の苦しみを倍増させた。

 やがて巧真も口を開いた。僕とは違い、しっかりと意味を持った言葉を。


 「伶太が、何をしようとしているのかはよく分からない。だが、もっと人が死ぬことは覚悟しておかなくてはいけないと思う」

 「うん……。取り敢えずこのサイトは閉鎖させないと。魔法で干渉しよう。そのあと伶太の企みを知らなくちゃ」

 「ああ。だがこのサイトに書いてある殺人方法は控えておいた方が良い。この後あいつが何をするか予想しておかなくちゃいけないから」

 「じゃあ、さっそく取り掛かろう」


 僕はワードを立ち上げ、そこにサイトの文字を全てコピー&ペーストし、保存。

 それを印刷し、もう一度『猟奇犯罪データベース』のサイトを開く。そして、『このサイトを閲覧、管理、その他不可能にして消滅させる』と念じる。具体的にどんな効果が出るか分からないが、そこは意思の力がカバーしてくれるはずだ。

 僕は呪文を唱えようとして息を吸った。

 だがその瞬間、


 「待った!」


 という巧真の声で、唱え損ねた。


 「何?」

 「ここでこのサイトを消滅させたら、俺達が伶太の企みに気付いたとばれてしまう。そうするとすぐに、あいつは俺たちを殺そうとするはずだ。それは、避けた方が良い」

 「あ、言われてみれば、危なかった。ありがとう。じゃあ、やり直し」


 僕はさっきの念に、『但し伶太の閲覧は許可』と加えて、呪文を唱える。


 「――――!」


 するとパソコンの画面が一瞬ブラックアウトし、ウィンドウが閉じられた。

 念のためもう一度サイトを検索する。

 けれどもう、そのサイトが画面に上がって来る事は無かった。

 よし、成功。

 これで、サイトは消滅された。

 僕はほっと安堵の息を吐く。


 「よし。次は伶太の企みを知らなくちゃ」

 「ああ」


 僕等は頷き合った。

 強く。


 ――もうすぐ、事態を大きく動かすときが来る。

 その予感を感じて。

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