第三十八話 悪夢
歌っていいですね!
「…なんか…眠い…」
宿の部屋に入って極度の睡魔に襲われる。
「駄目だ…い…しき…が…」
もう何も考えられない…
頭が真っ白で…
・
・
・
「…私ね…夢があるんだ!」
幼い黒髪の少女が輝いた瞳で僕を見てそう言った。
「へぇ…なんだよ?」
僕はいつの間にか口に出していた。
「歌う人!」
「演歌歌手とか?」
「や、そういうのじゃなくて…」
少女はガクッと肩を落とした。
「冗談だ。んでどんな曲歌いたいんだ?」
今、僕は気づいた。
これは自分の記憶だということに。
周りの風景を見ると小学校の教室だというのが分かる。
しばらく見なかったのに…どうしてだろう?
「えーっとね…皆を笑顔にする歌!」
「ふぅん…」
「もし出来たら最初にアキトに聴かせてあげる!」
彼女は笑って言ってくれる。
「おう…ま!俺は好きなことやって好きなように死んでいくけどな」
「はぁ…アキトに夢ってないの?」
「ない」
「もう…」
そう言いながらも彼女は笑っていた。
・
・
・
ッ!?
場面が変わった…?
教室から暗転して場面は車通りの多い大通りになった。
「アキトー!」
「ッ!まてッ!」
僕は気づいた。
横断歩道を駆けてくる少女…
信号は…
赤
一瞬音がした。
生々しい…
今まで聞いたことのない
音
「…ぁ」
少女は路上に転がる。
僕は駆けた。
この世界の音が無くなった。
「ぁ…ぁ…」
自分の口すら動いているか分からない。
少女の言う言葉しか入らない。
「あ…きと…わ…たし…」
彼女の赤い液体が流れ出ている…
今…自分が思ってもこの子はもう…
「ふ…ふ…おか…しい…な…ぁ」
少女は笑う…
「ねぇ…きい…て…?」
僕は彼女の手を握る…
「さっき…伝えた…い…こと…あるっ…て…言った…よね…」
彼女は声を絞り出す。
「今…いう…ね?」
もう時間が無いことを悟ったのだと思う。
少女は少しだけ息を吸って言った…
「好き…!」
僕は…告白された…
こんな場面で…
僕は…嬉しいのだろうか…
哀しいのだろうか…
悔しいのだろうか…
「へん…じ…は…後で…ね…」
少女が言う…
「…好き…だよ…」
そう僕は確かに言った。
人を好きだと思えない僕が
「だから…逝くな…逝くなよ…!」
「…」
返事がない…
「おい!起きろよ!!なぁ…?聞こえたか…言ってくれよ…!」
力なくその場にある…
「おい…!…………!!」
ノイズが走る…彼女の名前がスッポリと抜けている…
「いやだ…いやだ…いやだいやだいやだぁあああッ!!!」
僕は叫んだ…
なによりも…誰よりも…
この時は…5月1日…
僕の…
誕生日だった…
・
・
・
「ッ!…はぁ…はぁ…!」
起きるとそこは宿屋の一室…
窓を見ると月明かりが綺麗だった。
「…あんな…大事な事…忘れてたって…馬鹿だろ…僕は…」
僕は…
なんで忘れてたのだろう…
「外に…出て風に当たろう…」
少し気分が悪い…
僕は夢の事を思い出しながら
部屋を出たのであった。
今日のNG
「おう…ま!俺は好きなことやって好きなように死んでいくけどな」
「…はぁ…アキトに夢ってないの?」
「ない」
「ファーwwww」
「ちょw何言ってるのww」
「ごめんなさいww」




