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彼方の地から  作者: 竜胆
30/34

27 「・・・そんなに怪しいデスカ?」

今回ちょっと短いですが、きりよさそうだったので。

 昼近い日差しは、やはり海の街らしく眩しさが違う。

木々も深い緑というよりは明るい緑色をしていて、街全体が明るい軽い感じがした。

潮の香りが・・しませんよ。

・・・そっか、地球と違うんだっけ。海の水が塩水とは限らないんだった。

基本的な事をすっかり忘れていた、と思いながら店を覗きつつ街を探訪する。

地図のよると街の北側、森の中に遺跡があったはずだ。

甘そうな果物や何やら串に刺してある食べ物を口にしつつ、森へと進路を取る。


 なだらかな丘を登るように道が続き、うっそうと茂る木々の間から、明らかに建物らしき石壁が見えた。

このあたりでとれる白い石でできた壁が、伸びる途中で壊され、また続いている。

「半壊・・って感じ?」

城、というよりは邸という大きさのそれは、半壊状態で建っていた。

ずっと向こうに門があるようだがどうせ壊れてるんだから、と壊れた塀の間から侵入する。

「ふぅ・・ん。」

カラン・・と歩いていた足元の石が崩れる。

天井が落ちた屋敷の中に入ると、おそらく昔の主だろう人間の肖像画があった。

・・・獣人か。

鳥獣人だったらしい主の絵はその半分が焼け落ち、顔を窺い知れる程度しか残っていない。壁に手をつけると、焼け焦げた匂いが立ち上ってくる。

 

 『逃げるんだ。』

『嫌よ、私も一緒にっ・・。』

一組の男女が炎の中に居て、その周りを使用人らし気人間たちが逃げ惑っている。

『エリーゼ。君は逃げ落ちろ。その子を頼む。』

水に濡らした布を女に被せ、その手を侍女らしき人間に取らせる。連れて行け、と。

『ガイ! 嫌よ、ガイ!!』

『海を渡れ! ライオネルへ行け!』

女は人族。男は鳥獣人。

『何で!』

手を放そうとする女に、侍女は羽交い絞めするようにその身を持ちあげて運び出す。侍女とはいえ獣人、さすがに力はある。

『俺は無理だ。エリーゼ。愛している。すっと、永劫、お前を待つ。』

ガラガラと崩れてゆく屋根の向こうから、かすかな声が聞こえ、それももうかき消される。

後には泣き叫ぶ女と、轟々と燃え盛る炎の乱舞が見えるのみ。


 「ここで、何をしている。」

声がして振り返ると、青年が立っていた。

・・・おぉ、真っ青です。

髪も瞳も真っ青な青年が、怒った風ではなく、でも絶対に返事をしろと威圧感を漂わせて。

それはどこかデジャブな感じだった。

「見学です。」

「旅行者か?」

パキッ、ザザッと足音を立てながら彼は近づいてきた。

「一人で、か?」

・・・また子供だからかなぁ。

ため息ついて肩を竦める。

「これでも一応冒険者、なんですけど?」

そう言うと片眉を器用につり上げてあからさまにびっくりした顔をされる。

・・・慣れたもん。

「そうか。この辺りは時折魔獣が出る。気をつけた方がいい。」

静かな声だ。

「そうですか、それはどうもご丁寧に。貴方は?」

・・・爪が紫色だ。インコみたい。いやインコの様に可愛らしくはないが。

などと思っていると、視線に気がついたのか隠すように手を握りこまれる。

「俺はナーガ。神殿警備隊のナーガ・ナッシュビル。・・・お前は?」

見回りだろう。私服だから非番だろうに熱心だな、と思う。そしてデジャブの正体が解った。

・・・“エセル”だ。

サージェスのエセル・ソード。今は近衛になってしまったが、神殿で初めてあった人間。

その威圧的な様子にそっくりだった。

「零です。」




 「後ろの方は“オトモダチ”ですか?」

目の前に立つ少年がにっこりと笑って俺の後ろを視線で促す。

と、“キィーン”と何かが弾かれる様な音がして、振り返ればいつの間にそこに居たのか少年が剣を構えて降り下ろしていた。

「な・・に?」

足元を見れば矢が落ちている。

・・・これを叩き落とした?

「お、おい!」

声を掛ける間もなく少年は繁みへと走り込み、ドサッガチャッと音がする。そしてガサガサと音がして繁みを掻き分け少年が人間を引きずって現れた。

「“オトモダチ”?物騒だね?」

いきなり矢を射る友達って・・と笑いながら、気絶させたらしい人間を俺の足元へ転がした。

「遊ぶのはいいけど、間違えればこっちに当たるだろう?気をつけてよ。」

本当に“友達”だと思っているかは解らないが、そう言って少年は矢を検分している。

「しかも“毒”つき。マジで危ない。」

へらへらと笑いながらも、瞳が笑ってない。

・・・冒険者ってこんなか?

「じゃあ。」

しゃがみ込んでいた足を伸ばして歩き出そうとしていたその腕を捕まえる。

「ちょっと待て。」

・・・怪しいだろ。




 ・・・また、デス。

そんなに怪しいデスカ?

エセルの時と同様、捕まりました。しかしここで振りきって逃げると、後々面倒な事になりそうだから、捕まっておくことにします。

助けてあげたのになぁ、なんて言っても仕方ないので、騎士の詰め所みたいなところに来てます。

「どこから来た?」

尋問ですか。

「サージェス。」

「いくつだ?」

う~ん。

「見える年齢で。」

「ふざけるな。」

・・・ふざけてません。19って言って信じますか?

どう見たって15,6でしょ。しかもそれさえ小さいと疑われるのに。

「いつ来た?」

「今日。」

「宿は?」

尋問されていると、次第に騎士たちが集まって来て、何やら暑いですよ。男臭い。

「“鳥の詩”」

部屋でも捜索されるかなぁ、と思っていると2人の人間が出てゆくのが見えた。

・・・散らかすなよ。

とはいっても、何もないけど。全部四次元空間に放りこんでるからね。

・・・お?帰ってきた。

察知した気配は神官のもの。それに伝令を飛ばす。

「おい、お前!」

「お前じゃありません。」

「零さ・・・・ん。」

割り込んできたのは神官の声でした。

 「ソレイク神官。御存じで?」

「なんで・・・?」

ナーガの言葉に答えずに、ソレイクは喰い入るように私を見ていた。ソレイクに付いている精霊がこちらへ嬉々としてやって来ようとしているのを、私は≪あとで!≫と心話で止め、ソレイクに巧く口を合わせろと指令を出す。

「サージェスからコンドルト、ライオネルを通ってこちらへ来たんです。」

そう声を出すと我に返ったようにソレイクは、折りそうになっていた膝を伸ばして私の前までやってくる。

「そう、ですか。では私の部屋でお茶にしましょうか。」

「いいの?」

と周囲に視線を投げると、今更気がついたようにソレイクは私のことを語ってくれる。

「この子は神官長の元に居た子ですよ。旅をするとは聞いていましたが、何でこのような事になっているのですか?」

その言葉にナーガはぎょっとして私を見る。

「パ、ウロ神官長?」

「そうだよ? ちなみに剣はミハに教えて貰った。これはミハから貰った。」

自分の剣を指し示す。

「“風神のミハエル”?」

「ミハエル・ブロスワース。二人といないならね。」


 とりあえずその場を去ってソレイクの部屋に入ると、すかさず結界を張る。

「ふぅ。ありがとうソレイク。あそこ男臭くって・・・。」

目の前にあったソファに座って行儀悪くずるずると足を伸ばす。

「何でまた・・。」

テーブルにゾーイが入ったカップを置いて、私の目の前に座りながらソレイクが問う。

「遺跡にね、いたんだ。だたの見学。で、ナーガがやって来て、襲撃者がいて、退治したら引っ張られた。」

その簡潔と言うか手抜きな説明でもソレイクは解ってくれたらしく、大きく息を吐いて、済みませんでしたと頭を下げた。

ソレイクが謝る必要はないでしょ? それにナーガも悪いことはしてないよ。、と言えば、それはそうなんですが・・・と言いながらまた深くため息をつく。

頭を振って顔を上げると、

「どうしてこちらに?」

と聞いてきた。

・・・ふぅん・・・話さないのか。

「ライオネルを経ってから海に出たんだ。んで、アーリーがこの島に行ってみれば?ってゆーから来てみたの。此処鳥獣人がいるってゆーから。ライオネルじゃ見なかったよ?」

「そうですね。特徴から軍隊に居ても偵察部隊に居ることが多いですから、余り大陸の方では見かけませんね。宿はどちらに?」

「“鳥の詩”オーナーが鳥獣人だった。浜辺で奥さんの方にあってね。そのまま連れて行かれたんだ。」

“あそこのオーナーの祖先は初めてこの島に渡ってきた鳥獣人の一人なんですよ。”とソレイクは言い、“ここの始まりをお知りですか?”と聞いて来る。

「いや。詳しくは知らない。」

知ろうとも思わなかった。だからまだ探ってはいない。人から聞くのも面白そうだ。


 世界が獣人によって開かれていく中、獣人の特性を持たぬ種族が登場した。

つまり“人”だ。

人は、その力の弱さから、最初は獣人に保護されている存在だったが、その中から加護持ちが出現すると、独立と言うか、自分たちの国を造る事を夢見るようになる。

そして獣人たちとの話し合いをし、自分たちで国を興すことの承諾を得、ある一人の人物が立った。

アルフレッド・サージェス。

サージェス建国の父。初代サージェス国王、アルフレッド・フォン・デ・サージェス。

彼が興した国は、世界に散らばっていた人をかき集め成り立った。その人口300余り。

小さな国家の成立だった。

それから人は増え続け、周囲の国に散っていった。その地盤を支え続けたのは獣人たちであった。

人は獣人に感謝しながらも、時がたつにつれ余りにも違いすぎる力の差に慄き恐れ、排除する動きも起こる。

何度かの衝突、つまりは戦争だが、を繰り返しながら、互いにその思いや今までの歴史を振り返りつつ、世界は収まっていって今がある。

今は獣人と人の共存の世界。

大元にはその全てを生みだしたとされる“神”(ガイアス)がいて、皆等しくその“子”として生きてゆくことを誓い合っている。

だが、そうはならなかった地域もあった。

フォクシア島。

世界で唯一獣人と人の衝突が今なお続く島。


 「個人個人でいえば、妬みやひがみから小さな衝突はあるでしょうし、喧嘩もあるでしょう。しかしそれは個人の感情でしかありません。でもここは国同士が今だ不仲のままです。」

「つまり・・・ノース国は獣人嫌い、だと?」

「そうです。あちらには一人の獣人すら暮らしていません。」

・・・珍しいね。

世界中探しても獣人の居ない国はない。

「元々この島に渡ってきた“人”の祖先は、世界が取り決めた“共存”を受け入れられない考えを持った者たちだったので。それでもまだ20年ほど前までは交流があり、こちらの人が対応すれば貿易もなされていました。が・・・。」

・・・教会もお手上げ、って感じ?

「パウロ神官長にも足を運んでいただいて、ノース国王に面会を求めてもみたのですが、話し合うどころか封書さえ受け取って貰えない有様で。」

「じゃあっちには教会はない?」

「いえございます。ですが神官はおりません。15年ほど前に追い出されて・・・私でございます。」

・・・あら、そう。

「あっちに正面から入ることは可能?」

「それは通行証があれば普通に可能でございます。ですが、お一人でとなると反対いたします。零様が、というのではなく、あちらは女性が圧倒的に少ないのでございます。」

「何で?」

20年前の事件の折、あちら側に住んでいた獣人たちやその家族・番共々追い出された事や、戦争をするつもりだったことから男性をかき集めていたこと、結果戦争までは発展しなかったが、国を出た女性たちが戻らなかったことだ。

戻らなかった理由の多くは、“間違っている”からだとか。

元々かなり封建的だったこともあり、女性の地位が低かった為扱いが悪かった。そして国外に出てみれば開放的であり、働くことも邪魔されることなく、獣人たちも国が教え込んでいるようなことはなく、親切だし優しいし、何より獣人がそう暴力的になることがほとんどない事だった。

 そう、獣人は力こそ強いが、好んで争いごとを起こす気性ではないのだ。そうであるなら、世界は獣人に支配されているはずである。

いざ戦いとなると底知れない力を発揮する獣人であるが、基本的には自分たちに火の粉が掛らなければ戦う事もないし、滅多矢鱈に怒る事もない。

寛容で大らか、それが獣人に共通する特徴でもある。その上、女性に弱い(というかヘタレ)という萌えポイント付きである。

だからこそキれた時の恐ろしさは半端ないのだが。

「じゃ、誰か連れて行けばいいかなぁ?・・・通行証って?これでいいの?」

サージェスを出る時に貰ったパウロの署名の入った通行証を見せる。

基本的にこの世界では、国を跨ぐ行き来をする時に発行される通行証は教会の発行である。

「通行証はそれで大丈夫です。」

「・・・あれ?ノースの人たちは行き来する時どうやってるの?」

「その時だけ私が呼ばれます。」

・・・面倒だな、そりゃ。

「うーん、じゃソレイクに協力して貰うかな?」

ポカンとしているソレイクの肩に手をポンと置いて、にっこりと微笑んでみた。



ノース国侵入・・というか、ちゃんと正面から入国です。

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