掃除の依頼
俺は所謂なんでも屋で働いている。
ペットの散歩や家事代行、雨漏りの修理やら探偵まがいの調査まで何でもござれ。
サラリーマン稼業には向いていなかった俺だが、このなんでも屋には向いていたらしく忙しくも充実した日々を送っていた。
とはいえ、中にはきな臭い依頼があったり、おかしな出来事に遭遇したり、そんなことも一度や二度じゃあない。
その日は町外に暮らす男性から依頼を受けた。
なんでも、亡くなった叔父の家を片付けを手伝って欲しいとのことだ。
実を言えば、こういう依頼は珍しくなく、俺自身もすでに何度か経験していた。
仕事を受け、向かった先は古いマンション。亡くなった叔父というのはここで一人暮らしをしていたらしく、依頼人以外に身内はいないらしい。
俺はそれとなく依頼人の叔父がどこで亡くなったのか聞いてみた。
もし、マンションで亡くなっていて時間が経過していれば、まだ匂いが残っている可能性があったからだ。
しかし聞くところによると、叔父は以前から入院しており、亡くなったのも病院であるらしい。
それなら匂いが残っている可能性は低いだろうと、俺は内心ほっとした。
依頼人が鍵を開けて、ドアを開ける。
(……あれ?)
中を見た瞬間、俺は違和感を覚えた。
別に何かおかしな内装だったわけじゃない。奇妙な置物があったわけでもない。
どこにでもある普通の部屋だ。むしろ、ものが少なくてこざっぱりした印象がある。
自分でもどこがおかしいのかはっきりと言えないのがもどかしい
「ここの部屋にはよくお邪魔しているんですか?」
「いえ、叔父が入院する時にその手伝いで来た時以来です」
依頼人の言葉に、俺は自分の違和感の正体に気づいた。
空気が綺麗すぎる。
家というものは、人が住まないとあっという間に劣化してしまうものだ。特にホコリはどこからともなく降り積もり、空気を淀ませてしまう。
なのにここは、まるでつい最近まで人の出入りがあったような、少なくとも空気の入れ替えがサれているよな雰囲気なのだ。
周囲を注意深く見れば、ところどころ掃除されているよな気もする。
「どうかしましたか?」
「あ、いえ、なんでも無いです」
いつまでも部屋に入ろうとしない俺を依頼人が不思議そうに見てきたので、慌てて中に入った。
中に入れば、やはり室内は異様に綺麗だ。人が普段から生活しているような雰囲気が広がっている。
しかし依頼人はそんなことには気づかないらしく、どんどん進んでいく。
俺も追いかけると、行き着いたのは寝室だった。
「それじゃあ、私はこっちの書斎を片付けますので、こっちのクローゼットの中身を片付けてもらえませんか?」
「あ、わかりました」
鏡のついたクローゼットとテレビにDVDなどが入っているケース、そしてベッド。
「……」
一人残った俺は、ベッドに近づいてみる。
そのベッドはこんもりと膨らんでいて、中に誰かが入っているように見えたからだ。
(本当に、誰かがいたらどうしよう……)
そんな不安が頭をよぎる。
(いや、まさかな)
そんなことありえない。ありえるはずがない。
自分に言い聞かせてみるも、どうしたって不安は消えない。
だからこそ、確かめて安心したかったのだ。
俺は震える手で布団を掴むと、思いっきりめくった。
そしてそこにあったのは、枕だった。
「何だよ……」
口では悪態をつきながら、ホッとした俺はその枕に手を伸ばす。
そして、また違和感。
掴んだその枕は温かかったのだ。
まるで、ついさっきまで人肌に触れていたかのように。
話はこれで終わりだ。
その後、何か恐ろしい体験をしたわけでも、不可解な事件があったわけでもなく、普通に片付けて何事もなく終わったよ。
まあ、ようは全部俺の気のせいだったんじゃないかって言われたら否定できないんだけどな。
けど、どうしてもそれで納得できなかった俺はこっそり写真を撮ってみたんだよ。
そうして出来上がったのが、この写真。
そうして渡された写真を見てみる。
写っているのは話に出てきた寝室なのだろう。聞いていた通り、ベッドがありクローゼットがありテレビが写っている。
そして、話に聞いていたベッドをじっくり観察して、思わず息を呑んだ。
ベッドと壁の間。
数センチもないであろうそこに、人の手のようなものが写っていたのだ。




