第7話 疑い
修学旅行を終え、自宅でのんびりと時間を過ごす逞真。
自室にこもったまま出てこない為、萌は気になって中を覗いた。
「逞真?」
逞真は背中を見せ、床に座り込んでいた。
「何してるの?」
「あ、あぁなんだ萌か。」
「ずっと出てこないから心配したよ。」
「すまん。これを見てたんだ。」
逞真の持っているものは・・・
「写真?」
古い大量な写真。
「懐かしくてな。手放せなくなってしまった。」
「これ逞真?うわ~、今と違って可愛い。」
「どういう意味だよ。」
逞真はただ一枚の写真だけを見詰めていた。
「それって、従兄弟の皆さん?」
「そう。って紹介してなかったか?従兄弟のこと。」
「えぇ。見るの初めて。」
「そうか。それはごめんな。丁度いい。今紹介するよ。」
逞真は写真の一人を指差した。
「これは、俺が中1の時だから当たり前に皆大きくなっているんだけど、まずこれは智。俺の6つ上の兄貴だ。現在はレスキュー隊員として働いている。」
「レスキュー隊員!?逞しいんだね。」
頷いて、逞真は隣を指差した。
「こいつは咲耶で俺と同い年だ。ボーイッシュで、今確かホステスをやってたかな。それでその隣が・・・」
逞真は一回言い掛けて口を閉ざした。
「・・・・・」
「え?なに?どうしたの?」
「・・・悪いな。何でもない。こいつは俺の3つ下の狼だ。」
「変わった名前ね。」
「名前もそうだが、性格ももともと神経質でオオカミみたいに牙むけていたよ。・・・今は知らないが多分そうじゃないかな。」
「どういうこと?」
逞真は一度目を逸らして口を開いた。
「行方不明なんだよ。当時から・・・9年くらい後からずっと。」
「え・・・?」
「まぁ大学受験に失敗したらしいし、色々偶然が重なったんだろうな。今までずっと帰ってこなかったが、俺は久し振りに会った気がするんだ。昨日。」
「昨日って修学旅行のとき?」
「あぁ。洞窟で生徒を助けてくれたんだ。多分あれは狼だ。・・・・それで3人の上にいるのが明彦伯父さんで父さんの兄貴だ。」
逞真は狼の話を無理矢理に終わらせた。
「次に・・・聖奈は置いといて、この双子は陽樹と捺樹。俺の5つ下で、息ぴったりなんだ。今は福祉施設で働いている。で、その上にいるのが禎彦叔父さん。彼が抱いている赤ちゃんが奏多だ。俺の13下だから・・・今14歳か。中学生で、懐っこい。」
「なんかこの一家は可愛い子揃ってるね。」
「そうかもしれないな。・・・あの頃は。」
逞真の語尾の言葉が気になったが、萌は敢えて触れなかった。
PRRRR・・・・・
その時電話が鳴った。
「はい。・・・あぁ、伯父さん。ご無沙汰してます。」
それは明彦だった。
「はい、はい。ゴールデンウィークですか。えぇ、大丈夫です。わかりました。聖奈にも伝えておきますので。はい。では失礼します。」
手短に電話は切れた。
「・・・ゴールデンウィーク、従兄弟で集まることになった。萌も来るか?」
「うん。なんか楽しそう。」
二人は微笑んだ。
・・・・・・・・・・・・
「もしもし、聖奈か。」
『もしもし~!!聖奈ですぅ~、お兄様ごっきげんよ~!!!』
妹の高すぎるテンションに、逞真は一瞬携帯を放しかけた。
「・・・何故そんなにテンションが高い。」
『えー?別に高くないけど~!!?』
音声が割れた気がする。
「耳が痛いからボリュームを下げてくれないか?」
『だって周りがにぎやかでさぁ~』
その時幼い子供の声が聞こえた。
「聖奈、お前は一体何をしてるんだ?」
『あのねーっ、今幼稚園に行って研修してるんだー!!もう子供サイコー!!兄ちゃんみたいな人一人もいなくてさぁ!パラダイス~』
「あぁそう。」
『で?なんか用~!?』
「あぁ、そうだったな。お前、ゴールデンウィークに休みある?」
『ワハハハwwおっかしーですねお兄様。保育所には休みはありませんが幼稚園はあるんですよ~!頭いい人が何言ってるのぉ~??』
「いや、確認しただけなんだが・・・・。それより、ゴールデンウィーク中に従兄弟で集まることになったから、必ず来いよ。」
『うん~!あ、兄ちゃん送ってって♪まだ免許取ってなくてさー、だから近くなったら行くわ~。』
「わかった。じゃあ、切るからな。」
『バッチこい!』
テンションの高いまま、逞真はブチッと電話を切った。
「はぁ・・・・」
目の前の産婦人科の看板を疲れた目で見詰めた。
今は萌の診察中で、携帯操作は禁止されているため、外に出て掛けていたのだ。
ふと、けたたましい声が聞こえた。
「イヤァー!!」
逞真は妙に思い、その方向に駈け出した。
角に近くなるとある人影が見えた。
(・・・!?)
それは後姿だった。しかし、はっきりと服装などが見える。
体つきからして男。彼は獣の毛のパーカーを羽織り、細身の黒いズボンを穿いている。髪はうなじまで伸びて、巻き毛であった。
まさしく”狼”。
「狼!?」
そう叫んで角を曲がってみると・・・・
「・・・なに・・・?」
そこにそれらしき者はいなかった。代わりに、叫び声の本人がいる。
それは若い女性で、すぐそばにはいかにも怪しい男性がニヤニヤしていた。逞真は溜息を吐いて、その付近に行った。
「やめてください!」
女声が叫ぶ。
「いいじゃん。君可愛いんだからさぁ、ちょっとオレと付き合えよ~。」
「嫌・・・」
「オレとやらない??」
「何してるんですか?」
低い声で尋ねる。
「んー?」
「今の、とても怪しい行為に見えたんですが、気のせいですか?」
「いやぁ、気のせいですよぉ。オレはただこの人と話してただけでぇ。ではでは・・・・」
逞真は力強く彼の腕を掴む。
「痛いです痛いです!」
「女性をナンパして、無責任で、男らしくないですね。」
逞真は女性に合図して逃がした。安堵して手を放す。
「ちょっとぉ、何するんですか。」
「それはこちらの台詞ですけど。」
「また生徒の腕折ったらシャレになりませんよ、駿河先生。」
「・・・・はい?」
「駿河先生ですよね?」
「・・・・・」
沈黙が生まれた。
じっと彼を見詰め、逞真は目を見張った。
「あー!!藤井基也!!!」
「そうですよ、驚きました?」
「驚くも何も・・・・お前何してるんだ!?」
「いや、ちょっとオレ彼女いないんで、そろそろヤバいなぁと思いまして。」
「・・・お前、一生彼女できないよ。」
逞真の前に現れたナンパ男は旧駿河学級の生徒だった。北中に来る前の生徒だ。
「最初気づかなかったぞ。髪がない。」
「そうなんですよ。髪邪魔なんでバサッと♪駿河先生は変わりませんね。握力も。」
「お前さ、態度は変わりなくていいと思うんだが、さっきのどうした?それでも生徒会を2年間続けて結局会長まで上り詰めた男か?」
「もともとこうじゃないですか。ほら、昔のあだ名、エロなり。」
「・・・確かに会長になるの批判が多かったが・・・・・。基也はまだ高校だったか?」
「はい。工業高校の3年生です。」
「そう言えば、お前コンピューターに関してはプロ級だったな。元気そうじゃないか。」
「はい。あ、オレSDカード買いに行くんでした。では、失礼します。」
「もう二度とナンパするなよ。」
「はい。」
そして基也は遠ざかっていった・・・・・
「しまった・・・・基也と話し過ぎて狼らしき人物が・・・・」
「逞真!」
萌がやってくる。
「もう。どこ行ったかと思った・・・・」
「あぁ、すまん。・・・どうだった?」
「もうすぐみたいよ。逞真、楽しみにしてて。」
「あぁ。」
逞真は穏やかな笑顔を見せ、萌の腹をさすった。
本当にあれは狼だったのか・・・・・?
逞真は懐かしさと、疑いと、幸せ感に満ちていた。
次回もよろしくお願いします☆




