18 「頭のいい暴れん坊」
『 その者 高き志と強き力にて 神の剣を取り
ネル山の麓に 国を拓きたり
神から遣わされた剣を取りたるもの
名を ライ と呼ぶ
ライを王として開かれたる その国を
ライオネル と呼ぶ
〔ライオネル創世記〕 』
○ライオネル王国○
「へぇ・・・その剣って神殿に飾ってあるんだ?」
「“飾って“んじゃねーよ、祀ってあるんだよ。」
「あぁ、祀ってね・・・。見た事あるの?」
「あるに決まってんじゃん。毎年建国祭の日だけ見せてもらえるんだぜ。」
4人の少年と歩きながら麓の街に来た。
「兄ちゃんさぁ、それどーすんの?」
タヌキみたいな耳をした少年が言う。
「売る。 売れないかな?」
「売れるに決まってんじゃん!すっげぇ高いんだぜ?マーグルの牙って。」
(マーグルってゆーのか・・・。)
4つ足の熊の巨大化した感じで、口の下歯が2本だけこの牙になっていた。それを2本とも折って、ついでに毒だと言っていた爪も剥がして持って来ている。
(不気味だよね・・・。)
街に入って街人の視線を受けつつ歩いているのだが、引きずっているモノがモノだけに、ね。
牙と爪をロープで括って引きずっているのだ。不気味だよ、奇妙だね。
「じゃあ、カーティスの家に行った方がいいよ!こいつん家ギルドやってるし。」
(ギルド。)
何か聞いたことあるな・・・確か、むかぁしやったオンラインゲーム、冒険モノ、怪物退治、勇者・・・ギルド・・
「冒険者ギルド?」
「ううん、傭兵ギルド。でもそーゆーのはどこのギルドでも商品として買い取るから大丈夫だよ。こっち!」
分かれている道の右の方を指差して、先に見える赤い家だと教えてくれた。
じゃあな、と他の子供と別れてカーティスに付いてそこへ行くと、受付のお姉さんにびっくりされた。
通された部屋は、旅人が泊まるには標準的な部屋なのだと教えられた。“もっと上等な部屋がいいか?”と聞かれたのだが、食事は当然付くというので、後は寝られるベッドと風呂さえあればいいと伝えると、ここに通されたのだ。もっとランクを下げれば風呂なしの部屋で半額だというが、さすがに風呂には入りたい。
(日本人だもん。風呂文化の国民だよ。綺麗好きなんだよ。)
『すごいな、これは。君が一人で倒したのか?』
『そうだよ!兄ちゃんすっげぇ強かったんだ!あっとゆーまだったんだ!』
私が答える前に代わりに興奮気味のカーティスが答えてくれたので、ただ立っていると、そのカーティスの頭をゴチンと大きな拳が殴った。
私の目の前に立つ彼の父親だった。
『何でお前が偉そうなんだ!大体森へ行く時は子供ばかりでは行かないようにといつもっ・・。』
説教が始まると、カーティスはうへぇと言った顔をして下を向いた。
どの世界でも、子供はそんなものだ。
『カーティスはみんなの前に立ちはだかって戦っていましたよ。敵う敵わないは別として、その心意気だけは買ってやってもいいと思いますが。』
一方的に怒られるカーティスが可哀想でそうつい口にすると、調子に乗ったカーティスは逆に余計怒られてしまったが。
気を使って高値で取引してくれたのかと聞いてみたが、これが相場だというので、貰って来たお金は袋一杯の金貨。やはり爪もお金になるものだったらしい。しかし、あの爪は抜けたりはしないのでマーグルが今回みたいに倒された時か爪とぎの時に欠けた欠片しか手に入らないものらしく、出回る量が極端に少なく牙同様高値らしかった。
(毒つきじゃあ、なかなか取れないよね、そりゃ。)
ちなみにこの世界‘ルビー’なるお金の単位で、1ルビー=銅貨=1千円くらいみたい。で、10ルビー=銀貨=1万円 100ルビー=金貨=10万円 この貨幣がまた500円硬貨くらいの大きさでかさばる。じゃあそれより小さな単位での買い物はというと、色つきの石みたいな(本当に石じゃないよ、割れるし。)赤貨、青貨、黄貨がある。それがそれぞれ1円10円100円みたいに使えるらしい。これがまた・・
(可愛いンだよぉ~! オハジキみたいで。)
ガラスのような質感なんだけど半透明で綺麗。こっちは100硬貨くらいの大きさ。
【不可視・防音結界・半径3メートル。侵入者向け防御結界作動】
結界を発動させ、とりあえずかさばる金貨と銀貨の袋をよっこらしょってな感じで亜空間に放りこんだ。これが私が手ぶらで旅が出来る理由。まぁいわゆる便利ポケット。解りやすく言うならば、皆さんおなじみドラ〇もんの四次元ポケット。
活用させていただいておりますよ。 ありがとう藤〇不〇〇先生。
私は基本真っ暗で音無しでないと眠れないのだ。神殿では場所が場所だけに騒ぐ人間はいなかったけど、ここは下がギルドだし他の泊り客もいる。薄くはないのあろうが壁越しや廊下を歩く他の人間の足音でも眠れなくなる故の結界だ。
後は、まぁ泥棒対策。だってあんな荷物持ってきたから、それも下で引き取ってもらった訳だしその時金貨を受け取ったのだってしっかりバッチリ誰かに見られてるとも限らない。人を信頼したいのは山々だが、この世界ではいまだ海には海賊がいて、山には山賊がいる。それに、ここはライオネル。大陸一傭兵や剣士なんかが集まってきちゃう国だから。
ここライオネルが、ヒト発生の地だといわれている。ヒトの伝説では。
ライという男がネル山の麓に開いた国、ラオイネル。
(…でも違うんだよね。ほんと、神話とか伝説とかっていいように書き換えられちゃうもんだねぇ。)
バフッと布団を被って、ゴロゴロと身体の位置を定めるべく転がったのち、いい感じに収まった。
でもきっと日本の神話だって大して変わらないくらい、捏造も入ってる。
≪ねぇユファ。≫
≪何だい、詠星。≫
名を呼んだだけで、すぅーっと目の前に現れてくれる。
≪ここの王って、あなたの加護付きでしょう?・・・どんな人?≫
私が窓の方を見て寝転がっているため、彼は出窓のスペースにすとんと腰を下ろした。
≪そーだねぇ・・・。一応“ライ以降初の剣王”と呼ばれてるよ。とにかくデカイ、強い、態度も性格も腕も、ね。≫
≪わっちゃっ!最悪。脳味噌筋肉タイプ?≫
ミハくらい砕けていればいいけど。
≪う~ん・・・でも付けてるのは静かで毒舌な朝日の精なんだけど。≫
(う~ん、それって逆効果ではありませんか?)
ユファの話では、人の話も聞かない強引な踏ん反り返った人ではなく、どっちかというと家臣には好かれているらしく、能力さえあれば貴族とか家柄だとか関係なく要職に付けるらしい。そして勝手に自分一人で動きまわる困った人物である、と。
(なるほど・・・。吉宗タイプ。)
頭のいい暴れん坊は手に負えないよね。周りの気苦労が忍ばれるよ。
片刃を潰してある剣というのは珍しい、と言いながら先ほどからその剣を見せて貰っているのだが、この剣を振り回しているのが目の前の少年だというのも興味深い。
「これはどこで?」
「サージェス。そこで知り合いに造ってもらった。」
少年は朝御飯をパクつきながら、また新しいパンに手を伸ばしている。もう5つ目だ。
(どこに入ってるんだ・・・?)
細い身体からは想像できないほど、よく食べる。顔立ちは綺麗でどちらかというと中性的ではあるが美系タイプだろう。薄茶の髪に青い瞳。獣人ではなく人間だ。手足が長く、均整がとれている。獣人は人間よりもまた少し大きいから、はっきりしたことは言えないが10代初め、あたりか?
「“知りあい“?」
うん、と彼は肯いてよく知る人物の名を上げた。
「俺はミハイルとは幼馴染だ。あいつ元気にしてたか?」
「へぇ。うん、元気だよ。嫁様貰って蜜月真っ只中さ。」
「嫁?獣人か?」
「ううん、人間。パ・・・ランバード神官長の娘さんで、神殿で働いてるすっごいナイスなお胸の美女。」
と彼は手で大きな丘を胸の前で作ってにっこり笑った。笑うと可愛いな。
でもそうか、ミハイルは結婚したのか。
「彼はまだ神殿部隊に?」
「そう、隊長様だよ。」
答える彼に、
「その“隊長様“とどうやって知り合いに?」
誘導尋問みたいで怪しいことこの上ないが、彼は素直に話してくれた。
「私は神殿にいたから。ランバード神官長にお世話になってたから。で、世界を見てみたいから旅に出ると行ったら、ミハが“護身用に持っていけ”ってくれた。」
ランバード神官長に世話になっていた、という事は孤児か?彼が多くの孤児や事情がある子どもを引き取って自分の養子にしているのは、大陸の誰もが知っていることだ。何の見返りも求めない博愛。彼は生まれついての善人であり、聖職者だと。
「世界を見たいとはよく言ったもんだ、偉いな若いのに。ほれ、うちの奥さん手製の特製弁当さ。出掛けるんだろ?」
ギルド長であるカークがそう言ってテーブルの上にデカイ弁当を置いた。
(何人前だ?)
「ありがとう。カーティスは?」
「学校だ。そういやまだ学校へ行っている位の歳だろう?お前さんは。」
「私はランバード神官長に教えて貰っていたから。・・・剣、返してもらっていい?出かけるんだ。」
返した剣を腰にさした鞘に納めて、彼は立ち上がった。
報告をして顔を見ると、嫌な顔になっていた。
「駄目ですよ。」
そう言うと、まだなにも言ってないだろう?と返される。解ってるんですよ、どれほどの付き合いだと思ってるんだ。
「今日はこの山を片づけて貰わないと、明日から仕事が回りません。」
執務室の机の上に出来上がった書類の山の一つをトントンと指先で叩きながら言うと、これ見よがしに大きくため息をつく。まったくこの人は・・・。
金の光を放つたてがみの様な髪に、銀の瞳。
平均的な獣人よりもまた少し大きな体躯。
生まれながらの王みたいな顔をして、全く落ち着きのない。
「解ってるよ。やる、やるけど、少し休憩!・・・で?」
(・・・“で?“っじゃない!)
「至って普通だと思いましたが?まぁ確かに歳の割に落ち付いてますし静かな瞳をしてはいましたが、それに一人でマーグルを倒したというには華奢な感じがしましたね。」
牙と爪の大きさから考えても、倒したマーグルはかなりの大きさであったと思われる。
またそれだけの大金を手にしたにしては泊まっている部屋は一般的な部屋で。・・まぁランバード神官長が育てたのであれば、神殿に従って質素であるのは解るが。
「“ミハ“ってミハイルか?風神の。」
それをミハって呼ばせてるのか?大した可愛がり方だな、そう言われ気が付いた。そうだな珍しい。そういや一緒に鍛錬にも参加していたとも言っていたな。だとすればあの片刃の剣を使いこなす程度には扱かれたという訳か。
(何にせよ、興味深い。」)
隣の国に王が立ち、そこに大掛かりな人員で国上げて入りこんでいるのがサージェスのアッシュフォード皇子。
最初は傍観どころか無視していたくせに、とは思うが、その様が余りにも違うとのことで皆驚いている。何がどうなったら、ここまで心を入れ替えることになったのかと聞いた者がいたそうだ。ある意味、その者は勇者だと思うが。相手は一国の皇子だというのに。またそれを微笑んで許したアッシュフォードの事を聞いた時もびっくりしたが。以前であれば高圧的に文句を言っていただろうに。
「愛し子様に、諭されました。私は何一つ解ってなかった馬鹿者だという事を。このままでは国が滅ぶと。それは全て私のせいであると。・・・己の足りない部分、不甲斐ない性格や精神を指摘され目が覚めた思いです。今回は全くの私の一存で押し掛けた訳ですが、王に王たる精神や態度を勉強させてもらおうと思っているんです。」
そう答えたという。
「愛し子、か。」
神殿からそう言った話は聞いている。詳しくは本人から緘口令がしいてあって話せないらしいが、自分が現れたという事自体は、話してもいいと。別に隠す事でも何でもないし、私は世界が見たいから、と。
世界を・・・見て、どうするんだ。
「男かな女かな?」
「は?」
「だから愛し子だよ。娘なら、やっぱ美人かね?」
「・・・馬鹿か、お前は。それしか頭にないのかよ。仕事しろ!」
あいつの女癖をどうにかしてほしいくらいだよ、愛し子様。
まだ名すら出てこない王様ですが・・・。
金の体毛にユファの加護付きの白銀の瞳です。名前は・・・決めててないです。頑張ります。




