第十七話 形態変化
「うわ…すっかり暗いな…」
どのくらい中にいたのだろう…
確か下に下りる前はとても明るかったのだが、今、外を照らしているのは月明かりだけだった。
「じゃあリート、話して」
「う…ん」
あまり気が進まないようだったが、リートは話してくれる。
「形態変化…精霊の契約者の…最大の恩恵…」
「形態…変化…?」
「契約した精霊と…息を合わせる事で…精霊の力を契約者の力と…合成されて…一つの生命体になる…」
「つまり…?」
「僕らが…一つになって戦える」
「でもさっきは…なんか変だったよね」
「それは…」
「それは…?」
「失敗…」
「うーん?でも失敗ってちゃんと変身出来て…」
「自分で…体を動かせた?」
リートの質問には否定をするしかなかった。
「形態変化は…メリットも大きい…けど失敗した時の…デメリットも…大きい」
「…デメリットって…何?」
「失敗した…者は理性を失い…形態変化を数分解けず誰これ構わず…襲う…」
「…もし…もしだよ。町でなんか失敗したら…」
「町の人は…アキトに殺される…」
「…なるべく使わないようにしないと…」
「本来は…自分自身から…形態変化出来る…けど…今回は僕が…強制的に発動…させたんだ…」
今は自分で使えないけどね…
「形態変化の成功のメリットって何?」
「アキトが形態変化したものは…素早く動ける…様々な器官が発達…聴覚…嗅覚が発達してた…」
「僕は犬かっ!」
「ん…?」
「…いや…なんでも…ない」
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「…なんか魔物が全然出ないな…」
「ここは…夜行性の魔物が少ないのかもね…」
村へ行く道中であったけれど、魔物の姿が見えない。
「こっちはありがたいけれどね」
「…ん?なんで」
「…なんとなく…」
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…特に戦闘も無く、無事に宿に着いた。
シオリは大丈夫だろうか…
僕は宿へと向かう。
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「シオリー」
扉をノックし、呼び掛ける。
「…寝てるんだ」
そっと扉を開ける。
シオリが…いない…!
なんてことはなく、すぅすぅと寝息をたてながら寝ていた。
そっと見てみると顔色はよくなっていた。
とりあえず、風邪が悪化する事態は避けられたようだ。
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僕はシオリの水袋を取りかえ、瓶の水を取りかえて自分の部屋へ戻っていた。
「今日も一日疲れたな…」
僕は買っておいた木の実を食べる。
「生きて帰ってこれて本当良かった…」
あの時…ミノタウロスと対峙し刀で斬りつけた時、自分の無力さを改めて感じた。
もし、リートの力を借りていなければ僕は死んでいただろう。
このまま精霊の力を借りてこの先戦って行くのだろうか…だけどもし、何らかの形で精霊の力が使えなくなったら…
僕は…なにもできなくなる…
気づけて良かった…
だってこれからの目標が出来たから
「僕は…これから…精霊の力だけじゃない…自分の力で…戦わないと…」
拳を握りしめ、小さな声でそう言ったのだった。
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次の日…
朝日が顔を照らし、僕は目を覚ます。
連続していた夢を見ることなく、昨日はよく眠れた。
見ていたかもしれないけど…
それはさて置いて
シオリの様子を見てこよう。
扉をノックする。
「シオリー入るよ」
扉を開けたらシオリは目を覚ましていて、ベッドに座っていた。
「…あれ、体調は?寝てなくていいの?」
「うん、昨日よりだいぶ楽になったわ。さて…いきましょ」
…え?
「行くってもう行くの?まだ治ってすらいないと思うんだけど。」
「平気よ。へいき」
「あ…うん。なら行こうか」
「ええ」
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「そういえば」
僕が言う。
「冒険者ギルドってどこにあるの?」
「四国の中心、王都ヴァルガンノ通称流通都市にあるわ」
「…あれ、風の国にはないの?」
「あるのはあるのだけれど、主に風の民が使っているし、他の民はあまり使用しないわ。まれに使う事があってもその国での依頼を達成したとき、報酬を貰うくらい。大きな仕事はほとんど流通都市に流れていくから…」
「大きな仕事はまだ無理なんじゃ…」
「大丈夫よ。種類も豊富で簡単なものも多いから」
簡単なもの…ね
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「やっとここまで来れたわね」
シオリがそう言う。
着いたのはヴァルガンノに入る前の検問所。
「…ここ何やってるの?」
「指名手配犯がここを通るのを阻止して捕まえる為にあるのよ。私たちは問題な…」
そう言いかけた時だった。
「ちょっとそこの二人」
検問所にいる兵士に声をかけられる。
「風の民の巫女が指名手配中の異世界からきた者にさらわれたらしい。心当たりあるか?」
…え?
(シオリ…これどういうこと!?)
小声で話しかける。
(知らないわよ!なんでアキトが指名手配に…とりあえず、本名は使わないほうがいいわ…ギルドに登録する時も偽名を使いましょう。)
(ぎ、偽名って…)
(私はシオ、アキトはアキね!)
(すんごい単純!)
「い、いえ、しししし知らないです」
シオリは焦りを隠せないらしい。
「…凄い疑わしい言動だな…こんなのは生まれて初めてだ。」
兵士が言う。
いや、感想はいいから。
「すみません。シオは…ああ、彼女の事です。」
少し演技をしますか…
「シオはあまり人と話した事がなくて、コミュニケーション能力が欠けているんです。なぜそうなったかというと、彼女の親は彼女を溺愛したばかりに家に閉じ込め、他の子供たちとも全然接しなかったのです。そもそもそういう環境にいると口数が少なくなってしまい唯一心を開ける存在が親だけなんですね。ですがその親も先月…出掛けたのを最後にいなくなってしまったんです。そう…彼女は捨てられてしまった…初めは彼女も帰ってくると信じていたのでしょう…夜になるたびに窓を開けては閉め…開けては閉め…そうして一週間が経ちました。ついに食料が尽きてしまいます。彼女は食料を買うためにお金を探します。しかし、全て親に任せていたため、見つかりません。家中くまなく探すもそれらしいものは見つからずついに探すのをやめました。その夜、玄関にノックの音が鳴ります。彼女は親が帰ってきたと思ったのでしょうね。勢いよく扉を押しました。そして、その扉は外れ、玄関に立っていた人の顔面を強打し、彼女もまさか扉が外れるとは思わなかったんでしょうね…なにかがガツンといった瞬間、扉だけを回収し、元の場所に戻し、玄関の扉で強打した人など気にもとめず家に入っていきました。玄関の扉で強打した人はその場に立ったまま、ただ呆然と立ち尽くしていました。だがしかし、扉で顔面を強打しにきた訳ではないのでもう一度ノックします。そして彼女が扉を押した瞬間、扉をノックした人が扉の下敷きになりました。なぜか?それは彼女が扉を元の場所に戻しただけであって、直してはおらず、扉とは言えない、ただの板となっていた為です。そして彼女が一言、『あ…倒れちゃった…』それが僕…アキが彼女から聞いた初めての言葉だったのです。そして僕は一言『いや…そこ?』と…そしてなんやかんやで僕らはここにいます。」
「…」
しばらく、沈黙が続く…が兵士が口を開いた。
「…彼女はつまりなんだ?」
「コミュ障です。」
「ああ…そう…はやく通れ…」
シオリは黙ったままだった。
ぶっちゃけ僕も黙ってる。
僕、何言ってたんだろう…
こうして僕らは検問所を後にした。
次、演技のネタ使うときはもっと長くしよう!
と考える俺だった。
なんやかんやを使うとすぐ終わるよねw