サッカーボール
「…………」
朝。
朝食をすませ、身支度も終えた私は玄関に立っていた。
もちろん、学校に行くためだ。
けれど、私はドアに手をかけたまま外に出ることをためらっている。
言っておくが、学校に行くのが嫌なわけではない。いじめられているわけでも、クラスに馴染めていないわけでもない。
ただ、最近越してきたお隣さんと会うのが嫌なのだ。
お隣さん自身はとてもいい人である。
毎朝、道を掃除して、会えば挨拶もしてくれる。
けれど、私にはどうも気になって仕方がないところがって……
(でも、悩んでても仕方がないし、行くか!)
私はドアを開けて外に出た。
見ると、やはりお隣さんは道を掃除している。
お隣さんは私に気づくと、「おはよう。いい天気ね」と声をかけてくれた。
「あ、おはようございます」
「ふふ、学校まで気をつけて行くのよ?」
「はい、ありがとうございます」
私は軽く会釈をしながら、お隣さんの前を通って学校に向かう。
けれども、その途中で私は振り返ってお隣さんを見た。
(……やっぱり、あの人の頭……サッカーボールだよね?)
お隣さんの首から上には私の学校でもよく見かける白と黒のボールが乗っかっている。
校庭に転がっていれば何の違和感もないそれも、人の頭部である部分にあれば異常であった。
あの人の頭がサッカーボールなのは、初めて会った時からで、私は最初悪ふざけでつけているのだと思った。
だけどあれからずっと毎日頭にサッカーボールをつけていて、買い物や洗濯物を干している姿を見れば嫌でも思い知る。
あの人は、本当に頭がサッカーボールになっているのだと。
どうして頭がサッカーボールなのか。いつからそうなったのか。目も口も鼻も耳もないのにどうして普通に生活できているのかまるでわからない。
でも、一番わからないのがあの人の頭がサッカーボールだと気づいているのは私だけだということだ。
どういうわけか、私の家族も他の近所の方達もあの人の頭を見ても驚いた様子もなく普通にしているし、サッカーボールについて指摘することもない。
これはどういうことなのだろう。
実は、おかしいのは私の頭であの人の頭は普通の頭ってことなのだろうか?
けれど、おかしく見えるのはお隣さんの頭だけで、それ以外は全く異常なものが見えない。
(いつかお隣さんの頭を触ってみれば、何かわかるのかな?)
そんなモヤモヤを抱えたまま、私は学校に急いだ。




