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呪われた帝国騎士と異世界の商人  作者: 江本マシメサ
本編「呪われた帝国騎士と異世界の商人」
1/33

1「旅のはじまり」

 ガロン・ガッパードは真面目な性格だったが顔つきが山に住む鬼の様だと揶揄され誤解を受けやすい容姿をしていた。そして彼が物心をついた頃から毎日訪れる頭痛に悩まされ、頭痛により普段の状態でも怒り狂う魔神の様な雰囲気を纏っていた為に近寄り難い人物だと認識されていた。

 彼はユーリドット帝国の辺境にある領地の貴族で頭も良く武道の才能があったが、恐ろしい見た目と雰囲気から周りとはうまくいってなかった。

 幾度となく病院へ赴き診断を受けても返っててくるのは〈原因不明〉の文字だけで、貰った薬も効いた試しがなかった。



 そんな頭痛持ちで厳ついガロンが役所仕事など出来る筈もなく、16歳になると生まれ育った町から少しだけ都会の街へ移り住み魔物を狩った収入で細々と暮らしていた。




 ガロンの頭痛は年を重ねる毎に酷くなり20歳を越えた辺りから、身動きも出来ない程痛む日もあった。長年の質素な生活が幸いしてかお金に困る事は無かったが頭痛に耐えている間はどうにかなりそうだった。



 そんな生活をしていたガロンに妹、シャーリィから一通の朗報が届く。〈お兄さまお久しぶりです。突然ですが私たちの住む町に帝都で有名なお医者様がいらっしゃるそうです。お兄さまを診て頂く様お父さまが打診をしているので帰って来て下さい。〉









 生まれ育った町に帰ったのは10年ぶりだった。以前より町には人が増え活気が溢れている様に感じた。そして10年ぶりに再会した妹は立派な淑女になっており、ガロンの帰宅を喜んでいた。




 帝都で有名な医師がガッパード家に訪れたのはガロンの帰宅から3日後だった。



「ふむ…」

 帝都から来た医師は意外な事に若かった。まだ30代半ばだろう。医師はガロンの以前から通っていた病院のカルテに目を通し何やら神妙そうな表情を浮かべている。昔から住む町医者は本当に医師なのかと疑う程怪しく、歳も70を越えていた。10年ぶり帰って来た今も現役らしくガロンを驚かせた。そんな医師のカルテなど見てないでさっさと診断をしてほしかったがガロンは大人しく医師の前に座っていた。





「ガッパード殿、残念ながら現在の医学ではあなたの病気を治す事は出来ないでしょう…」

「な…」

 医師はカルテを鞄にしまいながら言った。

「…カルテには症状の改善についてありとあらゆる治療と投薬が記されていましたがどれも効果がない、これが無かったら私も同じ治療をあなたにしていたでしょう…」

「………」

 あの町医者はヤブでは無かったらしい。ガロンは落胆した。




「あなたのその頭痛は、推測で申し訳ないのですが〈呪い〉ではないかと疑っています。」

「…呪い?」

「はい。以前あなたと似た様に頭痛に苦しむ患者を診た事がありまして…」

 医者は話す、激しい頭痛を訴える患者を受け入れたのは10年前、研修医だった頃の話で、のた打ち回る様に苦しむ患者に様々な検査、治療、投薬を施したが効かず、半月の間の治療もむなしく狂う様に死んでいった、と。

「ー原因究明の為に解剖をしようとした所に偶然知り合いの魔術師が現れて遺体を一瞥した後こう言いました〈これは呪われていたね〉と。」

「…………」

「俄かには信じられない話かもしれません。…良かったら帝都に住む魔術師に会ってみませんか?」

 ガロンはその場で医師に魔術師に紹介をしてもらう様お願いした。




「お兄さま、お気をつけて…」

 医師から紹介状を貰った翌日ガロンは帝都へ行くことを決めていた。一刻も早く謎の頭痛から解放されたいからという気持ちからガロンの行動を急がせた。

「これを…」

シャーリィがガロンに鈴を渡す。

「魔物除け、お兄さまには必要無いかもしれませんが、森の中で動けなくなった時に木に括り付けて下さい。気休め位にしかならないでしょうが」

「ありがとうシャーリィ」

そう言って妹の頭をぐしゃぐしゃと撫でた後、年頃の娘にする事ではないかと思い手を離した。

「これを連れていけ」

父親から渡されたのは黒い馬だった。どことなく目つきが悪い。

「二年前に市場で買い手がつかないと知り合いに泣かれて馬を見た瞬間他人とは思えなくて買ったんだが誰にも懐かなくてね…」

「…………」

 父親に強く手綱を握られているにも関わらず馬は頭をぶんぶんと振り鼻息も荒く落ち着かない様子だった。

「…馬の名は?」

「…………ガロン。」

「…………。」

ーこの馬は息子に似ていたから父親が買って来たという訳だった。釈然としない表情をするガロンに父親は封筒を差し出した。

「これはおまけだ。」

「これは?」

「帝国騎士団の推薦状だ。帝都に行くついでにお国に仕えて来い。…お前の頭痛の事も書いたから多少は配慮してくるだろう」

「父上…」

「…ガロン、健康な体に産んであげれなくてごめんなさいね…私はいつでもあなたの幸せを願っています」

「母上…」




 そうしてガロンは長年住んだ辺境の地を後にした。問題の馬は「お前も苦労してきたんだな。良かったら仲良くしてくれ」と声を掛けた後跨がったが意外にも大人しくなり、自慢の健脚を披露してくれた。話せば分かるタイプだったらしい。

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