3 「説明を求める。」
≪この世界の名は、ガイアースヒル・・・・≫
地球と違う次元の惑星なのだが、周回するとき見えなくても交わる時間があるという。ガイアースヒルのガイアス達からは地球は見えている。地球からは、ただそこに宇宙空間が広がっているだけだ。
ガイアースヒルは精霊と魔法が存在する世界。そして、人の他に動物や獣人や精霊、神も存在する世界。
(”獣人”って・・・。)
”神”ならば、信じるも信じないも、おそらく目の前にいるガイアスがそうなんだろうなぁ、という感覚がありそしてそれは間違ってはいない。
(リアル・ネコミミとか?おおぅ、同級のお宅秀才の奴が喜びそうな案件。自慢だ!自慢。帰ったら自慢しよう。)
ひそかに心の中でガッツポーズを掲げている詠星に気がつかないまま、説明は続く。その交わる時、不可抗力としてある現象が起こってしまうという。
≪我の力が流れ込んでしまうんだ。≫
「はい?」
聞き返すと見た方が早い、と緑の人が手を翳すと、その空間に何かが現れた。詠星の世界で似たようなものというと、ブドウが。まだ実が生りきれてない、小さな房のまま。
≪見ててごらん。≫
そういうと緑の人はその房を両手の間の空間に留め置いたまま≪ほら≫と言った。見ていると房がだんだん実を大きくし、色が濃くなってゆく。
≪僕は何もしてないんだけど、今僕の力がこれに流れ込んでいるのが見える?≫
肯くと、
≪魔力とか精力というのはね、これと同じように高いところから低いところへと流れる性質がある。今この実を取り巻いているのは私という精霊の力、つまり精力だ。これはただの実、魔力などはもちろん持たない。それが近づくと私の力をとりこんで急激に熟してゆく。・・・同じことが詠星のいた地球とガイアースヒルが交わる時、起るんだ。≫
「つまり、地球へガイアスの力が流れ込む?地球には魔力のあるものなんて存在しないから、空っぽの状態なんだね?」
(溢れ出た力が器を求めるように、空っぽの地球に注がれる、ってのは解った。でもそれが自分に何の関係が?)
詠星の疑問が解っているように、ガイアスが話し出す。
≪君たちは気がついてないかもしれないが、地球にも神はいる。我らはお互いを感知しているのだが、地球の神というものは人間に対して不可侵なのだ。力を貸すとか導くとかではなく、見守ることが仕事だ。それによって地球の行く末が間違った方へ行こうが正しい方へ行こうが、ただ見守るだけだ。・・・彼らは人間が好きだよ。愚かしくて賢くて弱い人間がね。でも力を貸すことはできない。それはあの世界の理なんだ。しかし、人間に直接力を貸すことはできないが地球の寿命が尽きるのを阻止することはできる。それで我の力をそれに使っているんだ。我の流れ込む力を地球の修復と維持に転換して地球を守っている。≫
「ちょ・・ちょっと待って?地球の修復と維持?地球ってそんなに危ない状態?」
≪文明の発達具合と大きさからいって限界だね。何しろあの星は小さすぎる。その上、人が多すぎる。≫
そう教えてくれたのは赤い人。近くに座っていると何となく熱いことから、この人は見たまんま火の精霊なのだろう。さっき実演してくれた緑の人は木か植物の精霊。
そうだったんだ・・・と思う。このままでは地球はとか、危機感を叫ぶ人たちは沢山いて、でも何となく毎日を過ごしてきた。エコだの清掃作業だのにはできる限り参加はしてきていたが、そもそも限界なんだ。信じている人がおそらくほとんどいないに等しいだろう地球の神様は、それでも地球を、自分たちを守ろうとしてくれていたんだね。今まで以上に感謝しないと。
≪でもな・・・・。≫
「”でも”?」
身じろぎをするようにして、黒い人が口を開く。嫌な予感に喉が渇く。
≪それでもガイアスの力は多すぎるんだ。この星を維持し我らを生み、世界を作った。そして地球とか他の星へも力を流していても、なお余っている。≫
(ってゆーか、ほかの星もですか…。どんだけ?)
ガイアスを思わず凝視すれば、彼は照れて真っ赤になっている。
≪ヤダ! 褒めないでよ、照れるから!≫
≪褒めてねーし。気持ち悪いから赤くなるな。・・力が抜けるだろう。結論はな! お前がガイアスの娘だってことだ。≫
(・・・は?)
≪≪≪ユファ≫≫≫
とがめるような赤と緑と水色の人の声が飛んだ。ガイアスを見ると何も言わず、ただ自分を見て微笑んでいる。そこにはさっきまでのおちゃらけたような雰囲気はなく、それが真実だと語っている。
「説明を求めます。」
敬語なのに何で上から目線・・と皆は思ったが、ガイアスの娘だ、威圧感は半端ない。それこそが証明だろうが本人には自覚がないいようだ。一番耐性のあるアルファがすいっと皆より詠星に寄る。
≪娘・・というには少し違うのだが・・・。詠星、貴女はガイアスの力の塊だと言った方がいいだろう。貴女は人間の行う生殖活動、遺伝子を残すための活動から生み出されたのではなく、純粋に流れ出たガイアスの力の結晶によって生まれた存在だということだ。地球という星に貴方の家族というものがあり、貴女を慈しんではぐくんできたことは知っている。何より、私たちはそれをずっと見守ってきたからね。貴女が父と呼び母と呼び兄と慕う人間や、厳しいながらも貴方に稽古をつけていた貴女が爺様と呼んでいる人間たちと、貴女は違うのだ。それがどれだけの衝撃を貴女に与えるか、私たちは理解しているつもりだが、私たちは人間ではない。完全に理解はできない、できないが彼らと同じように貴方を愛し、慈しんでいることだけは貴女にも理解してもらいたい。特に人間的な言葉を使うのなら貴女の父親に当たるガイアスは。≫
詠星は黙っているガイアスを改めて見つめた。
光り輝くその姿がやけに眩しく感じられるのは、彼が色がないからだ。他の精霊のように赤だの黒だのと色がない。彼は(厳密にいえば彼なのかすら解らないが、見た目では男性型なので彼と呼ぶ。)肌も髪も瞳も・・すべてが白かった。白い髪はその長身よりも長く、肌は内側から輝いている(いや比喩ではなく)。瞳は光彩ですら白い。おそらく普通ならば眩しくて直視できないはずだ。それを見ることができるのは、彼が加減しているからなのか、それとも・・・。
≪それは君が我の霊力の結晶、娘だからだよ。≫
他の者は見ることができないよ、と。ここにいる王たちは別だが、それ以外の精霊や人間たちは目がやられてしまうし、何より密度が濃すぎて正気ではいられない、と。
(娘・・・結晶・・。)
ピンと来ないというのが正直な感想なのだが、それでも嘘や偽りの言葉でないのは感覚で解る。それは幼いころから備わっていた感覚で、詠星はそれ故過敏な幼少時代を過ごした。嘘や偽りや誤魔化しが感じられるというのは、子供にとっては辛いことだ。そしてそれに気づいて欲しくないと思うその人の気持ちすら手に取るように解った。制御できない幼い頃は周囲を怖がり祖父の後ろに隠れてばかりの子供だった。祖父が一番嘘のない人物であったからなのだが。
小学校へ上がってすぐ、祖父には打ち明けた。自分はおかしいのか、と。祖父は聞いた後にこりと笑って言ってくれた。『それはお前は神様の加護を多分にもらっているからだろう。』と。『うちは神社だ。神様はすぐそこにいる。その神様がお前に力をくれたのだろう。』と。そういう祖父の言葉に嘘はなかった。この人は本当に神様を信じているのだと感じられた。だから詠星も祖父を信じ神を信じられた。
その後、精神力を鍛えればその力を抑制できるだろう、という祖父によって祖父の持つあらゆる武道を叩き込まれたのには正直音を上げたかったが。その修業という鍛錬の中で、常に自分の精神をニュートラルに保っていれば、周囲の雑音を遮断できることを学んだのだから悪いことばかりではなかった。ちょっとばかり女の子らしくない女の子が出来上がってしまったのには、両親が嘆いていたのは蛇足だ。
(両親。)
「自分はあの両親の子ではないということですか?」
≪そうであるとも言えるし、それではないとも言える。貴女は確かにあの人間たちの遺伝子を受け継いではいない。しかしあの女性の胎内にはいた。・・・それはガイアスの力が固まり貴女という存在ができ始めた時、地球の神たちが提案してきたことだ。彼らの世界では親のいない子は厳しい育ち方をする、と。だから人間の女性の中に貴方を宿らせてはどうか、とね。あの女性は自分ではそうと知らず子を宿らせていたが、その子は胎内ですでに命が尽きていた。その子を取り出し貴女を入れたのだ。あの女性に決めたのは貴女の家の神、龍神の訴えがあったからだ。生まれた時周囲から浮かないようにとガイアスの力を変化させて貴女の地域の人間のように髪を黒く瞳も黒く。その後は龍神があなたを守ってきていた。しかし、限界があったのだ。≫
アルファの言葉を受け継ぐようにして、茶色の人が言った。
≪人の身にはガイアスの力は大きすぎたんだ。≫
いきなり生命の危機宣言ですか?
≪このままではお前が消えてなくなると判断した。≫
待ったなし、でしたか…。
≪それで一か八かでこちらへ転送した。成功してよかったよ。≫
・・・殴ってもいいですか?
人外でした。




