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呪われた帝国騎士と異世界の商人  作者: 江本マシメサ
番外編「嫁きおくれた帝国術士と異世界の迷宮」
28/33

二話「森林と副隊長」

 発見された遺跡までは馬で半日と、意外にも近場にあった。2時間ほど走ったところで馬を湖の畔で休ませ、共に休憩をとっていた。

 モトイは持参していた携帯食料で簡単に朝食を済ませ、アマリエから手渡された怪しい本を慎重な手つきで開く。

 最初のページにはアマリエ直筆の手紙が挟まっており、使用上の注意が記されていた。


 モトイへ


 可哀想なモトイの為に森林もりりんをお貸しします。

 森林もりりんとは<異界堂>という胡散臭い商会の商品を、自分の魔力と交換して買う事が出来る便利な冊子です。

 注文してすぐ商品が届きますが、自分の魔力以上のものを頼むと死んでしまうそうです。気をつけてください。


(なんだよそれ…)


 モトイは信じられないとばかりに森林の頁を捲る。捲っても捲っても白紙の紙が続き、アマリエの冗談だったのかと思っていたその時、開いたままの頁に突然文字と画像が浮かび上がる。


「は?」


 他の頁も同じようにしばらく放置すれば同じように文字と画像が浮き出て来た。

 もう一度挟んであったアマリエの手紙を読み直していた所、まだ続きがあった事に気が付く。



 はじめは一番最初にある『スキル眼鏡』の購入をおすすめします。それで自分の数値化した魔力量を調べる事が可能です。説明は以上になります。

 それでは素敵な通販生活をお過ごし下さい。

                                         アマリエより


 アマリエの説明にあった通りに最初の頁を開くと、『スキル眼鏡』の文字と共に商品画像が浮かび上がった。


 スキル眼鏡

 篠宮堂

 

 価格:M,60

 ポイント:6

 評価:★★★★☆(32456)

 在庫あり

 ∟即お届けします!

 

 商品説明

 

 魔力量を把握しておらず<異界堂>でのお買い物に不安な方、気になるアノ人のステータスやスキルが気になる方にオススメ!お客様の能力次第で様々な情報が閲覧出来る優れた一品です。


 モトイは未だ半信半疑だったが、この書物が魔術書である事には間違いなかったので、恐る恐る<購入>の文字に触れた。

 触れた瞬間手元から稲妻がバチリと音をたてながら走る。さしたる痛みも無かったが、目の前の不思議な現象に首を傾げた。


「どうも~お荷物お届けに参りました」

「!!」


 突如背後から現れた配達人に驚きつつも、差し出された荷物を受け取り、乞われるがままに自分の名前を伝票に署名をする。そしてあっさりと仕事人は空間を切り裂いて居なくなってしまった。

 渡された箱を開封するとそこには森林<もりりん>にあった画像と同じ、黒縁眼鏡が緩衝材に包まれて入っていた。

 モトイは眼鏡を掛け、本物か確認をしようとしていた所、再び背後から話しかけられる。


「それ老眼?」

「違…」


 ふりむくとそこには声の主イリア・サーフがいたが、眼鏡越しにみる世界はいつもと少し違った。


(なんだ、これは)


 イリアの周りには数値や文字が浮かびあがっている。


 ◇イリア・サーフ


 ユーリドット帝国魔術部隊隊長。美しい外見に苛烈な性格の持ち主。


 class:???

 LV:77

 HP:1500/1500

 MP:?????????

 age:??


 <特性>

 

 <炎の申し子>

 炎の精霊の加護をもつ者に与えられる称号。特性上某国の氷の精霊とは相性が最悪なご様子。


 <不器用>

 得意な魔術は攻撃のみで、結界や防御の類の魔術を苦手とする傾向がある。


 <魔眼保持者> 

 魔眼<未使用>を持つ者。隠された左目をみた瞬間理性は瞳に絡みついた呪いにより焼き尽くされ、自らの意思とは関係なしに魅了されてしまう。


(レベル77?ーー隊長が?)


 他にも情報が書かれていたが「?」だったり、黒く塗りつぶされていたりしてあまり読み取れなかった。


「なにボケッとしてんのよ、出発するわよ」

「……」


 モトイは自分の手のひらの見つめた。


 ◇桜野統さくらのもとい


 東国出身の青年。桜野家の遺産相続問題に巻き込まれそうになった為、十歳の時にユーリドット帝国に両親共々亡命をした。


  class:魔術師

 LV:29

 HP:2330/2500

 MP:1940/2000

 age:26


 自らの周りにあった説明文は東国から来た事を除いて家族しか知らない情報だった。この眼鏡の能力が本物である証拠だろう。


(それにしてもレベル29とか…)


 あまりの弱さに思わず吹き出してしまう。そもそもモトイは実力で副隊長に選ばれた訳では無かった。


(もう十年も経つのか、あの日から)


 モトイ・セリシールが魔術部隊の副隊長になったのは十年前、十六歳の時の話である。


****


「魔術部隊・副隊長イアン・バヤットは本日をもって定年退職するわ。享年68歳、大往生ね」

「…隊長、まだ生きております」


 魔術部隊の隊員達を前にイリアはいつも通り失礼な発言を繰り返していた。その無礼は発言に副隊長の任から解放されたイアンが静かに突っ込む。

 しかしそんな目の前の漫才に笑う余裕など隊員たちには無かった。なぜならば今から次に副隊長なる人物が指名される筈だったからだ。


(自分じゃありませんようにッ!!!!)


 魔術部隊員満場一致の願いだったが、互いに知る訳も無い。


「ま、そんな訳で次の副隊長だけど」


 ドクドクと隊員達の心臓が高鳴る。


 ーー早く言ってくれ!

 --いいや、言わないでくれ

 --見てみろ、イアン元副隊長の痩せっぷり!昔は90kgあったらしいぞ(現在59kg)

 --だれぞ、名乗りをあげる勇者は居らぬのか!

 --いやだいやだいやだいやだ 


 部屋の中は静かだったが、隊員の心は穏やかでは無く、むしろ騒がしい。


「ーー決めるの面倒だったから、皆で話し合って決めなさい。以上、解散!」


 イリアとイアンが消えた部屋の中は安堵の息と困惑の視線、焦燥の呟きで混乱に包まれた。


「は?」

「え?耳塞いでた、誰が副隊長になったの?」

「なんてこった」

「隊長…勝手な」


 総勢14人の隊員達は右往左往しながら現状の把握に努めるが、誰一人冷静な者は居なかった。 

 

「おーい、誰が名誉ある副隊長様になるんだ~?」


 我こそがと名乗り出る者などおらず、長い話し合いへと突入する事になる。


 業務終了後、再び同じ場所に集まると副隊長職の擦り付け合いが始まった。

 はじめこそ和やかな雰囲気だったが、二時間を超えたあたりからその場の空気は険悪なものへと変わる。  


「埒があかねえ、もういい。俺がやるよ!」


 名乗り出たのは魔術部隊最年長56歳のマリオ・ルイージだった。


「おやっさん、無理はよくねえ。…俺がやるよ」

「いいや、俺が」

「僕がしますって」

「俺、やります」

「やってやるよ!」

「私がやりましょう」

「俺が」

「仕方ない。我が」

「いーや!俺が」

「ワイが」

「アタシが」 

 

 十三人の隊員が言い終わると視線は一箇所、最年少16歳のモトイ・セリシールに集まった。


「ーーいや、俺はやんねぇよ」


 シン、と部屋は一気に静まりかえる。それも一瞬の出来事で、モトイは皆の怒号を一身に受ける事となった。


「はあ!?お前ふざけんじゃねえよ」

「空気読めよ!」

「やんねえよ、じゃねえ!」

「お決まりも知らないのか!」

「馬鹿だ!馬鹿がいる!」


 皆の副隊長をしたいという主張をモトイは素直に信じていた。大人達の冗談とは知らずに…

 あんまりにもうるさく責めるので思春期の少年はあっさりとブチ切れてしまう。


「うるせえ!何だよ、いきなり!副隊長なんてしたい奴がすればいいだろ!?俺は嫌だと言った!」

「このやりとりは様式美なんだよ。知らなかった罰としてお前が副隊長な」

「は?」

「そうだよ、モトイ。お前に譲ろう」

「若いお前なら出来る!」

「ヨッ!未来の魔術部隊隊長様」

「何言ってんだ?」

「嬉しいだろう?美人な隊長の下で働くのは。夜のネタも尽きないだろうなあ」

「何言ってんだ?隊長なんて遠くから見る分にはいいかもしれないけど、近寄りたくはないだろ?イアン副隊長みたいに一日中我侭に付き合わされるのは嫌に決まっている!」

「…そう」

「そうだ!」


 モトイは一気にまくし立て、言葉を失った同僚の姿を見て満足した。しかし先ほどの高い声は誰だったのか、声のした方を振り返れば


「なッ!」

「貴重なご意見ありがとう」


 イリア・サーフが腕を組み、モトイを見下ろしていた。


「盛り上がっていたようだけど、副隊長は決まったの?」

『モ ト イ 君 で す !』


 隊員達は綺麗に言葉を合わせて、副隊長の決定を報告した。


「そう、よろしくね。モトイ・セリシール」

「何言ってんだ、違う…」


 目の前の上司と目も合わせないモトイの両頬をイリアは自分の方に向け、片手で潰さんとばかりに握り締めた。


「まずはその汚い喋り方から正してもらおうかしら」

「……」


****


 あれから十年経った。色々あった、ありすぎて脳の中はほとんど記憶していない。

 そしてイリアの<特性>に気になる箇所があり、ついでに尋ねてみた。


「隊長の魔眼は使った事ありますよね?」


 イリアの魔眼には括弧をして<未使用>と記載されていた。


「無いわよ。魅了の魔眼なんてあったって意味ないわ」

「……」


 モトイは雲ひとつ無い空を仰ぐ。


(ーーなんてこった)


 出来れば知りたくなかった情報だったが、とりあえずは目先の任務に集中する事にした。

<おまけ>


以前活動報告にあげていた小話です。


小話『魔術部隊の日常』


「隊長、話って何ですか?」


 隊長であるイリア・サーフの執務室に呼び出された隊員、副隊長以下三名は嫌な予感を押し殺して、上機嫌のイリアに話掛ける。


「ふふ、…お願いがあるのよ」

「お断りいたします!」


 その言葉使いから不吉な匂いしかしなかった為即座にお断りを入れた。後ろに並ぶ若い隊員達もぶんぶんと勢い良く首を振っている。


「本題なんだけど」


 イリアはあっさりと副隊長の拒否を無視して話を進める。


「明日あなた達の好きな人を連れてきて欲しいのよ」

「何でですか、無理です」

「それでね、」


 先程と同じように副隊長の言葉を無視して引き出しから小さな小瓶を取り出した。


「これはね、惚れ薬よ。長年の研究が功を奏して完成したの。あとは効果があるのか確認するばかり」

「……」


 その実験をしたいから好きな人を連れて来いとイリアは「お願い」したのだ。


「あんた達、どうせ片思いでしょ?」

「お 断 り い た し ま す !」

「強情ね。後ろの下っ端も同じ意見だと?」


 若い隊員達も力一杯頷いた。イリアはため息をつきながら惚れ薬を引き出しへと仕舞う。

 諦めてくれたか!隊員達はホッと安心したのもつかの間


「言う事聞かない子には左目でお願いしちゃおうかなあ…」


 イリアは前髪で隠れた左目に髪の上から触れる。

 彼女の左目は魅了の力がある魔眼だった。


「ッーー。勘弁してくださいよ!隊長、魔眼はやめてください、マジで、マジで!」


 今までに無い位副隊長は取り乱し、イリアに向かって平伏までして許しを乞うた。


「…そこまで言うのなら」

「隊長!」

「好きな人じゃなくて気になる人三人で構わないわ。そういう訳で解散!」

「…………」


 言葉を失う副隊長をイリアの執務室に残して、若い隊員達は退室をした。

 あとは副隊長が上手く隊長を言い包めるのを信じて。



 これが魔術部隊の悲しい日常だった。


 

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