第二十三話 集水の槍
薄暗い洞窟の中…
コツコツという音だけが鳴り響く。
「目的もなしに潜るのもなんか…駄目だな…」
「どうして?」
俺の独り言にフィリアは質問する。
「気分のいい所じゃないからなぁ…長くいると気が狂いそうだ…」
「大丈夫、元から気が狂ってるから!」
なんか…ムカつく…
「チビよりはマシだけどな」
「…誰を見て言ってるの!?私チビじゃないって!」
じー…
「ふごっ!?」
見てたらボディブローされました。
話は置いといて…
ようやく洞窟の出口にたどり着いた。
「やっと抜けられるな…」
「洞窟も楽しかったね!」
「楽しいって…頼もしいな」
「えへへ…」
外を見渡して見ると緑が延々と連なっているようだ。
洞窟に入る前に見かけた雪はなく、少なかった木々もそこかしこに見られるようになった。
地図を見てみるか…
…クラブから離れすぎたかな…こりゃ…
「うわぁ…!リュウ!あれあれ!」
フィリアが何処かを指さしている。
「…村か…?」
「行ってみようよ!」
「…そうだな…行くか!」
「ふふ…わーい!」
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…なんででけぇネズミがいるんだ?
鋭く大きな牙が生えているネズミが現れた。
「てぃ!」
フィリアはブーメランを投げ、相手を攻撃しようとしたが結構素早く、当てることが出来ない。
「ううーん…」
俺も突っ込むか…!
右で地面を蹴り、一気に差を縮める。
槍を構え、ネズミの一点を正確に突こうとした。
が、ネズミは左に避け、さらには右肩をかみついてきやがった。
「いっっ…!!」
超いっってぇぇ…!!
槍を落とし、俺はそこらじゅうに転がる。
「はなっ…!れろっ…!」
「リュウっ!」
「くそっ!くそっ!」
痛みがどんどん激しくなってくる。
血は多量に出ている気がする。
「はなせっつってんだよっ!!」
「わ、私は…!どうしたら…!分からない…分からないよ…!」
フィリアはやはりこういう状況は経験がないため戸惑ってしまっている。
「…何のための…武器だ…!」
小さな声で呟いた。
そうだ…俺には武器がある…そこらの武器とは違う、特別な槍が…!
「ぐぅっ…!」
痛みが激しく、動くのも困難になった…
右腕の感覚が麻痺している。
どれだけ多量に血が出てんだよ…!
がんばって左腕を槍に伸ばす…
届かないとしても伸ばせば届く…というありもしない希望にすがる。
「っ…!リュウの武器っ!」
フィリアは何かを思いついたようで槍を手に取り俺に投げ渡した。
危うく落とすところだったが間一髪で取ることに成功した。
「はぁ…はぁ…はぁはぁはぁ…っ」
フィリアは息切れを起こしている。
頭をかかえてしゃがみこんでしまった。
武器さえ…手にはいりゃ…!
左腕を持ち上げようと思いっきり天へとかざすようにして、ネズミに突き刺した。
鮮血の液体が飛び散る。
「はぁ…二度と…現れんな…!」
右腕が痛む…不思議と俺からはあまり血が出ていないようだ。
「ぁぁぁっ…!」
俺の目の前には呻き声を上げているフィリアがいた。
「フィリア…?おい…?どうした!?」
「ぁぁっ…!頭が…痛い…嫌な…気分…!」
仰向けになって頭を抱えている。
その苦痛な表情から演技でないことは分かる。
「何があったんだ!?」
「ぁぅ…っ!ぃゃ…やめて…!私の…私のせいで…!ごめんなさい…!お願い…許して…!お願いだから…!やめて…!私が…私が…悪かったから…!やめて…!嫌…嫌ぁぁぁぁっ!!」
「大丈夫かっ!おい!…!」
早く村に連れていこう…!
「傷つけないで…!殺さないで…!嫌…!嫌…!きゃぁぁぁっ!」
俺はフィリアの小さい体をおぶって村へと向かった。
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「誰かっ!医者は!」
村に入った第一声の言葉がこの言葉だった。
「連れが…!大変なんです!」
「ど…どうしましたか!」
「病院はどこですか!」
「顔色が…!ついてきて下さい!」
「…ありがとうございます!フィリア…大丈夫だからな…!」
死ぬなよ…!
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「…」
中はまるで病院の廃墟だな…
でかい割にボロボロだ…
日本にある病院のような構造だ。
「リュウさーん。お連れのお方の審査が終わりましたよー」
「はい…」
内心心配しながらも、俺は平常を保とうと心掛けて行った。
…
「ふむ…魔力生成阻害症…に近いですな」
白衣のおっさんから意味不明な事を言われた。
「まりょくせいせ…?」
「体内で作られる魔力が作られなくなるという病気ですぞ」
「命には…?」
「別状ないでしょうが…魔力が生成されないため、魔法の使用はお引き換え下さるようにお伝え下さい…」
取りあえず無事らしい…
少しの虚脱感に襲われる。
「…一日くらいこの村でお過ごしした方が宜しいでしょう。そうすれば気分は優れますし…もしかしたら治る可能性だってありますぞ」
「分かった…アドバイスありがとうな」
「それではまた…」
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「あ…リュウ…」
「もう大丈夫なのか?」
「うん…少しクラクラって…するだけだよ」
「そうか…今日はここに一泊することになったからゆっくり休めよ?」
「うん…ありがと…」
さてと…宿ってどこだ…?
こうして俺らはこの村に泊まる事になったんだが…
ま、よくある話…ある問題に巻き込まれるんだよな…




