第4話 修学旅行・前編★
「明日は修学旅行です。体に気を付けて、ゆっくり休んでおいてください。くれぐれも事故などを起こさないように。以上。」
「気を付けー、さいなら~!!」
『さいなら~!!』
ワイワイとはしゃいで帰っていく生徒たちを逞真は微笑んで見送った。
「とうとう修学旅行、か。」
そう呟いて物思いに窓の外を見詰めた。サッカーボールや野球ボールの飛ぶ空はまだ少し淡かった。
「ただいま。」
家に帰ると、穏やかな笑顔で逞真の妻・萌が迎えた。
「お帰りなさい、逞真。ごはんできてるよ。」
「あぁ。すまない萌。」
逞真はぐったりとソファにもたれ込んで、ネクタイを緩めた。
「お疲れ様。」
「ありがとう・・・でも明日だ。もっと疲れるのは。」
「そうだね。修学旅行だっけ?」
「あぁ。2泊3日。その間、ずっと家を留守にするが・・・・いいのか?」
「え?」
逞真は心配そうに萌の膨らんだ腹をさすった。
「あと、2か月くらいだろう?体だって辛いはずなのに3日もいないと大変じゃないのか。」
「ふふっ、大丈夫よ。あなたが私と別れた時なんかつわり起こしても一人で頑張ってたんだもの。」
「・・・そうか。ごめんな、萌。本当はもっとお前といなくてはならないのに。」
「”教師という役職じゃなかったら”って?なぁに?逞真らしくないじゃない。」
「そうだな。何でもないよ。」
逞真はそのまま萌の頭を自分の肩に埋めさせた。
「いよいよだゼェ☆」
校舎前を走り回る男子たちに、会話で盛り上がる女子たち。
「ほらーっ、そろそろ出発式を始めるぞーっ!!」
梅木先生がそう叫ぶとスッと生徒たちは並んだ。
「ったく、けじめがついてるのはいいことなんだけど。」
逞真に振り向くと、
「楽しみなだけに、いい機会じゃないですか。」
と生徒たちをみて口角を上げていた。
「ですね。」
梅木先生も苦笑する。
「最近、いい笑顔してますね。」
突然の呟きに逞真は戸惑って
「・・・はぁ。」
と、言うしかなかった。
バスに揺られて約5時間。最初の目的地に着いた。
そこは・・・・・
「待ってましたっ!ゴットスターズランド♪」
「遊園地と言えばここだよね~。テレビのCMとかで何回も見てさ~!!」
「あの絶叫マシーンいいよね。すっげぇ高いとこから落下すんのやってみてぇ~!!」
「え~、私そういうのやだ。」
生徒たちは大はしゃぎ。
「はい、それでは各自行動してください。迷惑を掛けないように、それから事故を起こさないように。では、開始。」
梅木先生の言葉とともに、生徒たちは早速動き始めた。
逞真がやれやれと微笑を浮かべていると、3組の5人ほどに声を掛けられた。
「駿T、一緒に行動してくれませんか?」
「あ、あぁ。別に構わないが。」
「あっ、賢吾の班ズルい!うちらが頼もうと思ったのに!」
「へっ、早いもんがちーっ♪」
賢吾はべーっと舌を出した。
「賢吾。お前がガキか。」
そうツッコミながらもついていく逞真。
「お前たちは最初はどこに行くんだ?」
「お化け屋敷です。」
「・・・・なに?それは少し順序が早すぎないか?」
「だって、すぐ混んじゃうじゃないですか。今空いてるし。・・・・あ、先生こわいのダメ系ですか??」
逞真は苦笑いした。
「別に。そう見下してくるならば、行ってやるよ。」
「よっし!駿Tものったところでいっちょ行やすか♪」
その班は空いているお化け屋敷に入った。
中は、外の蒸し暑さが吹っ飛ぶ感じに冷ややかで、不気味なライトで照らしだされていた。
「な・・・なんかこわくね?」
「まだ何も出てきてないのにー。」
恐る恐る歩く生徒に比べて逞真はズンズンと歩いていく。
「せ、先生~、歩くの早いよぉ・・・・」
逞真が呆れた表情で振り向いた。すると、生徒たちの顔は青ざめる。
「駿・・・T・・・・?」
「?どうかしたか。」
「うし・・・後ろ・・・・後ろ後ろ!!」
「はぁ?後ろがどうした?」
「あ゛~!!振り向かないで!」
「なんだ?言葉になっていない。一体なんだっていうん____」
逞真が向きなおした瞬間、ゾンビが襲いかかってきた。
「ダァーッ!!」
「ギ、ギャァー!!!!!!」
その班は男子だけだったのだが、流石に全員逞真の後ろに隠れてしまった。
一方、逞真はそのゾンビをまじまじと見詰めこう言った。
「・・・・・よく細工されている。」
「は。」
「見てみろ。人形なのにここまで動いて。まるで人間のようだ。」
「人形・・・?」
「やはり、お化け屋敷にまで最先端技術が備わってきているのか。」
生徒たちは唖然と突っ立ってるしかない。
「もしかして、駿Tって・・・・感じない人?」
「まぁ、こういう反応しかできなくなったのは事実だ。」
班の一員の翔はポンと逞真の肩を叩いた。
「先生、何も言わないでいいからゴールするまで俺たちの盾になって。」
「・・・まぁいいだろう。」
「駿T誘っといてよかったかもね。」
「ホントさ。」
そのあとも・・・・
「ギャッ、夜の病院だ!」
「見ろぉ。中にフランス人形が・・・・こちらを睨んで・・!」
「呪いだぁぁぁ!!」
「・・・・あんな人形どこに売っているんだろうな。」
「先生・・・」
またまた・・・・
「うわっ、上からコンニャク!!」
「冷てー!」
「・・・どこから出てるんだろうな。暗いからわからないが、かなり細い糸で繋がっているぞ。」
「先生、黙っとこうかb」
「緊張失せちゃう!!」
「ってかどんだけ天然なんだよ!それとも計算の上でボケてるんすか!?」
「・・・・なに馬鹿なことを言っているんだ?観点変えてみろ。ある意味面白いから。」
「いや、いいです。まだこの楽しみ方したいんで・・・」
どんどん進んでいく逞真を”流石だ・・・”と見つめるしかない生徒だった・・・・
お化け屋敷を出て、次に絶叫マシーンに向かった。運よくあまり並んでなくてすぐにできた。
「先生はー?」
「私はいいからお前たちで乗れ。」
「わかりましたー♪うわっ」
物凄いスピードで上に上がっていく。その姿を自分のデジカメで撮る。
逞真はしみじみ思った。
(今、もし去年の状況だったらこんなに穏やかな気持ちで充実していなかっただろうな。)
生徒たちが上っていき、落ちてくる空は、やはり淡かった。
ホテルでの1日目の夜のこと・・・・・
「なぁ、そろそろいいんじゃねえか?」
「先生たちあっち行った。」
「他の班のやつも誘ったから、もうすぐ来るさ。」
・・・・・・
「やっほ♪まだやってなかったん。」
「お前ら待ってたんだけど!んじゃ始めるか!!」
「やっぱやめとこうぜ。こんな子供っぽいこと・・・・」
丈がポツリと言うと、賢吾が思いっきり枕を投げた。
「何言ってんだ丈!!これ定番じゃん!!こんな楽しいこと今やんないでどーすんだっ!!」
その言葉から一斉に枕投げが始まった。
はかせ君は読書に夢中になりながら枕をかわしていった。
バシッ
バシィッ
ドカッ
「ふぅーっ!やっぱスッキリすんね~!!」
「6年生の時は結構真面目に守ってたからなんか解放されたって感じ♪」
「なんでやっちゃ駄目なんかね枕投げ。」
案の定、すぐに逞真がやってきた。額に血管を浮かばせ、珍しく声を荒がす。
「いい加減にしろ!ドタバタドタバタうるせぇんだよ!!」
「ゲッ、駿T・・・」
彼の口調はいつになく熱く、乱暴だった。恐らく昔のこの男はこんな感じだったのだと生徒たちは自然と思ってしまう。
「お前たちはガキか。楽しいのはわかるが他の所にも迷惑がかかるってことが理解してないみたいだな!?こういうことだけはするなとあれほど言ったはずだ!」
「い、いや・・・定番じゃないっすか☆」
「あぁん?」
「勝!いま余計なこと言うと・・・・」
「あ。」
逞真は堪忍袋の緒が切れた様に生徒たちをギッと睨みつけた。
「今すぐ片付けろ!そして、自分の部屋に戻りなさい!!」
「は、はい~!!!」
生徒たちは怒られながらも笑いを堪えるのに必死だった。
逞真は見回りとして他の部屋も覗いていった。
ガチャ
ドアを開けると、布団が5つほど並んでいた。中は暗くて皆眠っているようだった。
だが、布団のなかで何をやっているのかはわからない。だから、中に入った。
そっと奥に進んでいき、ゆっくり布団に触れる。すると、中がモゾ・・・と動き、バッと顔を出す。
「ワッ!なんだ・・・駿Tか・・・・」
「ってか駿T!!夜な夜な女子の寝る部屋に入り込んで、私たちを襲う気ですか!!」
あまりにも簡単にそう言われるものだから、逞真は苦笑して布団に置く手を戻した。
「いや、そういうつもりはないのだが・・・。一応見回りしているから確かめようと思っただけだ。」
「んも~、先生まだ若いんだしさ。また誤解されるって!」
「はは。面目ない。・・・何もしていないな。合格。」
そう言いながら上から見詰めてくる逞真がなにか男っぽくて、女子たちは顔を赤くして布団をかぶった。
「も!うちら何もしないで寝るので早く行ってください!!」
「わかったわかった。ゆっくり寝ろよ。おやすみ。」
「おやすみなさい!」
逞真はその部屋を出て、隣の部屋に足を踏み入れた。
「・・・おい。」
さっきとは違って電気がついている。
「あ、駿T。こんばんワニ☆」
「何だお前。それより消灯時間はとっくに過ぎているぞ。何をしている。」
「いや。ちょっと先生についての噂話してて。」
「噂話?また変な噂ではないだろうな?」
「逆ですって!メッチャイイ噂。ってか謎になってることですよ。」
「そう言えば、駿Tの謎とか話してなんですよ。ちょっと付き合ってくれません?」
「・・・・なんだ?」
逞真は小さく溜息を吐いて輪に混じり込んだ。
「あの!先生って高校時代バスケのエースだったって聞いたんですけど、本当ですか!?」
そういえば、この班は全員男子バスケ部だった。逞真は苦笑した。
「あぁ。本当だ。」
「マジっすか!?もっと詳しく!」
「はぁ・・・。これ聴いたら寝ろよ。必ず。」
「はぁ~い。」
逞真は口を開いた。
「バスケは中2にハマって、約1年間やったんだが、それだけでは満足できなくてな。高校でもバスケ部に入ったんだ。」
「ほぉ。」
「しかし、私は未熟でな。未熟と言うよりは体力不足だった。筋肉が付くどころかどんどん痩せていった。どうしていいかわからなくて、凄く悩んだが、お前たちも知っているように私は頑固だろう。それに見かけによらず負けず嫌いだ。だから我武者羅にプレイをした。すると何故か成績が上がっていってな。結局監督にも選ばれるようになった。」
「スゲーっ!」
「バスケットボールというスポーツは、他もそうかも知れないが、その人の性格が必ず影響してくる。積極的でガンガン突っ切っていく者はオフェンスに向き、動きもそれなりに良い。また、陰で支えるのが得意であったり、人が気づかれる前に行動できる者はディフェンスに向く。どちらにも当てはまらないのは変にお人好しで、なんでも他人に譲ってしまう奴だ。女子に多く見られるが、その人に嫌われるんじゃないかと弱気になってしまう奴も駄目な一例だな。味方だけならまだしも敵に襲われた時にその性質なら安易にボールが奪われてしまう。中学ではそこが一番出やすいみたいだぞ」
生徒たちは感心しっぱなしだ。言葉を繋げる逞真。
「お前たちは動きは素早いが、リバウンドがイマイチだな。ならば、負けず嫌いになってどうしてもボールと取るんだっていう勢いでやってみろ。」
「はい!」
「あの、なんでそのまま選手になんなかったんですか?」
逞真はフッと息をついて立ち上がった。
「バスケにハマる前から教員になりたかったからだよ。中学の教師でも顧問になるっていう選択もあったからな。」
「な~る・・・。」
「お前たちも頑張れ。今は弱いかもしれないが、必ず強くなれるぞ。さっきも言ったようにお前たちは動きが素早いから。」
「はい!ありがとうございます!!」
「流石。俺らのことよく見てる・・・」
逞真は微笑んで電気を消した。
「早く寝ろ。おやすみ。」
「おやすみで~す。」
逞真は部屋を出て、ホッと溜息を吐いた。
(明日は、一体どんなことが起きるんだろうか?)
そんなことを考えながら逞真は自分の寝る部屋に戻っていった。
中学生の楽しみの一つですよね!修学旅行♪
次回は中編です☆




