第一話 僕の最期
…風の音。
黒髪のストレートを煽られながら春の心地よさが残る風に包まれて僕、一進 明人は誰もいない学校の屋上にいる。
今は夕暮れ時。放課後になってからずっとここにいる。
なんで僕が屋上にいるかというと、今日、ここから身を投げて人生を終わりにするつもりだからだ。
学校ではいじめられ…あげくに信じた相手からは裏切られる始末。
本当…僕の心はボロボロさ…
自分の目から涙がこぼれ落ちる。
だから、せめてここの景色を最期に、ちょうど17年間の人生を終わりにしよう。
やや薄暗い、町の眺めを見ながら僕は柵のない、屋上の縁へ一歩ずつ歩みを進める。
僕は一歩…また一歩…そして最後の一歩で屋上の縁に立つ。
そして僕は身を投げようとして…
…やめた。
「よう、アキト。何してんだ?」
後ろから声をかけられたからだ。
振り向いた先には、小学からの唯一の親友。
白崎 竜が屋上の扉の前に立っていた。
黒髪のオールバックでそのやる気に満ちた目からは心強い雰囲気が漂ってくる。
「どうした?」
僕は少し戸惑いながらも返事を返す。
「あ…ああ、何?」
「ん、暗い顔してたからな。大丈夫かと思って。」
そんな暗い顔を僕はしていただろうか…
「問題…ないよ…というかなんでここに…?」
「たまたま屋上の景色を見たくなったからな」
「へぇ…もう帰った方がいいよ。」
「お前は?」
「もう少し…風に当たってる」
「…そうか」
リュウ…今まで世話になってばかりだった…。
「ねえ、リュウ?」
「なんだ?」
「ありが…とう。今まで…」
「…お前がお礼?らしくないな」
リュウは笑いながら言った。
「そうかも…」
もし、ここで僕が死ぬという事を知ったら止めてくれるだろうか?
それを間接的に伝えてみる。
「ねえ、ここから落ちたらどうなると思う?」
「そうだな…この高さじゃ…相当な運がなければ死ぬだろうな。良くて重傷だろ。」
「真面目に答えるんだね…」
「凄いだろぉ」
「凄くない…全然凄くないから…」
どや顔しながら言ったリュウに僕は少し笑いながら冷静にツッコミを入れる。
「やっと笑ったな…」
「は?」
「最近落ち込んでたからな。その顔見て安心したよ。」
「そっか…心配かけちゃったね…」
「おぅ!俺の親友だしな」
「…」
親友…か。
この言葉に僕の自害の決心が揺らぐ。
もう少し…生きてみようかな…
「それじゃ、俺はいくぞ。」
「気がかわった…僕も帰るよ」
「なら、はやく行こうぜ。寄りたい店あるんだ」
「分かった。今いく!」
こうして僕はリュウの元へ駆けていこうとした。
「な…!」
「うお!」
突如、身を支えられなくなるほどの風が吹いた。
無論、耐えることなど出来ず、僕は後ろへ倒れこむ。
僕の背中が屋上の床に…
つかなかった…
僕は屋上から身を落としてしまった。
「あ、アキトぉぉぉぉぉおおおおお!!」
これが…僕の最期か…
生きようと思った時に死ぬなんて皮肉だな…
そういえばまだやり残した事が色々とあったけど…
最期の最後に…もう一度だけ…リュウとちゃんと話したかったな…
僕の意識は闇のなかへとおちていった。
聞き取れない親友の声と、風の音を聞きながら…
さようなら…リュウ…