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作者: ekaki

【依頼成功率100%】

お世辞にも綺麗とは言えない字でそう書かれた看板が立っている。

いや、立っていると言うか、塀に立掛けてある。

その塀に囲まれ、町外れの場所に一軒だけポツンと建っているその平屋は、只の民家ではない。

知ってる人は知っている(?)、自称『依頼成功率100%』 の『なんでも屋』、『響』なのである。




チリンチリーン

「・・・」

チリンチリーン

「・・・ん」チリンチリーン

「・・・ああっ!はいはぁい、今出ますよぉ!!」

そう言って毛布をはね飛ばし、その男は電話に向かった。

男は20代前半程に見えた。

多分相当長い間洗っていないのであろう、油で光ったボサボサの髪の毛、とても鋭い一重瞼の切目、血のように真っ赤な唇、なかなかの高い鼻、眉は細く、理由は分からないが、何故か前髪で顔の右半分を隠していた。

身長は多分170か175位で、全体的に細い男だ。

男は廊下に設置した、今時珍しいダイヤル式の白い電話につくと、両手を合わせて祈り始めた。

「どうか仕事の依頼でありますように!」

10秒程祈ってから、恐る恐る電話をとる。

「はい、こちらなんでも屋響でございます。」

「・・・仕事の依頼をしたいのだが。」

相手の男は名乗りもせずに、いきなり本題に入った。

「えっ!本当ですか!?」

だが、それを気にする様子も無く、男の顔が瞬時に明るくなる。

「ああ、だが依頼の内容が内容でな。

詳しくはそっちに行ってから話したいのだが。」

「はい、はい、お待ちしておりますので。」

「多分20分程で着くと思う。それではな。」

そう言うと相手の男は乱暴に電話を切った。


「やたー!お金が入るー!久々にマトモなご飯が食べられるよぉ!」

まだ依頼の内容や詳しい事を何も聞いてもいないのに、男は嬉しそうに万歳した。



「・・・して、依頼の内容は?」

「それを話す前に、響沢遊也さんよ、あんたに聞きたい事がある。」

「はあ。まあ、いいですけど、答えられない質問はありますよ?あと、俺はキョウサワじゃありません。ヒビキザワ、ですので。お間違いなく。」

「・・・聞くが、本当に依頼成功率100%なんだろうな?」

そう言うと、クライアントの男は反対側の椅子に座る響沢を睨みつけた。

しかし、響沢はそれに動じる事なく、即答した。

「はい、必ず成功します。」クライアントの男があっけにとられた顔をした。

二人が話しているここは、『響』の事務所である平屋の一室である。

なかなか広いが、机と、椅子が二脚ある以外は何もない殺風景な部屋で、掃除を全くしていないらしく、あちこちにカビやら何やらが生えていた。

しかし、和室なのに洋風の机と椅子があるあたり、この事務所の所長である響沢遊也は、かなりアバウトな性格だと思われた。

「で、質問と言うのはそれだけですか?」

響沢がにっこり笑って聞く。

「・・・あぁ、もういい。」

本当はもっとあったと思うが、先程の響沢のを見て質問する気が失せたのだろう、クライアントの男が疲れたような声で答えた。

「で」

響沢が少し真面目な顔になった。

「話は戻りますが、貴方の依頼をお聞かせ頂きたいのですが。」

「・・・言い忘れたが俺は田中昭三と言う。」

「ふむ、田中昭三さんですか。分かりました。さ、続きをどうぞ。」

「・・・俺の兄貴は大企業の社長なんだ。結構な金持ちでな。で、」

「暗殺ですか?」

響沢が話を遮って、いきなり田中に問った。

「・・・!」

田中はかなり驚いている様子で、口を開いたまま絶句している。

「貴方の目には欲望があった。会った瞬間から俺は気付いていましたよ。そして、貴方の目の欲望の炎は、お兄さんの話を始めた瞬間に大きくなりました。」

さらに響沢は微笑んで聞いた。

「依頼は貴方のお兄さんの暗殺。違いますか?」

田中は顔を歪めて言った。

「そうだ。その通りだよ、響沢さん。俺は兄貴の会社の副社長なんだ。社長の兄貴が死ねば、俺が社長になる事が出来る!兄貴が邪魔なんだよ!あいつが!一緒に会社を立ち上げた時は協力しようとか綺麗事を言い合ってたが、もうそんなのは関係ない!邪魔者は消せばいいんだ!」

田中の歪んだ顔はいつしか狂った笑いに変わっていた。

響沢は田中の発言を微笑みを崩さずに黙って聞いていたが、不意に立ち上がるとそのまま微笑みを崩さずに聞いた。

「分かりました。その依頼、お受けします。実は何度も暗殺はやっていましてね。なかなかなれているんですよ。」

響沢はやはり微笑みながら言った。

「くく・・・噂通りだな。」

「噂?・・・まあいいでしょう。で、報酬の件なんですが」

「いくら欲しい?成功するならいくらでも払うぞ。」

田中笑いながらが言った。

「そうですか。じゃあ、最近仕事が少ないので、出来れば50万ほど頂きたいのですが・・・。」

「50万?0がひとつ足りないんじゃないか?」

「滅相もない!そんな大金は頂けませんよ。」

「そうか・・・。ふ、まあいい。いい結果を期待しているぞ。」

「お任せ下さい。あ、あと、成功の証として、殺害した人物の死体の一部とかを持ち帰ったり出来ますが、如何いたしますか?」

「いいさ。だが間違っても死体を簡単に見付かったりする所にはおいておかないでくれ。ちゃんと始末しておいてくれよ。」

「承知致しました。」

「・・・それじゃあ、終わったらここに来てくれ。」

と田中は一枚のメモ用紙と高そうな万年筆を取り出して、住所を書いて響沢を渡した。

「分かりました。ここに仕事終了の報告をしに行けばいいのですね。」

「ああ」

田中は短くそう答えると、早々と平屋を出て言った。

クライアントがいなくなった部屋で、響沢は呟いた。

「暗殺・・・久しぶりだなあ、楽しみ楽しみ♪」

そして少し前まで自分が寝ていた部屋に戻り、押し入れを開け、声をかけた。

「カズちゃん、仕事だよ。起きなよぉ。」

声に反応して、毛布にくるまっていた人が顔を出した。

「ゆう・・・。今何時だ?」

「5時・・・40分だよ。ほらぁ、折角仕事入ったんだから、起きて!」

「仕事ぉ?何の?」

カズちゃんと呼ばれた男が頭をかきながら聞く。

「カズちゃんの好きな暗殺だよ。まあ、俺も好きだけどね!」

響沢が笑いながら言う。

「お、暗殺か。そりゃあいい仕事とったな。で、誰を暗殺するんだ?」

又響沢に聞いた所で、カズちゃんと呼ばれた男が押し入れから出てきた。

この男も響沢と同じく、20代前半程だろう。

二重の大きな目は青く、乱れてはいるが、響沢程汚くはなさそうな長髪が金色に輝いていて、それだけで純血の日本人ではない事が分かる。

堀が深い顔だちで、なかなかの良い男だった。

身長は180程だろうか、結構高く、響沢とは対照的ながっしりした体型だった。

響沢は上下ジャージ姿だったが、この男はジーパンにTシャツという格好で、左の袖から腕が出ていなかった。

何故か分からないが、彼は左腕が付け根から無いようだ。

「この人だね。なんかの会社の社長さんみたい。」

と、響沢が田中からもらっていた、ターゲットである田中伸之の写真をカズちゃんこと、天野和樹に見せた。

「こりゃあ・・・」

写真を見た天野の顔が薄ら笑いを浮かべた。

「どしたの?」

「ゆう、お前とんでもない仕事引き受けたのかもしれないぜ。」

「?なんで?」

「こいつは田中伸之。日本最大の薬品会社、田中薬品の社長だ。噂じゃ、裏では色々汚い事やってるらしいが・・・。まあ、いずれにしてもかなりガードは固い筈だ。どうするよ。」

天野が笑いながら響沢に聞く。

「ん?別にどうもしないよ。いつも通り乗り込んで、邪魔する奴・・・ボディガードは全員殺して、目撃者も全員殺せばいいじゃない。」

響沢がしれっと答える。

それを聞いて天野が一瞬唖然として、直ぐにまた笑い出した。

つられて響沢も笑い出す。

二人で写真を見て、同時に同じ言葉を発した。

「「楽しい仕事になりそうだ。」」



響沢遊也、天野和樹の二人は田中薬品の本社である高層ビルの屋上に立っていた。

響沢はジャージ姿ではなく、いかにも安っぽそうな黒いスーツに着替えていて、上からこれまた安っぽそうな黒いコートを着ていた。

そして右手に、刀身が1、5m程ありそうな長い日本刀を握っていた。

多分全体の長さは響沢の身長程はあるだろう。

天野は特に着替えたりはしていなかった。

ただ、ジーパンのベルトに中型の銃が二丁あった。そして奇妙な形のウエストポーチを身に付けていた。太陽が沈みかけていて、真っ赤な美しい夕焼けが空を彩っている。

しかし、屋上に立つ二人の瞳には、夕焼けの赤にも負けない位の真っ赤な炎が燃えていた。

狂気という名の炎が・・・。

「ゆう、今何時だ?」

「今・・・4時48分だね。5時半まではまだ時間があるよ。」

響沢が安っぽい腕時計を確認しながら言った。

「そうか。じゃあ、作戦の最終確認だ。」

「うん。」

「ゆう、お前はまず何をするんだっけ?」

「ボディガードを殺す。」

天野が呆れてため息をついた。

「違う。今回はボディガードは無視だと言ったろ。」

「えっ聞いてないよ。」

「言いました。」

響沢が残念そうな顔をする。

「仕方ないだろ。数が多すぎるんだ。今回は諦めろ。」

と天野が慰める。

「分かったよ。諦める。」

「ん。よし、話を戻すぞ。」

天野がポーチの側面ポケットから紙−二人がいるビルの見取り図−を出して、ある一室を指した。

「ここだ。この部屋にこのビル全体の防犯システムやら防災システムやらを全て制御しているコンピュータがある。」

「ふ〜ん・・・。てあれ?なんで、んな事知ってるの?」

響沢が首を捻る。

「さっきこのビル全体のシステムやら何やらを全部見ておいた。」


「あ、そゆ事。で、俺は何を?」

「ん、ああ、その部屋に忍び込んで、ビルの中のシャッターを全部降ろせ。あと、電気も消せ。そんで社内が混乱している内に俺がターゲットを拐って殺す。おけ?」

「おっけ!・・・と言いたい所なんだけど、俺コンピュータの操作とか分かんないんだよねえ。どしよか?」

と響沢は苦笑いする。

しかし天野は、分かってる、と言った様子で答えた。

「心配するな。制御室にはコンピュータ管理している社員がいる。そいつをおどして操作させろ。終わったら殺しておけよ。」

「分かった。流石だね、カズちゃん。」

と響沢が微笑んだ。

「まあな。・・・と、そろそろ時間じゃないのか?」

天野がポーチに見取り図をしまいながら聞く。

「あ、本当だ。じゃあ、そろそろ実行?」

響沢が聞く。

「ああ。行くぞ。くれぐれも見付からないようにな。」

と天野が念を押す。

「安心してよ。カズちゃんの足を引っ張るようなヘマはしないから。」

「ったく、まるで俺がリーダーみたいじゃねえか。リーダーはお前だろ。しっかり・・・まあいい。そろそろ本当に行くぞ!」

天野が気合いを入れる。

「うん!」

二人は屋上の扉を開き、二手に分かれた。



以外にも、社内にはあまり人はいなかった。

いや正しく言うと、通路に人がいなかった。

(これなら楽に制御室までつけそうだな・・・)

響沢は今、一人で制御室を目指している。

ターゲット・・・田中伸之がここに到着する時間まで、あと6分28秒。

それまでに制御室に行き、社内を混乱の渦に巻き込まなければならない。最初は少し緊張していたが、この調子だとあと1分かからずに制御室に行けそうだった。

(よし、見えた!)

響沢の行く手に制御室とかかれた扉があった。

(カズちゃんやったよぉ!今日の夜はステーキ食べようね!)

と、響沢が勝利(?)を確信しながら制御室に入る。

同時にあのかなり長い日本刀を鞘から抜いた。

「はい!動いたら殺しますよ!おとなしく言う事を聞き・・・」

誰も居なかった。



「ゆうの野郎、大丈夫だろうな・・・。」

天野が呟く。

ターゲットが来るまで残り三分を切っていた。

天野は今、田中薬品本社ビル一階の、男子トイレに潜んでいる。幸いここからなら、ビルに入ってきた人物を見る事が出来た。

「念のため、も一回見ておくか・・・。」

と、天野が目を瞑る。

すると、妙な映像が脳に流れ込んできた。

その映像の中には・・・高そうな黒い外車に乗った今回のターゲット、田中伸之とその周囲が写っていた。

映像は鮮明だが、音は全く聞こえない。

天野は、属に言う千里眼の能力の持ち主だった。

目を閉じて、精神を集中すると、映像が直接脳に流れ込んでくるらしい。

(お・・・ターゲットもかなりここに近付いてきたな・・・。)

天野が無意識に笑う。手が妙にムズムズした。

簡単そうに思えて、千里眼はなかなか疲れるらしい。天野は途中で見るのを止め、呟いた。

「あと30秒位か。頼むぞ、ゆう・・・。」



「ああああぅ〜、どしよう〜!まずいよお・・・。」

響沢は制御室で、一人おどおどしていた。

「カズちゃ〜ん!誰もいないよぉ。カズちゃんの嘘つきぃ!今回は俺を怒らないでよねぇ〜!いつもは俺が悪いけど、今回は俺は悪くないよ〜!」

どうやら響沢は今までに何度も何度も天野に怒られているようだ。



「く!なにやってんだ、ゆうのヤツ!」

天野は歯ぎしりした。

もう社内にターゲットが来ているのに、何も起こらないからだ。

幸いにも、ターゲットは受付で何やら喋っているので、まだ計画は狂わない。

まだ、あと数分間は・・・。

「毎回失敗寸前だから、今回はかなり楽な仕事を与えたのに、なんでだ!?ただ社員脅すだけじゃねぇか!チクショ、こんなんでよく【依頼成功率100%】なんて大嘘言ってられるよな、まったく・・・ん?」

わめいていた天野がふと考える。

(いや、まてよ?俺がゆうに与えた仕事は、さっき自分でも言った通り、かなり簡単・・・いや、そこらの三流でもできる物だ。だが、ゆうは出来ていない・・・。ゆうは馬鹿アホドジだが、そんな事が出来ない訳はない・・・。て事は、あっちに何か異常があったのかもしれない。いや、そう考えるのが普通か!!)

天野が思考を止め、目を閉じて、精神を集中する。

すると、響沢がぼんやりと見えて来た。

だんだんと鮮明になり、一人でオロオロ慌てている響沢が見えてきた。

(・・・!!そういう事か・・・。すまんゆう、今回は俺のミスだ・・・。)

響沢に、居る、と言っておいた、コンピュータ管理の社員が居ないのが見えた。

(今回は失敗か・・・。いや、毎回こんな危うい感じだよな。よく今まで成功させて来たよ・・・。)

天野が諦めかけ、苦笑した時、トイレの外から悲鳴が上がった。



「ああ、ああ、毎回華麗に任務遂行して来たのに(主に天野が)、こんな風になるなんて〜!」

響沢は、依頼の失敗を感じ、制御室で一人泣きそうにわめいていた。

「・・・帰ろう。もうここに居ても仕方がない。」

と、帰ろうと扉に近付いた時・・・

「ほぶっ!」

コンピュータのコードでつまずいて、派手に転んだ。

「うう、今日は厄日だあ・・・。」

鼻を押さえながら、響沢がほろりと涙を流す。

かなり痛かったらしい。

「うう、ちくしょう!このコードめ!」

と、響沢が思いきりコードを引く。

軽い音がして、コンセントから抜けた。

その瞬間。

社内の全てのスプリンクラーから水が吹き出し、シャッターが閉まり、ライトが消えた。

たちまち、社内が大パニックに陥った。



「な、なんで!?」

天野が困惑した。こんな事は、起こるはずがないのだ。

シャッターがしまり、ライトが消えた。

・・・何故かスプリンクラーまで水を放っているが。

「ゆうがやったのか!?いや、それとも・・・!」

とここで天野は考えるのを止めた。何にしても、これはチャンスだ。社内は大パニックに陥り、ターゲットも焦っているようだ。

「行くしか無い!!」

天野が決断し、風のようにトイレからターゲットに走る。

ボディガードは18人居たが、暗闇で困惑していて、約にたたなくなっていた。

天野がうまくボディガードを避けて、ターゲットの首に鋭い手刀をふりおろす。

「こっ」

と声を発して、ターゲットが気絶した。

天野がそのまま右手でターゲットを担ぎ、また風のようにビルの外に走り去った。



「見えない、見えないよ〜。」

響沢が一人、社内をふらついていた。

そして階段をやっとの事で上がり、屋上にくる事が出来た。

「ふあ〜、疲れた・・・。」

と寝転がる。

ビービー

「・・・ん?」

響沢の懐で何かが震えている。

「なんだろ?」

取り出してみると、トランシーバーだった。

「ああ、カズちゃんが連絡用にとか言って、渡してきたヤツだ。」

思い出して、教えられた手順通りにボタンを押してみた。

「・・・ゆうか?」

「あ、カズちゃん?」

「ああ。」

「カズちゃん・・・ごめんね、失敗しちゃったよ・・・。」

「大丈夫だ。ターゲットは殺した。成功したんだ。」

「ええ!?どゆ事!?」

「なんか途中でアクシデントが起こったようでな。何故か制御がきかなくなって、都合よくうまく言った。」

「ああ、よかった!・・・あ、今何処?」

「それを教えようと連絡したんだ。北を見ろ。」

響沢が言われた通り北を向く。

「廃ビルがあるだろ?」

「うん、ある。」

見ると、前方にかなり大きい廃ビルがあった。

「俺はそこの10階にいる。ターゲットの死体もそこだ。だからこっち来てくれ。」

「おけ、分かった。すぐに行くよ。」

「ああ、待ってるからすぐにこい。20分以上待たせたら今晩は夕食抜きだ。」

トランシーバーの向こうで天野が笑ったのが分かった。

「ああ!酷い!」

「夕食食いたきゃ早くくるんだな。」

また笑って通信を切った。

「早くしなきゃ!」

響沢も自然と微笑み、さっき開いたドアをまた開き、一階を目指して降りていくのだった。



「遅い。」

「・・・て、18分しか経ってないよ、カズちゃん」

響沢が息を切らしながら言う。

「そか?・・・まあいいや。とりあえずあれどうする?」

天野が親指で、椅子にだらんと腰かけている死体を指した。

「あ、あれがターゲットか。」

と響沢が死体に立ち寄る。見ると、死体は頭の半分・・・鼻から上が爆発しているように無くなっていた。

「どうする?これ、見付からないように処理してくれって言われてるんだけど。」

「だからお前を待っていたんだろうが。コマギレにして埋めときゃいいだろ。」

「あ、成程ね。じゃあ早速・・・」

と、響沢が日本刀を抜いた。

「一応離れといて。」

「もう離れてる。」

声をかけるまでもなく、天野は響沢から20m程距離を置いていた。

響沢の間合いは、その刀から見ても分かるように、普通よりはるかに広い。

だから、近くにいると、響沢にその気が無くても切ってしまう可能性があるのだ。

「おっけ、じゃあ・・・」

響沢の視線が椅子に座った死体に向けられる。

いつも笑っている響沢の切目が、冷酷な光を発した。

一瞬、刀が妖しくの閃く。

「ほい、しゅ〜りょ〜」

刀を鞘に納め、響沢がいつものように笑いながら言う。

死体は、椅子ごと薄くスライスされていた。

「よし。」

天野が死体に近寄り、予め椅子の下に敷いてあったビニールシートを手早く起用に結び、あっと言うまに死体がビニールの袋に入った状態になった。

「お、カズちゃん、準備周到だね。」

と響沢が笑う。

「まあな。お前が刀振るうと、死体を集めるのに苦労するからな。」

「ごめんね〜。」

「いいさ。役にたつしな。正に、物は使いよう、・・・だよ。」

天野がくくっと意地悪く笑う。

「あ、酷い!」

「ほれ、埋めにいくぞ。」

天野が袋を担ぎ上げて、ビルを降り始める。

「ほ〜い。」

響沢が後を追った。



そこは、山奥の民家だった。

響沢は、依頼成功の報告をしに、渡された紙に書いてあった住所に来ていた。

「ここか・・・。」

響沢が緊急ぎみにチャイムをおす。

しばらくして、ガタイのいい、いかにもヤクザらしき男が出てきた。

その男に案内され、依頼人、田中昭三の所に向かった。

「よく来たね。」

田中は響沢の姿を見ると、低い声で笑う。

「はい、依頼成功の報告と、報酬を受取りに来ました。」

響沢が嬉しそうに答える。

「ああ、兄貴の死は確認済みだ。持っていけ。」

と田中が懐から札束を取り出して、響沢の前の床に放り投げた。

札束を拾いながら、響沢が首をかしげる。

「あの、これ、100万あるんですけど・・・。」

田中が笑いながら答える。

「100万円、冥都のみやげにもっていけ。」

その瞬間、隠れていた男逹が響沢を取り囲んだ。

「兄貴の死の真相を知る者に生きてもらってちゃ困るんだよ。」

田中が言う。

「殺せ。」

男逹が一気に銃器を構える。

が、そこで動きが止まった。

響沢が刀を抜き、居合いを決めていた。

田中もろとも、男逹全員の首が、床を転がる。

「ありがとうございました〜♪」

響沢が刀を鞘にしまい、部屋をでようとしたが、引き換えし、田中の首を拾いあげ、口に50万をねじこんだ。

「契約違反になりますので。」

冷酷な笑みを浮かべ、首をまた床に転がして、家を出た。



「カズちゃん、只今!」

響沢が明るく言う。

「待ってましたー!おかえり!」

天野がこれまた満面の笑みで向かえる。

「で、肉は!?野菜は!?」

「慌てないでよ、沢山買ってきたから!」

と響沢は、両手のスーパーの袋を一気に広げた。

肉やら野菜やら、色々な物が詰まっていた。

「ようし、早速鍋にしようぜ!」

「うん!」

そして二人は鍋パーティを始めた。



【依頼成功率100%】

その看板を見たら、どうぞお立ち寄りを。

どんな依頼でも100%遂行してくれます。

なんでも屋、響が・・・。

読んで頂き、ありがとうございます。

今回もとりあえずホラーのジャンルに投稿しておきました。

全く怖くないですが・・・。

最初は連載にしようと思ったのですが、もう既に一本連載を抱えているため、無理だと判断し、短編で書きました。

誤字脱字、御感想、御意見などございましたら、評価の所に書いて頂ければと思います。

これからもよろしくお願いします。


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― 新着の感想 ―
[一言]  個人的に、へたれな主人公というのはかなり好みなので、楽しく読ませてもらいました。ただ、あとがきにも有るとおり、ホラーと言われれば少し違う気もしますね。まぁそれは俺も人の事なんて言えないので…
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