第15話 謎の暗号大騒動★無念の結末
颯天は自分の担任が銃撃されるのが見たくなくて目を伏せたが、その音はハッキリ聞こえてその場に崩れ落ちた。
「そんな・・・・・駿Tが・・・・駿Tがぁ・・・・・」
そう絶望に抱かれた時だ。
「ウォウ!ウォウ!!」
キムの鋭い声がする。そして、その声に紛れて聞き慣れた声が聞こえた。
「こいつは______」
「え・・・?え?」
思わず目を開けてみると、彼は倒れるどころかピンピン立っていた。状況を理解するとこうだ。逞真が撃たれる直前にキムが拳銃を握った男に突進し、逞真の一命は免れたのだった。
逞真は安堵と唖然の冷や汗を掻いて、首を傾げた。その犬には、見覚えがあるのだ。
以前、拓嗣の家に家庭訪問で行った時、庭にこの番犬が伏せていて少々戸惑ったのを記憶している。しかし、いざ入ってみると、番犬は逞真の脚にすり寄ってきたのだ。
拓嗣曰く、キムが他人にこんなに懐くの初めてだ、駿Tがいい人だってわかっているんですね!・・・・・らしい。
「お前、拓嗣のキムだよな?何故ここに____」
「駿T!」
颯天が駆けてきた。
「は・・・・颯天!?」
逞真は驚きを隠せない。
「何故お前がいる!?」
「僕たち、駿Tを助けに来たんですっ!!学校に来ないからもしかしてデスレターの被害者は駿Tじゃないかって。んで、拓嗣のとこのキムに先生の匂い覚えさせてここまで来たの。」
気が付くと、キムはもういない。何処かへ行ってしまったらしい。逞真はチラリと組織のほうを見て、殺気立たせた。
「馬鹿・・・。ここは危険だ。お前たちではどうにもできないような事件に遭遇しているんだぞ?」
「でも、現に僕たちここまで来ました!駿Tに逢えたんですよ!?」
「・・・・皆は、他の皆は捕まったんだろう?」
「・・・・・・」
「不可能だ。中学生が、こんなことに関わってはいけない。」
「そう。でもこちらからは有利だ。」
組織の一人が口を挟める。
「始末する者が増えたのはこちらの勝。このチビも供に来い。」
言うが早いか、敵は逞真と颯天を引っ張って、あるところに連れ込んだ。
そこは、堅い造りの狭い部屋。
「ここを閉じたら中からは開けられない。また、外からの操作によっては室内の空気を抜くことができる。さて、じっくり中で過ごすか、酸素不足で今日死ぬのか、どちらがいいかな。」
逞真と颯天は歯を喰いしばった。
その時、革靴の音がコツ・・・・コツ・・・・と聞こえる。そちらを見てみると、年配の男性がやはり黒尽くめで覆い尽くしていた。
「ボ・・・・ボス・・・・・」
その言葉から、彼が、奴らの総長だということがわかった。不意にボスと呼ばれた男が自分のIpadを見せる。
そこには侵入者(生徒たち)が映り込んでいて、内容からおりに掴まっているのが確認できた。
「見ろ。たくさんの子供たちに内密であるこのプロジェクトがバレている。このプロジェクトは失敗だ。」
「しかし・・・ボス・・・・・」
「お前たちもここで死ね。」
冷たく言い放たれて、逞真に颯天、組織の例のメンバー諸共室内に占め込まれ空気を抜かれた。
「・・・・・・・」
呆然とする彼らに希望という文字は絶対に当てはまらなかった。
「フッ、狭い部屋にこれだけ人口密度が多いと、すぐに酸素不足になって死ぬかもな。」
「命が惜しくないのですか?」
座り込んだ逞真に問われると、男は目を伏せる。
「命なんていつでも捨てられる。だからこの組織に所属した。」
「表の仕事をしている公務員にはわからないことだよ、俺たちの残酷な気持ちだなんて。」
「それはそうだが、考えがまた違う。あなた方には私らと自分らを一顰一笑の違いだと思っているでしょうが、私だって守るべきものがいて、それを守り抜けなかった時の苦しみは辛い。今だってそう。表だろうと裏だろうとどちらも同じだと思いますけど?」
颯天は何も言わず、逞真のことを見つめ返した。逞真は苦し紛れに微笑んでいた。
「先生・・・・僕、死にたくない・・・。」
弱々しい声に逞真はその頭に手を置いた。
「大丈夫だ。どうにかして、生き延びたいと思っている。・・・・そうだ、颯天、メモ帳と書くものはないか?」
「あ、あります。」
颯天は自分の持ち物の中からメモ帳とシャーペンを出した。
「これ、何に使うんですか?」
逞真は無言で何かを書きだした。
実は暗号とその答えを暗算したのを確かめていて、逞真はフッと心の中で笑った。また、組織のメンバー達の胸に光っているバッジの紋章も書いておいた。
もし助かったとしたら警察に報告するためである。
その間に空気はどんどん抜かれていく。
僅かだが、呼吸するのも苦しくなってきた。その時だ。組織の一人の男がハッとして辺りを見渡した。
「どうしたんだよ・・・?」
「思い出したんだ・・・・・。何かトラブルがあって組織の者がここに閉じ込められてしまったとき、イザとなったら助けられるために、ここに隠しコンピューターを備え付けたのを。」
その言葉に誰もが反応した。
「それはどこにあるんですか?」
「知らない。だが、これだけ狭いんだ。すぐに見つかるだろう。」
誰よりも逸早く動き出したのは、逞真であった。
「それをいじれば、出られるかもしれないんですね?」
「あぁ。」
「でも、もし駄目だったらどうするのよ?」
「その時は、ここが二度と使えなくなるまでさ。やらないよりはマシだ。」
逞真も頷いて、探し始めた。
一方、任務を終えたキムはというと、勿論主とその仲間を助けるために、捕獲所を探していた。
拓嗣の匂いを嗅ぎ当て、辿り着いたところは牢屋のようなところだった。
「ウゥ・・・・・ワンワン!!」
その声に3組一同は反応した。
「キム!?」
「こっちだよ、こっち!!」
キムはてくてく近づいて嬉しそうに吠えた。
「駿Tに逢えたの!?」
キムは何か言いたげにクゥとないた。
「颯天いないってことはそうなんだね。」
気が付けば、芽依子もタカギーも寧音もなべちゃんも同じブースに捕まっていた。
「キム、鍵を開けてくれる?そのボタンを押したらすぐみたいだよ。」
キムは早速ジャンプして、ボタンを押した。案の定、扉が開く。脱出成功だ!
「やったー☆」
「やっぱ優秀だな、お前ん家の番犬!」
「よし、駿Tと颯天と合流しよう!!」
そう、歩き出した時だ。
革靴の音がコツ・・・・コツ・・・・・と不気味に聞こえる。
見た先には、どう見てもここのボスです。アピールしている男がいた。
「うぉぉ・・・・なんだアンタは。」
「アンタが大将かぁ!?」
「・・・・それ、元喜が言いたかっただけでしょ^^;」
ボスと思わしき男性は何も言わず、ただフッと笑った。
「残念でしたね、ボッサン。もう駿Tのことはお助けしたんですよぉ~??」
「大人しくしててちょーだい♪」
「それはこちらの台詞だ。」
初めて生徒たちの前で口が開かれた。
「どういう意味だよ!?」
「その男と・・・・確か小さい子供がいたな。組織のカスと供に閉じ込めておいたぞ。」
『え!?』
「君たちにも知らされた以上、ここから出すわけにはいかないな。」
生徒たちはそんな言葉に聞き耳持たず、ただ担任と仲間が閉じ込められたということだけに反応した。
「そんな・・・・・なんでだよ!?」
「そんなに内密にしたいわけ!?」
「だからって、勝手に大事な人殺すなよ!!そっちからすればどうでもいい人かもしれねぇけど、俺たちにとって二人は・・・・・命みたいに大事な人なんだよ!!」
皆は涙している。流石のボスも、物思いに彼らを見詰め始めるほどだ。
「だが、もう遅い。その一室は空気を外部に抜いた。そろそろ限界が来るころだ。」
一生懸命に首を横に振る一同。
「そんなことない。先生のプライドがあれば、そのひとたちは死なない!!」
「駿Tには俺たちの卒業を見守る義務があるんです・・・・。」
「颯天には私たちと同じ見届けられる権利があります・・・・・!!」
「だから、何が何でも助けたいんだよぉ!!!!」
「駿Tと颯天を返せ!!」
その言葉に同情したボスは目を伏せる。
「・・・・わかった。貴様らのことは捕まえない。だから勝手にしろ。」
「ホント・・・・ですか・・・・?」
静かに頷いたボスは、その場を去っていった。
「よし・・・・ぐずぐず泣いてる場合じゃないね。はやく助けに行こう!!」
「うん!」
シュー・・・・・・・・
空気は時間が経つにつれて絶えることなく抜かれていく。
その室内の人物たちは流石に、酸素不足に陥ろうとしていた。
「はぁ・・・・・・はぁ・・・・・・・くそ・・・・・・どこだ・・・・・・・?」
「もうやめておけ、教師。きっと無駄だ。見つかったところでそれを操作するほどの体力があるというのか。」
「あります。いえ、気合でどうにかなるでしょう。」
即答する彼の言葉に誰しも諦めと素気ない言葉の中に見える細やかだが熱い熱情が感じられる気分がした。颯天は今まで口を閉ざしていたが、こう呟いた。
「駿Tは、冷たい人に見えて、頑固で実は熱血なんだよね。自分がやろうと思ったことは何があっても投げ出さない。有言実行っていうのかな。僕_______駿Tと出逢えてよかったな。先生。」
逞真は微笑みを返した。
「ありがとう。だが、遺言を残す必要はないぞ。_______あった。」
「えっ!?」
「本当か、教師!?」
頷く逞真に一同は安心感を覚えた。
「ある壁だけが、異様に金属らしい音がしたんです。そこには小さなレバーがついていて引いたらでてきました。」
「は・・・・早く解除してくれ。」
「無論です。しかし________」
険しい表情をした逞真は言葉に詰まった。どこを開いても出てくるのは暗号だけだ。
「この城は全て暗号で成り立っているんですか?」
「あぁ。システムをこなすために、外部に漏れないようにパズルの好きだった頭首は都合よく暗号を作り出したんだ。」
「これを解かないと解除できない、ということですかね。・・・・・早くしなければ、空気が失せる・・・・。颯天、メモ帳を貸してくれ。」
「はい。」
逞真はメモ帳に暗号を写し、眺めた。
(この形式には見覚えがある・・・・。確か大学で選択科目の数学Dを選んだ時にこういう暗号の解き方がかいてあったかも。コンピュータのプログラミングなどに関わっていて、あまり数学としては教わらなかったが・・・・・)
閃いた逞真は、すぐに暗号を解き始めた。生徒たちが今も自分を助けるために迷宮城をさまよっているのにも知らずに。3組の人たちは担任と仲間を助けたいと思う一心でここまで順々に進んでいる。
息切れが著しくなってきた頃だ。なにも動作をしていない組織のメンバーは混乱状態にあった。
「やめろ・・・・教師。もう俺たちは死ぬんだ・・・・。」
「水・・・・水をくれ・・・・・!!」
「こんなことになるなら、こんな組織、入るんじゃなかったよ。」
「俺は・・・・まだやりたいことが残っているんだ。」
しゃべり続ける敵には目もくれず、逞真は押し黙る颯天のほうをチラリと見た。
「颯天・・・・・?大丈夫か。」
颯天は小さな体を上下にさせながら、震える腕を振り上げてグット合図をした。
それを見て、逞真は苦い笑みを見せた。
(____このまま酸素不足が続けば、例え助かったとしても脳に重大なダメージを喰らってしまう。くそ・・・・颯天だっているのに・・・・・・)
シャーペンを進める手が止まった。
「よし・・・・・」
逞真は画面に戻って、書き終えた暗号を写そうと試みた。しかし____
「ウッ・・・・・・!?」
手が震えている。思うように動いてくれない。・・・・・麻痺しているらしい。
「駿T・・・・!っけほ、ごほっ!!」
「大丈夫だ・・・。もうしゃべらないほうがいい。体の小さなお前は、大人より衰弱のスピードが速い。」
颯天は悔いるように頷いた。
逞真は右手を左手で押さえつけた。
(ここで・・・・挫折して堪るか・・・・。)
キーボードを一文字ずつ打っていく。その一文字一文字が生徒の心の叫びとなって逞真の心に響いてくる。
〈ここで死んじゃったらどうするんですか!?〉
〈先生は、嘘吐きになります。〉
〈俺たちにいい思い出を残してくれるんじゃないのかよ!?〉
〈私たちが卒業するのぐらいは、いっくら駿Tでも見届けてくれるんだよね!?〉
〈駿Tがいなかったら、誰を頼ればいいんですか?〉
〈駿Tみたいな珍いじられキャラ、他にはいませんよ。〉
〈うちのギャグ苦笑してくれんの先生だけなんやぞぉ!〉
〈先生、皆は、貴方のことを信じてます!〉
〈負けんじゃねーぞっ!〉
〈俺たちだって、頑張るからさ!!〉
《______皆で帰ろう_______》
その叫びを支えに、逞真は最後の文字をなんとか打ち終えることができた。決定するためにエンターキーを押すときには、完全に逞真の腕は動作不能となってしまった。
「教師・・・・お前・・・・・・」
「ひ、肘で・・・・・」
逞真はその震えた肘でエンターキーを押そうとしていた。その粘り強さには、他ならぬ意志が感じられる。
「これで、助かるかもしれません。だから、私は______」
エンターキーが作動する。
”the right answer.”
そう画面に出てきたかと思うと、扉が開いた。
「駿T・・・・!!颯天ぇ~!!!」
朦朧とする意識の中で、この言葉がこだまのように聞こえた。
逞真はその場に倒れ込んだ。
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数日間、閉じ込められた人たちは念のために入院することとなった。
「駿T!この問題教えて♪」
「シッ!ここは病院だ。」
「教師!俺たちにも教えて♪」
「お黙りください。」
見ての通り、元気そのものだ。
「駿T!見舞いに来たよ!!!」
バンッ!とドアが開く。逞真は舌打ちした。
「賢吾、嬉しいんだがな、ここは病院だ!」
すると、その後ろからまたまた・・・・
「駿T!颯天!体調どぉ??」
「数学できなくてもう大変だよ!」
「見舞いのついでに教えてもらっちゃお☆」
3組メンバー勢揃い・・・・・。
「おい、お前たち・・・・・ここは病院だ!」
いつもの駿Tの態度で、生徒たちは微笑みを浮かべた。
「駿T、その後は。」
「あぁ。あの事件については全て警察に報告した。____いいですよね?皆さん。」
「もう、全然いいっすよー♪もう俺たち組織ク・ビ♡」
病院に来てからずっとこのテンションだ。
「先生、ずっと気になってたんですけど、どうして解けてた暗号を、殺すって言われたのに言わなかったんですか?」
「それは、犯罪に協力することになるからだ。命がどうであれ、教師としてのプライドが許さなかった。」
「流石駿T!でも・・・・・」
「?」
生徒たちのなにか企んでる笑顔に、逞真は静かに首を傾げた。
「俺たちはそーゆーんじゃなくって、先生の命が何より大切です!!」
その言葉に、逞真は感動の笑みをこぼした。
「駿T!ここなんでしたっけ??」
「お前な・・・・仮にも受験生なんだぞ。これ、1年生で習う問題だ。仕方ない。・・・・・んっ!?」
「どうしました!?」
「ヤバい・・・・・ド忘れした・・・・。」
「えっ!?」
「やり方ではない。暗算の順を忘れてしまった。まさか、あの場で暗号解きすぎたり酸素不足になったから・・・・・・?」
「先生、それ、ただのボケじゃないの?」
「ばれたか。。。。。」
室内は笑いに包まれた。
何が何であれ、逞真は思ったことがある。
一番楽しいと思うのはいつもの平和な日常。日常に厭きれ非日常を求める人がいるが、それは、快楽を拒むということで、とても勿体ないと感じる。
自分は、今教師で本当によかった。
そうしみじみ想い、ふと晴れた青空を見上げた。
謎の暗号大騒動劇、閉幕です!
お疲れ様でした~。
普通の学校の普通の教師が、こんなことに巻き込まれることなんて不可能に近いことですよね・・・・・^^;
まぁ、そこは小説ですし、温かい目で見ていただければと思います!!
では、次回も宜しくお願いします☆




