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呪われた帝国騎士と異世界の商人  作者: 江本マシメサ
本編「呪われた帝国騎士と異世界の商人」
18/33

18「毒女現る!」

「二人でお見送り出来なくてごめんなさいねえ…」


 出発の日の朝、見送りに来たのはアニエスだけだった。ロゼッタは皆の前に出れる状態ではなかった為部屋に残して来たという。


「アニエスありがとうございました」

「アマリエちゃん言葉上手くなったわねえ」

「ロゼッタにもありがとうと…」

「伝えるわ」


 アニエスはアマリエの頭を撫でガロンに会釈をした。


「世話になったな」

「ええとっても。またお世話させて下さいねえ」

「…………」


 ガロン達の事情を知ってか知らずか一生の別れかの様な挨拶など気にせずにアニエスは笑顔で見送った。

 





 城の正門の前にはティスカ、ライ、アレスキスが出発の準備をしていた。皆何故か馬車の周りに集まり妙な顔をしている。


「どうした?」

「…隊長、馬車のネジが緩んでいたんです」


 馬車は騎士団が準備した物で、ネジは先ほど締め直したが走行の際車輪から妙な音がするわ、中から火薬の臭いがするわ、馬車を引く馬の目は死んでいるわで特別な仕様の馬車だった。


「…馬車は置いて行く。皆馬の準備をしろ」

「ええ…隊長、俺長距離を走る馬に乗った事ないんですよ。足手まといになります」


 暗に後ろに乗せてくれというティスカにガロンはアマリエを乗せるから無理だと断った。


「セリカの後ろに乗せてもらいといい」


 タミアの馬は近衛軍にいた頃に賜った物で大柄で立派な馬だった。成人男性が二人乗りしても問題無いだろう。


「嫌ですよ。セリカさん絶対俺を途中で落としますもん」


 そして落とした後気がつかないだろう事は誰もが簡単に予想出来た。

 親切な元伯爵様がティスカに馬に乗せてあげようかと声をかけてきたが、彼個人の親衛隊ファンクラブの仕打ちが怖かった為断った。

 ライは考えるまでも無く乗せてくれないだろう。ティスカは諦めて厩へと歩いて行った。



 残っていたライとアレスキスに細かな指示を出しガロンは兵舎へ戻る。タミアがいなかったからだ。




 マキシードの丘へは馬車だと一日半かかるが馬単体での移動だと一日で到着する場所にある。

 6体の竜を封印した結界はあと6日程しか保たないらしく、なるべく急げと言われていた。

 マキシードの丘への旅はタミアの旅装束が時間を追う毎に軽装になっていく不思議な現象が起こった以外は順調だった。

 心配していたティスカも皆に付いて行く事が出来、本人はひっそりと胸をなで下ろす。

 マキシードの丘の近くにある街で8時間程補給と休憩をとり魔術部隊が陣営を展開する場所へと移動を始めた。




 魔術部隊が展開する陣営はこじんまりとした物だったが上空にはいくつもの複雑で巨大な魔法陣が浮かび上がっている。

 魔術部隊は全員で30名ほどの少数で構成された隊で隊長はイリア・サーフという女性が勤めている。

 以前魔術部隊に所属していたアマリエからそんな話を聞くうちに到着した。




 副隊長を名乗る魔術師に通された部屋には一人の女性が居た。

 鮮烈な赤く長い髪の毛は旋毛近くの高い位置で纏められ、全て横に垂らした前髪は片目を隠し、もう片方の瞳は鋭く輝きながらガロン達を視線で射抜く。

 美しい女性だがきつい印象があり、とっ付きにくい人物である事は話さなくても伝わってきた。

 それが魔術部隊隊長イリア・サーフという人物だった。




「帝都からの道のりご苦労だったわね。はじめまして、イリア・サーフよ」

「第19守護少隊隊長ガロン・ガッパードだ」


 簡単な自己紹介の後イリアは作戦の詳細を説明した。

 討伐は竜が眠る昼過ぎから夕方を狙って行うという。


『お父さん、少し話したい事があるんだけど…』


 作戦の説明も終わり一呼吸置いている間に魔剣が話しかけてくる。いつもの様に勝手に話せばいいと突き返したがどうしても二人きりがいいと主張するので、イリアに断りを入れ退室した。





「どうした?」


 魔術部隊のテントの外に出たガロンは魔剣に話しかける。


『あ、うん…お願いなんだけど討伐の時僕をアマリエちゃんに預けて欲しいんだ、なんだか嫌な予感がして…アマリエちゃんとティスカ君位は守れるから』

「分かった。それだけか?」

『……』

「?」

『その鎧、いつから黒く…や、やっぱり何でもない』

「戻るぞ」


 ガロンと魔剣は部屋に戻った。





 ガロンが退室した後のイリアの部屋は異様な雰囲気に呑み込まれていた。もちろんイリアの謎の圧力によって

 彼女ははじめから一点のみを見つめていた。

 それはアマリエの左手の薬指にはめられた指輪だった。






「久しぶりね、アマリエ」

「隊長もおかわりなく」


 言葉使いが上手くなったわねと笑いながら話していたが目が笑っていなかった。


「…ところでアマリエ、いつ結婚をしたの?」


 部屋の空気がぴしりと凍った。その事は皆気になっていたが触れていなかった。アマリエの事だから間違って左手の薬指なんかに指輪をしているのだろう、帰ったらロゼッタあたりが注意をしてくれるだろうと思い敢えて見て見ぬふりをしていた。


「結婚、違うです。契約して家族?なったです」


 イリアは手にしていたカップを床に落とした。幸い中身は入っておらず、絨毯の上だった為破損も無かったが、別の何かがぶちりと切れた。


「せっ世間ではねえ、それを〈結婚〉というのよ!!小娘のクセに〈私明日死地へと向かうの、だから結婚して〉とか迫ったんでしょう?」

「…?迫って無い。ガロンが契約した」


 アマリエの後ろでティスカが紅茶を吹き出す、タミアは話を理解しておらずアレスキスは一人「ガロン君にも春が来たか」と感慨深い様子でライは呆れていた。


「は、ガッパード隊長と?あなた達いくつ年が離れているのよ、やっぱり男は若い娘が好きなのね!!!」


 イリアは頭をかきむしりながら叫ぶ。


「ガロンが居ないと生きていけないです」

「誰がのろけろと言ったのよ!!いいわ、あなた達存分に竜に戦いを挑んで散ってむがっ」


 隊長の口を間一髪、間に合って無いが塞いだのは後ろに控えていた副隊長で、頭を下げつつそのままずるずると引きずりながら退室していった。




 そうして戻って来たガロンを迎えたのはどことなくよそよそしいティスカとにこにこと微笑むアレスキス、何故か睨みつけるライ、いつもと変わらないアマリエだった。タミアは祈祷をしている。


 おかしなティスカやアレスキスに眉を顰めるガロンだったが魔剣の『ご不浄長かったなあって思われてるんだよ』という発言により脱力し周りの様子など、どうでもよくなった。

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