21「魔王の作り方Ⅰ」
突如として現れた竜の大群は動きを見せず、誰か 迎えに来たかの様にその場に待機をしている
大人しくなった竜を前にタミアは撤退の合図を仰ぐ為ガロンに近づいて行った。しかしー
「タミア君、いけない!」
「エ?」
アレスキスはガロンとタミアの間に割って入って来る。
「早く後ろに!」
訳も分からぬままアレスキスの操る馬の後ろに跨がりも、竜の大群とガロンから距離を取った。
「アノ、何が起こッテ…?」
「君には見えないのかい?ガロン君を包む黒い靄が」
タミアにはガロンの黒い靄は見えていなかった。
「おい!もっと下がれ」
アレスキスよりもさらに後方に居るライから声がかかる。
そんな一瞬の間にもガロンの周りの黒い靄は濃くなっていき、遂に体全体が闇に包まれてしまう。
「な…」
「アレは一体」
「馬鹿な」
黒い靄と一体化したガロンは竜に向かって行き、
無抵抗の竜の大群を次々と薙ぎ倒して行った。
振るう剣までもが黒く染まり、竜はその剣が近づいただけで吸い込まれる様に消えていく。
どの位その異様な光景を目にしていたのだろうか、「逃げる」という事を忘れていた様にも感じる。
竜を一人で倒してしまったガロンはゆっくりとした動作で自らの部下達を振り返った。
「イケない!」
タミアの声で我に帰ったアレスキスとライだったが視界は暗転し、逃げる手段と場所を失ってしまう。
そこは闇しか存在しない場所だった。何も見えなくて自分が本当に生きているのかも分からなくなる様な、そんな不思議な空間だった。
「そこに居るのはライ君かな?」
「そうだ」
「だったら今戦っているのは…」
「タミアのオッサンだよ」
闇の中で剣と剣がぶつかる音だけが響いていた。
「あの二人は何者なんだよ」
「ガロン君はいま少しだけおかしいがタミア君は正常だよ」
「……」
あの状態のガロンを「少しだけおかしい」で済ませてしまうアレスキスにライは言葉を失う。
そしてその少しだけおかしいガロンと戦うタミアも十分異常だった。
「アレ」
剣がカラカラと音をたてて滑っていく音と共にタミアの間の抜けた声が辺りにこだまする。
「アノ、そちらに私の短剣来ませんでしタカ?」
「……」
呑気に話しかけている様にも聞こえたが、金属同士のぶつかり合う音が途切れる事は無い。
「銀色の柄の短剣なんでスガ」
「特徴聞いても見えねえから。それに音からして俺達とは逆に飛んで行っただろ」
タミアの残念そうな溜め息と共にもう一本の短剣も手から離れてしまった。
「タミア君下がっ…」
『か、か…ガアアアアア』
ガロンは突然頭をかかえ苦しみ出す。立っている事もままならず膝をつき、そのまま倒れ込んだ。
床に伏すのと同時に辺りは明るくなり、倒れ込んだガロンの周りの黒い靄が薄くなっている事が確認出来た。
アレスキスがガロンの様子を伺う為近づこうとした時、気配の無い第三者に気がついた。
「君は…」
奇妙な装いの人物は深々と頭を下げ「ようこそいらっしゃいました」と声をかける。
「私は〈異界堂〉の商人シュと申します」
「〈異界堂〉?」
「ええ。魔王様及び魔王妃様御用達のお店になります」
「なにを…」
話の見えないアレスキスやライを余所にシュは熱く語る。
「ガッパード様の纏う鎧、素晴らしいでしょう?アレは神話時代に君臨していた魔王の亡骸なんですよ!」
ガロンが身につけていた全身鎧は鎧ではなかった。古の時代に倒された魔王の骸であり、無限に精製される魔力を受けとめる器でもあった。
存在自体呪われた魔王の亡骸はからっぽだったが、次第に魂を求めガロンを取り込んでしまう。
「あんまりにも同化が遅かったので竜の召喚までしましたが大成功でしたね、色々な人を唆したりして大変だったんですよ」
突然の竜の出没は作為的な物だった。悪びれもなく話す商人にアレスキスは殺意を向ける。
「おやおや、怖い顔ですね。あなた達は面白いから死んだ後も蘇って頂きましょう。ガッパード様の四天王としてね。ああ、四天王だったら一人足りませんね。宰相の娘か皇妃でも召喚して…」
シュの胸が赤く染まる。背後にはタミアが居て異世界の商人の体を剣で突き刺していた。
「さ、さすが暗殺者ですねえ、全く、気がつかな…」
剣を抜くとシュはそのまま倒れ、未だ地面でのたうち回るガロンに手を伸ばした。
「ガッパード様、のご活躍を、楽しみにして…、たが残念。しかし、私など雇われた商人に過ぎない…」
「だから私が死んだとしてもまたま魔王様を支援する商人は現れるでしょう… 」その言葉を最後にシュは息を引き取った。




