第十一話
放課後、図書館には行かず、すぐに下校した。
校内で携帯電話やスマホを使うのは禁止なので、校門を出てから母にメールで連絡する。
最寄駅に着き、電車に乗る。
春希とは、途中まで通学路が同じで、俺は最寄駅から三駅で降り、春希は二駅だ。
電車が駅に着き、降りる。
駅から十分位歩いた所で、春希が立ち止まる。「此処が僕の家だよ」と。
そこは、ごく普通の二階建ての家だった。
扉を開け、「ただいま」と入って行く春希について、家に入る。
「お邪魔します」
「いらっしゃ~い。春希から話は聞いているわ。伊田巧真くんね」
俺に微笑んできたのは、春希のお母さんらしき女性だ。
「お母さん、ただいま。春花はどうしたの?」
「本屋と古本屋に行ってるわ」
「そう」
俺の推測は当たっていた。春花とは、お姉さんか妹だろう。
訊いてみると、妹だそうだ。
「それじゃあ、お祖父ちゃんの家に行って来る。そのあともう一度ここに帰って来て、そのあと巧真を送って来るね」
「分かったわ」
「じゃあ巧真、僕の部屋に荷物を置こう。そしたらおじいちゃんの家に行くから」
「ああ」
春希の部屋に荷物を置かせて貰い、必要になりそうなものだけ持ち、玄関に一度戻って靴を履く。
「よし、準備は出来た? じゃあ、行くよ……。――――!」
春希が書庫の中でも唱えていたある言葉を言った途端、目の前に遭った景色が、一変した。
俺らが立っていたのは、春希の家の玄関ではなく、広い敷地の平屋建ての家だった。
よく見てみれば、表札には『永園』とある。
「ここが、お祖父ちゃんの家」
春希が説明した瞬間、家の扉がガラガラと開いた。
そこから出てきたのは、お爺さん。
お爺さんと言っても、顔の皺の他に年老いた感じはしない、若々しい人だ。表情も、姿勢も。
彼は、
「おお、よく来た! 春希に、『正義を助ける者』。伊田巧真君だね?」
と顔を輝かせる。
「あ、はい。すみません、突然お邪魔して」
「良いんだ。魔法で分かる事だからな。さあ、入った入った」
「お邪魔します」
「少し、居間で待っていてくれ。『予言ノ書』を持ってくるから。春希、案内しろ」
「うん」
春希に案内され、居間の机の前の座布団に座り、暫くするとお祖父さんが戻ってきた。手に、和紙を糸で綴じた本を持っている。題名は、『予言ノ書』…………。
「これが、春希も話した『予言ノ書』だ。伊田君、読んでみてくれ」
お祖父さんが差し出したそれを受け取る。
そんなに厚くはない、黄味掛かった本の表紙を開くと、そこには。
「……読めないです」
大分昔の本の様なので、当然、古い字体で書かれている。だから、読めないのだ。
「ま、だろうな。冗談だ。春希、全て話したのか?」
「うん、全部」
「じゃあどうして来たんだ?」
「知ってるでしょ、どうせ」
「まあな」
どうやらお祖父さんは、お茶目というか、少年っぽい所があるらしい。
そういえば『僕と魔法使い』も、この人が書いたって言っていたっけ。なんだか、納得できる。
そして、ここまできてようやく――なぜこのタイミングだったのかは永遠の謎だが――予言についても、信じる事が出来た。
「春希、もう予言については納得したよ。だから、もうそろそろ帰らないか」
「えっ。ほんとに? 何故今?」
「分からない。でも、もう大丈夫だから」
「分かった。じゃあ、お祖父ちゃん、もう帰るね」
「ああ。そうそう、これから先の事は、基本的にお前達がしろ。わしが主導権を握るのは、これ以上は出来ない、というよりしない方が良い。当事者は、お前たちなのだから」
お祖父さんが、真剣な顔をする。今までとは全く違う。
その顔は、どことなく春希に似ていて、少し微笑ましくなった。
「はい、分かりました」
「うん……大丈夫! じゃあ、もう帰るよ。またね、お祖父ちゃん」
「さようなら」
「ああ、またいつでも遊びに来て良いからな。アドバイスが欲しくなった時でも」
「ありがとうございます」
「ありがとう」
そうして、春希は呪文(らしき言葉)を唱えた。
次回からは春希目線に戻ります。




