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呪われた帝国騎士と異世界の商人  作者: 江本マシメサ
本編「呪われた帝国騎士と異世界の商人」
13/33

13「ティスカ、死ねばいいのに」

 ティスカはガロンに実家へ帰り今回の遠征について報告をする様言われた為、半年ぶりに帰宅した。ちなみに半年前はお金を借りる為に帰ったが父親から借りたお金は返していない。

 ジャーリィ家は貴族の中でも貧乏に入る部類の家であまり立派な屋敷ではない。使用人も二人しかおらず、二人ともティスカが生まれる前からジャーリィ家で働く古株でおしゃべりな二人組をティスカは苦手に思っていていつも避けて暮らしていた。

 そんな彼は今年19歳になったばかりで七人兄弟の三男だ。弟や妹達と遊んだ記憶はあまり無く、外に出て悪友達と遊び呆けていた為、年の近い兄や妹ならまだしも幼い兄弟の顔を思い出そうとしても残念ながら浮かばない。



 両親は昔から長男と長女にのみ愛情を注いだ。彼らは優秀で長男ザルクは文官として仕え、ティスカの二つ年下の妹にあたる長女マリオンは皇姫の侍女を勤めていた。他の兄弟は必死に勉強をし両親に認めてもらう様努力をしたがティスカはそんな彼らを冷めた目で見ていた。努力しないと貰えない愛なんて嘘だと思いギャンブルという間違った方向へ逃避をしてしまう。


 半年前、父親にお金を借りに行った時「手切れ金だ」と銀貨が20枚だけ入った革袋を投げて寄越した。「今後一切家の門を跨ぐ事は許さない」と父親に凄まれ、ティスカ無表情でコインが詰まった袋を受け取るとそのまま家を飛び出し、近くにあったドブ川に銀貨を捨てた。


 ジャーリィ邸は城から馬を走らせて30分程の場所にひっそりと建っていた。 裏門から入ってすぐの場所に馬屋があり、父親の馬が居なかったので不在を確認出来安堵する。母親に適当に説明してすぐに帰ろう、ティスカはそう軽く考えていた。  裏口の引き戸の取っ手を引けば見覚えの無い使用人達がてんてこ舞いになっていた。部屋には凄まじい量の贈り物が積み上げられている。



「なんなんだこれ…」 



 ティスカの存在に気がついた見た事の無い使用人が誰かと尋ねる。



「ティスカです。一応この家の三男の」

「そうでしたか、失礼をいたしました」



 使用人はあっさりとティスカの言葉を信じ、「紅茶をご用意いたしますね」と言っていたが即座に断り母親の居る場所を聞き出した。



「奥様なら旦那様のお部屋に」

「そうですか、そういえばその贈り物は…」

「素晴らしいですよね!全てハインツ・マードック様からなんですよ」



 ハインツ・マードック。騎士団の全部隊をまとめる総隊長の名前だ。その人物が何故ジャーリィ家に贈り物をするのか理解出来なかった。



「見て下さい、あのドレスも素晴らしい品です。たった今届いたんですよ。マリオン様の花嫁姿はさぞかしお美しいのでしょう。明日の挙式が楽しみですね」



 使用人はうっとりとトルソーに着せたウエディングドレスを眺めた。



「ハインツ総隊長とマリオンが明日結婚?」

「……?」



 使用人は何故そんな事を聞くのかと不思議な顔をティスカに向けた。

 混乱する思考を遮断し母親のいる部屋へ急いだ。



「それにしてもうまくやったな」



 母親のもとへ行く途中食堂から二人の兄の声が聞こえ立ち止まった。



「まさかハインツ総隊長を捕まえてくるとはな…」

「マリオンじゃないハインツ総隊長様だ」

「どういう意味だ?」



 城に文官として仕えるザルクは内部情報にも詳しい。先ほどよりも小さな声で話はじめた。



「マリオンとの清い結婚に借金まみれのティスカが邪魔だったんだ、だからハインツ総隊長様はティスカが所属する部隊を死地へと追い込む作戦を押し付けたのさ」

「まじかよ、巻き込まれる他の隊員も大変だな」

「まあ、上の人間が殺したかったのはティスカだけでは無いからその点は問題ないみたいだな」「上からそんなに恨まれてるってどんな部隊だよ…」

「恨まれているからこそこうして一つの部隊に集められたのさ」

「ひどい話だ」



 ティスカは来た道を早足で戻っていた。裏口から抜け裏門までは走り、外に繋げていた馬に跨がり、腹を蹴る。力が強かったからか馬は嘶き全力で駆け出した。

 ふらふらとした足取りで兵舎への道を進む。



「ジャーリィ?」 



その前に現れたのはティスカの上司ガロンだった。何故かタミアの襟元を掴み引き連れている。



「隊長…」

「両親に明日の事は伝えて来たか?」

「はい…」

「そうか」



 動揺の為か震える声を絞り出してなんとか言葉を紡いだ。



「隊長、俺…」

「ジャーリィ、お前は明日来なくていい」

「え?」



 今、ティスカは「遠征には行きたくない」と言うつもりだった。しかしその前にガロンに来なくていいと言われ愕然とする。借金まみれで騎士としての経験や剣の腕も乏しく、他の隊員ともうまく付き合え無い者は戦力外だと正面切って言われショックを受ける自分自身にティスカは驚いていた。


「お前は騎士には向いていない」

「知っていました」

「だから俺の実家がある街にいって父親の手伝いをして欲しい」

「はい、騎士を辞め…え?」



 聞き返しても同じ言葉が返ってきた。



「お前は就く仕事を間違ったな。文官ならかなり出世出来ただろう」

「え?」



 ガロンは数カ月の間ティスカと共に仕事をしてきた。彼の仕事は速く、正確で時が進むにつれただの騎士には難しい報告書の推敲や添削も任せる様になり、ガロンは人知れずティスカの能力を勿体無いと考えていた。



「…そんな、俺は兄とは違って最低限の教育しか受けていないですし、その最低限の教育でさえ遊び呆けていたのでサボってばかりでした」

「父親の仕事は独特で空っぽの方が早く覚える事が出来るだろう。それにいつもしている仕事は全て任せてもいい位には信頼もしている。事務能力の才能もあるだろう。少なくとも俺はそう思っている」



 タミアが心配そうに震える若者を見上げた。その視線を感じティスカはこみ上げてくる物をぐっと抑えた。


「…それに実家には嫁き遅れた妹がいて、気に入れば結婚してほしいと考えている」

「俺なんかを迎え入れたら没落してしまいますよ」

「それなら心配無い。妹は死ぬほど真面目人間だ。逸脱した行為は許さないだろう」

「…………」



 結局自分も弟や妹達を馬鹿には出来なかった。ティスカは思う。認められるという事はこんなにも嬉しい事なのかと実感する。



「隊長…」

「……」

「俺、竜の討伐に行きます」

「……」

「今のまま隊長のご家族の所に行ったら居場所がありませんから」

「ジャーリィ、俺はお前まで守りきる自信は無い」「大丈夫です。逃げ足だけは自信ありますから。…もしも帰って来れた時には妹さん紹介してください」



 帰って来たら妹云々は死亡フラグだとガロンは思ったが冗談めかして口にする勇気は無かった。

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