落とし物の人形
家に帰る途中、近道としていつも公園を横切っていた。
そこそこ広いその公園は、以前はいくつも遊具が並んでいたのだが老朽化に伴いその殆どが撤去され、あるのは小さめのすべり台とブランコだけ。他はベンチが並んでいる程度だ。
そんなものだから、日が沈む頃にはもう子どもたちの姿はなくがらんと寂しくなってしまう。
とはいえ何度も通っているうちに、哀愁を覚えることもなくなり、ただ早足で通り過ぎるのみになった。
けれどもその日は違った。
ベンチの上に、人形がぽつんと置かれているのを見つけたのだ。
それは小さな女の子の人形で、ところどころ薄汚れている。
なんとなく気になって近づいた私は、その人形を手にとった。
(落とし物かな…?)
そんなことを考えていると、ぽとりと人形の足が落ちたのだ。
慌てて足を拾ったのだが、触れた瞬間に違和感を覚えた。
妙に温かくで柔らかい。それから何かぬるりとした感触がして、よく見れば赤い液体がこびりついている。
そしてその赤い液体からは、鉄の匂いがするではないか。
(何だこれ、何だこれ、何なんだこれっ!?)
呆然と足を見つめていたが、もう片方の手に持っている物の存在を思い出し、ゆっくりとそちらに目を向ける。
人形は恨めしそうな目で、私を睨みつけていた。
「ひっ……!」
人形と足を放り投げ、私は走って逃げ出す。
公園から出る直前、一度だけ振り返った。
よく見えなかったが、人形はまだ私を方を見ているような気がした。
次の日、公園の横を通ったが人形はもう無くなっていた。
もしかしたらあの赤い液体も人形が睨みつけていたことも、全部私の気のせいだったのかもしれない。
けれども、私はあれ以来あの公園に立ち入ることはなくなったし、落ちている人形には絶対に触らないようにしている。