第10話 中体連という名の感動
「駿T!」
朝、教室に入った瞬間に逞真は生徒に声を掛けられた。
「なんだ?」
「こないだの地区大会、優勝おめでとです!!」
(あぁ、そのことか。)
逞真は微笑むかと思いきや、無表情若しくは苦笑染みた表情を浮かべた。
「またやってくれてしまったよ、奴らは。」
「え、嬉しくないんですかッ??」
「大会が増える度に緊張が増えるだろう。怖いな、今年は何処までいけるのやら・・・・」
「へー、駿Tそういうの強いほうだと思ってました。意外!」
「それと、頑張ったのは私ではなく女バス部だからな。私に言うのであればちゃんと女バス部にも言っておけよ。」
「は~い♪あ、霞ィ、優勝おめでとう!!」
その生徒は近くにいた霞のほうへ声を掛けに行った。
そう、北中女子バスケットボール部は毎年のようだが、地区大会で優勝を制した。しかし逞真はまだ満足はいっていなかった。
(本当の正念場は次戦の全国予選大会だ。いつもその時に敗退し、全国に行けていない。思えば、俺がこの学校に来て、一度も全国に行ったことがない。)
逞真はチラリと女バス部を見た。
(今年の3年生は、俺の受け持った生徒。いい思い出を残してあげたい。今年こそは・・・必ず優勝を・・・)
♪キ~ンコ~ンカ~ンコ~ン♪・・・・
「はい、朝学活を始めます。」
6時間目、学活_____
「はい、今回は中連体育大会の全校応援についてです。」
「ついに来ましたっ!」
拍手が起こる。3組はすぐに拍手し、盛り上がるのが特徴だ。
「そうだ。スポーツ部はこの日のために日々頑張ってきたことと思う。そこでだ。今年も北中学校は全校応援をすることとなった。応援する部活は、1日目に男子バレー部、2日目にサッカー部、3日目に女子バスケ部だ。」
「え、全校に見られんの!?頑張んなきゃ・・・・」
「うわ~・・・緊張する・・・・」
逞真は説明を続けた。
「当日は私は着けないが、副担の新城先生の指示に従ってくれ。自転車で総合体育館に行くのだが、駐輪場は・・・・・」
そして放課後になり、部活動の時間帯になった。
「いいか、明日からの3日間は中体連だ。他の部活も懸命に頑張っている。だから、女子バスケ部も、頑張るんだぞ。」
『ハイ!!』
「全力を尽くせ。以上。」
そして、いつもの練習がスタートした。
当日______
3日目。総合体育館にはもう北中の生徒は揃っていた。
「ねぇ、北中どこにいんの?」
「ホラ、あそこだよ。右側のベンチ。駿Tでわかった。」
「あ、ホントだ。珍し、ジャージじゃん。」
「そりゃ流石にジャージでしょうよ・・・」
女子バスケ部は全員が強い眼差しを持っていた。逞真は頷く。
「よし、今日は優勝をとれ。それが私からの約束だ。」
『ハイ!!』
「見ろ。全校生徒も応援に来ている。きちんと応えてくれよ。」
部員は後ろを振り向いて、おかしそうに笑った。
部員は応援席の前に整列し、礼をした。
「気を付けー、宜しくお願いします!!」
『よろしくお願いします!!』
全校生徒は拍手した。
そして、プレーは始まった。
これに勝てば、全国に行ける。しかし、その相手はライバル校で、昨年も負けていた。
生徒は掛け声をかけて精一杯応援した。
「ゴーゴーレッツゴー!レッツゴーレッツゴー!!」
「ディーフェンス!ディーフェンス!ディーフェンス!ディーフェンス!」
伝統の女バス部の掛け声だ。この日のために全校生徒は覚えたのだ。
「頑張れ伊月ー!!」
「美悠、ナイス!!」
もう無我夢中だ。そんな中、賢吾はあることに気づき、呟く。
「うわ、敵の学校の顧問、スゲェ吠えるほうに叫んでる・・・・。なのに北中陣営はどうした??駿T黙々とプレイを観戦。睨んでいるようにも思われます・・・。」
「確かに。ホントクールだよね、駿Tって。前もおめでとうって言ったら、またやってくれてしまったーって照れ隠ししてたし。」
「まぁそこが数少ない個性的な顧問としていいとこなんじゃない?」
この時は、そんなことが思えるくらい穏やかな試合だった。
しかし、時が経つにつれて、余裕と言うものはなくなっていく。それを、生徒たちは知らなかった。
後半戦。
「はぁ・・・はぁ・・・・」
どちらのチームにも疲れと焦りが見えた。
点数はなんと80対82.北中が2点負けていた。しかもタイムリミットは30秒。一回普通にゴールを決めたとして、それでも同点となってしまう。
「・・・・」
逞真も流石に黙っちゃいない。思考回路を循環させて、どうにか勝つ方法を考えていた。
(このままでは不可能に近い。皆体力を消耗していて、動きが遅くなっている。今も、敵に取られてばかりだ。これでは体力も、時間も無駄になってしまう。)
拳を握りしめた。
(クソ・・・、今まで死ぬほどの思いをさせながら練習してきたのに。いつものようにここで終わってしまうのか・・・?)
女バス部も決死な思いだった。
(そんな・・・!これじゃあ、駿Tを全国に連れて行くって、喜ぶ顔を見るって約束を叶えられない。そんなの・・・嫌だ・・・!!)
その時、一人の女子が相手のボールを取った。
「・・・ッ」
伊月だった。
(伊月・・・・・)
逞真は思わず目を見開き、立ち上がった。
ガタッ
タイムリミットはあと・・・・・
3
2
1______
「伊月、入れ・・・・・・」
逞真が目を閉じ、強く願ったその瞬間、伊月の背中に翼が生えた。それは高く羽ばたき、そこから打ったシュートは確実にゴールの中に入った。
ブーッ!!
それとともにブザーが鳴る。
「ブザービートだっ!!」
「点数は・・・・?」
沈黙が生まれる。
点数票は、スリーポイントで北中学校に3点追加され、82対83。北中が勝利に導かれた。
「・・・・やっ・・・た・・・・やった・・・・・。」
伊月は呼吸を荒がし、その場にしゃがみ込んだ。
歓声が起きる。逞真は伊月に寄り、その体を抱き締めた。
「よくやった。伊月・・・・ありがとう・・・・。」
「先生・・・・の、お陰・・・です。」
伊月はへとへとになりながら呟いた。
「あの日、私に個人練習させてくださいました。そのおかげで、シュートの確率が上がったんです。」
その顔は誇りに満ちていた。女子バスケ部は涙を流した。
拍手を続ける生徒たち。3年3組は
「やっぱり、敵わないね。」
「こっちまで感動しちゃう。」
と女バスと駿Tの笑顔を涙目になりながら見ていた。
「なんか、いいな。こういうの。」
全国大会は横浜で行われ、決勝トーナメント戦まで粘り、しかし全国の厳格な試合のあり方に冷たさを覚え、準決勝で惜しくも敗退した。
しかしそれは初の全国大会で得たものとしては大き過ぎる代物であった。
逞真はこの大会で思い出すこととなった。
遠い記憶、自分もこのような舞台に足を踏み入れ、感激した日のことを。
女バス部員をあの日の自分に置き換えてみると、人生の一ページの中で中学の部活動の思い出と言うのはかなり深いものなのだと気付かされたのであった。
「せーのっ、全国3位おめでとー!!」
バイキングの一室に女バス部の声が響き渡る。
『ワ~!!』
逞真は苦笑した。
「まるで小学生だな。」
「だってぇ~、嬉しくてしょうがないんですもん!!」
今、全国3位のお祝いが行われているのだ。
「今日は私の奢りだ。どんどん食え。」
『ハーイ!!(^O^)/』
「駿Tの奢りならどんどんイケちゃうねb」
「どういう意味だ。」
女バス部員は楽しく昼食を食べた。そのなかで、伊月が隣の奈緒に声を掛ける。
「ねぇ、よかったね。叶えられて。」
「え?」
「全国に行って、駿Tの喜ぶ顔見るって約束。」
奈緒は肉を頬張りながら、微笑んだ。
「そうだね。だって、全国行ったときの駿Tの顔、本当に幸せそうだったもん。」
「?なにか言ったか。」
「「なんでもありませーん!!」」
そして、そのまま引退式になった。
「なんか、さっきまで凄く盛り上がっていたのにいきなりしんみりしてしまったようだな。」
頷く部員たち。
「じゃあ、私のほうでまず話させてもらう。」
改まったように全員が正座した。
「・・・まず、おめでとう。全国3位というのは凄く名誉なことだと思う。私も、嬉しかった。だが・・・3年生はこれで引退になってしまう。それはとても残念だ。」
その瞬間、じわ・・・と涙が込み上げてきたのは全員だったかもしれない。
「全国に行けると確信した時、私は本当の絆というものが身に染みた。北中女子バスケットボール部という絆。今まで、バラバラになったこともあった。部活を無期限停止にしたこともある。練習も死ぬほど厳しかっただろう。それなのにお前たちはついてきてくれたな。」
「う・・・うぅ・・・・」
隣の人の肩に顔を埋めたり、目をこすったり、泣きじゃくる部員たち。
「私に悔いはない。お前たちが全力で応えてくれたから。・・・・ったく、お前らには敵わない。出会って練習を始めたその日から、私を退屈させたことは一度としてないぞ。本当に、ありがとう。」
「わぁぁぁぁ!!」
想いがピークまで込み上げて、大声を出して泣いた。
「先生、今まで本当にありがとうございました・・・!最後にこんな風に終れて、いい思い出になりました!」
「次からもうバスケ部に行ってパス練することも、駿Tの厳しい声も聞くことができなくなるなんて、寂しいです。」
「でも、この気持ちは一生・・・忘れませんからっ・・・!!」
逞真は微笑んで3年生全員の頭を撫でた。
「泣くな。最後は笑って終わるぞ。」
『ハイ!!』
「伊月、最後の挨拶だ。準備はいいか?」
「グスッ、はい。」
伊月は涙を拭って満面な笑顔を見せた。
「気を付け、お疲れ様でした!」
『お疲れ様でした!!』
感動し続けたこの中体連は、逞真の永遠の思い出に刻まれた。
あぁ・・・涙が・・・・←作者が何いっとるんじゃボケ!・・・って感じですね。
少しか感動してくれれば幸いです。
よかったね、女バスの皆さん。
次回もよろしくお願いします☆




