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第8話 帰ってきた哀狼

「こんにちは。」


 久しぶりの祖父母の家はとても懐かしい香りがした。隣には緊張した萌といつもながらテンションの高い聖奈がいる。


 声に反応したように恵美(逞真の伯母。智たちの母親)が顔を出した。


「おっ、やっと来たな。逞♪」

「ご無沙汰してました。」

「聖奈ちゃんも元気そ・・・・・う?」


 恵美は萌に目を移してビックリしたように顔を引っ込ませた。


「皆大ニュース!逞が美人さん連れてきたー!!!」

『え~!!!!?』


 逞真は溜息を吐いた。


「騒がしくて悪いな。」

「いいえ、こういうの楽しいわ。」


 バタバタと従兄弟たちがやってくる。


「逞!アンタいつオンナできたの!?」


 咲耶が露出度の高い服装で煙草を手にしたまま言った。続いて智が


「逞も、もうこんな年頃か・・・・」


 とまるで親のように。そして双子が声を揃えて


「「妊娠してる・・・・」」


 奏多は


「見えない~!」


 と従兄弟たちの後ろでキョロキョロしていた。逞真は深呼吸して一言言った。


「・・・・中に入らせてくれ!」

























「・・・・じゃあ、改めて紹介する。俺の妻の萌です。」

「よろしくお願いします。」


 萌は律儀に礼をした。一同は拍手する。


「もう!なんも知らせてくれないんだもん。ビックリしたよー。」

「ごめんなさい。正直、すっかり忘れてました。(^^;)」

「まぁ、それはいいとして・・・・ホント美人さんだことぉ~」

「お前も色男だな!」


 逞真は咳払いした。














 親たちは世間話で盛り上がり、従兄弟たちは従兄弟たちで話が盛り上がっていた。


「逞真から話は聞いてます。」

「じゃあ、俺のことも?」

「はい。智さんですよね?」


 智は照れたように後頭部に手を当てた。


「萌ちゃん、もう私たち従兄弟同然なんだし、敬語なんて使わなくていいのよ?」

「そうだよ!」

「で、でも・・・」

「お前は控えめだからな。遠慮するな。」


 萌は顔を赤くして頷いた。


「可愛いなぁ。うちの誰かさんとは大違いだ。」

「智?この手、灰皿にしたっていいのよ?」

「スミマセン・・・」

「でも確かに咲耶とは違うかな。」

「逞まで・・・」

「いや、そういう意味じゃないよ。咲耶はワイルドな感じだが、萌はお嬢様っぽい。どちらもいい意味で真逆だってことだ。」

「逞、あんた優しいね。」

「クッショー!!わかんない!!」


 その時、奏多の声が和室中に響いた。


「どしたの、かなたん。」

「聖奈はこの問題解ける?」


 聖奈は奏多の手元にあるワークを見てドン引きした。


「いや、私勉強苦手で・・・」

「奏多は何してるの?」

「学校の宿題だって。中学生は忙しいね~」

「そういうお姉も手伝ってよ!お兄だって解けるでしょう?」

「無理だよ。俺と捺樹、数学だけは・・・」


 智がフフッと笑って頬杖をついた。


「奏多。数学なら逞に聞きな。優しくわかりやすく教えてくれるよ。」

「うん。」

「おい、ちょっと待て智!俺の交渉は無し!?」

「ダメ・・・なの?」


 奏多のうるうるの目に負けた。


「・・・いや。どの問題?」

「やったね☆コレ。」

「あぁ、二次方程式か。少し応用形式みたいだね。でもコツさえわかれば簡単だよ。」


 逞真は奏多のシャーペンを取り、文字を書きだした。そして丁寧に指導していく。


「このタイプはまず整数である項を移項して、この形式にするんだ。そしてこの項の半分の2乗を両辺に加える。するとどうなる?」

「えっとぉ・・・・+9?」

「そうだ。左辺は因数分解できるな。」

「うん。(X+3)の2乗!あ、右辺は計算して10になるから、2乗を取って±√10だねっ!?」

「そうだ。脳の回転がいいな。あとはもうわかるだろう?」


 そんな姿を従兄弟たちは感心深く見守る。


「逞の教えてるとこ、初めて見た・・・。」

「ってかわかりやすっ!」


「じゃあ、次の練習問題を解いてみてくれ。」


 数分もしないうちに奏多は自力で解けるようになった。


「解けた!さっすが逞!」

「家族に教師がいるって便利だね☆」

「人を道具のように・・・」


 従兄弟たちは笑いあった。


「みんな~、盛り上がってるとこ悪いけど、ご飯だよー。」

「待ってましたっ!!」

「駿河家の定番行事だよな、焼肉♪」


 外に集まると、早速肉の焼ける匂いがただよっていた。


 捺樹がくるくる回って逞真を指差した。


「今回の肉の世話係担当、たっくん!」

「お、俺?捺樹も手強くなってきやがった。」

「でしょ?最近捺樹、恐しくなってきて・・・」

「女はみんな怖くなるもんなんだな・・・・」

「聖奈も反抗的で困って___」

「何男どもでグチグチ言ってんの!逞、さっさと肉焼く!!」

「咲耶怖い~・・・」


 逞真はウンザリ顔で金網の前に腰かけた。萌は普段見れない逞真の様子に微笑んだ。


(逞真っていつも無口で大人しかったのに、なんか中学のときに戻ったみたい・・・)


「萌は何かいるか?」


 逞真に声を掛けられ、慌てて振り向く。


「あっうん。何でもいいよ!」

「わかった。じゃあそこに掛けて。無理するなよ。」

「ありがとう。」


 二人の姿を咲耶は物思いに見詰めた。


「・・・お前は?何が欲しい?」

「ホルモン!!」

「おっ、聖奈と言えばホルモンだよな。昔っから変わりゃしねぇ。」

「うん。歯ごたえが何とも・・・」

「ほら。まだそんなに焼けてないが。」

「ありがとー!!」

「咲耶、何食う?」


 突然自分に振られ、少し戸惑う咲耶。


「あたしもいいの?」

「当然。肉の世話係だからな。」

「サマになってるじゃない。じゃあ、牛サガリお願い。」

「わかった。」


 咲耶は”いつもの逞だ”と何故か安心してしまう。


「あれれ??このキャップには銀紙さんがついとりますねぇ・・・・箸でブッさして取るのかな??」


 不意に聖奈が新品のたれを取って首を傾げた。萌は苦笑してフォローする。


「まずそのキャップ本体を外して、銀紙を剥がして使うのよ。」

「あらまッ」

「いいこと学んだな、聖奈♪」

「そんなぁ~、茶化さないでよ陽くんっ!!」


 そんな風にいじられる中、向かいにいる兄が自分の肉を口に移しつつ侮辱の言葉を簡潔に述べた。


「馬鹿じゃないの」


 無表情で発したそれは、簡潔なだけあってかなりの恥曝しであった。案の定聖奈は顔を赤らめてムカムカと逞真を凝視する。


「馬鹿だからやってるんですけどぉ!!今更気づいたのぉ?お兄ちゃーん??」

「そこまで馬鹿だとは知らなかったな」

「ム~!!!」

「精神年齢少し上げてみれば。」

「言われんでもやるしー」


 軽い兄妹喧嘩に従兄弟はなだめ始める。


「まぁまぁ。なんかね、君らの喧嘩は見てて楽しいけど、それくらいにしてよ。」

「確かに。熱く怒る聖奈に対して冷ややかな物言いで沈める逞。絶妙だねb」


 智は肉を頬張りながら尋ねる。


「なぁ萌ちゃん。逞っていつもこんな感じなの?真面目で、おとなしくて。」

「・・・これでもはじけてるほうだと思うけど。」

「ウッソ!?なんか結婚してるって感覚なくない?」

「いいえ。」

「なんで?なんで??」


 誇らしげに胸を張るのは、何故か聖奈だ。


「それは約1年半同居してた私が教えよう!!兄ちゃんは感情は表さないけど、行為で示すんですっ!」

「そうれはどういう・・・」

「それはねっ。抱き締めたりー、キスしたりぃー・・・・」

「マジかよ!?」

「コイツが!?」

「聖奈!余計なことを・・・!」

「ってことは図星か。信じられないんだけど・・・」

「だったらここで証明したら?今チューするの!!」

「・・・ハアッ!?」


 抵抗したのは逞真と萌だけで、他の一同は大賛成。


「いいねいいね!これでまた二人の愛が育むんだし♡」

「逞がキスするとこ、見てみたい!」

「キースッ!キースッ!」


 二人の顔は徐々に赤くなる。


「・・・わかったよ。」

「やった☆」


 逞真は決心して萌の肩を掴んだ。


「ほ、本当にするつもりなの・・・?」

「するしかないだろう。」


 逞真はゆっくりと顔を近づかせていく。それとともに、辺りの興奮値は上がっていく。


 チュッ


 逞真は軽いキスを萌の唇にして、すぐに離した。


「お~!!」

「よくやった!それでこそ男だ!!」


 逞真は照れくさくなり、肉のほうへ目を戻した。


 しかし咲耶は嫉妬したような目でただ逞真を見詰めていた。


















 シャー・・・・・


 シャワーの音が響く。咲耶はシャワーを浴びていた。


「・・・どうしたんだよ、あたし。なんでこんなに苛ついてるの?」


 自分に問いかける。


「あれは仕方ないじゃない。だって夫婦なんだから。でも・・・昔の逞が、今はなんか遠い存在に感じる・・・・・。」


 咲耶は勢いに任せて蛇口をひねった。


(歳が同じせいか、気が合って、ときには喧嘩したり、厳しいこと言われたりした。)


 咲耶は懐かしい様に逞真の言葉を思い出した。


『反抗しすぎて智を困らせるなよ~?』





『咲耶は気楽でいいよな!お前に俺の気持ちがわかるかよっ!?』






『・・・俺は教師として道を踏み違えないようにこれからを変えていくさ。だから咲耶もわかれよ。ホステスなんて、俺の考えてる世界の中で不要なものにすぎないから、踏み違えないでほしい。』







(ずっと、傍にいてくれると、思ってた・・・・。だけど、逞は萌ちゃんを選んだ。それは理解しなきゃいけないのに。もう四捨五入して30近いのに、どうしてこんなことが納得できないんだろう・・・。)


 その時、不意に洗面所の扉が開く音が鳴った。


 隙間を覗いてみると、それは逞真だった。手を洗いに来たらしい。咲耶は決心したように口を開いた。


「逞・・・」


 そちらも気づき、風呂場のほうを見た。


「なんだ、風呂に入っていたのは咲耶だったか。ここは”湯加減はどうですか。”とでも訊くべきか?」

「いいよ、そんなこと訊かなくて。」

「はは、そうか。」


 やはり咲耶は安心してしまう。


「逞。」

「なんだ。」


 咲耶はハッとして自分の短い髪の毛を跳ね上げた。


「う、ううん。何でもないの。ごめん。」


 逞真は不自然な咲耶の対応に眉を顰めた。


「なんだよ。そういうの生徒でもいるが一番気になるんだよな。言い掛けたものは言ってしまえ。」

「逞はああいう子が好みなの?萌ちゃんみたいな女の子。」


 逞真は気が抜けたように笑った。


「・・・ハハ。そういうことか。」

「わ、笑うことないじゃない。ただ訊いただけなのに!」

「済まない。だが、咲耶がそんなこと言うなんてと思ってな。ごめん、ホント悪かった。」


 逞真は軽く言ったが、咲耶はまだスッキリしていなかった。


「好み、いや、愛してるよ。じゃないと結婚していない。」

「そっか。そうだよね、やっぱり。ごめん、ヘンなこと訊いて。忘れて。」


 咲耶は焦っていた。自分の心が今の一言で押しつぶされるんじゃないかと思い。それはドアごしで逞真にも伝わっていた。


 不意に足音が近づき、スライドガラスからシークレットが見える位置まで来た。


「ちょっ、ちょっと!開けないでよ!?」

「はぁ?しないよそんなこと。タオルを取りに寄っただけ。」

「そ、そう・・・。」


「だがな、俺は咲耶が好きだぞ。」


 唐突に言われ、咲耶はキョトンとなる。


「は、はい?」

「あぁ、悪いな。俺は急に話の転換をするから上手くかみ合ってなかったな。さっきの答えの続きだ。」

「あ、あぁ。って、え___?」

「仕方ないな。もう一度言う。咲耶が好きだぞ。」

「それって言っていいこと?浮気男。」

「そう言う意味じゃないって。誤解しないでくれ。人間としてだ。」

「あ、そっち。」


「咲耶は接客してるからか、コミュニケーションが上手いし、サラッとした性格だから、居心地がいいんだ。俺と違って精神年齢も高いから、憧れる。」

「逞って精神年齢低かった?」

「頑固だろう?それに見せないだけで、我侭だ。」

「そうかな・・・?」

「あぁ。だから従兄弟としてお前の気持ちは変わらない。いいか?」


 咲耶は見破られたように目を見張った。


「アンタ、あたしの心読み取ってた訳!?」

「いや、ただそう思ってるかなって。」

「流石教師・・・・」


 すると、リビングのほうが騒がしくなっているのに気付いた。


「大事な客が来たみたいだ。」


 逞真は静かに呟いた。


「なに?」

「お前も早く上がってこいよ。」


 逞真はそのまま洗面所を後にした。


 扉を開けてリビングに戻ると、一同全員が立ち上がっていた。


「・・・どうした?」

「逞真。見て。」


 萌の見る方向を見る途端、聖奈にシャツの裾を掴まれた。


「聖奈。」


「・・・狼君・・・・」














 ”え・・・?”












 逞真は一瞬吐息が止まった。


 玄関にはあの、修学旅行で見た姿があった。


「ウ・・・Wolfinriver・・・・」


 彼は乾いた笑みを見せた。


「まだその名で呼んでくれてたんだ、駿河逞真。・・・いや、逞。」

「な、なんのこと?ねぇ、狼なんでしょ?狼なのよね?」


 恵美が言った。まだ暗い笑みは続く。


「やっぱり、狼・・・・」


 智は震え、拳を握りしめた。


「お前・・・・お前・・・・」


 そして、狼の胸ぐらを掴みかかった。羽織っている獣毛のパーカーは勢いに床に落ちる。


「一体今まで何やってたんだよ!?」


 狼は何も言わない。ただ冷酷な瞳を智に向けていた。


「な、なによその服装・・・・」


 そう呟いたのは紘子。全身黒で、胸元は大きくはだけ、首には複数のチャームネックレス。耳にはピアスだ。


「・・・・別に普通の格好ですよ、紘子叔母さん。」


 その声に温もりはこもっていない。


「もういっぺん言ってみろよ!!それはまるで・・・・ヤクザじゃないかよ!?」

「智、落ち着け。」


 なだめたのは逞真。


「9年もいなくなってそして戻ってくるなんて、何かあるのかもしれない。まずは話を聞くべきじゃないのか?」

「・・・そうだな。」


 狼は嘲笑をし、ソファに腰かけた。


「確かに俺は他人から見てみれば、ヤクザかもしれねぇ。」

「・・・・」

「それは認める。ヤクザの片割れみたいなものだから。正確に言えば、それの用心棒。」


 一同は驚くしかなかった。だが咲耶だけは


「無責任ね、ホント。」


 と冷ややかに言った。


「散々家族に迷惑かけておいて、さらさらと自分はヤクザの用心棒です?ふざけんじゃないよ。もっとすることがあるでしょ?」

「わかってるさ。だから、俺もそろそろ足洗おうと思ってな。つい最近までそんなこと思いもしなかった。だけど、あの日、逞の必死な顔を見ていたら、帰りたくなって堪らなくなったんだ。だから、戻ってきた。」

「狼。」


 狼は智のほうを向いた。


「兄貴、本当に迷惑かけたと思う。皆にも。だから俺、恩返ししようと思ってる。」


 逞真は修学旅行の時を思い出した。あの時生徒を助けてくれたのも、自分への恩返しだったんだと。


「まずは謝る。いままで迷惑かけてごめんなさい。」


 狼は頭を下げた。皆は顔を見合わせた。狼の頭を無理矢理起こしたのは智だった。


「その言葉、忘れんなよ。」

「あぁ。」


 智は困ったように笑って、狼にデコピンした。それを合図のように雰囲気は緩和した。


 奏多が狼の手を取る。


「狼、これから従兄弟たちでマリオカートやるんだ。一緒にやろう!オレ二台持ってるから!!」


 狼は苦笑する。


「なんだか、陽樹のキャラが奏多に移っちまったようだな。」

「兄弟だから!」

「早くしようぜ。まさか、やり方忘れたとか言わないよな?」

「無論だぞ。駿河家恒例行事を何年続けたと思ってんだよ。」


 笑いながら和室に入っていく。












・・・・・・・・・










「マリオ死ねーっ!!」

「なにっ!?スターだとぉ!?誰だっ!・・・・聖奈かぁ!!」

「智ちゃん1位の座は頂きっ♪」

「甘い。」


 ゴォォォォォ・・・・


「キラー!!?」

「流石逞。計算済みだ・・・」




 マリオ:智 ルイージ:狼 デイジー:咲耶 カロン:逞真 ヨッシー:聖奈 ワルイージ:陽樹 ピーチ姫:捺樹 謎の頭巾キャラ:奏多 でエンジョイしている。萌は観客。


「このっ、骨!」

「骨言うな。カロンは大切なキャラだ。」

「いっつもカロンだよね、逞。」

「そう言えば皆毎年同じキャラ・・・。狼も久々なのにコツ取り戻しやがってよ!!」

「ザマー」

「うわウッザ!ゼッテー最下位にしてやるぅ!!」


 その時、急に陽樹が呟いた。


「狼がいなくなった原因って、やっぱり俺らが関係してる感じ?」

「いきなりそれいく!?」

「だって気になったんだもん。」


 狼は困ったように笑った。


「別にてめぇらのせいじゃねぇよ。悪いのは全部俺自身なんだ。受験に失敗したのは俺のせい。逃げ出したのだって俺の勝手。勝手に自分を責め入れたのだって俺の責任じゃねぇか。弱いんだ、俺は。自分でもわかってる。」

「馬鹿だね。軽々しくそんなこと言ったって無駄。アンタが弱虫だってことは皆とっくの前から知ってるんだから。」

「咲耶、もっと言葉をオブラートに包めないのか?」

「あら、狼にはこれくらい言っといて大丈夫。躾ね、躾。」

「悪かったなっ!・・・とにかく気にしないでくれよ。俺も俺なりに努力するから。」

「おうよ!!」

「じゃあ戻ろっ!」







・・・・・・・・・・・・




 辺りが暗くなってきて、涼しげな静かで穏やかな夜が訪れた。


 これからが駿河家の定番行事の終盤に差し掛かる。従兄弟たちは花火を出し始める。駿河家花火大会が始まるのだ。


「もう、皆大きいのにな。行事だけは変わりやしねぇ。」

「だね。楽しいし、初心に戻れる感じがするからいいんだけどさ!」


 最初のほうは手持ち花火で、それぞれの楽しみ方で楽しんでいた。というのも、人によってやり方がユニークなのだ。

 ダブルどころかトリプルにチャレンジする30代の兄貴。

 ひたすら石に花火を当てている中坊。

 手に持つモノを振り回しながら暴走する狼男。

 それに逃げる精神年齢ガキな大学生。

 自分の楽しみより、むしろロウソクの世話係をしているライターの火を点ける達人・ホステス。

 どちらが早く消えるか手持ち花火で確かめ合うジェミニ。

  そして、花火の量を確認して律儀に分ける数学ティーチャーと、それに静かに寄り添う妻。


 親たちは、その様子を見て笑うのをこらえられなかった。



 次は線香花火だ。


 従兄弟たちはあるルールを決めた。

 一番早く落ちた人は罰ゲームとして好きな人を小川の向こう側に向かって叫ぶ・・・・らしい。

 逞真はかなり余裕な表情で笑っていた。隣では妹がかなり悩んでいるというのに。


「なんだ、それなら簡単じゃないか。俺の場合”萌が大好きだ”って言えばいいんだもん。」

「うわっ、羨ましっ!!」

「智も早く結婚したら?」

「超イヤミ・・・・・!!!」


 萌が顔を赤くする中、咲耶は今度は本心から受け入れることができた。


「咲耶は?やっぱスナックで愛人でも作ったわけ?」


 狼に軽く訊かれると、その巻き毛の頭をバシッと一発殴った。


「ってぇな!もしかしてマジだった!?」

「バカじゃないの、アンタ。ホステスは恋愛禁止ですっ」

「お前も規則は守るんだな・・・・」



 結局、犠牲となったのは一番悩んでいた聖奈だった。


「うぉぉぉぉぉぉ!!どうしよ!?まさか犠牲になるとはぁぁぁ!!!」

「いいじゃん。名前言ったってわからないんだからさ。」

「いやいや、逞真君いますからね、自宅。」

「何を今更。もう知っているんだからいいだろうが。」

「ってかさ、根本的に聖奈って好きな人いたの・・・・?」

「一応付き合ってますけどぉ??」

「ヒューヒュー!!!」

「早く言え!んでスッキリしろ!!」









「節ちゃんアイラブユー~~~~~~♡」
















 そんなこんなで、打ち上げ花火を上げ尽くして、花火大会は終了した。















 夜も深くなり・・・・



「さてね、寝る場所が問題なんだけど・・・・」


 従兄弟たちはいっせいに溜息を吐いた。


『寝床狭っ!?』


「ここの家、風呂がデカい割に他小さくてさ、フロアは多いのにほとんど物置という・・・」

「親たちも親たちだよねッ!”父さんたちは父さんたちで寝るから、お前ら自分たちで工夫しろ。by雅彦”だって!」

「私たちもう大きいことわかってんのかねー・・・」


 従兄弟たちは顔を見合わせた。


 結局のところ、男と女に分かれて寝ることとなったのだが、その男女の間はどうにもできず、くっつくことに。で、その代表者は・・・・


「兄ちゃん変態でしょ変態!!」

「何もしないから。だから落ち着けって。親起きるぞ。」


 雅彦家約二名・聖奈&逞真。理由は、ジャンケンに負けた。それだけ。


「絶対ヤダー!なんでこんな奴と隣り合わせで寝なきゃないの~・・・。何かするって必ず!!」

「聖奈、仮に君の体に触ったり変態行動起こしたとしよう。教師としていかがなもんかい?」

「そっか。ってかさー、何で萌姉と寝ないの。」

「だって妊娠してるんだから、くっつかないほうがいいじゃん。現に萌ちゃん一番端っこでできるだけ離れてる。」

「ごめんね、聖奈ちゃん。」

「うわ~ん!!」



 やむを得ず、そのまま寝ることに。しかし・・・


「う~ん・・・」


 聖奈が寝返りを打ってみると、そこには整った兄の寝顔。


「ギャァー!!」

「なっなんだよ!?」

「やっぱ耐えられない~。コイツやだぁ~。それならかなたん連れてきたほうがいい~。」

「いや、逆にこっちが・・・・」

「あっちいけ~!」

「無理言う・・・・・痛いって!へ、ヘンなとこ蹴るな!真面目に痛いから!!」

「うわー・・・逞気の毒に・・・」

「他人事のように・・・わ、わかったから!背中むけて寝るから蹴るなって!」


 聖奈の蹴りが止んだ。


「んじゃ、おやすみ。」

「・・・おやすみ。」

「逞、女ってホント恐いな・・・」

「おやすみ!!」

「お、おやすみなさい・・・」

















 朝日が出たばかりの時刻・・・・


 小さな物音に、逞真は目を覚ました。


「ん・・・・」


 背後を見ると、昨日とは逆に聖奈のほうから近づいていた。


 フッと微笑み、先を見ると、狼の姿がなかった。


「・・・・・」


 逞真は静かに布団から起き上がり、部屋を出た。


 居間には、まだ誰も起きていないようで誰もいなかった。しかし、玄関のほうでゴソ・・・と音が鳴り、そのほうへ行ってみた。


「どこへ行く?」


 狼はビックリして、素早く振り向いた。


「・・・逞か。いや、これから足洗いに行こうと思ってな。」

「そうか。無言なのが、残念だが。」

「場合によっては、命を落とすこともあり得る。だから、心配はさせたくないんだ。」

「逆に無言でいなくなれば余計心配すると思うが?」

「もう決めたんだ。自分一人で何とかするって。だから、行く。」


 眩しい朝日を浴びながら、逞真は狼を見送った。


「絶対帰ってこいよ。もういなくなるな。」

「わかってる。必ず帰ってくるから。」





 狼の背中が、暗いものではなくなっていた。








次回もよろしくお願いします☆

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