5「通販はじめました」
『お父さん、朝ご飯は?』
魔剣に声をかけられ、彼を携帯してない事に気がつき、ベッドの脇に立てかけてあった黒い剣を手にする。
「時間が無い。」
珍しく寝過ごしたガロンは足早に部屋を後にしようと扉の取っ手に手をかけた。
「いらっしゃいませえ〜」
『うわああああああッ!!!!!』
部屋の外に出た筈が何故か〈異界堂〉にガロンと魔剣は立っていた。魔剣が驚き過ぎたおかげかガロンは逆に冷静だった。
〈異界堂〉に来たのはガロンが纏う漆黒のフルプレートアーマーを購入して以来で実に5年ぶりだった。
『何で?何でここにいるの?!』
「私がガッパード様をお喚びしました。これを受け取って頂きたくて」
店主は百科事典ほどの分厚さのある本を手渡す。
「これは〈異界堂〉の通販情報誌〈森林〉(もりりん)です」
『え?』
「通販情報誌〈森林〉(もりりん)です。」
『もり…え?』
「…………」
三回目は無いらしい。〈異界堂〉店主シュ・ランランランの笑顔に恐怖を感じ魔剣は黙る。ずっしりと重いガロンの手の中にある通販情報誌〈森林〉(もりりん)を店主はパラリと開き説明した。
「これは〈異界堂〉の商品をいつでも購入する事が出来る便利な物なんですよ!購入方法は商品に触れ、欲しいと願うだけで買い物が可能なんです。対価である魔力は購入したい商品の〈購入〉の文字に触れた時に頂く形になります。」
支払い回数は自由で金利、手数料、送料は〈異界堂〉負担だと店主は付け加えた。
「注文して即お届け出来るので沢山の魔お…じゃなくて、お客様から満足頂いております。」
店主は何かを誤魔化すかの様に〈森林〉のページを捲った。
「こちらは以前紹介させて頂いた〈最強の四天王キット〉です。こうしてページにある星に触れて頂くとその商品の評価を見る事が出来ます。」
〈最強の四天王キット〉とは自分の魔力をキットに注ぐだけで簡単に自らの手足となる最強の四天王を簡単に作り出す事が出来る商品だった。以前訪れた際に強く購入を薦められたが、ただの人であるガロンには無用の産物だった為購入を断った。
店主が〈最強の四天王キット〉の星に触れるとページいっぱいに文字が現れる。
〈最強の四天王キット〉評価一覧
★★★★★「満足」
┗2312/7/21
┗黒ちゃんです様
┗異界堂で購入済
しつこい帝国軍の猛攻に「魔獣兵士キット」では抑えきれなくなりこちらを購入した所、難なく奴らを叩き潰す事が出来大変満足しています。城に攻め行って来た勇者まで倒してくれて助かりました。四天王は残り二体しかいませんが、全て居なくなったらまた購入したいと思います。リピ決定商品です!!
〈異界堂より〉
黒ちゃん様!お久しぶりです。レビューありがとうございます。黒ちゃん様の活躍は異界まで届いており、わが〈異界堂〉の商品が覇道のお手伝いになった事を思うと感無量であります。商品のリピートにも感謝です。またのご利用感お待ちしております。
★☆☆☆☆「糞が」
┗2812/1/1
┗〈敵対者〉様
┗異界堂で購入済
大事な局面に4体同時に出撃させた所「誰が四天王の中で最弱か」とか内輪揉めをはじめやがって、敵の使長に4体纏めて串刺しになりやがった。パラメーターなんか全員一緒だってのに。雑魚過ぎ、不良品か?
〈異界堂より〉
〈敵対者〉様!お久しぶりです。レビューありがとうございます。不良品では無いかというご意見ですが只今調査中です。他のお客様からも似た様なご意見を頂いていましてご迷惑をかけた事を深くお詫び致します。代金等は返却させて頂きますのでしばらくお待ち頂ければと思います。
話は変わりますが、以前購入された〈美脚熾天使ガブリエル様フィギュア1/1〉はいかがでしたでしょうか?〈異界堂〉の美の結晶も是非レビューして頂ければ嬉しく存じます。
「…とまあこの様にお客様からの評価を見る事が可能なんです、ガッパード様の漆黒鎧もそろそろ通販のラインナップに加えようかと思っているのですがよろしかったら評価を書いて頂けないでしょうか?もちろんいつでも構いませんので」
店主は〈異界堂〉の新商品のサンプルを大量にガロンに渡し、もと居た場所へ帰した。
『あーびっくりした。なんなのあの店主は、お父さん遅刻しちゃったじゃない。』
「………?」
『どうしたの?』
「時間が戻っている。」
時計を見れば先ほど部屋から出ようとした時間より一時間前に戻っていた。店主の計らいだろうか?
『あ、本当だ。』
「…………」
ガロンは通販情報誌〈森林〉と魔剣を抱え込み部屋を出た。今日も仕事がどっさり来ている事だろう。〈異界堂〉で貰った通販情報誌が気分転換になればいい、そんな風に思いながら足早に執務室へと向かった。