第百六十九話 不穏な影
「シオリ様ッ!」
リリィと一緒に行動していたシオリ。
しかし、何故かいつの間にか一人になってしまっていた。
そこにシオリの聞き覚えのある声が聞こえる。
「この声……」
「お久しぶりです……」
緑のボサボサな髪……
真面目でそれでいて自信に満ちた表情。
服装は見覚えの無いものだが、シオリはこの人物を知っている。
「ジーフ……?」
「覚えておいででしたか……!」
シオリに覚えていてもらってとても嬉しかったようだ。
笑みを浮かべている。
「なんで……ここに、今まで何処に……」
「説明は後にしましょう。一刻も早く、ここを離れなければ!」
グッとシオリの腕はジーフに掴まれる。
が、シオリはそれを振りほどいた。
「ごめんなさい。まだ、やらなきゃならないことがあるの」
アキトとチカの邪魔をする魔物の掃討。
それをリリィと共にやらなければならない。
そういった使命感があるのだ。
「危ないのです! 早く逃げなければ!」
「何を焦ってるの……? 何か知ってるの?」
シオリは不思議だった。
ジーフがいること。
現状をのみ込めてること。
自分を急かそうとしてること。
「早くしなければあの化け物がやってきます!」
「そうならない為に、私達が動いてる」
「無理です! アイツの周囲は魔法が使えません!」
ジーフの一言に、シオリが硬直する。
否、考え込む。
……やはり、変だ。
「ジーフ……なんで、化け物の情報を知ってるの?」
考えたくはない。
昔馴染みだったから。
もしかしたら化け物との関連性があるのではないかと。
「……そ……れは」
ジーフは言葉に詰まる。
何も言えなくなったのだ。
必死に言葉を探すも、どれも適切、適当ではない。
「……いいか……仕方ない。力尽くで……」
「え────」
刹那、シオリの首に手刀が入る。
シオリは驚きと困惑が混じりながら、気を失い、倒れこむ。
ジーフは倒れこむシオリを抱き止めて、抱える。
「……二度と……あんなヤツにやるものか……シオリは俺のものだ……!」
吐き捨てた言葉と共に、黒髪の少年に憎悪を燃やす。
ジーフは魔法を詠唱し、その場から消えた……
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「……ついた!」
港町にアキト達は着いた。
リリィがついたことにより、遭遇した魔物の殲滅は早くなり、重傷のチカには負担がかかっていない。
「アキト……ありがとう……」
「早く治して貰わないと……」
そう言ったと同時にアスタとフロウが近づいてきた。
「ご苦労だったな。……シオリはどうした?」
アスタの疑問に答えたのはリリィだった。
「申し訳ございません……私の不手際により、シオとはぐれてしまいました……」
「謝罪はいい。しかし……そうだな。アキトとフロウと俺で捜しに行く。リリィはチカの看病だ。いいな?」
アスタの素早い指示にアキトは頷く。
すぐにでも捜しに行くつもりだったので、結果良かったのだろう。
「はい」
リリィはその言葉に頷く。
そして、アキトとアスタ、フロウはシオリを捜しに行くのだった。