第二話 包み込む焔
私は今日、ある禁を犯す…
ここは村の外れの祠…
この村に伝わる勇者召喚の儀式を一週間早くやるんだ。
古文書で、やり方は分かってる。
というよりは、私に伝えられているんだ。
村にいる中で私は召喚魔法という特別な魔法に合っている体質ということで。
話がそれちゃったね、私がなんで一週間はやく、召喚の儀式をするかというと、二日後にラファーガという盗賊団がこの村にやってくるという情報が入ったから。
もう嫌…村の人々が…消えていくのは…
お願い…勇者様…
私達を…助けて…
私は自分で涙を流しているのに気づいて、自分の袖で拭った。
しっかりしないと…
「始めなきゃ…」
私は古文書の詩を…
「…世界を照らす…希望の光…」
思いを込めて…
「死をも恐れぬ勇気を持つ者よ…!」
詠う!
「秘唱!結合異世界!!」
前方に不安定な輝きを放つ、赤黒い魔方陣が形成され、風が吹き荒れる。
その風圧で後ろ髪のゴムが切れ、髪が煽られる。
風は勢いが収まるどころか、ますます強くなっていき、立っているのも困難なほどだ。
それを私は堪える。
風が弱まっていき、安堵したその時…
ゴゥッ!という音をたてて魔方陣が炎に包まれてしまった。
「な…!そんな!」
前回の勇者召喚の儀式なら天にまでそびえる竜巻が魔方陣に出現したというのだけど…
これは…まさか…魔方陣の暴走!?
100年経たないと召喚の儀式をしない理由ってこれだったのね…!
燃え盛っていた炎が消える…
そうすると一つの黒い影が浮かび上がった。
現れたのは一人の…
黒髪の少年だった…
…成功…なの?
「…あ…あれ?」
彼が倒れてしまったので私は口に出して言ったのだった
・
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こ…こは?
僕…は?
現実か夢かも分からないこの場所に僕は立っている。
誰…?
『あ…?何だてめぇ…?』
こいつは…学年の不良…?
僕の…一番嫌いな…ヤツ
『あ…す、すみません…』
これは…僕…?僕が不良の肩にぶつかった?
『すみません…で済むわけ…ねぇだろおおおお!』
いきなり顔にパンチを喰らってしまう…
…分かった…これは…僕の…記憶…!
『へへ…来たか…』
場面は変わる。
そして、目の前には不良とその仲間が…
僕自身の口が勝手に動く
「なんなんだ!お前たちは!なんで…僕をッ!」
『『『決まってんだろ…?』お前が』ただ…』
『『『気にくわねぇんだよ!!』』』
「…カハッ!」
腹に拳が入る。
二人に抑えられ、抵抗すらできなくなる…
痛みを感じる…これは夢じゃないのか…?
不良が拳をあげた…
不良の拳が僕の顔に…
当たる事はなかった。
『な…!がぁぁぁぁぁぁああ!!』
不良も、僕を抑えてた不良の仲間も。
真紅の炎に焼かれて消えていった。
不良たちを焼いた紅い…紅い炎が目の前に拡がる…
その炎が…形を変えてゆく…
顔ができ…
メラメラと燃えながら…
人のような形へと変化する…
目がギロっとこちらを向く。
すごい威圧感を感じ…その場から逃げる事さえ叶わない
それは…僕を睨むように見ると、こう言ってきた。
『我が力を貸す…』
その言葉を聞くと自分の体が焼かれているのに気づく
熱い…
熱い…
熱い…
『力が使いたくなったら叫べ…』
なんと言ったか聞き取れないまま、自分の体は真紅の炎に包まれて…
怖い…
嫌だ…
助け…
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・
・
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「やめろぉぉぉッッ!!!!」
気がつくと僕はベッドにいた。
あの夢は…?あいつは…?疑問を持つが今はそれより気になることがあった。
「ここは…どこだろう…」
そう言った時だった。
この部屋の扉が開いた。
「…!気がついたのね!良かった…」
現れたのは翡翠色で髪を縛っている少女だった。
整えられた顔は僕が見ても美人という事が分かる。
見るからに外国人と思えるような彼女は、流暢な日本語を喋っている
…誰?ホームステイ?僕の家じゃないけどさ
彼女がいそいそと僕のベッドに駆け寄った
「君…は…?」
僕が言った。
「そっか!自己紹介まだだったね!私はこの村の長の孫、シオリ・スヴェードっていうの。よろしくね♪」
「え…あ…う…うん」
「それじゃ次は勇者様の名前を教えて?」
「ゆ、勇者?」
「そうよ?私が喚んだの。それより名前教えてよ」
「…ぼ、僕の名前は…その…い、一進 明人っていいいます。」
やばい…上手く話せない…人と話すのって苦手なんだよ…
「イッシン様!これからよろしくね!」
「は、はぁ…」
「あ!そうだ!イッシン様が起きたら、私のおじ…じゃなくて長が呼んでくるように言われてたの!」
「へ?あっ…な」
「さあ、いきましょ!」
強引に腕を捕まれベッドから引きずり出される。
「まっ…まって!じ、自分で歩けるから!」
「いいからいいから」
「え…え…え…え…ええええ!?」
僕の抵抗も虚しく…
僕はシオリという少女に引きずられていくのだった。