第三話 約束
知ってる?引きずられるって結構痛いんだよ…
…長の部屋…
の扉の前
「失礼します、長。勇者様をお連れしました。」
「うむ…入りなさい」
扉の向こう側から老人のような声が聞こえる。
そしてシオリは扉を開けた。
「イッシン様…どうぞ」
なんか…人に扉を開けてもらうのとか…失礼な気がする…
「あ…えっと…ごめん…」
謝った僕をシオリは驚いたような顔をした。
「…え?」
「いや…えっと…だって…扉…」
僕は謝った理由を話す。
「…うふふっ」
僕の発言でシオリはクスクスと笑った。
「へ…あ…えっと…えっと…」
「いいから入って?」
「あ…ごめん」
「ふふっ」
…僕…何か変な事言ったかな…
僕は長の部屋へと入っていった。
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「フム…お主が勇者か…?」
緑色の髭と髪をしていた老人が瞳も見せないような細目でこちらを見て言った。
「ゆ、勇者?勇者って何ですか?」
僕は疑問を次々と質問する。
「それに、ここはどこなんですか?なんで僕はここにいるんですか?」
「ここは…お主のいた世界とは…違う世界…シルドリアという世界なんじゃ…」
「へ…?違う世界?シルドリア?え…?え?」
ここが俗に言う異世界…?
「次に…お主がここに来た経緯について…シオリ…話しなさい」
「はい…おじい…長…」
するとシオリがこう言った。
「召喚魔法…それの勇者召喚の儀式で使う魔法を私が使ったの…そして現れたのが貴方…貴方は勇者として選ばれたの。」
つまり異世界の勇者として、僕は召喚された…?
子供の頃、夢見てた事が今起きるなんて…
「僕は勇者…なの?」
「疑っておる訳ではないが…この玉を持ってくれ…」
長から差し出されたのは一つの小さな白い水晶玉。
それを僕は受け取る。
「勇者ならば…その玉が緑色に輝きを放つのじゃ…」
それを数秒持っていると色に変化が現れた。
まるで炎が燃え上がるかのような真っ赤な赤へと
「…なんじゃと…勇者ではない…!?」
「え…?」
期待を裏切られたような顔をして長はこちらを向く…
「…残念じゃ…勇者でないならば…盗賊を追い払うなどという危険な事はさせられぬの…」
「盗賊?なんの話ですか?」
「実は勇者殿だったなら頼みたい事があったのじゃ…」
「それが盗賊を追い払うということですか?」
「うむ…誠に残念じゃが…お主を拘束させてもらうぞ…」
「…え!なんでですかおじいさま!」
僕ではなく、シオリが叫ぶ
「…古来、勇者召喚の中で、唯一勇者でない者が起こした末路…それが…世界を破滅に導く事になったのじゃ…」
「…歴史上でたった…たった一回の出来事じゃない!今度は違うわ!だって…悪い人には見えないもの!!」
「それでもじゃ…もし…同じような事になったらどうする…」
「ならないわ!決して!よく…知らないけど…でもそんな人じゃない!」
「人は変わるものじゃ…悪いが拘束はさせてもらう…兵士よ!」
バタバタと足音が聞こえる…そして、長の部屋に緑色の鎧に包まれた兵士が現れた。
「ッハ!」
そして、僕は抵抗すら出来ず、捕まることになった。
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今、僕は地下牢にいる。
村から離れた所にこの牢屋はあるらしい。
手足は紐でくくられて、立つことさえままならない。
「僕は…なんでこうなったんだ…」
勇者を偽ったとして、僕は永遠に幽閉されると兵士から聞いた。ここから二度と出られない事に僕は恐怖する。
なんで…なんで…なんで…!
ガタガタと身体が震える。怖い…怖い…
すると、上のほうから扉を開ける音が聞こえた。
「大丈夫…?」
「…君は…」
扉を開けたのは…シオリ・スヴェードだった…
彼女は僕を縛っている紐をほどいてくれた。
「どうして…僕を…?」
「召喚したのは私だから…責任を持たないと…」
「…こんなことして…いいの?」
「…明日の朝に盗賊団が来るの。…出来れば…村人の避難を手伝ってほしいのよ。」
「避難…どうすれば…」
「この村から南に行くと、もう一つの村があるの。そこに誘導をさせてほしいの。」
そう言ってこの村の近隣の地図を渡される。
「この道に沿って行けばいいのよ?ただ…」
「た、ただ?」
「魔物が時々出るときがあるのよ…そんな時は戦わず、すぐに逃げて?」
「魔物…?」
「ええ…負傷者は出したくないの、だから…」
「わ、分かった。」
「ひ、引き受けてくれるの!?」
「だって…君は僕を助けてくれたから…僕も君を助けなきゃ…」
「ありがと!そうと決まればすぐにお願い出来る?明日になる前に全員を南の村までお願いね!」
「君は?」
「私は残るわ…貴方を逃がした責任を償わないと。」
「…あ…」
「約束よ?必ず…全員無事に送り届けてね!」
「まっ…!」
彼女は走り去ってしまった。
…彼女の約束を守る為、僕は村の人々の避難を始める事にしたのだった。




