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第6話 修学旅行・後編★










 3日目のこの日。


 天気は曇りだった。昨日まで晴れていたのになんでかと思えば、台風が接近してるという。


 緊急で教師の間で会議が始まった。


「どうします?今日は自主研修の予定でしたが。」

「博物館などに行くのはともかく、山登りや洞窟渡りはよく天気が生じますからね。」

「しかし・・・・」


 逞真は納得できなかった。せっかくの生徒たちの思い出をこんなことで台無しにさせたくなかったのだ。


「外はまだ曇りですよね。予報ではこれから雨が降るということもありませんし。・・・・私は実行させたいと思います。例え天気が荒れたとしても引き返せばいいことです。こんなことで生徒たちの思い出を台無しにしてないけません。責任は私が取ります。いかがでしょう?」


 他の先生方も頷いた。


「いいでしょう。その通りですね。再開しましょう。」














「会議まだかなー?」

「ってかきっと無しでしょ?行きたかったなぁ、洞窟。」

「私も歴女なのに・・・・」


 その時、先生方がやってきた。


「自主研修は実行します。しかし、天気が荒れた場合、中止にします。」


 梅木先生の言葉に生徒たちは心から喜んだ。



















・・・・・・・・・・・・・













「風が強くなってきたが、大丈夫か?」

「はい!」

「自然の中では当たり前のことなんですよね?ヘッチャラです!」

「これも洞窟に行くまでの辛抱だと思えば!」


 生徒たちのポジティブ発言に微笑む逞真。


「あと少しだからな。」


 向かい風をゆっくり進んでいく。







 そして、なんとかついた洞窟。その暗い中に入っていった。


「足元に気をつけろよ。」


 頭上はコウモリの鳴き声。少々怖がりながら逞真の後に続く生徒。


 しばらく歩くと、明るい光の差し込む神秘的な場所に到着した。


「うわぁ・・・・」


 壁は氷柱(つらら)のように鋭くとがっていたり、歪に曲がっていたり、神秘そのものだった。青白く差し込む光がイメージを膨らませてくれ、その中でポツリと小川が流れていた。


「ここはパワースポットとしても有名な場所だ。その小川は海から流れ出た水が浄水され、流れてできている。飲んでも害はないし、むしろ美味しいそうだから、飲んでみてくれ。」


 言われるがままに口に注ぐ生徒たち。


「ホントだ!美味しい!!」

「なんか元気もらえねえ?」

「確かに!」

「生き返るぅ~」


 不意に、逞真の携帯が振動する。逞真は洞窟の外に出て、耳に傾けた。外はさっきよりも風が酷く、雨が降っていた。


「はい。」

『駿河先生、僕です、斉藤です。』

「斉藤先生。どうしました?」

『天気が荒れてきましたよね。』

「はい。さっきよりも風が強いし・・・・」


 その時、大きな雷が鳴って、一気に土砂降りになる。


「今、物凄い雷が鳴って、大荒れになってきました。」

『こっちもです。山の袖のほうにいるので、いまから引き返そうと思ってるんですけど、駿河先生はどうします?』

「洞窟なのでここで待機することもできますが、これ以上止まない場合、やむを得ず引き返そうと思います。斉藤先生のほうは山なので、土砂崩れなどに気を付けてください。」

『そちらも、海に近いので気を付けてくださいね!では。』


 通話が絶え、逞真は携帯を閉じた。


「この天気、どうするかな・・・・・」











 一方生徒たちは・・・・・



「駿T遅いね。」

「どうしたんだろ。」

「ねぇ見て。外が凄い天気みたいだよ。」

「本当だ。音もスゲェな。コレ津波の音だろ?」


 そうのん気に話していると、急に突風が洞窟内を襲う。


「うわっ!凄い風!!」

「これ、外の強い風が通ってきたんだよ。」

「か、体ごと飛ばされそ・・・・ウワッ!!」


 生徒たちは一番強い風に吹き飛ばされた。


 壁に叩きつけられる者、必死に耐える者、色々だが、奥のほうに飛ばされると暗く、何も見えなかった。


「あれ?何も見えない・・・・。皆ー!?」

「大丈夫ー!?どこにいんの?」

「わかんない!」


 波音はきょろきょろ辺りを見回してみる。しかしやはり何も見えなかった。


 その時、再び風が吹く。障害物も何もなかったため、すんなり波音は飛ばされてしまった。


「キャッ!!」


 すぐ後ろは小川だった。波音はその中に落ちてしまった。



 バシャン!


 

 その小川は意外に深く、波音の身長はすぐに埋まってしまった。ショックで沈んでいく。


「!?波音!?おい、今落ちた音しなかった!?」

「うん。今確かにバシャンって。」

「波音ー!いたら返事して!!」


 返事はない。


「どうしよう!落ちたかもしんない!誰かライト持ってない!?」

「あ、あたし持ってる!!」


 懐中電灯のスイッチを押すが、明るくならない。


「ま、まさかの手動操作の充電式!?」

「ウソーン!!こんな時に!!」


 レバーを回し始める生徒。


「この間に誰か駿T呼んできて!」

「俺呼んでくる!!」

「近くにいなかったら、違う大人でもいいからさ!!」

「わかった!!」


 そう言いながら洞窟の外へ走る大晟。


「ったく、駿Tどこだよ!この天気で何にも見えやしねェ・・・・」


 舌打ちしながら辺りを見渡すと、そこに人影が向こうからやってきた。


「・・・・ん?」


 その人は、良く見えないが銀色の獣の毛皮でできたパーカーを羽織っており、その中の服は襟元がはだけている黒いYシャツで首にはごつい造りをしたチャームネックレスを数個つけていた。見た目はドラマで出てくるヤクザのようで、しかし表情は喧嘩を売っているようではなく、どちらかと言えば冷ややかで冷酷な眼差しをしていた。


「あ・・・・あの!」


 大晟はチャンスだ!と思い声を掛けた。


 その男は立ち止まる。大晟は足がすくむかと思った。割と雰囲気の怖いほうの逞真よりもはるかに恐ろしかったからだ。


 その男は巻き毛だったのだろうが雨で乱れており、後ろ髪は首元まで伸びていた。


「・・・・なにか用か?」

「えっとぉ・・・・あ!助けてください!僕のクラスメイトが洞窟の中の小川におぼれてしまって!」


 男は顔を歪ませたが、黙って大晟についていった。













「あ!大晟!!」

「駿Tみっかった!?」


「ううん、でも大人の人見つけたから助けてもらおうかと思って!」


 大晟の背後にいる男に生徒全員がビビった。


 男は洞窟の奥のほうを見やった。


「・・・・暗いな。」


 生徒たちはギクシャクしながらさっきの充電し終わったライトを渡した。

 男はライトを点け、小川の中に向けた。


「・・・・確かに人がいるけど、あれなのか。」


 低く、暗い声に必死に答える生徒たち。


「そうです!あれです!!」


 男は無言でパーカーを肩から外した。ふと紘一郎が呟く。


「なんか雰囲気駿河先生みたいじゃね。」

「バカ!今それは関係ないじゃん!!」


 男はピクリと反応して振り向いた。


「・・・・駿河?」

「あっえっとその・・・・なんでもありませんからっ!」

「・・・・駿河ってお前たちの担任?」

「は、はい・・・・」


 男は渋い顔をする。


「駿河・・・・なんていうんだ?下の名前。」


 顔を青ざめる生徒たち。


(きっと、担任の本名聞いてお偉いさんに訴えるつもりだよぉぉぉ!!)


 誰もがそう思ったが、答えなければそれはそれで危ないと思い、答えた。


「駿河逞真です・・・。」

「20代?」

「は・・・・い。」


 男は驚きを含んだ嘲笑を浮かべた。かと思うと小川に飛び込んだ。




 間もなく、波音を抱いた男が顔を出した。


「あ!波音!!」

「よかった!!」

「息があるか確かめたほうがいい。」

「ありがとうございます!!」


 地面に置かれた波音に近づく生徒たち。男は一言吐き捨てるように言った。


「おい、てめぇら!」

「はっ、はい!?」


 おそらく、誰もが足が竦んだだろう。まるで本物のヤクザだ。


「駿河逞真の携帯番号知ってる奴。」

「あ、確か栞に・・・・」


 と、栞をだし、逞真の携帯番号の載ったページを開いて渡す。男はそれを受け取り、洞窟の袖のほうに出ていった。


 男は自分の携帯電話をだし、ボタンを押した。そして耳に傾ける。












 大雨の中、ゆっくりと進む逞真のもとに携帯電話が振動した。


「はい。」

『逞。』


 









「・・・・は?」


 思わず聞き返す逞真に対して相手側はフッという声を漏らした。


『すぐに生徒たちのいる洞窟に戻ったほうがいい。いいか、俺は伝えたからな。聞き返しは効かねぇ。』

「ちょ、ちょっと待ってください。どちら様で____」


 プツッ


 電話は絶えた。


 逞真は妙に思い、携帯を見た。知らない電話番号。しかし口調には覚えがある気がした。


(まさか・・・・な。)


 逞真は足取りを早く進めて洞窟に向かった。


(生徒たちに何かあったのか・・・・?まさかこの天気が生じて・・・・)


 不安が心を埋めていく。それとともに足取りは早くなっていった。














「はぁ・・・はぁ・・・・」


 息を切らして洞窟に戻ると、驚くべき光景に逞真は目を見開いた。


 生徒たちを囲んでいるのは倒れた波音。そして、その胸を力強く押すのは若い男だった。


「駿T・・・!」

「遅いよ~!!」

「済まない。それよりもこれは・・・・一体どうしたんだ?」

「そ、それがぁ・・・」

「クソッ、息が戻らない!!」


 遮るように男が声を荒がした。


「そんな・・・波音・・・!!」

「死なないで!」


 生徒たちも叫び始める。


「チ・・・・」


 男は血が騒いだ獣のような瞳をして乱暴に波音の口を塞いだ。


「・・・・っ」


 逞真はやり切れない気持ちだった。例え人工呼吸だとしても生徒が見知らぬ男に口付けされていると思うと胸が痛んだ。


「っゲホッ!ゴホッ!!」


 その矢先、波音は水を吐き、息を吹き返した。


「はぁ・・・はぁ・・・・私・・・・私・・・・・!」

「波音~!!!」


 女子たちは波音に抱き着いて、男子たちも安堵したように笑った。


 男は口元を拭って逞真に振り向いた。


「生徒は助かったぞ。駿河逞真。」


 そしてそばにあるパーカーを肩にかけ直し、逞真の脇を通り過ぎた。


(このまま帰すわけにはいかない・・・・)


 逞真は頑固精神が働き、悔しそうな顔を露わにし、男の肩を掴んだ。


「ま、待て!」

 

 男は敏感に振り向き、その手を乱暴に振りほどいた。流石の逞真も少しはビビる。男は逞真のことを舐めるように睨んでいたのだ。


「・・・いえ、待ってください。貴方は誰ですか?連絡をくださったのも恐らく、貴方なのでしょう?」

 

 男はニヤリと笑って言った。


「Wolfinriver. これで答えになってるはずだ。そうだろう?」


 耳元で


「またな、逞。」


 と小さく呟き、逞真の肩に手を乗せ、洞窟を後にした。


 逞真はずっと沈黙していた。


「駿T・・・?」


 生徒が声を掛けても反応しない。しかし、一言だけ囁くように言った。


(ろう)・・・・・」

「ロウ?」

「誰ですか?それ。」


 やっと逞真は我に返ってハッとした。


「あ、いや・・・。なんでもない。波音、大丈夫か?」

「はい。なんとか!」

「そうか。済まなかったな私の不注意でこんなことに。」

「全然いいんですよっ!波音だって助かったんだし!」

「そーそー。」

「ってかさ、さっきの人怖くなかった?」

「ヤクザかよ~!」

「絶対そうだって!駿T、なんかされないかな?」

「大丈夫だ。・・・・・多分。」

「たーぶーん~!!!???」


 生徒たちの顔が一気に青ざめて、逞真はフッと笑った。


「波音を助けた時点で悪い人ではなさそうだから、心配するな。」

「そ、そうですよね!」

「ねー、波音ー。キスしたことある?」

「え、ないないない!!」

「あらら・・・可哀想に。これがファーストだったのね・・・・」

「え゛、何のこと!?」

「もし大晟が駿T呼んできてたとしたら、それが駿Tだったのかも・・・・」

「馬鹿を言うな。それに、あれは命を助ける行為なのだから仕方ないだろうよ。」

「え?え?だから何のことですかっ!?」


 波音の声が洞窟中に響き渡った。


















 雨の程ぶりもさめ、天気が安定し、やっとの思いで逞真たちは洞窟を出ることにした。



















「すみませんでした。この全責任は私にあります。」


 逞真はホテルの集合場所で頭を下げていた。


「頭を上げてください、駿河先生。生徒も助かったんですし、天気の予測なんて誰も正確にできませんから。・・・・まぁ、反省の点としては生徒から目を離してしまったことですね。」

「はい・・・。」


 







 自主研修が終わり、修学旅行のすべての行事が終わった。あとは帰るだけだ。
















 バスの中で・・・・



「駿T、ハイこれ!」


 賢吾がポッキーを逞真の目の前に出す。しかし、逞真は深い考え事をしていて、うかない顔をしていた。


「駿T!大丈夫~??」

「あ、すまん。ありがとう。」


 と、ポッキーを口にくわえるが、周りにいた生徒たちはブフッと笑った。


「駿T!その顔でポッキーくわえないで!ギャップがあり過ぎて・・・腹筋返せ!」

「どうしたんですか?考え事でも?」

「いや、なんでもないんだ。気にしないでくれるか?」

「はーい。それより皆寝ようぜ。疲れた。」

「だな☆」


 生徒たちの寝息が聞こえ始める。その頃には、逞真はもう自分の脳の世界に入り込んでいた。何を考えていたかと言うと、さっきの男のことだった。


(さっきの男・・・・まさかとは思うがやはり狼なのだろうか。Wolfinriver・・・狼が川の中にいるという意味だが、それを名前に変えてみると、偶然か駿河狼という名前が浮かぶ。)


 駿河狼は逞真の従弟である。確かに何年か前に行方不明になったままだった。


(あれが本当に狼なのだろうか。もともと神経質な性格だったが、あんな感じではなかった。それに・・・瞳が変わった。冷酷で、闇の世界にいるようで・・・・。そもそも何故あの天気であんな場所にいたのだろうか?仕事・・?一体今まで何をしていたんだ。今何をしているんだ。)



『またな、逞。』


 その言葉がよぎる。


(またな、だったな。だったら、帰ってこいよ狼。俺は、何があろうとお前を信じてる。)


















 




「ただいま。」


 家に帰ると、安らかな笑顔が迎えてくれた。


「お帰りなさい、逞真。」

「腹は大丈夫だったか?」

「えぇ。」


 その時、バスルームの扉が開く。


「よっ!ご無沙汰~ってかお帰りねぃ♪」


 その瞬間、逞真は溜息を吐いた。


「何だよ、夫婦でゆっくりしようと思ったのに、何故お前がいるんだよ。」

「なに?居ちゃ悪いっての!?あ~らそ!せっかく奥さん助けてあげたのに。」


 皮肉を口にするのは妹の聖奈だった。現在一人暮らしなのだが、何故かここにいる。


「なんだと?」

「そうよ、逞真。聖奈ちゃんが来てくれたおかげで生活が便利になって。」

「そうなのか。・・・フッ、お前にしてはやるじゃないか。」

「フッ、萌姉ほっといたアホより随分いい子だと思うけどー?」

「修学旅行だったんだが・・・・?」

「私だって研修だったんだけど?」


 二人は胸ぐらを掴みあい、睨み合った。


「二人とも止めて!喧嘩するほど仲がいいのはわかるけど・・・・」

「「仲良くない!!」」


 息の揃った声に萌はうなだれた。


「はぁ・・・とにかく俺は疲れたぞ。休ませてくれ。」

「帰った途端にコレww歳ね~!!!」

「黙れ。」

「逞真!もう、疲れてるなら早く寝ちゃいなよ。」

「そうさせてもらう。・・・・聖奈はさっさと帰れ。ご苦労だったな、研修中(・・・)なのに!」

「ヌー!!」


 結局、その晩まで兄妹喧嘩は止まなかった。



 これが、ある意味逞真の休養だったりするのかもしれない・・・・











次回もよろしくお願いします☆

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