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呪われた帝国騎士と異世界の商人  作者: 江本マシメサ
本編「呪われた帝国騎士と異世界の商人」
2/33

2「目覚めれば異界」

 帝都までの道のりは意外にも順調に進み、頭は相変わらず痛むが動けなくなる程の頭痛に襲われる事は無かった。3日間走り抜けた森をあと少しだけ進めばその先からは砂漠地帯になる。馬にも砂漠を走れる様な装備をつけなければならない。

 泉の畔に馬を休ませ自分も食事をとろうかと荷物に手を伸ばした時頭に激痛が走る。立っていることも困難になり膝をつくがそこでガロンの意識はぷつりと切れた。荷物に括り付けた鈴がリンと鳴った。





「いらっしゃいませ~」

「!!」

 男か女か判断出来ない声が聞こえガロンは覚醒する。頭はガンガンと金槌で叩かれている様だったが、先程感じた痛みよりは少しだけ良くなっていた。

「記念すべき100人目のお客様!よろしければ御名前をお聞かせ頂けないでしょうか?」

 目の前に居たのは道化師の格好をした性別不明の人物で、周りを見渡してみると商店の様だった。

「………?」

 状況がイマイチ掴めない。ガロンは泉の前で意識を失った筈だった。

「ああ!!失礼いたしました、私はシュ・ランランランと申します。この〈異界堂〉の店主に御座います。」

シュ・ランランランは優雅にお辞儀をした後期待した瞳をガロンに向けた。

「…ガロン・ガッパードだ。」

「おお!!ガッパード様、ようこそいらっしゃいました、さあ何を御所望でしょうか!?」

「…………」

 ご所望も何も現状把握が出来て無いガロンは混乱するばかりだったが

「ガッパード様には今、必要としているモノがおありでしょう?この〈異界堂〉お客様の誕生〈オハヨウ〉から死亡〈オヤスミ〉までを支え、世界のありとあらゆる商品を取り揃えておりまして、ガッパード様に満足して頂ける事間違いナシと自負しております。」

「…………………頭痛止め薬はあるか?」

 店主が余りにも迫って来た為ガロンは珍しくたじろいだが、必要な物を思い出し店主に取り扱いが無いか訪ねた。

「頭痛…?ええ、もちろん御座います。ニッホンという国が開発した『バッサバッサリン』という薬がありましてこれがまあ素晴らしく効き目が早く…」

店主は商品を棚から取り出しくるくると回しながら説明をしていた。薬には見慣れない文字が刻まれ、ガロンは読み取る事は出来なかった。

「しかしこの薬ではガッパード様の頭痛を抑える事は出来ないでしょう。」

「………」

 やはり自分は呪われいたのか?ガロンは認めていなかった現実を突きつけられ、自身の表情も硬くなる。

「ガッパード様を悩ます頭痛の正体はガッパード様の魔力なのですから…」

「…魔力!?」

「ええ、自身の魔力を体内に押さえつけているばかりに激しい頭痛に襲われる事になっているのでしょう。」

「…………」

 現代の魔術はほぼ失われた過去の技術といっていいほど希少な物だった、また魔術だけでなく魔力もまた人々から失われ、昔からの数少ない魔術師の家系以外で生まれる事は無かった。もちろんガッパード家は魔術師の家系ではない。

「大丈夫ですよガッパード様!魔力を発散すれば頭痛は収まります!」

「!!!本当か!?」

「ええ。」

 店主は棚から世界地図を取り出し、一つの大陸、ルティーナ、ダルエスサラーム、ツーティア、3つの国を赤いペンでくるりと囲んだ。

「まずはこの大陸をガッパード様の魔力で一気に破壊して頂ければ頭痛も少しは軽くなるでしょう!」

「………………。」

 3つの国共にユーリドット帝国の同盟国だった。

「魔術の事は心配ありません!この本の呪文を唱えるだけであっという間に使いこなせます!」

「…………。」

店主が差し出した本には〈初心者にも簡単な国を滅ぼす魔術〉と書かれていた。


「…………。」

「ああ!!いち大陸の破壊だけでは物足りなかったのでしょうか!?そうですよね、ガッパード様程の魔力の持ち主なら軽く世界征服位しなければいけないですよね!」

「………」

店主はまた棚からいくつもの商品を取り出した。

「世界征服なら一人では面倒でしょう。そこでこれを〈魔獣兵士キッド〉。ガッパード様の駒となる兵士を魔力を使って作り出す商品なんです!!しかしどんな時代にも優秀な将軍や魔術師はいるでしょう、そんな時はこれ!」

〈魔獣兵士キッド〉を端に寄せ新たな商品をガロンに見せる。

「〈最強の四天王キッド〉です!!いくら強い将軍や魔術師とてガッパード様の作り出した四天王に勝つ事は出来ないでしょう!!」

「……………」

 ガロンは更なる頭痛を感じて壁に手をつく。先程からの話も理解の範疇をとうに超えていた。

「ガッパード様が戸惑う気持ちもよく分かります…」

「…………」

 戸惑う所かこれは本当に現実なのかと疑問が沸き起こる。…夢なら早く覚めて欲しい。ガロンはそう願ったが頭を打ちつける頭痛がこれは現実だと訴える。

「そんなガッパード様にはこの本が正しい道へといざなうでしょう。」

〈世界征服のススメ〉という本を差し出す。本には帯が巻かれており不思議な文章が書かれていた。




 パーフェクトガイドブックで『征服』せよ!

全380もの国+隠れ里100箇所を徹底攻略。各国の騎士団、魔術師団のパラメータがわかるデータページ。

そして各国の姫君も画像、器量、財産のデータつきで掲載!

世界征服初心者にも、かゆいところに手が届く攻略本が登場!

大丈夫。〈異界堂〉の攻略本だよ。




 何が〈大丈夫!〉なのか…自らの頭痛の解消の為だけに世界を征服する者などどこにいるのか、今まで我慢して話を聞いていたがガロンはこの店から出る事にした。

「ガッパード様?」

 首を傾げる店主を無視してドアノブに手をかけ扉を開いた。

「ッ!!!!」




 広がっていたのはただの黒、扉の先はひたすら『闇』と『無』が広がっていた。

「ガッパード様、危ないですよ。〈導き〉もナシに部屋からでたらどの世界に落ちるかも分かりません、大丈夫です。慌てなくても元の世界にお連れしますから。」




 ここは様々な世界の中心にありながらどの世界にも属さない空間らしい。店主は語る。

「…そんな馬鹿な話を信じる事は出来ない。」

「皆様はじめはそう仰るんです。しかし一度商品を使って頂ければ理解も深まると思うのです!!」

「…頭痛を解消する為だけに世界を征服しようとは思わない。」

「そうですか…」

 店主は落ち込む様にうなだれた。



が。

「ではこちらはいかがでしょうか!!」

 店の奥から引っ張って来たのは黒く全身を覆う事が出来る甲冑〈フルプレートアーマー〉、商人は転んでもタダでは起きないらしい。




「こちらの甲冑は身につけた者の魔力を喰らい装甲を固める代物で、人並みの魔術師が着用すれば一瞬でミイラになってしまう強力な物なんです…、もちろんガッパード様の魔力量なら常に着用し続けた所でミイラになどなる事は無いでしょう!!……いかがでしょうか?」

 そういう平和的に魔力を削れる物があるのならば最初から出して欲しかった。ガロンはしかめた顔のまま表情を変える事が出来なかった。

「いくらだ?」

 10年間貯めた全財産を持ってきたが足りるだろうか。荷物に手を伸ばそうとしたが、残念ながら泉の前に落としてきたらしい。今現在無一文だった。

「こちらの店ではお金でなく魔力を頂くのです!」

「…そうか、だったらその甲冑を貰おう、魔力とやらは好きなだけ持って行ってくれ。」

 甲冑の効果について相変わらず信用していなかったが話を進めない限り元の場所へ戻れそうに無かった為、投げやりな体で商談を進めた。

「お買い上げありがとうございます!!では早速戴きます…」

 店主はガロンの前に手を翳しガロンは光に包まれた。

「っく…」

 膝をついたのは店主だった。微かに身体が震えている。

「おい、」

大丈夫かとガロンが声をかけようとした所

「素晴らしい!」

「?」

「これほどの魔力、器、精神力!!歴代でも一番だ!しかもこれまでの力がありながら破壊は望んでないと、悲しい!いや嬉しくもある!!」

何やら意味の分からない事を叫び、興奮した店主に再び圧倒されてしまった。店主は魔力を頂くと言っていたがガロンの頭痛が収まった気配は無い。

「…おい。」

 今度は大きめな声で話しかけてみた。店主はびくりと肩を震わせ、我に帰ると申し訳なさそうな微笑みを浮かべた。

「……………申し訳ありませんでしたガッパード様、甲冑の試着のお手伝いをしましょう。」

 甲冑の装着は人手がいるのかとおもいきやただ呪文を唱えるだけでいいらしい。

「呪文は〈grausam ・hinrichten〉です」

「grausam ・hinrichten…」

 ガロンは闇に包まれた感覚を覚えたが一瞬で元の景色に戻る。

「これは…」

ガロンを苦しめていた頭痛が綺麗に消えていた。

「どうですか?」

「……痛みが消えた」

「それは良かった!しかしその甲冑は魔力を喰らう生き物…と思って頂いても構いません。すこしでも甲冑を着ている状態で違和感を感じたらすぐに脱ぎ捨てて下さい。」

「ああ…」




「あとこれはオマケなんですが」

 店主がガロンに渡したのは柄も鞘も黒い剣だった。

「生まれたての魔剣です。」

「魔剣…?」

 魔を帯びた剣などは伝説上の物でガロンの世界には存在しなかった。鞘から剣を抜くと刃も黒かった。

『バブゥ。』

「!!!!!?」

剣身から声が聞こえた気がした。

「これ、ふざけるんじゃありません」

 店主は剣に向かってしゃべりかけた。

「………これは喋るのか?」

「ええ、特別な魔剣ですよ。ガッパード様良ければ魔剣に名前を付けて頂けますか?」

「…………」

『カッコイイ名前をつけてね!エクスカリバーとかデュランダルとかアロンダイトとか』

 魔剣が提案した名前は全て聖剣の名前だった。なんとも図々しい話である。

「……………」

「ガッパード様がお決めにならない場合デフォルト名の〈俺は魔剣!〉になりますが…?」

『待って!!もしかして〈魔剣〉と〈負けん〉をかけてるの?やだやだ超サムい!超ダサい!』

「それでいい。」

『ちょ!まっ…』

店主が魔剣の取り扱い説明書に名前を書き込めば名付けは完了した。魔剣の意思など無視である。






 そうしてあっさりとガロンは元居た泉に帰され、馬のガロンとの再開を果たす。

『ねえ』

「何だ。」

『お父さんって呼んでいい?』

「だめだ。」




 …ガロンの帝都への旅は再開された。

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