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どうか助けてください、神様

『ここの神様はね、悪いものを懲らしめてくださる方なの』


 幼い頃、祖母はそう言って裏山にある社に案内してくれた。

 薄暗い山の中にぽつんと隠されるように建てられていた小さい社は、独特な存在感を放っていて、なんだかちょっと怖かったことを覚えている。

『大丈夫だよ。怖がることはないさ。この神様は、きちんと礼儀を尽くしていれば、何も怖いことなんてしない』

 祖母はそう言って、社を綺麗に掃除していった。

 あまりに丁寧なものだから、ここにいるのはきっとすごく偉い神様なんだろうなと、幼い私はそう思った。

『いい、あなたもいつか必要になるかもしれないから、ここのことはよく覚えておくんだよ?』


(まさか、おばあちゃんの言っていた通りになるなんてね……)

 私はおぼろげな記憶を頼りに、社に向かう。

 社に連れて行ってもらったのはあれ一回だけだったのだが、意外と覚えているものでなんとか辿り着くことができた。

「……よかった、まだあったんだ」

 祖母はもう十年前に亡くなっていたが、他にも誰か掃除をしている者がいるのだろう。人里離れた場所にあるにも関わらず、社は随分と綺麗な状態であった。

 私も持ってきた花をお供えして、掃除を行う。

 それから、神様にお祈りをする。誠心誠意、心を込めて。

 正月に神社に行ってお参りすることは今まで何度もあったが、その時とは比べ物にならないほど、真剣に。

(ああ、神様……神様、お願いします、どうか……どうか……夫を始末してください!)

 外面はいいのに、家庭内では平気で私や娘に手を挙げる男。それでも、献身的に支えればいつかわかってくれると思っていたのに、若い女と浮気していたなんて……。


 この社がどうしてできたのか、祖母が教えてくれた。

 かつて、女が男の持ち物であった頃、多くの女が男によって苦しめられていた。

 誰も助けてくれる者もいなかった女達は、自分たちを救い、男たちを罰してくれる神を自らの手で創り出したのだ。

 最初は、ただの気休め程度で、無力な存在だったその神は、長い年月をかけて多くの女の無念の祈りを積み上げた結果、強い力を持つようになったのだという。

 酒浸りですぐ暴力を奮っていたらしい祖父が何故突然死んだのか、浮気癖がひどくて何度も母を裏切った父がどうしていなくなったのか、今ならその理由がわかる。


 祈りを終えた私は、社から立ち去ろうとするも、一度だけ振り返った。

 社は相変わらず静かにそこに佇んでいるだけだ。

 始めてみた時は恐ろしかった社だが、今は厳かで神聖なものを感じるのは、私が願いを叶えて欲しい立場になったからだろうか。

 もし、願いが叶ったら、何度もここに通って神に感謝しよう。

 祖母や母、その他多くの女性がそうしたように。

 そしていずれは、娘や孫をここに連れてこよう。


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