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呪われた帝国騎士と異世界の商人  作者: 江本マシメサ
番外編「嫁きおくれた帝国術士と異世界の迷宮」
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三話「第一層・妖精の森」

心臓の弱い方はご注意下さい。

 休憩後四時間ほど馬を走らせた場所に遺跡はあった。

 周囲には調査団の天幕が七つ張ってあり、かなりの大所帯である事が伺える。


「お待ちしておりました」


 到着するなり近場にあった天幕に通され、遺跡の説明を受けた。


「先ほどご案内した階段を降りるとすぐに迷宮の第一層目となりますが、そこには強力な魔物達が蔓延っていて先へと進む事が出来ないのです。護衛団も全滅状態で…」


 以前まで調査団の護衛は騎士団が務めていたが、半年前の人事大移動で人手不足になり護衛職から撤退、代わりにギルドで雇った冒険者を護衛として引き連れていたが、遺跡の内部に居たのは彼らの手に負えない魔物だった。


「戦闘の行った者に聞いた話によると、発見された魔物は全長190cmほどで羽があり、武器を持っていると…」

大鬼オーガ人型兵器ゴーレムのような人の形をした魔物でしょうか?」

「それが…はっきりと姿を見た者は居ないのです。中は濃い霧が漂っていまして」


 迷宮の中は濃い霧が立ち込めており、木や草が茂った森の様な場所になっていると調査団の団長は説明をした。 


「魔物と戦い敗れた者は覇気を失い、寝る時も対峙した時の恐怖が蘇るのか、悲痛なうわ言を繰り返しているそうです」

「……」


 話を終えた団長はモトイに脱出用の転移指輪を渡し、再び遺跡周囲の調査へと出かけてしまった。


「お待たせしました」

「何か新しい情報はあった?」


 イリアの問いかけにモトイは首を振る。ここで聞いた話は皇帝の口から語られたものと似たり寄ったりだった。


「さ、行くわよ」


 何の躊躇いもなくイリアは迷宮の階段へと突き進む。モトイとタミアもその後に続いた。

 遺跡の地下入り口を潜ると、長い洞窟の様な通路があり、長い階段には報告にあったように、東国の文字が石壁に刻み込まれている。


 --奥に広がるは美しき妖精の楽園。汚すものには制裁を


 こちらも報告にあったものと同じで特別な調査は不要と判断し、先へと進む。

 通路の突き当たりの石で出来た扉を開けば、そこには草木が豊かに生い茂った森が広がっていた。


「これは…」


 少し離れるだけで相手が誰か分からなくなる程の深い霧が、辺りを覆っている。


「セリカさん、識別用の魔術をかけますね」

「ハイ」


 モトイはタミアの背中に指で呪文を引くと小さな魔方陣が浮かび上がり、ほのかに光る。


「これで距離をとってもお互い認識できるようになります」

「有難イ」

「隊長も同じものを…隊長?」


 気がつけばイリアの姿が無くなっていた。きょろきょろと辺りを見回すが、霧のせいで分かる訳も無く、タミアとモトイ以外の気配は感じない様に思えた。


「危ナイ!」


 突然の警告の声にふりむいた時にはモトイはタミアに突き飛ばされていた。ごろごろと地面を転がり、即座に起き上がった時にはタミアは魔物と剣を交えている状態だった。

 霧の為姿ははっきりと見えないが、話にあったように全長は190cmを超え、背中には羽の様なものが四枚ついている。

 モトイはポケットの中からスキル眼鏡を取り出し即座に掛けた。

 すると驚いた事に周囲の霧は消え、視界も曇りがなくなり澄み渡る。いきなり霧が晴れたのかと思い眼鏡を外せば、見える景色はぼんやりと霞んでいた。

 霧が晴れたように見えるのはどうやらスキル眼鏡の能力らしい。

 眼鏡を掛け、タミアと対戦をする魔物の姿を確認した。


「……」


 モトイは眼鏡を外し目を擦る、そして眼鏡を掛け直すと再び魔物の姿を見た。


「……な、なんだ、あれは」


 タミアと戦っているのは、紛う方なき妖精の姿をしていた。


 手には30cm程のキラキラと輝く宝石が散りばめられたピンクのロッドを構え、何やら呪文を叫んでいる途中だった。


『トゥインクル・スターライト・キュアリー・ラブラブ・ラララ・フローラル・ハミン・グー・エスカレーション~!!!!』


 ーー長い。やたら呪文が長い、そして声は野太い。モトイは泣きたくなった。

 タミアの前に立ちはだかるその妖精は身長190cmの屈強な男で、盛り上がった筋肉を包むのは、柔らかな薄い絹織物のドレスだ。

 膝丈のドレスにはご丁寧に数箇所にわたって切れ込みスリットがはいっていて、風が舞う度にふわりと軽やかに生地が踊り、引き締まった太ももが露わになる。

 そして体中の筋肉を最大限に活かした『トゥインクル~以下略』は振り上げた杖を全力で振り下ろし、小柄なタミアの脳天を破壊しようと襲い掛かってくる。

 振り落とされたただの暴力を、タミアは地面を蹴って回避する。

 しかしながらタミアへの攻撃に失敗した杖は止まる事無く大地を叩き、<より大きな範囲を対象エスカレーション>という言葉の通り、地響きと共に広い範囲の地上を抉り取った。


「それ物理攻撃かよ!!呪文いらねえじゃん」


 モトイは思わず妖精おっさん相手に突っ込みを入れてしまった。


 妖精の周りには可愛らしいまる文字が浮かび上がったが、表示される情報は可愛さの欠片も無い。


 ◇筋肉妖精マッスル・フェアリー


 澄んだ泉のある森に棲む(筋肉が)美しき妖精。毛髪の量により位が異なる。毛髪が無い程高位の存在といえる。


 CLASS:妖精

 LV:44

 HP:5000/5000

 MP:500/500



(!?ーーなんだ、これは…)


 スキル眼鏡を通して現れた情報の数々は常識を超えているもので、勝ち目など無いのではないか、そう思っていた瞬間、筋肉妖精マッスル・フェアリーの断末魔が響き渡った。


「ーー!!」


 小刃ナイフで心臓を一突き。タミアが刃を引き抜くと筋肉妖精は『ゆ、ゆるさない、んだから、ね…』(注:野太い声)と言葉を残し、虹色の光となって消えていった。

 先ほどの筋肉妖精は頭髪が豊かであった為、高位の妖精では無いのだろう。しかしそれ以上に異常なのは、強力な魔物を一撃で仕留めた目の前の男の存在だった。


「セリカさん…?」

「アア、大丈夫でしタカ?」

「え、ーーはい」

「走ッても大丈夫ですか?イリアさんが心配です。先を急ぎましョウ」

「……はい」  


 前の走るタミアの背中には信じられない情報が記されていた。


◇タミア・セリカ


 アルゼン王家に仕える暗殺一家セリカの最後の生き残り。毎日国を守護する神鳥アーキクァクトへの祈りを欠かさない熱心な信者。

 半年前に暗殺業を辞め、騎士になった。


 class:元暗殺者

 LV:90

 HP:6000

 MP:600

 age:37


 魔王戦で一番の活躍をしたのに仲間から酷い扱いを受ける、という不幸に見舞われたタミアだったが、一人だけちゃっかりレベルアップをしていた。


(アルゼン王家の元暗殺者…)


 その事実に驚いたが、皇帝も理解の上で彼を使っているのだろう。でなければこのような実力者がお使い紛いの任務に送られる筈が無い。

 森の細い小道を走るタミアは霧の中から突然現れる筋肉妖精を切り伏せながら走っていた。


(すごい、なんて人なんだ)


 霧の深い視界に何者かが現れ、それが敵だと判断するまで数秒しか無かったが、タミアは迷う事なく剣を振るっている。


 ふいにタミアが勢い良く背後を振り返る。つられてモトイも振り返ったが、そこには毛髪の無い筋肉妖精が二人の後ろを羽ばたきながら追って来ている所だった。

 

「頭髪の無い筋肉妖精!!」

「?」

「筋肉妖精は毛が無い程強力なんです」

「ソウでしたか…しカシ」


 タミアは毛髪の無い筋肉妖精とは対峙せず、そのまま森の中を駆け抜けていた。


「セリカさん?」

「場所が…もっと広い場所じゃないとーー勝てナイ」

「……」


 しかし走れど走れど狭い小道は続いていた。後方を追う筋肉妖精との距離は縮まる一方で、焦りばかりが二人を襲う。 


『待~つ~で~あ~る~』


 高位ハゲた妖精おっさんは羽ばたくのを止め、自分の足で走りだした。


「は、早!!」

「追イつかれまスネ」

「……」


 体力に自信のあったモトイの限界も近い。30分も走りっぱなしだったので無理もないだろう。


「…セリカさん、あの、無理を承知で、ご提案なんですが」


 先ほどから頭に浮かんだ作戦をタミアに話す。


「同じ場所をぐるぐると何週か回れますか?」

「エエ、大丈夫でスヨ」

「では、50m位の範囲で、お願いします」

「ハイ」


 聞こえて来た返事と共にモトイは近くにあった木に先の尖った杭を打ち込んだ。


 タミアは指示された通り、一度走った道と同じ通りを正確になぞって行く。

 一週目、先ほど打った杭をモトイは確認する。

 二週、三週と回るうちに複数の木に杭を打ち込んだ。そして五本目の杭を打ち込んだ時、前を走るタミアに声を掛けた。


「セリカさん!次の木を曲がってください」

「了解!」 


 タミアは指示通りに曲がり、モトイも続く。筋肉妖精も後を追って来たが、その姿をモトイは正面から迎え、最後の杭を妖精目掛けて投げた。


『むん!』


 しかし杭は心臓に刺ささらず、妖精の分厚い手の中にあった。

 失敗か、タミアはそう判断しナイフの柄に手を掛けたが、モトイの口元からは笑みが零れていた。


「……だ」

『ぬ!?』


 妖精は慌てて杭を地面に投げ捨てたが、遅かった。霧の深い森の奥から光が迸り、飛び散った五本の光の線は筋肉妖精の体を拘束した。


「モトイさん、そレハ…?」

「これは拘束魔…って危ない!!」


 木の上から火花が走り、モトイはタミアの押し倒して、上空からの稲光を逃れた。


 轟音と共に迅雷が森の中を音速で駆け抜け、筋肉妖精の体を貫く。


『が、ふ……ッむ、無念』


 シフォンのドレスは胸部から無残に裂かれ、胸が露出しないよう前を押さえながら、筋肉妖精は倒れこみ、虹色の光となって消えた。


「……」

「……」


 高位妖精ハゲたおっさんの残酷な最期に言葉を失う二人の前に、イリアが木の上から飛び降りて来る。


「隊長!?」

「よくやったわ」

「今までどこに?」

「木の上にいたわ。あんた達がぐるぐる回ってるのを見てたら眠たくなってきてたんだけど、早く片がついてよかった」

「そう、でしたか…」


 枝で切ったのか頬に切り傷があり、モトイはイリアの頬に触れ治癒魔術を掛けた。治療の為に触れた手をイリアは迷惑そうに払う。


「アア、南西の方で扉が開く音が聞こえましタヨ?」

「本当?」

「エエ」


 モトイやイリアには聞こえなかったが、タミアには聞こえたらしい。


「じゃ、行きましょ」

「…一回戻りませんか?」

「嫌よ、面倒くさい」

「……」

「行くわよ」


 イリアの指示でタミアは扉のある場所まで案内をはじめてしまう。その後ろをモトイは深いため息をつきながら追う事となった。

<戦果>

筋肉妖精の羽(刃物並みに固い)

筋肉妖精の衣(XLサイズ)

筋肉妖精の涙(汗だったらごめんなさい…)

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