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せっかくエルフに転生したのに、死亡フラグが多すぎる  作者: もななな


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3/3

003:歓迎祭と旅立ち


 エルフというのは新陳代謝が低い。

 めったに食事をしなくても問題ない種族だ。

 それゆえに気づいたら餓死している……なんてこともある。

 定期的に食事を取る、という習慣がないからだ。


 生きる張り合いを無くしたエルフはそうやって死んでしまう。

 師いわくよくあることだそうで、「木に帰った」と語るらしい。

実際、そうなった死体はミイラのように乾燥している。


 即身仏である。


 とはいえ里としてはなるべく死人など出したくない。

 そこでちょっとしたきっかけを見つけては祭りをする。

 すぐする。簡単にする。


 そうすることで普段作るのが面倒なご馳走を用意して、はしゃぐついでに食事を取らせる、というのがエルフの文化なのだ。


 問題はうら若き私はそりゃあもう馬車馬のように働かされることだ。

 食い物の準備、飾り付け、テーブルや椅子の用意。仕切り屋のエルフがココぞとばかりに顔を出し、あれこれと指示をしてくる。


 本人は動かない。

 エルフってそんな人が多い。


 やっとの思いでそれらが終わると、ようや歓迎祭の始まりである。

 各々席に座ったり、立ち話をしたり、バイキング形式の料理を皿に入れて飲んだり、熟成何年かもわからない明らかに高いワインを何杯もおかわりしたり、踊りや歌、楽器を弾き鳴らしたり、普段勤しんでいる芸術品をココぞとばかりに飾ったりする。


「その時は大変だったわよ! 私の弓矢がなければ死んでいたわね!」


 アルジャはと言うと、外の話が気になるエルフに囲まれて、悠々と冒険譚を話していた。そこには女王と王配もいる。



「ああ、恐ろしい……! 冒険って憧れますわよね」


 片方は王冠をかぶった金髪のエルフ。

 地面に髪がついているが、本人は気にしたそぶりはない。薄く光っているので、なにかしら魔術を使っているのだろう。


 彼女が女王セレーナ。

 気さくな人物で、外の話が何より大好きなのだ。


「どうかね、聞いている分には歓迎だが、君が冒険に出ると聞いたら、私は心配で卒倒してしまうよ」


 隣でアルジャの話に時折驚いたり、質問したり……。

 ちょとした茶々を入れていたのがその夫──”王配”ミドラ。

 たしかに黒髪だが、王家にしては短く、肩ほどまで整えられている。


 やはり王冠らしき物を被っているが、白く銀色の輝くセレーナの物と違い、ややくすんでいた。贅沢好きと言っていたから、あくまでセレーナが女王であることを示すために、くすんだものにしているのだろう。


「ふふ、もちろん言ってみただけよ」

「ええ、女王様が旅に出るとしたら、世界の安寧を脅かすものがでたときぐらいでしょう!」


 アルジャがごくごく自然におべっかを使う。あんなのでも五十年は行きているだけはあって、一通りの礼儀作法は教わっていたのだった。


 そんな様子を少し遠くで眺めながらアルコールのないワインをちびちびと飲んでいると……、突然ミドラさまが手招きしてきた。


「そんなところでボケーッとしてないで、君も聞きなさい。幼い年頃はこういった冒険譚に憧れるものだろう」


 いえ……と断ろうとしたが、いつのまにか隣にいた師に背中を押され、結局近くで聞くことになった。


 どうやら今回は坑道の探索といった話らしい。

 人間やドワーフというものは何度も文明が滅んでいる。

 それゆえに古代遺跡なんてものがごまんとあるのだ。


 ダンジョンクリエイターという種別に属する魔物も存在するらしく、彼らによってダンジョンは構成され、魔物の住処となる。そんなダンジョンに遺物を求めて飛び込んでいくのが、冒険者なのである。


 …………まぁ、内容は正直面白おかしく脚色しているだけで、普通のダンジョンアタックだったけれども、美味しい料理もワインもあって、かなり楽しめた。頑張って用意しただけの事はあったと思う。


 気のせいか私を挟んでいる女王夫妻を見て、周りの人達がニコニコしていたのが気になったけれども。この状況じゃ退散できないし大変だよ……結局、私はそのまま机に突っ伏して眠ってしまった。


 翌日、目が覚めると自宅だった。

 正確には養育院という”若芽”と呼ばれるエルフが入れられるところだ。この村では珍しく木の上になく、古い教会を利用している。


 まだ若いエルフが木から寝ぼけて落ちないようにという配慮らしい。

 前世人間だった私としてはかなり助かる。


 これまた前世の習慣で水桶の水で顔を洗い、歯を磨く。

 身だしなみを整えたところで、リビングの机に昨日の残りらしいもちもちの白パンが置いていることに気づいた。


『また空腹な時に食べなさい』


 という置き書きとともにある。

 数種類の果物も一緒だ。ありがたい。


 さて、今日ぐらい休みたいけど師は許してくれるかな。

 あの師のことだから今日も修練になりそう。


 なんて考えながらパンを頬張っていると──。


「やっほー!! シェン、遊びに行きましょ!」


 アルジャがバン、と扉を思いっきり開いて入り込んできた。

 昨日の今日だというのに元気な人だ。


「アルジャ、ですが私にも修行が……」

「大丈夫、ナムに今日は私が稽古をつけるって言っておいたわ!」

「また勝手な……」


 しかし口答えしたところで止まるアルジャではない。

 私は急いで黒い着物を着て、杖剣を腰のホルスターに吊るした。あとはウエストポーチに適当に色々詰めて……ああ、果物も持っていこう。


「これでいいですか? どこまで行くんです?」

「ふふ、言ってたでしょ。今日は森の外まで出るわよ!」


 …………勝手な人である。

 しかし森の外までは行ったことがなかった。

 前述した通り、”新芽”は森を勝手に出てはいけないのだ。

 内心、ちょっとワクワクしている。


 そのまま教会を出ると、アルジャは木の上に飛び上がった。

 そのまま枝を渡り始める。エルフによくある歩法だ。

 枝を超える際にちょっと幹を強化するのが、落ちないコツ。

 私も負けじと飛び上がり、ついていくことになった。


「ここからだとどこが近いのですか?」


 数分すると、アルジャが速度を落としたのか、隣にまで追いついた。

 そのまま今回の内容について聞いてみる。


「南東にあるカド村ね。あそこに私の仲間も待機してるし」

「一人で戻ってきたんじゃないんですか」

「ええ、服はまた二週間後取りにくればいいし」

「…………ん? もしかしてこのまま二週間帰らないつもりですか?」

「そうだけど?」


 もしかして私今、さらわれてる?

 私、エルフ人生初めての家出である…………まぁ長く生きているエルフにとっては二週間ぐらいあっという間らしいけれど。

 

 なんて言ってたら、森が終わり広がる田畑が見えた。

 ポツポツと立っている家々。ここがカド村のようだ。


「ここの宿屋に泊まっているはず。行きましょ」

「緊張します」

「大丈夫よ、着いてきたの一人だけだし。無愛想なやつなの」

「冒険譚からするに仲間は一人ではなかったでしょう?」

「全員里帰りよ。なんだか人間にとってそういう時期みたいでね」


 正月とかクリスマス的な季節なのかな。

 でも大勢に囲まれるより、一人紹介されたほうが安心かもしれない。


「一人だけでしたら森に連れてくればよかったのに」

「やぁよ。恋人だと思われちゃう」

「そういう関係ではないのですか?」

「あんな無愛想なやつ! やることなすこと無茶苦茶だし!」

「あはは……」


 そんなことを身振り手振りを交えて話しながら、宿屋にたどり着く。


 他の家と違い、そこそこに広い。中に入ると、オーソドックスな酒場という感じで、カウンターに席が複数。二階への階段も見える。


 席で酒をかっ食らっていた連中が、じろりとこちらを見たけれど、アルジャは無視して一人刃を磨いている鎧姿の男に声をかけた。


「宿でぐらい兜を脱ぎなさいよ」

「やだね。いつ頭を狙われるかわからない」

「そんなの気配でわかるでしょ」

「俺はエルフじゃない」


 そう言って、布で寂れた両手剣を磨く男。よくよく見ると、金属なのは兜ぐらいのもので、あとは皮鎧と金属鎧の折衷のようだ。


 動きやすさを重視したのだろうか。


「その女は?」

「私の友達よ、アンタ挨拶しなさい」

「普通紹介というのは紹介するやつがするものだ。今回はおまえ」

「”炎剣”のディートリヒよ。ディって呼んでやりなさい。無愛想な戦士なんだけど、腕は確かよ。こっちは”新芽”のシェン。私の妹弟子」

「よろしくお願いします」


 結局紹介してくれたアルジャのことも考え、ペコリと頭を下げる。

 ディは一瞥しただけで、再び剣を磨き始めた。


 こんな人、原作にいたかな……。


 いや、著名な人間ばかりいるとは思わないほうが良いか。アルジャだって原作には影も形もないモブエルフだし。何なら私だってそうだ。


 ”育手”のナム。若き教え子を失い、心を失った。

 ”よろず”のイオゥ。禁忌を犯す万能の職人。

 ”深き森の王配”ミドラ。国を失いし報復の使徒。

 ”深き森の女王”セレーナ。永遠を生きる虜囚。

 ”嘆きの沼”のソフラボォ。人里で生きる”根”の使い手。

 ”腐れ火”ガナック。森を焼く邪悪なる魔術師。


 以上が死にゲー”ソウルレスボーン”に登場するエルフ。

 私たちはおくびにも出てこないのである。


 つまり原作と関わらなくていいか、あるいは始まる前に死んでるか。

 ……前者ならともかく、後者は御免被るところだけど。


「戻ってきたなら冒険でもするか。金がない」

「けっこう渡してたでしょ? どうしたの?」

「博打ですった」

「……………………」


 呆れたようにアルジャは頭を抑えた。

 この人、著しく無計画なのかな……。


「三人パーティだ。簡単な依頼を受けよう」

「なにがあるかしらね……シェン、見に行きましょ」

「あ、はい」


 そう言って、私たちはカウンターの横にある掲示板を見た。

 獣人退治、盗賊退治、失せ物探し、護衛、冒険者の仕事かと思うようなものから、これこそまさに! というものまで様々だ。


「何が良いんでしょう」

「これなんかいいんじゃない? ”百人首”ドフラド討伐」

「ああ……」


 それは原作でもあったイベントだ。

 橋を封鎖している盗賊で、とんでもない要求をしてくるのだが、無視したり断ったりすると、首から上を切り落とされ──。


 ドフラドの首飾りの一つになるという。


「奴はドワーフと獣人の混血だと聞いているわ。おぞましい……」

「よくないですよ、生まれで人をどうこういうのは」

「生まれのいいヤツに言われると困るわね」


 別にアルジャと比べていいとは思っていないけど……。

 エルフって全員”育手”に預けられるし、親が誰かも教わらない。

 故に血統なんてものはわからずじまいなのだ。


 きょとんと首を傾げる。

 アルジャは耳に口を近づきてきて、こっそりとこう囁いた。


「アンタ、どう考えても女王の娘よ」

「な、なぜですか」

「一年は表に出てこなかったし、なによりその黒髪。それに子供が出来るほど仲睦まじいエルフなんてもうあの人達だけだし」

「アルジャにだって両親はいるでしょう?」

「あいつは森を出たらしいし」


 へっ、とせせら笑うアルジャ。

 その表情には複雑な感情が隠されていた。


「えっと……父親は?」

「父親なんてわかる方が稀よ。じゃあ”百人首”の依頼を受けるわね」

「ええ、おねがいします」


 ふぅむ、原作ではそこそこに強かったと思うけれど。

 ガチの実戦だとどうなるかな。ちょっとばかり楽しみ。


”新芽”のシェン   ……主人公。黒髪のエルフ

”若き弓”のアルジャ ……姉弟子。二ヶ月ぶりに帰ってきた

”炎剣”ディートリヒ ……アルジャの仲間。無愛想だが。


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― 新着の感想 ―
王族の隠しキャラに浪漫を感じる。 自分好みの作風ですらすらと読んじゃいました今後も期待しちゃいます。
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