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LvEx04:料理長と俺の挑戦

 雪去月(二月)のとある日。

 城に戻った俺に、西六邦聖帝国(ヘスペリア)から荷物が届けられた。

 送り主の心当たり等、一人しか居ない。前世での俺の弟子、ヘスペリアの皇妃となったセンちゃんである。

 何だろう、と箱を開けてみて固まった。


 カカオだ。


 どう見てもカカオが、箱の中に鎮座(ましま)して居た。

 然もこのカカオ、豆では無く皮付きの実である。


 こんな物を寄越して何をさせたいんだ、あの娘は! と頭を抱えたが、日付を見て考え直した。

 雪去月の十四日。前世で言えばバレンタインデーだ。

 最早男女の告白ツールではなく、チョコレートを贈るお祭りと化しているので、単純に御歳暮みたいな気持ちで贈ったのだろう、あの莫迦弟子は。豆では無く実を送り付ける辺り、愉快犯的な物もある。

 そう考えて、手紙が添えられていたのに気付き読んでみた。


 ―――ラディンから貰ったので、お裾分けします。


 ……余計要らねぇぇぇ!



 其れは兎も角、食材に罪は無い。

 それに良く考えれば……良く考えなくても、弟子の旦那であるヘスペリアの皇帝陛下は、弟子に関して酷く心が狭いと言うか嫉妬深い。バレンタインデーと言う行事は余り広まっていないが、恐らくその意味とか渡す物は、弟子から聞いているであろう。まともなチョコレート等貰っていたら、ヘスペリアからすっ飛んできて奪われる。マジで。この場合実で良かったのかも知れないと本気で思う。

 カカオの実ならチョコレートの範疇には入らない、と言う建前で俺に寄越したんだろう、多分。


 其れにしてもカカオの実は初めて見た。

 実は此の世界にもカカオが有るのは薄々気付いていた。何せチョコレートが有るのだ。原料となるカカオが有るのは当然だが、其れがどういう状態か、は疑問に思っていた。

 いや、だって異世界だよ? 前世だと木に生っていたカカオだが、若しかすると地面の中で芋みたいな状態だとか、麦みたいな植物で、乾燥させて挽くとカカオマスの状態になるとか、有るかもしれないじゃないか! あんまり考えたく無いが、動物の内臓と言う可能性も有る。

 実際、俺が探した昆布と煮干はサイズが全く違う。

 有っても可笑しくはない、と思っていたが、普通にカカオの実で吃驚である。

 まぁ、野菜や果物、魚介類は殆ど同じ様な色や形、味のものが有るので、其処まで驚く事でも無いかもしれない。


 さておき。

 カカオの実の状態から、どうやって加工すれば良いのだろう。暫し悩む。

 ググレーカスで調べても、余り詳しくは判らない。此れは俺のスキルが未熟なせいである。

 確かカカオの実から豆を取り出し、発酵させてうんちゃら、だった筈。その発酵の仕方が判らないし、豆は焙煎するんだよなぁ?

 鳥とか山猫に食べさせて、その糞から取り出すのは……あ、コーヒー豆だった。でも似た様なものか?

 俺が悩んでいると、いつの間にか料理長がやって来て、カカオの実を手に持ち宣った。

「殿下、お任せください。不肖マゲイロス、この食材無事に調理してご覧にいれます!」

「あ、そ、其れは助かるけど……料理長、此れが何か知っているんですか?」

「は、ショコラの実です。南方の特産品でして、殿下のお好きなショコラータの原料です」

 おおお。確り判っていた。此れは心強い。

 因みにショコラータと言うのはチョコレートでは無い。ココアみたいなもんだ。固形の物は、ちゃんとチョコレートと言う。

 …多分、異世界人が広めたんだろう、名前とか作り方。その割にバレンタインデーが広まっていないのは不思議だが。まぁ良いや。


 カカオの実を加工するのは料理長に任せる事にして、俺は学校へ戻った。……で、その事をすっかり忘れてしまった。

 いや、俺も渡すだけ渡して放置なんてするつもりは全く無かった。マジで。だけど俺も新生活で色々あってだな……うん、言い訳デス。ゴメン。

 一応センちゃんへ礼状だけは認めた後なので良かった。貰うだけ貰って礼も無しでは、元日本人として仁義に悖る。


 で、忘れ去られたカカオの実だが、料理長も実は斜め上だった。

 てっきり全部カカオマスに加工して、チョコレートを作るのかと思いきや。


 庭師と協力して温室を作って 栽 培 しやがった!


 吃驚したよ。何か知らんが温室が出来たなぁ、と思って見に行ったら、何故か料理長が足繁く通っているって聞かされて。どういうこっちゃと思ったら、育苗中の苗床見せられて「順調に育っております!」だもん。目が点になったわ!


 南方の特産品で高級品の筈のチョコレート。我が国でも王族専用ではあるが、手軽に食べられるようになりました!

 俺に与えられた領地の特産品の一つですが何か?


 …カカオ畑作ってやったさ。温室じゃ無くて、魔導具で指定範囲の温度を調節するやり方で。

 温度管理が容易なお陰でカカオはすくすく育ってくれたが、魔導具に魔力を補充するのが大変と言うかお金が掛かってな……。其れが無ければ他所の領地でも推奨したんだが、リスクまで押し付けられないし、俺の領地だけならまぁ良いか、と。あ、血税を使っての道楽じゃ無いよ? 魔力の補充は俺が出来るだけやるようにしてたし、出来なくてもセバス爺ちゃんが作ってくれた俺の個人口座から出資してるから! ホラ、魔術師協会に登録してる特許で、魔導具を各種作って販売している売上を貯め込んでるヤツ。

 順調に育って収穫されたカカオだが、俺と料理長とで色々試した結果、王子印のチョコレートが出来ましたとさ。

 収穫から発酵まで出来てしまえば、加工は色々出来る。ショコラータ用の他は、総てチョコレートにした。舌の上で蕩ける甘さと滑らかさを追求し、試行錯誤を重ねた結果、充分満足出来る物が出来た。充分過ぎて、売ろうと思ったら超高級品扱いになってビビったが。道楽だからもっと安くても良いと思ったんだが、市場価格を混乱させてはいけません、と諭された。それもそうか、と納得し高級チョコレートとして販売する事になった訳だ。

 その王子印のチョコレートだが、高級品だけど結構売れてだな。……特産品になる頃には、チョコレートの売上で個人口座も潤った。


 因みに城の温室には、初代のカカオの木が未だあります。




初出:2016/02/14


修正情報

2016/10/29:内蔵 → 内臓


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