勇者の回想
盲目的なまでに神を、延いては人を信じるシスターのエリカ。
何よりも自分自身を信じ、最低限にしか人と関わらない魔法学校一の変わり者のミア。
そして、他人も自分自身も信じられず、ただ金だけを信じていた冒険者の俺。
生まれも育ちも考え方も全く異なる俺たちがパーティを組んだのは、本当にただの偶然、その場の流れだった。
当然、何度も何度もぶつかった。
パーティを解散しないのが不気味に思われる程にやり合うこともあった。
あいつらを仲間だなんて思うこともなかった。
あいつらはただの同行者、それはあいつら、特にミアにとっても同じだったと思う。
それでも俺たち三人は共に旅を続けた。
エリカの言葉を借りるなら、それは運命だったのかもしれない。
俺たちの旅は、それぞれの当初の目的とは違ったものになった。
いくつもの事件に巻き込まれ、何度も命がけの戦いをすることになったのだ。
その中で俺たちの関係も違う形へと変化していった。
エリカの孤独を知った。
ミアの叫びを聞いた。
俺の恨みをぶちまけた。
三人で馬鹿みたいに泣き、怒り、叫び、笑い。
エリカは「考える」ことを始めた。
ミアは他人へと目を向けるようになった。
俺は、まずは二人を信じてみようと思った。
気付けば俺たちは仲間に、友に、家族になっていた。
傷の舐め合いかもしれないけれど、それはとても心地良いものだった。
やがてシドが仲間に加わり、俺たちがそれぞれ望みもしない称号で呼ばれるようになり、ルカがやってきても、それは変わらなかった。
いくら周囲と関わりを持っても基本は三人。
俺にとっては、エリカとミアは特別、別枠だった。
だから、自身ごとの【封印】というミアの覚悟に気付かなかったのかもしれない。
思い返せば、それを予期させるようなものは確かに存在した。
たとえば、【賢者の遺跡】で。
パーティメンバーがばらばらになったそこで、俺たちはそれぞれ新たな力を手に入れた。
あの時からミアの様子はおかしかったのだ。
「新しい魔法を如何に効率良く、最も効果的に使うか考えてる」なんて言って、直後の戦闘で新しい魔法を使っていたからそのことだと思ったが、その魔法とは【封印】のことだったんじゃないか?
たとえば、雑魚寝している夜中とか。
ふと目を覚ますと、ミアがじっと俺たちを見つめていたことがあった。
「旅の始めを懐かしんで」なんて、フラグでしかないだろう。
きっと他にもいろいろあったはずだ。
それなのに気付けなかった。
違和感を感じても些細なことと流してしまったんだ。
だって俺たちは三人で一つだから。
それが欠けることなんて考えたくなかった。
なあ、ミア。
お前はいま一人でいるのだろう?
俺とエリカは二人でも寂しいよ。
お前は、平気なのか?
ミア、俺は、苦しいよ。