第20話 幾斗事件★守本幾斗という男子
いつもよりR15要素多いです。
御注意を!!
駿河学級の一員・守本幾斗という男子生徒について紹介しよう。
彼は、クラスで一番場に流されやすく、流行りに何でも合わせるタイプである。最近出た電子機器はどんなに値段が高くても尽かさず買いに行くし、話題のアニメやドラマは例え面白くなくても毎週録画してまで見ている。また、2年生の頃は別に直接被害と受けたわけでもないのに男子による駿Tイジメにも参加していた。
しかしこの男子は純粋過ぎるまで素直だし、感情が表情に出やすくなる奴だ。他の男子に利用されたり、騙されたりすることもしばしば。だが、学校が嫌だと思ったことはこの中学校生活3年間無いのだという。
そんな幾斗に、逞真は眉を顰めることが数カ所ある。まずは、その一つの例を挙げてみよう。
中学生の健全な男子として誰もが抱えるのは性欲というものだ。それは、当たり前のもので、男子たちはそれを分かち合い、自分の不安を解消して安心している。が、幾斗は違った。あまりにも素直すぎる故か自分は他の男子よりも重度な性欲に陥っていると思い込んでいるのだ。それもそうなのかも知れない。
何故なら、彼は日常的な会話で扱う言葉にエロ要素を感じてしまうからだ。例えば、〈いく〉〈ムキすぎ〉〈入れる〉〈やる〉など。それは過剰過ぎて、一人きりでトイレに閉じこもり、頭を悩ませるほど。具体的なエピソードで言えば、理科の授業でのことと給食でバナナが出てきたときのことがかなり大変だったことだろう。
理科の天気の授業の時だ。雲を作り出す実験で、初めに斉藤先生が手本を見せ、説明するときのこと。
『はい、このようにピストンを引くと・・・・・・』
この言葉に反応した幾斗は思わず目を見開いた。でも、他の男子は平気な顔で、自分だけしかわからないんだという恐怖感に襲われた。
給食でバナナが出てきたときでは・・・・・
『先生、むいたバナナ要ります?』
その言葉だけでも反応してしまうのに、その後が大変だ。
『何故態々むいてくれているんだ』
『いやぁ、10本くらい持ってきて食べようと思ってむいといたんですよ。でも思いのほか食べれなくて。』
『・・・・むき過ぎだ。わかった、協力して食べてやる。』
我慢できそうになくて、違う方を向くと、次は女子が口を開いた。
『ねぇ、今日のバナナ太くない?口に入らないんだけど。』
『うん。入れようと思ったら大きすぎて折れちゃったんだよね。』
今度こそ限界が来た幾斗は、素早くトイレに駆け込んだのであった。
また、幾斗は先生たちにとっても疑問を抱いていた。何故、こうも性的な要素が集まっている中学校というところで平気に仕事をしているのかと。中学生にとっては、反応してしまう要素があったとしても先生方は気付いていないかのように対応する。
例えば・・・・
「駿T-、昨日初めてアソコいったサ~。」
昼休みでの教室での会話だ。勝のこの言葉に、男子諸君は馬鹿笑い。しかし、逞真はというと全く動じないで、爆笑している男子数名を無言で見つめていた。
「・・・・・・・・」
「ブッ!お前何地味にNGワード言ってんだよ!!」
「あ・・・・・」
顔を赤くする勝に、無表情で逞真は問い直した。
「・・・・何処に行ったって?」
「湖。北湖・・・・・」
「すぐ近くだが行ったこと無かったのか。」
「はい。しかも自力で♪」
「それは凄いな。遠くはなかったか?」
幾斗はある意味凄いと思った。もしかすると、大人になるとこの様な話題に慣れ、馬鹿馬鹿しくなるのかとまで思ったが、それとは裏腹に“いや、大人からが本番なんだ”と逆に疑問が湧いたのであった。
また、健康診断の日には・・・・・
「じゃあ女子の担当は駿河先生で。」
「・・・はい。わかりました。」
逞真はさらりと受け流した様子で女子の控室に向かった。
(駿T・・・・この時立ってんのかな・・・・?)
そんなことを思っていた幾斗に、女子の控室から絶叫が聞こえた。
『キャー!!』
それは女子たちのけたたましい高い声。
「駿Tまだ駄目ッ!!」
まだ、着替えの途中だったのだろう。しかし、逞真は
「あ、済まない。」
(軽っ!!)
幾斗がツッコみたくなるのがわかるぐらい軽く謝罪し、一旦控室を退室したのである。
「・・・・もういい?」
「いいで~す。」
女子の返事を受け取ると、
「お邪魔しまーす・・・・」
と、慣れている様子で中へ入っていった。それでも会話は聞こえる。
「っていうか何で駿Tなの!?」
「なんなら新城先生にでも換えてもらうか?すぐそこにいるが。」
「そうじゃなくてなんで男の先生なのって!」
「仕方ないだろう、この学年は女性の先生は担当されていない。」
「先生、Tシャツ着てるとはいえ、中ブラ着てないんだよ?」
「知っている。」
「透けてんの!恥ずかしい!!」
「恥ずかしいと言われてもな・・・・・」
逞真は呆れ困ったように呟いていた。
(こんな状況でマジで立ってないのか!?駿T!!)
幾斗がそのように思うのも無理はない。
「はい、では保健室に移動します。透けるのが嫌だからと言ってブラジャーを付けたままはやめてください。寒かったりする場合はジャージを羽織っても構いません。また、生理の女性の方は、保健の山崎先生に言っておいてください。」
淡々とした担任の言葉に
(よくもそんなこと言えるよなぁ・・・・・)
なんて思っていた。
また、部活動時間に逞真に用があって、体育館へ行った時のことだ。半面で片方は男子バスケットボール部が使用中であった。そして、女子はもう片面で着替えている。それだけで緊張して恐る恐る扉を開けると、服を脱いでいる女子の中で苦笑している男が居た。
「おいおい、隣男子だぞ。」
「別にあっちは動いてるんだからいいで~す♪なんなら、駿T隠してください!ガバッて!」
「そんなことしたら、変態教師として明日新聞に載るし。」
「キャハハッ!北中有名じゃん!!」
そんな風に女子と茶化しあうところが羨ましい。それだけならまだしも、さらにヒートアップする。
「駿T~、アバラの腫れ治んない~!!」
1年生の女子だろうか。Tシャツを捲って自分の腹部を露にしている。教師とは言え男性なのだが、否定するどころか深刻な顔をしてその部分を覗きこんでいた。
「・・・・今日の練習はできる限り休め。筋トレはできるか?」
「はいっ!!」
幾斗は質問の内容を思い出せなくなって、頭を真っ白にしながら帰る羽目となった。
見ている限り可哀想になってくる様子だが、それを自分だけでコントロールするならまだいい。しかし、他人に影響を与えてしまうのなら話は別だ。そこが逞真の頭を悩ませる点であった。
ある日の放課後のこと。どうしても教師に対する疑問が晴れない幾斗は、職員室で逞真に迫ることにした。
(駿Tって確か年頃の妹居たよな・・・・)
このことを使って、逞真を困らせようという手だ。
「失礼します。・・・駿河先生。」
「どうした」
逞真はチラリと幾斗を見て静かに言った。が、次の衝撃的な言葉に、言葉を失うことになる。
「・・・・先生、今日先生の妹さん襲っていいですか?」
『ブッ』
職員室内の教員はほぼ全て失笑に埋もれた。溜息を吐き、気を取り直して問いかける。
「何故それを態々職員室で言う。」
「だって俺帰宅部だからこれ以上会えませんし。」
しかし、逞真の反応はかなり薄かった。
「はは、成程。面白い。」
冗談のように軽く笑う担任に、幾斗はムッとなった。
「っ、いいんですか!?他人事のように!俺、知ってるんですよ?北教育大学教育発達専攻教育心理学分野にいるって。」
かなり詳しい情報を口にしても、彼は冷静に聞き流し、腕を組んだ。
「襲いたいならご自由にどうぞ?妹ならきっとその思いは通じないだろうよ。」
「本当にヤッちゃいますよ?」
「幾人は度胸があるな。」
「っ~!」
少しいじられた気分になり、恥ずかしくなる幾斗。それを察した逞真は、ニヤリと口角を上げ、唐突に問題を出した。
「幾斗、6を英語で?」
「シックス。」
「靴下は?」
「ソックス。」
「6はシックス、靴下はソックス・・・・じゃあ、アレは?」
「え、アレって!?」
幾斗は逞真の陰謀(?)にまんまとハマってしまった。数学教師は呆れたように首を傾げる。
「は?情けないぞ、幾斗。1年生で習うはずだ。ですよね、新城先生?」
男は敢えて保体教師に話題を振った。増々誤解が生じるのに、逞真は心底意地の悪い笑みを浮かべていた。
「ハイ。」
新城先生もニヤニヤ笑っているので、幾斗は頭が真っ白になる。
「あの・・・・その・・・・えっ!?教師がそれ言っちゃっていいんですか!?」
「逆に何故言ってはいけない?」
他の教員たちはこのやり取りに笑いを堪えられない。
「仕方ない。教えてやろうか。アレはだな・・・・」
「ゴクリ」
「ザットだ。」
「え」
答えがあまりにも単純で、ポカンとなった幾斗は思わず訊き返してしまった。
「ザットだろう?T、h、a、t。」
「そ、そう・・・はぁ、そっちっすか!?」
「ザットにそっちもあっちもあるか?」
「あはははは!」
職員室内は笑いに包まれた。幾斗は顔を赤く染めながら職員室を退室する。
その後・・・・・
「駿河先生もSですねぇ・・・・」
笑い涙を拭いながら、新城先生が話し掛ける。先程自らの生徒をいじった教員は悪戯な笑みを返すと、口を開いた。
「いや、健全な男子を見ていると面白くて。」
この時、逞真は幾斗の悩みを悟ることとなった。
その夜、残業途中に妹・聖奈から携帯に電話がかかってきた。
「はい駿河です」
「兄ちゃん、ストーカー。」
突然の発言に一度、携帯電話を耳から離して、再び声を発した。
「・・・・はい?」
「ストーカー!!」
「恐れ入ります、お掛け間違いではないでしょうか・・・・・」
切ろうとすると
「あ゛ー切んな切んな!私、聖奈だっちゅーねん!」
という妹の必死な声が耳いっぱいに聞こえた。
「冗談だ。しかし、急にストーカー呼ばわりとは何事だ?」
「違うの、兄ちゃんじゃなくて、ストーカーが来たの!」
その時、ふと幾斗のことを思い出した。
「ほう。お前にそんなことするほうも珍し・・・」
「パードゥン??」
聖奈のやや強い口調に、逞真は恐縮する。
「いや、なんでもない。それで?何故それを今俺に言うんだ?一応まだ学校に居るのだが。」
「今だからこそ言いたいの!そのストーカーらしき男がね、北中のジャージだったから!しかも3年生っぽいよ、身長とか。」
「ふーん。」
「でぇ、背後着いてきたかと思いきやいきなり目の前現れてさ、私の全身見て逃げてった訳!びっくらこいちゃって尽かさず兄ちゃんに電話したの!!」
「はは、面白いな。」
暗いあっさりしたその口調からは、妹の方にも気持ちが伝わる。
「・・・・絶対心底笑ってないっしょ、君。」
「勿論。しかし全身見て終わりか。まだ良かったじゃないか。触られたりとかされなかったんだ。」
「うん、全くね。」
受話器の傾ける方向を変えなおすと、冷静に思い出したように伺った。
「あぁ、そう言えば、お前今どんな服を着ている?」
「え?んー・・・・キャミソールにデニムパンツ。あ、キャミは黒ね。靴はー・・・ヒールサンダル」
その言葉から服装をイメージすると、逞真の表情は驚愕としか表れない。
「キャミソールの黒のみ・・・・・露出度高過ぎないか・・・・?」
「べつにぃ?」
「透けてないだろうな」
「黒だから大丈夫だって。」
逞真の妹・聖奈は割とかわいいルックスをしている。それに加え細身で本人も言っていた通りの格好を恥じることなく着るような女だ。それを考えると逞真は項垂れた。
(それは幾人も欲情して逃げ出したくなるよな・・・・・)
苦笑するとともに、幾斗に申し訳ない気持ちが湧きあがった。
「・・・わかった。一応明日にでも報告しておく。」
「ん、宜しく。」
そして電話が絶えた。
翌日・・・・・・・・
「おはよう、幾人。」
「おはーっす。」
幾斗はいつも通りの対応だ。しかし、例の話題を振ると表情が一変する。
「妹に会えたか?」
「・・・・まぁ。」
「君の決意は叶ったか」
「・・・・」
苦笑する逞真と、悔しがる幾斗。
「その様子だと、駄目だったようだな。だから言っただろう、その気持ちは通じないと。」
「・・・・・・」
幾斗は“やっぱり教師は手強い・・・・・”と思うのであった。
そして、それから数日後のある日の昼休み、逞真のもとに数冊の本を持った賢吾がやってきた。
「・・・・先生、トイレの中にこんなものが。」
「・・・・何だこれは。」
逞真がこういった系統の本を見るのは何年振りだろうか。それも、中学校という場で目撃するのは初めてかも知れないので、流石に拍子抜けしてしまう。
困ったように辺りを見て静かに囁く賢吾。
「見てわかりません?」
「それはまぁ表紙を見ただけでも解る。ただ何故これがそこにあるのかと思っただけだ。」
「しかもこの他に何冊もあるんですよ~・・・・・」
「本当か」
「見ます?」
呆れ果てた教師のもとに渡されたのは、同じ系統と思われるアダルト系の雑誌。彼は勇敢にも全体を眺め、中身を見始めた。
「計4冊か・・・。ふん・・・・確かに。」
「ちょ、せんせ?中身丸っきり見てるじゃないっすか。。。」
「え?いや、本当にそうなのか確かめるためにだから。」
「冗談冗談^^;」
苦笑せざるを得れない正直な男子生徒に、深刻な顔をする逞真。
「しかし、これだけ膨大なアダルト雑誌が置いてあるなんて生徒だとすれば度胸があるな。」
「ですよね~。」
「賢吾、お前ではないのか?」
「まっさかぁ!?」
「冗談だ。普通知らせに来ないだろうよ、犯人なら。」
「解ってんじゃないっすかぁ!」
賢吾に肩を叩かれながら、ふと辺りを見渡してみた。男子トイレの中に入ってみたり、男子を観察したり。そして、二人で教室に戻ってきたときのことだ。自分の席で、正統じゃない本をバレバレになりながら読んでいる勇気ある少年・幾斗がいる。
それには、生徒と教師は顔を見合わせるほかない。
「・・・待て幾斗。それは何だ?」
「エロ本。」
つくづくこの生徒が正直な男子で良かったことと思う。
「はーい、犯人発見www」
「賢吾。・・・・男子トイレに置き去りにしたのも君か?」
「・・・うす。」
「はぁ・・・・はい。全て持ち帰れ。公共の場でそれは不要な物だ。」
例の雑誌類を目の前に出すと、
「は~い・・・・・すみません。」
という返事はいい加減で、しかし謝る部分は真面目に謝る様子だったので、軽く説教することにした。
「これはいいよ、これは。見るのは人の自由だから。だがトイレに置く理由が理解し難い。」
「いや、トイレで読んだらコーフンするんですよb」
「自分の家でやれ。」
「いや、学校のトイレでなきゃダメなんです!ほらこれ、学園モノ。」
昔、自分もこんな馬鹿馬鹿しい感想を抱いた気もするような・・・・・・と思いながらも、教師としてのプライドが勝ち誇り、ぴしゃりと幾斗を黙らせる。
「黙れ。学校はお前だけのものではない。自分だけで恥をかくのならまだしも、皆に迷惑を掛けることになるんだぞ。」
「・・・はい。」
今度こそ幾斗は本気で謝罪したのである。
幾斗の悩みもここまで来るとやはり他の男子と違うところがあった。それは彼自身も察していたことだから理解しているのだが、どうにも自分だけで治めることができなくて仕方がない。
思い切って幾斗は担任に相談することにした。
「・・・・・それで、なんだ?相談とは。」
放課後の静かな教室に2名だけ席に座り、声を響かせる。部活中なので辺りはしんと静まり返っている。
「先生、俺・・・・・コントロールできないんです、学校に居ると。」
“やはり、そのことか”
察したことが当たり、溜息をゆっくりと吐く。
「コントロールというのは、性的欲求のことか?」
「はい。先生もなんとなくわかってるでしょ?たくさん迷惑かけちゃったし。」
「そうだな。」
「俺、狂ってますよね。普通中学生がやるべき事じゃないのに。どうしたらいいんだろ?」
正直なこの男子生徒に対し、逞真は些かの安心感を抱く。そう気づくところがまだいいことを。故に逞真は真剣に悩み、そして回答した。
「それは、そのうち治まるのではないだろうか。いや、治まるというよりは慣れるっていうのかな。私も確かに高校時代はそんな経験をしたのを憶えている。しかし今はこの通り別に普通だろう?」
「でも、それが中学生の頃からって、おかしくないですか?」
「いや、それは個人差だからな。小学生でもあり得ると言えばあり得るものだし、大人になってから感じ始める者だっている。」
「そうだ、先生は何でそんな普通なんですか?こっちから見ると、なんか凄いっていうか。」
「私は教師だから。中学校という場で、男をしての欲望を出してしまったら教育者としてはおかしいし、それに、家庭があるからな。そのうち解るだろうけれど、そんな暇がなくなるんだ。」
「そうなんですか・・・・」
幾斗は理解したと共に、すっきりした気分になる。
「よかった・・・・ありがとうございます!」
「これでよかったのか?」
「はい。寧ろ重荷が抜けましたよ。」
「そうか、それはよかった。」
幾斗の満面な笑顔に、逞真は苦笑しながらも安堵した。
これで彼の性欲については治まったのだが、逞真が眉を顰める出来事は、この他にもあるのだった。
次回も幾斗についてのエピソードです。
何か事件の香りがするような・・・・・・・
次回もよろしくお願いします☆




