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LvEx05:きんぎんすなご

 竹と笹の区別がつかない。


 そんな時期もありました。


 さて。

 俺の目の前に広がるのは、鬱蒼とした籔である。

 前世の俺なら手に鎌を持ちつつも、呆然としてしまう籔。電動草刈り機を構えた爺様でさえ途方に暮れるんじゃないか、そう思えるレベル。今はそんな事は無い。何故か。


刈り払え(ファルシーラ)!」


 めっちゃ簡単な言霊を叫ぶと、ザッと風が吹き荒び、あっという間に綺麗サッパリ籔だった場所が無くなった。序でに刈り取られた物をキチンと揃えて括って纏める。

 この間僅か一分余り。何と言う楽な作業か。


 因みにこの刈り取った籔……ぶっちゃけ笹。この笹は、騎士団で飼っている騎獣の餌になる。新鮮な笹しか食べない、パンダみたいな騎獣が居るのだが、ソイツの為に毎回あちこちの竹藪を騎獣隊は奔走している。

 今回俺はそのお手伝いでついて来ている。


「殿下、有難うございます。助かりました」

 粗方道具袋(アイテムボックス)に詰め込んだ所で、騎獣隊の隊長が俺に挨拶してきた。

「気にするな、俺も利が有っての事だ」

「勿体無いお言葉です」

 恐縮しまくっている隊長だが、気持ちは判る。何せ俺が参加する様になる前は、大量に必要な新鮮な笹を何処で調達しどう保存するか、毎回悩んでいたのだ。

 笹しか食べない癖に、味に五月蝿いのか毎日同じ種類の笹は厭がるし、新鮮で無いと判ると見向きもしない。流石に冬場は入手が困難な事が判っているからか、そんな事は無いのだが、ワサワサ生える初夏から夏にかけては、特に瑞々しく柔らかいのが気に入っているのか、其ればかり欲しがる。贅沢なヤツだ。

 この季節はそんな我儘な騎獣の為に、笹刈りが毎日行われていて大変だった。

 其処に俺が――確か当時三歳かそこら――笹が欲しいと言ったら、当時の隊長に泣かれた。


「殿下までぇぇぇ! 何ですか美味しいんですかァ!? 笹ァッ!!」

「ゑ、笹団子は美味しいけど、別に刈りたて新鮮じゃ無くても、余ったので良いんですけど!?」


 あの時は吃驚した。後で聞いたら、丁度前日に件の騎獣が笹を選り好みして、二回も笹を刈りに行った時だったらしい。疲れ果てている時に俺が笹を欲しがったもんだから、プチッと……そのまんま、隊長は暫く休職する事になった。



 俺が笹を欲しがったのは、単純に七夕竹を作りたかっただけだ。前世の記憶を取り戻してから、季節毎の行事で似た様な物があると、思い出してなぞりたくなる。


 俺としては沢山有る笹の内、一メートル位の笹竹が二本も有れば良いなと軽く考えていたのだが甘かった。


 先ず奴等……複数頭居るパンダ擬きは新鮮な笹を好むので、ほぼ毎日笹を刈りに行かなければならなかった。然も大食漢で在庫をしていてもあっという間に無くなってしまう。日々籔との闘いだった。


 結局その時は何とか一本貰えたものの、非常に気詰まりでもあった。お詫びと言っては何だが、セバス爺ちゃんに訴えて労働環境の改善と、食費の見直しをして貰った。


 だって本来の仕事じゃ無いんだよ、籔を刈るのって……。本来なら支給された餌で我慢しろと言っても良いのだが、其れでは騎獣が可哀想だからと新鮮な肉や野菜、諸々を手配して来た騎獣隊。其れがいつの間にか振り回される様になっちゃって。


 基本に戻すのは当然として、騎獣愛に満ち溢れる彼等の心情も汲まねばならぬと、食材集めの隊員を増やした。騎獣の訓練と世話を隊員がやるのは当然として、持ち回りで給餌に関する作業をする事になった。人数が増えた分、多少は楽になった筈なのだが、基本的に騎獣隊の隊員達は騎獣愛に溢れているのか、労働環境を楽にさせた筈なのに浮いた筈の時間を騎獣に掛ける。

 どんだけ騎獣ラブなのお前ら。と声を大にして言いたかった幼き俺。今もちょっと思っている。


 そして今現在。

 騎獣隊の籔刈りには俺も世話になっている事だし、と都合がつけば参加する様にしている。

 俺の参加に騎獣隊が大賛成・大歓迎してくれるのは理由がある。

 刈り取りに魔法を使うので短時間で終わる事と、俺の作った汎用道具袋の存在が大きい。


 初めて作った道具袋は、俺個人しか使えない物だったのだが、ギルドで簡易道具袋を貸し出している様に、共有出来る物も有るのだ。騎獣隊でも勿論使っていた。だが其れは簡易道具袋で、容量が多くない。かと言って大容量の物は個人用のとなるし、大量に持つとなると管理も大変だし、金も掛かってしまう。

 そんな訳で道具袋の見直しを図った訳だ。


 結論から言えば道具袋の共有化は出来た。大容量化は……直接倉庫と繋げる事で解決した。

 騎士団の騎獣舎に有る食料庫、其処の一部を亜空間と繋げて道具袋とも繋げた。結果、亜空間なので鮮度は保たれるし、大量に刈り取っても保管に困らない。万々歳である。



 籔も刈り、目的の笹も入手した所で城に戻ると、デューが迎えに来てくれた。

「あにうえ、おかえりなさい!」

「ただいま、デュー。いい子にしてたか?」

「はい! あにうえの代わりにたくさんかざりを作りました!!」

 ニコニコ誉めて誉めてと言わんばかりの笑顔のデュー、俺の弟ながら可愛いくて素直だ。思わず常備している飴を「あーんして?」と口に放り込む。ぷくりと膨らんだ頬が可愛らしい。


「有り難うな、デュー。じゃあ飾ろうか」

「はいッ!」


 飾りつけの終わった七夕竹を軒端……は無いので、窓に飾る。ゆらゆら揺れる飾りが、風を感じさせて何とも風情がある。

 其れを見ながら、テーブルの上に並べられたデザートを頬張れば、何とも幸せな気分になる。


「願い事は何て書いたんだ?」

 口一杯にケーキを頬張るデューに訊く。因みに俺作・新作ロールケーキで、スポンジを天の川をイメージしてデコり、フルーツを中に仕込んだ。 切ると断面が星の模様になる様になっている。金太郎飴とか太巻寿司みたいな感じだ。

 願い事は短冊を見れば判るが、この可愛い弟が何を願ったのか、理由も知りたい。内容如何ではお兄ちゃんが叶えてやるぞ。

 そんな俺の想いを知ってか知らずか、デューの答はと言えば。


「あにうえのほさがリッパにできるようになりたいです!」


 ……なにこの天使。かわええ。


 思わずかいぐり撫で回した。


 窓の外には揺れる笹の葉。サラサラ揺れて。

 揺れる飾りは天の川。


 流れ星に願いを託そう。

 今夜はきっと晴れ。




初出:2016/07/08

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