4「魔剣とガロン」
ユーリドット帝国は大陸にある広大な島国で帝都マグリオンの周囲のみ砂漠が広がる国だった。しかし帝都を囲む様に存在する砂漠の地下には水脈があり、大地は常に潤っていた。砂も水分を含み、海の砂と似た様な湿った砂漠という一風変わった大地が広がっている。
島国を横断するように流れる運河と、地下水脈は工業用水としても利用され、ユーリドット帝国の生活活動、経済活動と共に支える大切な資源だった。
一方文化はといえば同盟国のルティーナ、ツーティア、ダルエスサラームの影響を受けた生活様式で、帝都マグリオンは街並みだけみれば砂漠に囲まれた大地だとは思えない、美しく、均衡の取れた石畳の路地が広がる豊かな都だった。
帝都マグリオンの象徴ともいえる白亜のお城には、王族が住み、国に仕える騎士達が民を守っていた。
そんなお城にあるとある小部隊の一室に隊長のガロン・ガッパードはいた。少年〜青年時代に恐ろしいと周囲に畏れられた顔をしかめ、書類を見つめる。幸い顔は兜で覆われていた為周囲を恐怖に陥れる事は無いが、兜自体が髑髏を象ったデザインであった為に見る人によっては恐怖を感じる事に変わりは無かった。
ガロンの机の上には沢山の書類が積まれ、息つく間も無いほど働かなければ片付かない量が配分されていた。何故この様な状態になったといえば、全ては部下のやらかした事件の報告、尻拭いの為だった。ガロン・ガッパードが隊長を勤める小部隊には遊び人の貴族の三男坊、傭兵あがりの粗野な騎士、亡国の姫君、他国の隠しきれてない暗殺者、王妃との不倫がバレた伯爵家当主などの濃い面々が次から次へとガロンが永久に仕事を続けても終わらない様な問題を抱え込んでくる。頭痛には解放されたが別の理由で頭の痛さを感じる毎日だった。そしてもう一つの悩みの種が、
『お父さん、お父さん!今度の新しい侍女さんも美人だねえ~お父さんはどちらが好み?僕はロゼッタちゃ』
魔剣だった。とりあえずうるさいので蹴り飛ばす。初めは真面目に話し相手になっていたのだが、こちらが止めない限り永遠に話しかけ来て仕事がはかどらない為、手っ取り早く蹴り飛ばす方法を取っている。ガロンから離れると魔剣は魔力を取り込めず喋る事は出来なくなるらしい。ガロンに蹴り飛ばされようが無視されようが魔剣は気にせずにまた喋り掛けてくる正に鋼の精神を持つ変わった剣だった。
今日も仕事が片付かず、家に帰ったのは深夜1時を回ってからだった。何か忘れている気がしたが思い出せずそのまま就寝してしまった。
((うっうっう…お父さん酷い、僕を忘れて帰るなんて))
夜中、ガロンの執務室で涙を濡らす魔剣が一振り存在したが、残念ながらそれに気がつく者は居なかった。
次の日、執務室に放置された魔剣を発見し、持ち上げた。
『おはようお父さん!』
「おはよう。」
『昨日は凄い夢を見たんだ。なんと、お父さんが僕で魔王を倒す夢!』
延々と夢の話をする魔剣を机に立てかけ、仕事をするためにペンを取った。今日も長い1日が始まる。