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呪いの動画

『そういえばさ……俺すごい動画を見たんだ』

 オンライン飲み会中、顔を赤らめた友人がそんなことを言った。

「動画?」

『そうそう。なんかすげぇ、怖いの……観たら呪われるって奴』

「呪われるってそりゃまた、ありきたりだな」

 オカルト好きな友人は昔からそういった物を観るのが好きで、俺にもよく紹介してくれる。

 内容はチープ過ぎて笑えてしまうものから、身の毛がよだつほど恐ろしい物まで様々で、俺も一緒に観ては楽しんでいた。

「それで、どんな内容だったんだ?」

『えぇっと……確か、女が出てくるんだよ。それがまた汚い女でな、金をもらってもセックスはご遠慮したいほどだ』

「へえ」

『いや、本当に汚いんだぜ? 髪はボサボサでフケだらけ。肌は垢がつきまくってるし、服も汚れててすげぇ不潔で……もう何年も風呂に入ってないんじゃないかって感じ』

「ああ、それは嫌だなあ」

『だろう? その女がカメラに向かって徐々に近づいて来るんだ。いやぁ、びびったなぁ、あれは』

 そんな話をしていると、友人の後ろに誰かが通った気がした。

「ん?」

『どうした?』

「いや、お前って今一人? 誰かいないか?」

『いるわけねぇだろ。止めろよ、そういうの』

 友人はケラケラ笑い、俺も自分の見間違いだと思った。

 お互いに酒を重ね、話題はまた移り変わっていく。


 どれほどの時間が過ぎただろう。

 酒を飲みすぎたのか、友人は大きないびきをかいて眠っている。

 俺も眠くなってきてオンライン飲み会をお開きにしようとしたその時、息を呑んだ。

 画面の向こう、友人の後ろに一人の女が立っていることに気づいたからである。

 ボサボサでフケだらけの髪に、垢まみれの肌、黄ばんで汚れた服。

 どれもこれも友人が話していた女と同じだった。

「…………」

 言葉を失い女を見つめていると、女はゆっくりと友人に近づく。

 友人はのんき眠っている。

 声をかけて起こすべきか、起こさないほうがいいのか、迷っているうちに女は友人のすぐ横にまでやってきた。

 俺は女に気づかれたくない一心で、声を発することはもちろん、身動きすることもせず、固まっていた。

 すると女はパソコンに手を伸ばしたかと思うと、そのまま画面が消える。

 通信を切ったのだろう。

 そこで俺は大きく息を吸った。いつの間にか息を止めていたのだとその時自覚する。

「なん、だ……今の……」

 友人はどうなったのだろうか。

 携帯で連絡してみようかと思ったが、それもなんだか恐ろしく俺は何も気づかなかったフリをして眠ることにした。


 そして翌日、俺は恐る恐る友人に電話をかけた。

 もしかしたら出ないかもしれないと思ったが、その予想に反し、友人はあっさりと電話に出た。

『おー! どうした、こんな朝早くから』

「……なあ、なんとも無いのか?」

『何がだよ?』

「何がって……昨日のことだよ」

『あー? 何かあったか? 悪い。俺、飲みすぎたのかよく覚えてねぇんだよ。いつの間にか眠っちゃったみたいでさぁ』

 どうやら友人は本当に何も気づいていない様子だ。

(もしかして、あの女は酔った俺が見た夢だったんじゃないか?)

 あまりに普段と変わらない友人の様子に、俺は自分の記憶が疑わしくなっていった。

 たしかに昨日は俺の酒を結構飲んでいたし、友人からあの動画の話の話を聞いたばかりだから、夢の中に出てくることもあるだろう。

 そう思うと、それが正解なような気がして、俺は適当な事を言って電話を切り、女のことは忘れることにした。




 けれども、それからというもの友人の周囲でおかしなことが起こり始めた。

 おかしなこと、というよりも不思議なことと言ったほうがいいだろうか。

 消し忘れたと思った電気が消されていたり、干していた洗濯物がいつの間にか畳まれていたり、賞味期限が近い食材が目立つところに置かれていたりだとか、そういうことだ。

 友人は最初こそ怯えていたが、そのうちすっかり慣れてしまい「助かるわー」と楽観的に言っている。

 俺は先日見た女のこともあり、何度か友人に引っ越すように忠告したのだが、それが聞き入れられることはなかった。

「大丈夫だって。お前は心配しすぎなんだよ。全然怖くねぇから。むしろ、家がだんだん居心地良くなってきてさぁ、あんま家から出たくなくなってきたんだよなあ」

 しびれを切らした俺は、友人に女のことを話すことにした。

「……なあ、今まで黙ってたんだけど、実はこの前の飲み会であの女が出たんだよ」

「ん? 何の話だ?」

「だから、オンライン飲み会しただろ? あの時、お前が寝た後に変な女が部屋に現れたんだよ」

「はあ? 何言ってるんだ?」

「あの時、呪いの動画を観たって言ってたじゃんか。あれは本物だったんだよ!」

「あはは! お前も冗談とか言うんだなあ」

 俺の必死な訴えは、冗談として受け流されてしまう。

 何を言っても無駄だと思った俺は、それ以降、友人と距離を置くようにした。

 ある日のこと、友人から一通のメールが届いた。

 タイトルと本文には何も書かれておらず、動画だけが添付されている奇妙なメールである。

 俺は友人に電話をかけた。

「おい、何だよこのメール?」

『おお、届いたか? 早く観てみろよ』

「観てみろって、何が映ってるんだ?」

『いいから早く観ろって』

「いやだから何の映像だよ?」

『観ればわかる。だから観ろよ』

 おかしい。

 何故、友人はこれほどまでに動画を勧めるのに、内容については何も話さないのだろう。

 その時、ふと俺の脳裏に友人が言っていた『呪いの動画』のことが頭に浮かんだ。

 もしかして、これは……。

『なあ、観ろよ。観ろって。観ればわかるんだ。これはいいぞぉ。幸せになれる。お前にも幸せになってほしいんだ。だから観ろよ。観てほしいんだよ。なあ、観てくれよ。それだけ。それだけでいいんだぞ? 観れば彼女が来てくれて、何でもしてくれるんだ。いいだろ? 最高だろ? 羨ましいだろ? だから観ればいいんだ。観ろ。観るだけでいいんだ。簡単だろう? なあ、観ろって』

 明らかに異常な友人の様子に耐えきれなくなった俺は、電話を切ってすぐに動画もメールも削除した。


 そしてこの日以降、友人は行方知れずとなり今も見つかっていない。


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