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呪われた帝国騎士と異世界の商人  作者: 江本マシメサ
本編「呪われた帝国騎士と異世界の商人」
3/33

3「鎧男観察日記」

 城で働く侍女、ロゼッタ・ヒーリーズのもとに突如として侍女頭より人事異動が言い渡される。異動先の主人は「あの」ガロン・ガッパードだというのだ。



 彼がユーリドット帝国の騎士になるためにやって来たのは5年前だった。

 全身を覆うフルプレートアーマーを纏った姿は異様で新人騎士だというのに、迫力と威圧感は隊長クラスから感じる物と同等以上だった。



 そしてガロン・ガッパードは「変わり者」だった。剣士としての腕はかなりの物だったが、まず鎧は人前では絶対に脱がない、そして3年目から活躍が認められ小数部隊の隊長に就くが、無口で魔物の討伐に出てもほとんど指示は出さずに一人で倒してしまうらしい。更に執務室では一切飲食をしない。食堂で食事をするのを見た者もいないという。そして執務室の机に立てかけてある黒い剣を突然無言で蹴り飛ばす事があり、侍女は怯え、辞める者が後を絶たないとか。



 そんな問題児のお世話役がロゼッタに回って来てしまい彼女は一抹の不安を抱えた。しかしお世話役は一人では無かった。ロゼッタの後から女性が続いて入ってくる。


「アニエス・メーアです〜」

 アニエスはロゼッタよりいくつか年上に見えた。20歳位だろうか?柔らかな金色の髪は頭の高い位置で結んであり、垂れた瞳の色は深い緑色で美人の部類に入るだろう。ありたきりな茶色の髪につり上がってきつい印象しか与えない水色の瞳を持つロゼッタとは正反対な人物だった。



「今日からよろしくねえ」

 アニエスはおっとりとした様子でロゼッタの手を取り軽く握った。

「はい。よろしくお願いします。」

「堅いわねえロゼッタ、だったかしら?」

「ロゼッタ・ヒーリーズです。」

「アニエスよ、大変なお方みたいだけど頑張りましょうね~」

 アニエスの緊張感の無さに脱力しつつも二人でガロンの執務室へ向かった。




 ガロン・ガッパードは噂通りの男だった。

 全身を覆う鎧は脱がない、出した飲み物や食べ物は手をつけない、無口、剣を突然蹴り飛ばす。ロゼッタはガロンを恐ろしく思ったが、相方のアニエスは気にする様子は無かった。大抵の出来事を「あらあら」とか「まあまあ」で済ませてしまう。




「アニエスはガッパード様が恐ろしくないのですか?」

「いいえ〜」

「私は恐ろしい…人間味を感じられません、ガッパード様は鎧の中に何も入っていないのでは?と思う事があります。」

 ロゼッタの言葉にアニエスは何故か嬉しそうな表情を浮かべる。

「鎧の中身は無い?そうだったらとってもメルヘンチックだわ」

 童話メルヘンじゃなくて恐怖ホラーだろう。ロゼッタは突っ込むべきか迷ったが、そのまま黙っていた。

「うふふ、この前ね、とっても面白い事があったのよ」




 とある日の夕方、日中とは打って変わってかなり冷える日だった。アニエスは熱々の香辛料とミルクが入った紅茶を、飲まないと分かりつつもガロンへ出す為に用意した。その時台所で見慣れぬ物を発見する。ストローだった。数日前に他国の商人が珍しい飲み物を売りつけに来た時に使った物のあまりだろう、このまま放置するのも勿体無かった為アニエスは紅茶のカップにストローを差し、ガロンへ出した。



「いつもは私もガロン様に話かけたりしないんだけどね、何となく話かけてしまったのよ~」




 ストローが差し込まれた紅茶をガロンへ差し出しアニエスは「今日は特別寒いですねえ」と言った。ほとんど独り言のつもりだった。

「…そうだな、いつも済まない。」

 と返事が帰ってきたのである。





「私もびっくりしてねえ〈熱いうちにどうぞ〉とか言ってしまったのよ~」

(…鬼だ。)




 ガロンは一瞬の躊躇いのちに兜の隙間からストローを入れ紅茶を口に含む。



「…まあ、熱い紅茶をストローなんかで飲んだらむせるわよねえ」

「…………」




 当然の如くむせるガロンをアニエスは甲冑の上から背中をさすり「大丈夫かしら~」と声をかけた所、「問題ない。」とはっきりとした声が返ってきたという。




「だからね、大丈夫なのよ、怖がらなくても、ガロン様はれっきとした血の通った人間なんだから」

「…………」




 次の日、ロゼッタはガロンに冷たいミントティーを淹れ、仕事の邪魔にならない位置へ置いた。兜の隙間から飲み易いように細長いグラスに注ぎ、ストローも差しておいた。話しかけようか迷ったが勇気を出して声をかけてみる。

「いつもご苦労様です。」

「ありがとう。」

 少しだけぶっきらぼうな物言いだったが、一応返事は返ってきた。ミントティーを一口だけ飲み「すまないな」ともう一言呟いた。



 何に対する謝罪かはロゼッタには分からなかったが、自らもガロンが生身の人間であることの確認が出来、仕事にも光が見えた様な気がした。

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