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呪われた帝国騎士と異世界の商人  作者: 江本マシメサ
本編「呪われた帝国騎士と異世界の商人」
16/33

16「アマリエ、死ねばいいのに。…そして」

「結界はどう?」

「問題ありません」


 魔法部隊隊長イリア・サーフは望遠鏡で結界の様子をみる副隊長に声をかける。

 肉眼では確認出来ない位置にある結界は全部で6つあり中には6~10頭の竜が封じられていた。結界は揺るぎなく安定していたが術者の疲労も激しく、もって一週間程だとイリアは思っていた。

 小部隊なんか派遣せずに騎士団総出で討伐すべき存在であり、イリア自身も抗議をしようと思い準備していたがきな臭い話が流れ、彼女の抗議活動を止める事となった。

 どうやらその小部隊に上層部がどうしても殺したい人間がいるらしい。 穏やかでは無い噂を聞いた時イリアは再び小部隊へ送られた作戦指示書の写しを見直す。そこには偶然にも彼女の憎んでならない人間の名前があった。






 イリア・サーフは魔法部隊唯一の女性であり、部隊をまとめる隊長でもあった。

 そんな彼女に突然舞い込んで来たのは海に沈んだ魔術大国マチェリカの姫アマリエの語学教育と魔術指南だった。

 イリアは忙しい合間を縫って教育を行っていたが魔術を教える前にユーリドットの言葉を覚える事に躓き、思う様に進まなく悩みの種となる。





 たどたどしいながらもある程度言葉を覚えたアマリエに魔術を指南すれば爆発、激突、破裂etc.…猛烈な魔術の暴走を起こし魔術部隊舎の被害は甚大で上の指示によりアマリエはガロン・ガッパードの部隊へ移動する事となる。

 しかしアマリエを見捨てる事が出来なかったイリアは彼女を呼び出しひっそりと魔術を教えた。が、それこそが間違いだった。

 その日イリアの研究室の前にある庭でアマリエに初歩的な攻撃魔術の指南をしていた。

 その日は珍しくアマリエの調子も良く魔術は何度か成功をしていた。安堵するイリアを横にアマリエは魔術を放つ。

 いつもなら魔術を吸収する板が衝撃を吸い込こんでいたが、アマリエの魔術は何故がその板を貫通しイリアの研究室諸共破壊した。

 呆然とし我に帰った時には建物は崩れ去った後で、イリアの研究は塵となった。アマリエを見れば放心状態でわざとでない事は確認出来た。

 しかし研究室には命をかけた汗と涙の結晶があり、入手困難な資料や参考書も山ほど保管されていた。なんとか声を振り絞って彼女を念のために医務室へ向かわせる事位しか出来なかった。

 





 どれだけ時間がたってもふつふつと煮え立つ怒りはおさまる事は無く、気も晴れない。

 終いには命をかけた研究を駄目にした代わりにアマリエも命を差し出すべきだと考える様になった。もちろん思うだけで実行には移さなかったが。





 そして先日。ガロン・ガッパードの部隊へ送られた死の宣告ともいえる命令が記された書類にアマリエの名を見つけた時、密かに歓喜した。これで怒りは収まる、と。






「だめですよ」

「何が?」

「恨み言が全部口に出てましたよ」

「…………」

「彼女だってわざと隊長の研究室を壊した訳じゃないですし死ねというのは可哀想です」

「あなたも若い娘がいいのね…」

「は?」





 イリア・サーフが命をかけていた研究とは「若返り」の魔術だった。

 13歳の頃から魔術部隊に入隊して22年、ユーリドット帝国の廃れた魔技術の為にがむしゃらに走り抜けて来た。

 ふと気がつけば30歳を越え、恋もせずにここまでの人生を来てしまった事に気がつく。素敵な男性は沢山周りにいたのに眼中になく、その素敵な殿方も続々と結婚し、現在周りに居るのは年下の男ばかりだった。

 しばらくは絶望もしたが立ち直りも早く、こうなったら若返って皇太子とでも結婚してやる!と奮起していた。





 その大切な研究を粉々にされイリア自身も砂になった様な気分を味わった。

 恋をするなら、結婚をするなら若い娘がいい…男性は皆言うだろう。目の前の朴念仁だと思っていた副隊長もそうだったでは無いか、イリアは憤慨していた。


「隊長は今でも充分綺麗ですよ」

「は?」

「だから〈若返り〉なんかしなくても」

「あ、貴方その情報どこから」

「だから全部口に出てましたって」

「貴方を殺して私も死ぬ…」

「誰にも言いませんよ!」


 イリアは杖を構えて副隊長をどう料理しようか考えた。









 ガロンの執務室には置き去りにされた魔剣がいた。

 かの魔剣の父親は移動の際魔剣を足で蹴飛ばし、起こしもせずにそのまま出掛けしまう。



((はあ…お父さんひどいよ、僕を置いて行くなんて。最近魔剣は切れ味が冴えてるね!なんて噂も流れているのに…))


 魔剣は一人(?)でも色々と楽しめるタイプだった。あるいみ幸せな人生だろう。




『おい』

((もっと小さかったら持ち運んでもらえたかなあ…短剣とか、魔短剣とか今までに無い感じでいいかも))

『おい、私の声は聞こえているのか』

『聞こえてるよー!!ってええええッ』


 魔剣の目の前にはアマリエが居た。魔剣を握りしめ見つめている。


『マチェリカの言葉だが?』

『あ、アマリエちゃんどうして…ちなみに魔剣には翻訳機能がありますので異世界の言葉でも理解できます』

『そうか』

『でもなんでいきなり僕に…』

『少し黙れ』


 アマリエはいつもと同じ無表情だったが言葉がキツい。


『いつもと様子が違うけどどうしたの?』

『私はいつもこんなだ…しかし姉から内弁慶だと言われた事もあるな』

『…その弁慶様僕の前でも隠して欲しかったな』


 魔剣はこれ以上喋ればまた怒られると思い、黙り込んだ。


『2、3質問する。ガロンは最近いつ飲食をした?』

『…わからない。どうして?』

『私に質問するな』

『す、すみません…』


 ガロンが魔剣を近くに置いてない限り視界を共有出来ないし、話し掛ける事も出来なかった。


『では鎧を脱いだのはいつだ?』

『ごめんなさい、それも』

『チッ…』


 ガロンが鎧を脱ぐのはお風呂の時位で体を洗った後鎧も洗う。寝る時も着用し座って眠っていた。しかしその事実は誰も知らない。


『あの鎧は何だ?あれがおかしいのか?』

『え?』

『ガロンはもうずっと何も口にしていない』


 アマリエは最近ガロンが紅茶を飲まない事を気にしていた。執務室付きの侍女に聞けば最近ずっと紅茶には手をつけないらしくますます疑念は深まった。

 ガロンの食事は食堂の担当が準備をして決まった時間に部屋まで運ぶ。調べた所最近はその食事も断っている事が分かった。

 そして何よりガロンの鎧から黒い靄の様なものが現れる様にもなった。

 何かがおかしい。何かがあやしい。神様にお願いして何とかガロンを救ってもらう為に祈りを捧げてみたが止められてしまう。 ガロンは神様ではなくアマリエ自身が救ってくれと言った。

 ガロンを救えるのは自分しかいないとアマリエの決心も強まる。






 調査は行き止まり途方に暮れていたがガロンと共にあった魔剣の存在を思い出す。

 はっきりとは聞こえなかったが魔剣の声はアマリエにも聞こえていた。

 この黒い剣ならば何か知っている筈だと、しかしながらそれも空回りに終わってしまった。


『早く…なんとかしないと、靄の量が日に日に多…』

『何?アマリエちゃんきこえないよ』

『ガロンが、…にな、がっ…』


 アマリエは突然大量の血を吐き出し倒れてしまう。


『え…?』


 原因は魔力切れだった。無意識に魔剣はアマリエの魔力を吸い尽くしていた。


『アマリエちゃん、しっかりして!どうしよう』


 痙攣するアマリエはそれでも魔剣を離さない。


『僕のせいだ…アマリエちゃんの魔力を』


 魔剣は魔力を吸い活動する。それはアマリエも理解していたが無尽蔵に作り出されるガロンの魔力とは違い、一般的な魔術師であるアマリエの魔力がすぐに尽きてしまう事までは理解出来てなかった。




『助けて!お父さん、お父さん』





 魔剣の願いが通じたのかガロンが部屋に戻って来る。血まみれの執務室にはアマリエがいて、彼女が握りしめている魔剣があった。ガロンはアマリエの手から魔剣を抜き取り腰に差す。血まみれの少女を横抱きに抱えると医務室へ向かった。







 筈だったが…


「いらっしゃいませ。■様、ガッパード様」


 執務室の扉の外は異界堂だった。


「お前に用は無い、早く帰せ」

「残念ながら手遅れですよ?あなたならわかっているでしょう?」


 アマリエは死にかけていた。呼吸も弱く、人間界の治療では助からない事はガロンも気がついていた。


「…………」

「素敵な商品を」

「もうたくさんだ」


 ガロンは自身の異変にも気がついていた。いつからだろうか、飢えや渇きを感じず、睡眠も必要としない自分が普通だと錯覚をはじめたのは。

 全てはこの〈異界堂〉の商品が原因だった。アマリエも異界堂で貰った魔剣のおかげで死にそうになっている。

 奥歯を噛み締め小さな少女を抱きしめる。心臓の音は次第に弱くなっていった。




 ガロンは首を振り我に帰る。アマリエが死にそうになっているのは異界堂のせいではない、異界堂に頼ってしまった自分が悪いのだと、頭痛など我慢していれば良かったのだ。自分だけが我慢をすればいい、その方がずっと楽だ。




「ガッパード様…こちらを」


 異界堂の店主が差し出したのはペアリングで片方をアマリエの左手の薬指にはめた。


「なにを…」

「これをお互いにつければ魔力の強い方の〈眷族〉になります、どうか一度冷静に…指輪をつけ、ガッパード様が魔力を供給する限り彼女は生きていけます」

「…………」


 ガロンは一瞬の躊躇い後に指輪を受け取った。




 目を覚ましたアマリエは記憶が所々抜けていて多少の混乱をしていた。


「お前は魔剣に何を聞こうとしていた?」

「…わからない、です」

『でもアマリエちゃん一生懸命何か訴えてたんだ』

「覚えてないです」


 明日の討伐には今回の事を抜きにしてでもアマリエは置いて行きたかったが無理だという。

 自分が国の為に最後まで騎士でありつづける事が出来るのか、ガロンは疑問に思った。

キャラクター紹介(?)を一話挟み竜の討伐へいく話になります。

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