第18話 感動を彼らに
夏休み寸前。受験勉強だの言い訳を考えながら作った大量の宿題を配布する日を今か今かと首を長くして待っている教師でもその暑さと虫のウザ過ぎる鳴き声で一度やる気が失せる、そんな日の昼休み、グラウンドでサッカーを楽しんでいる男子数名と、友達と戯れる男女数名を除く3年3組約10名が教室に集った。
何を企んでいるのか、彼らの表情はニマニマという擬態語が一番当てはまるだろう。そんな中、リーダーシップのある賢吾が口を開いて、昨夜自宅で作った企画書の様なものを配り出す。
「最近、皆受験だ受験だ大騒ぎしてて面白いこと起こんないよね~。」
「それ、現実逃避ってやつ?賢吾もそっち行っちゃったかぁ??」
翔が賢吾を茶化すと、本人はムッとするかと思えば、期待通りの答えが返ってきたように、首をすくめて否定した。
「翔君、ちゃんとこの用紙を見てから言ってもらわないと困るよ~。俺も、その辺きちんと考えてる。」
翔は小首を傾げて書類に目を戻した。他のクラスメイト達も疑問や不満があるのか顔を見合わせている。
「ま、その書類を見ただけじゃ、なんのこっちゃって話だよね。まぁお聞きよ。でぇ、そう言えばと思った俺はさ、ある企画を考えたわけよ!」
「賢吾、焦らさないで早く言いなさいよ!」
「まぁまぁ、これからが本題。短気の芽衣子は黙って落ち着いてて。その企画はッて言うとその紙が出てくるんだ。その名も・・・・・駿河学級新聞発行!!」
誰もがその馬鹿馬鹿しさに溜息を吐いたことだろう。何故なら、そんな小学生染みたこと中学3年生にもなって考えることじゃない。増して実行に移すなど、賢吾の積極性には違う意味で迫力を感じる。
「受験勉強はどうしたんだよ。いまさっきそこんとこ自分も考えてるって言ったよな?」
「だーかーら、話を聞けって!そんなもん自分たちで作る訳にもいかないだろう?そこでだよ。皆、毎週配られる学級通信を思い出して御覧なさい。あ、そこにもあるけど。」
「ほらよ。」
「どうもどうも。」
拓嗣は本当に気が利くやつだと心の中で訴えて彼が取ってくれた学級通信を受け取り、目の前に出す。
「見てよこのシンプルさ。時間割と今週あったことを機械的に書いてるだけ!見ててつまんないと思わない!?発行者・駿河逞真。はぁ、この方には面白思考というものが備わっているんだろうか。1組や2組はビッシリ先生のお言葉が載ってて、2組に至っては斉藤先生オリジナル随筆まで付いているのに、3組はガランwww時間割は見やすいけどさ、クラスに対する愛情が伺えるよ!」
そこまで言う間、皆は賢吾の背後に心をヒヤヒヤさせていた。今にも叫びそうなほどに賢吾と背後を見比べている。
「あぁ、本人にこの言葉を授けたいね。どうして呼ばなかったんだろう?そう、見ててつまんないにも程が______!」
その矢先、賢吾の頭上に鉄拳が舞った。それは瞬きする間に彼の旋毛に当たり、その場は絶叫と爆笑に包まれた。
「ギャー!!!!???」
「グハハハハハwwwww」
「も・・・・アホだろ。ずっと気づいてなかったんかい!?」
「仕方ないよ、背後に居た相手がやろうと思えば気配消せるような凄技保持者なんだから。」
「も、申し訳ありませんでしたっ!二度と貴方様の悪口はこの谷口賢吾の口からは発しません!お許しを!!」
「あ?何の話だ?お前が本人に聞かせたいと言ったから来てやったまでだが。どうした、話を続けろ。」
そう、背後で鉄拳を奮わせた男こそ、駿河逞真、本人だった。
「賢吾には残念だな。せっかく愛する学級の教室を清掃しようと雑巾を濡らして帰ってきてみれば、思うが儘に私の愚痴を大声で叫び散らしているのだからな。」
「いや、これには訳がですね・・・・・。そうそう!だから、そんな学級通信を盛り上げるために、ほら、この企画をね。」
「企画?」
そんなの初耳の逞真。訊き返すと、賢吾から1枚の紙が渡された。
「駿河学級新聞発行・・・・・。」
「そうです!丁度良かった。駿Tも聞いてください。これ、保護者も見る様になってるじゃないですか。だから、学級であった出来事をここに書いて新聞みたいにするんですよ。ドヤ??」
「・・・・・そうだな。やるだけやってみてもいいかも知れないぞ。」
「マジ!?やった、駿Tのお墨付き☆」
担任の冷静な返事に歓喜を露にする賢吾に皆も理解する。
「うん。これなら受験どうしたwwって言われないでも済むし、学級通信なんだしね。」
「うんうん。花帆も駿Tの通信つまんねって思ってたとこだしb」
「花帆・・・・お前生徒会辞めたことをいいことに毒舌絶好調にしているんじゃないだろうな・・・」
「んな、誤解YO☆そんな疑うんだったら、これ帰りの会で知らせんの花帆でもいいよ?」
「本気と書いてマジか!」
その場の空気がヒンヤリと固まった。賢吾だけが、ドヤ顔しているので、逞真は吹きそうになった。が、クラスの反応は薄い。
「ねぇ、そのギャグ飽きたよ、賢吾・・・・・」
「松田先生のギャグパクってどうするんよ( ̄O ̄;)」
そう、これはオヤジギャグの光る、技術家庭科教師・松田先生のオリジナルギャグなわけだ。
「とにかくっ、知らせるの花帆ね!決まりだ!!」
そんな風にして賢吾の企画が成功した訳だが、逞真は少し嬉しかった。生徒の方から意欲的に学級を良くしてこうとする姿勢が、過去の逞真の担当していた学級に似ていたからだ。それに、逞真が目指してきた理想の教師と学級が、微かに叶えられたような錯覚がし、34ismadeupofateacherという目標にも当てはまったため、その感激に逞真は少々戸惑いを覚えた。
その日の帰りの会で花帆から説明が入り、本格的に企画がスタートすることになった。
学級で起きた明るい面白エピソードを書いて、週末に逞真に提出することになるのだが、それが起きないことだってあり得る。その場合に備えて、クラスはこう決めた。
そんなときは駿河先生に責任もってエピソードを書いてもらおう!!んで、普通にエピソード書いた時も先生は必ず何か感想書くこと!!
それには逞真も恐縮して努力する羽目となった。
そして、その原稿を生徒に貰い、職員室で学級通信に書き込もうとしていた時である。隣の斉藤先生に声を掛けられた。
「なんか、面白い企画始まったそうじゃないですか、3組。」
「え、ええまぁ。私は何も触れたわけじゃないんですがね、どうも私の通信はつまらないようです。」
苦笑していると、斉藤先生は椅子に腰かけ、呟いた。
「そんなの、クラスを盛り上げるための理由ですよ。クラスメイトは本当にそう思ってるわけじゃありません。この学年は、教師にさえも悪戯したがる元気で明るい、面白いヤツらですから。」
「斉藤先生・・・・」
職員にも先輩、後輩があって、逞真も先輩の先生方にはよくこの様な言葉で救われることがある。だから、学年の年上の先輩はとても尊敬している。
「僕も、よく2組の連中にいじられるよ。理科の実験器具でギター弾けるって本当ですか!?とかね。」
「どこでそんな噂流れてるんでしょうね・・・・・。でも斉藤先生、本当に授業でギター披露してるんですから、そう言われて当たり前ですよ。」
「う、バレたかぁ!」
逞真は若々しい悪戯の笑みを見せた。すると、学級から梅木先生が戻ってくる。
「お、聞きましたよ、学級通信!2組は随筆、3組は新聞かぁ・・・・・1組もなんか面白いこと取り入れないとなぁ。」
「社会の知恵とか。」
「社会の先生だからですか?生徒見ますかねー」
職員室の会話に入り混じりながら、逞真はホッと息を吐いた。
そして週末配られた駿河学級新聞だが、一部紹介しておこう。
第1回目のエピソードは、こちら!!
『ブレーカー落ちました事件!!』
今週の水曜日、担任・S教員が暗い学級の電気をつけたところ、なんと真っ暗のまま!電気が付きませんでした!!普段、ブレーカーが落ちることなんて曹操ありませんので、原因は不明のまま。ただ、S教員があまりにも必死に電気のボタン押すものですから、生徒の僕たちは大爆笑です。原因は用務員さんに解決していただきました。この学級だけですよ!?その日だけ、3組は呪いの教室と噂されましたww
〈先生から〉
その件については、私も想定外で、焦りました。生徒には笑われ、教室は暗いままで、その日1日は大変でしたね(^^;)でも、その条件の中よく学習できたと思います。まさか、そんな事件の原因がブレーカーで、みとも簡単に電気が着いた時には、あまりにも容易く拍子抜けしました。次に電気がつかなくなったら素早くブレーカーを点検すること。ご家庭でも気を付けてくださいね。
第2回駿河学級新聞のお題は!?
『パリーン!ご飯の食器の悲劇』
今週火曜日の給食、ご飯をお代わりしようと駆け寄る少年A・K君の持ったご飯の食器が床に落ちて破壊されました!彼は最後まで勇者だったんです。まるで野球ボールをギリギリでキャッチするかのように手を構えたのですが、プラスチックではなく割れ物に変わった給食の食器はみとも簡単に滑って跡形もなくバラバラに。その音は凄まじく、隣のクラスまで響き渡りました。温食を口に運んでいた手を止めた駿Tの目も見張るほどでした(笑)
んで、クラスの勇者が立ち上がり、全力で処理しました。そのチームワークは充実感を感じられましたねー。結構楽しかったですよ?ね、A・K君!!
〈先生から〉
確かに、A・Kを助けるときのクラスの動きは見ていて温かかったです。しかし、一つツッコみたいのは、イニシャルにするのは彼の個人情報だからか?
「今いくぞ、K!」「先生、落ちたご飯包む物ないですか?」「細かい食器は塵取りでやるから触んないで。」その言葉を聞くと、クラスの大切さを感じられました。クラスメイトが困ったときに率先して動くのは、とてもいいことですね。2年間同じクラスでやっていると、このような友情も必然的に深まるのでしょう。 こういうクラスで本当によかったと思います。これからもその気持ちを忘れずに。そしてA・K、米の重力に耐え切れなくなるまでに食器に盛るのは危険です。成長期とはいえ、やめましょう!
第3回目の駿河学級新聞は、ネタが無かったので、担任から書かせていただきます。
『人に親切にすること』
ある日、自宅で耳の不自由な人たちのバリアフリーについてのTV番組を見ていた時に、ふと思い出した。
休日、一人買い物に出かけた時のことだ。そこには、見慣れたシルバーの指定ジャージがあった。よく見てみると、それはクラスのM・Iだった。隣には、彼の祖母と思わしき女性がいる。家族に奉公しているのかと感心していた時だ。Iは手を使ってなにやら祖母の方に合図をした。手話だ。祖母の方も頷いている。その後、Iに話を聞くと、祖母は耳が不自由だったそうだ。1人で買い物に行かせるのは不安だったIは付き添ったのだという。それを聞いた私は感心した。流石中学生。人に親切するということは、見ている方も清々しい。
この感動をありがとう、M・I!
第4回駿河学級新聞は・・・!?
〈駿Tの侮辱〉
ある日の昼休みのことです。ほかのクラスの人と戯れていた時のこと、先生方の話題で盛り上がっていました。そこで、ある男子が駿Tのことを侮辱し始めました。
「クドクドうるさいよ、駿Tって。よく、耐えられるよね、3組。」その他もろもろ言われましたが敢えて書きません。そんでもって僕たちは顔を見合わせて怒りを切らしました。
「確かに駿Tはマメで、いろいろ注意されるよ。でもそれは俺たちが悪いからで、駿Tは俺たちが嫌いだから言ってるんじゃない。それに、駿Tはそれだけじゃなくて面白いんだよ。知らないだろうけど。目付きが教師超えてるとか、そんな風に下手に侮辱されるほど、駿T落魄れてないし!」
スッキリしました☆ま、その男子の御陰で、駿Tのありがたみが改めて解ったっていうか、とにかく感謝です!
〈先生から〉
今回については、私は一切感想を入れるなと忠告されたのですが、いや、させてもらいますよ。そんなことがあったのかと初耳でしたね。その男子たち、ありがとうございます。しかし、教師というものはこの通り嫌われ者でいいんです。それで生徒が育っていくのであれば。そうでないと、やっていけません。
その男子たちの台詞を打ち込んでいくうちに、感激しましたね。2年生の頃は、酷い誤解をさせてしまったのに、今はこんな風に思ってくれているのかと。本当に、君たちには感謝の想いしかありません。
その勇気は本物です。
第5回駿河学級新聞は、担任から失礼させていただきます。
『妥協』
テレビ番組で、あるタレントがこのようなことを言っていた。
「僕、妥協すんの嫌いなんだよ。」
それを聞き、私は思った。
それでは、妥協が無かったら世の中はどうなってしまうのだろうか。互いで意見を主張し合っているばかりでは何も解決しないだろう。譲り合う精神こそが、日本の社会人としての常識だ。
あれが、テレビ上でのキャラだとしてもそれは許し難いことだ。
どうか、君たちもあのような大人には決してならないでほしい。人間関係はそういった心が大切なのだから。
みたいな感じだ。
これは3年3組で卒業するまで続けられることとなっている。
逞真は、通信配布の為この記事部分を見るとき、いつも穏やかな気分になれる。だから、生徒たちには本当に感謝の気持ちでいっぱいだ。
ずっとこのこの気持ちが続いたらどんなに幸せか、そう思う逞真であった。
温かい教師と生徒の絆っていいですよね~・・・・(-ωー)
次回の☆34ismadeupofateacher☆はッ!?
・生徒会室で先生方について面白トーク!?
・人気な先生ベスト3作っちまった!?
・オチが・・・・・www
次回もよろしくお願いします☆




