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この作品には 〔ガールズラブ要素〕〔残酷描写〕が含まれています。

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私はヤンデレを愛してるけどヤンデレは私を愛していない

作者: 石田空
掲載日:2026/06/20

「ヤンデレ乙女ゲームが好きなんですよぉ」


 それを言ったら、だいたいの人には顔を引きつられる。

 乙女ゲームユーザーとひと言で言っても、趣向は好きなレーベルによってだいぶ違う。

 有名王道乙女ゲームが好きな人は、大概はゲーム内でも理性を求めるから、ヤンデレ好きとの相性はよろしくない。

 ヘビーハードモードな乙女ゲームが好きな人は、一見ヤンデレに理解がありそうに見えても「一緒にすんな」とキレられる。激重感情のぶつかり合いが好きな人が、必ずしもヤンデレに理解がある訳ではない。残念。

 ちなみに私はヤンデレが好きだ、大好きだ。愛していると言っても過言ではない。


「……命取られそうになってドキドキするのを、吊り橋効果で勘違いするとか、そういうのが好きなんですか?」

「最近の研究発表によると、吊り橋効果みたいな緊張感ある場所だと、全然知らない異性はむしろ警戒心持つから、一定感情ない人だと効果ないらしいですよ。というかそんなんじゃないですってば。よく誤解されますけど」


 思えば、メイド喫茶は残っても、ツンデレ喫茶もヤンデレ喫茶もこの世からは消えてしまった。なぜなのか。

 メイド喫茶は、メイド服さえ着せていれば、たとえメイドらしい接客ができなかったとしても成立するものの、ツンデレもヤンデレも感情の落差を表すオタク用語なのだから、そんなものを喫茶店の一回の来客ごときで表現なんぞできない。そりゃ消えるわ。


「私が好きなのはヤンデレであって、メンヘラではないんですよ。よくごっちゃにされますけどね、もうたとえるならばカツ丼とこのは丼くらいに全然違いますからね」

「……どっちも卵でとじてるじゃないですか」

「肉とお揚げなんて、食感も味も違うじゃないですか! どれだけこんがり焼いてから、たっぷりの卵でとじてほかほかのご飯に乗せたとしても! 全然! 別物ですから! メンヘラはそもそも自分本位であり、相手に依存しているんです! そして病的な試し行動を取って相手を束縛しようとする! でも、ヤンデレは束縛しようとするけれど、依存するんじゃない、依存させるんです!」


 ものすごく引いた目で見られた。

 これだから素人は。ヤンデレとメンヘラの違いを本当になんにもわかっちゃいねえ。


「ヤンデレの行動理念は愛ですよ、愛。どれだけ病んだ行動を取っていても、病んだ言動をしていても、それで相手を攻撃しては、それはもうメンヘラになってしまうという危ういものなんです。ヤンデレはギリギリのラインでメンヘラにならない、自己犠牲で行動しているんです!」

「……ちなみにその今やってるゲーム、主人公を監禁しているけれど、それはヤンデレじゃないの? メンヘラなの?」

「いいところを突きましたね。監禁行動も、下手をしたらメンヘラコース一直線なギリギリラインです。ただ自分のために監禁するならメンヘラ。相手をこれ以上傷つけないために監禁するならヤンデレというのがベターな回答です!」

「どう違うのかさっぱりわかりませんけど??」

「実は家の外が既に滅びているのに、なにも気付かずヒロインが外に出たらどうなると思ってるんですか! 絶望するかもしれないでしょ! 真実を教えるのは果たして愛なんですか? ヒロインの耐久力テストをして合格判定してから教えなかったら、ヒロイン絶望して自殺するかもしれないでしょ! なんでもかんでも真実を教えるのが愛だと思ったら大間違いなんですよぉ!」


 引いた目は、だんだん腰にも移り、腰も引けてきた。

 待って。遠ざからないで。オタトークできなくなるから。


「……やっぱり私には理解できないわ。ヤンデレは」

「ヤンデレはかなり高度な属性ですからね。それが理解できない内は、馬鹿にしない限りは遠巻きでオッケーだと思いますよ、私は」

「そ、そうなの」


 こうして私は、推しレーベルのオリエンタルリリィから出され、お試しプレイをした人々から「問題作」の太鼓判を押された新作『黄昏時なり我が人生』をプレイすべく、家路につくのだった。るんるん。


****


 ……というのが、私の前世だったと思う。

 乙女ゲームユーザー自体数えるほどしかいない中、さらにコアなヤンデレ乙女ゲーム好きまで付加されてしまったら、語り合える相手なんている訳もなく、ときどき友達とヤンデレトークをするのが関の山だった。

 ヤンデレは一般性癖ではないと実感したのは、「これが好きなんでしょ」とニヤニヤしながら出されたものは、軒並みヤンデルキャラとかメンヘラキャラとかだった。

 だから、ヤンデレとメンヘラは違うんだわ。というかヤンデルは違うわ。舐めとんのか。

 なんで前世の記憶を唐突に思い出したかというと、推しスチルを目撃してしまい、途端に前世の溢れんばかりのオタトークが流れ込んできてしまったからである……我ながらもっと他の思い出し方はなかったのか。

 私の視線の先には、私の職場たる屋敷のお嬢様、常盤様の姿が。そして常盤様とお話をなさっているのは、彼女の婚約者候補である周防様だった。

 ……ここ、乙女ゲーム『黄昏時なり我が人生』……通称『たそわが』の世界じゃないかと、思い出してしまったのである。

 大正風ロマンの世界観で、若緑家のお嬢様常盤は突然両親を失い、莫大な財産を受け継ぐことになってしまう。しかし大正風とはいえど、大正時代は男尊女卑がそれはそれはひどいものだから、右も左もわからない常盤であったらいいように利用されてしまう。まともな婚約者を選んで、その人と一緒に家を守れという遺言の元、常盤の愛を巡って男たちが争う……という内容だった。

 つまり、攻略対象たちは全員婚約者候補であり、自分を選んでもらうために、それはそれは蜘蛛の巣のように張り巡らされた愛憎が屋敷内を覆うというのだ。

 このゲームの特徴は、全ルートをしないと男たちの本性がわからないというもの。

 とあるルートでは攻略対象だった人が、実は別ルートで両親を殺した犯人だと発覚したり、とあるルートではただのサイコパスだと思っていた人が、実は攻略対象に入ったら重度なトラウマ持ちだと発覚したり、推しじゃないキャラも攻略しないとこの話の真相がわからなくなっているし、キャラの尊みもわからないのだ。

『たそわが』ライターはヤンデレ書きのKさんという、わかってます感半端ないヤンデレ書きの巧みだ。よく混同されがち、間違われがちなヤンデレとメンヘラの違いをきっちりと書き分け、ヤンデレ好きたちが何度その方に手を合わせたかわからない。

 ヒロイン虐待するのはヤンデレじゃねえんだわ、ヒロインがわからんように篭絡し、他の攻略対象攻撃するからヤンデレなんだわ。ほんっとうにわかってらっしゃる! フラグ管理間違えたらヒロインもヤンデレ攻撃間違って受けて死ぬけどな! それも愛だからちかたないね、ハハッ!

 そんなドス重愛憎ヤンデレ乙女ゲームなもんだから、ルート入りしてないキャラは焼死体で見つかったり、ヤンデレに巻き込まれて死んだり、ヒロインだってきちんとフラグを立てないとバッドエンドに突入するんだけれど。

 私はそんな中で数少ない安全圏に転生していたのだ。常盤様付きメイドの綿子だ。

 さすがに他の攻略対象は殺害も辞さないスーパーヤンデレ攻略対象たちも、常盤様付きメイドを直接攻撃したりはできない。だってそもそもこのゲームの本編シナリオは、婚約者選びが基本だから、常盤様の相談相手である綿子に危害を加えた時点で、そんな相手を婚約者に選ぶ訳がないのだ。

 ……つまりは、このドス重ヤンデレ乙女ゲームの舞台で、安全圏を死守したまま、全スチルを観察できると来たもんだ。

 よっしゃあと言わざるを得ない。だって乙女ゲームヒロインに転生しても、ヤンデレを観察することはできないもの。ヤンデレとメンヘラは間違われがちだが全然違う。ヤンデレはヒロインを依存させるものであって、依存するものでは全然ない。つまりは、ヒロイン視点だとヤンデレを実感することなんかできないんだ。

 ヤンデレは落差を楽しむ高度な属性。乙女ゲームヒロインのままではヤンデレを体感することはできないのだから、スチルを見て悦に入ることはできまい。

 そう考えるとワクワクしてきたものの、私は自分の記憶を探りながら首を捻った。


「……いったい誰のルートに入っているのかしら?」


 記憶を取り戻すほどの衝撃を与えてくれたスチルは、常盤様と周防様が手を繋いで庭でダンスをしている様子。

 富裕層は晩餐会などにも参加するから、元々は華族出身の周防様がダンスの手ほどきをするシナリオは、まだ誰のルートにも入っていないものだった。

 まあ、誰にルートにも入ってないんだから、遠巻きに見ていればいいでしょう。

 私はそう自分を納得させて、仕事に戻ることにした。

 常盤様付きメイドの仕事はそこそこ多い。無料で乙女ゲーム遊び放題状態なんだから、その分の仕事はしないとと思っていたのだ。


****


 若緑家に滞在している婚約者候補……つまり『たそわが』攻略対象は全部で六人。他の乙女ゲームの攻略対象の数を考えれば比較的控えめだ。

 華族出身の周防様。軍人家系の千歳様。士族出身の藍鉄様。豪商出身の月白様。住み込みの文士の浅葱様。執事長の檜皮様だ。

 誰を婚約者にするのか、常盤様はその日の行動を私に逐一報告してくれるものだから、速攻で家事を片付けては、いつスチルチャンスが来るのかとワクワクして見ていたのだけれど……どうも様子がおかしい。

 家系の問題でルート入りしないと全くヤンデレ成分を外にばら撒かないほどに外面の分厚い周防様、藍鉄様、そもそも同じ使用人にもかかわらず訳ありで婚約者入りした檜皮様が使用人である私たちに対しても横柄な態度を取らないのはまだわかるとして。

 若緑家の旦那様と奥様を復讐のために殺した浅葱様は、常盤様に優しくしながらも、他の攻略対象たちを牽制して彼女の味方を減らし、常盤様を篭絡しようとする動きを取るはずなのだけれど……彼が周りに対して攻撃的な行動を取らないのだ。

 あれ、復讐心の塊だった人が、ただのいい人になってないか?


「おはようございます」


 使用人を皆汚いものを見る目で見ていたとは思えないさわやかさに、思わず二度見してしまった。いつも綺麗だけれど、ハイライトの消えた目をしているはずの浅葱様の瞳に、気のせいかハイライトが見える。まるで復讐なんてしません、綺麗なものしか愛しませんという正統派乙女ゲームの攻略対象みたいじゃないか、なんということだ。

 一種のおぞましさを感じながら、私は「おはようございます」と会釈をした。

 そういえば、軍人ゆえに常日頃から誰に対しても……それこそ常盤様に対しても高圧的なはずの千歳様も、なんだか優しいような。

 私が常盤様のベッドメイキングを済ませ、シーツを洗って干していたら。


「キャッ……!」


 物干し台が壊れてしまい、私が尻餅をついていたら。


「大丈夫か?」


 千歳様に手を差し出されてしまった。誰かと勘違いをしてないかと思わずキョロキョロしてしまったけれど「シーツが汚れてしまったな」と気にされてしまった。

 そんな。男尊女卑万歳な、時代背景的にはなんの間違いもないけれど、乙女ゲームの攻略対象としてはお前は攻略される気あるんかとつっこまざるを得ない、イケメンでなければ許されないパワハラモラハラの権化みたいな千歳様が下々の心配をなさるだなんて。

 私は慌てる。そんなことを常盤様の婚約者候補にさせる訳にはいかない。


「今だったらまだ少しゆすげば大丈夫ですから、お気になさらず」

「そうか……しかし物干し台が壊れてしまったら洗濯物も干せないな。修繕道具はあるか?」

「はあ……使用人に尋ねればよろしいかと」

「そうしよう」


 そう言って直しはじめたのを、私はポカンとした顔で見つめていた。

 プライド富士山の人が、一体全体どうして? その疑問が付きまとった。

 スーパー外面いい技の一号であらせられる周防様は、相変わらず貴族の後継者としての知識がまだまだな常盤様に付き添って、貴族としての立ち振る舞いを教えてらっしゃる。

 乙女ゲーム本編においてもたびたび見られたけれど、ここまで瞳にハイライトを浮かべて、陰りをなにひとつ帯びてない顔で行ったことはない。

 藍鉄様は藍鉄様で、たびたび常盤様と一緒に書斎で本を読み、互いに好きな本を交換なさっている様子だった。士族であり、男尊女卑万歳な価値観に捕らわれているはずの彼は、常盤様の本を嗜む様を、本編中ではたびたび苦言を呈し、「部屋で大人しくしていればいい」「裁縫のひとつでも学んではどうか」と、乙女ゲームの攻略対象で、ゲーム内が大正風でなかったら時代錯誤なクソ野郎扱いされてもおかしくなかったというのに、ただのスポーツマン風イケメンになっていまわれている。


「どうかなさいましたか? 常盤様の婚約者候補の皆様を凝視なさって」


 私があまりに呆気に取られて眺めているのに、とうとう執事長であらせられる檜皮様に咎められてしまった。私は慌てて言い訳をする。


「いえ、お嬢様の婚約者たるもの、お嬢様ときちんと交流なさっているかと確認していただけですが……あのう、申し訳ございません。皆様、このような方でしたっけ……?」


 たまりかねてこっそりと質問してしまう。私の問いに檜皮様は「そうですねえ……」と小首を傾げた。その仕草は常盤様ととても似てらっしゃる。


「皆様、最初に若緑家にいらっしゃったときは思い詰めた顔をなさっていました。そりゃそうでしょう。自分の動きひとつで、簡単に若緑家、引いてはこの土地の権力図が塗り替わってしまうのですから、家やら名誉やらの重圧を感じない方はおられませんから。ですが、この家にいらっしゃってから、だんだんと態度を軟化していきました……本当に、常盤様が幸せになられるのならば、私にとってはそれが一番幸せなことです」


 そうしみじみと瞳に涙まで浮かべている檜皮様の発言に、私は必死に顎が外れるほど口をポカンと開けそうになるのを堪えていた。

 あなた、そんな殊勝なタマじゃなかったでしょうが。

 このスーパーヤンデレ大戦の最中、もしも全ての婚約者が常盤様に相応しくないと判断したら、全員始末して実の妹だということを明かした末に常盤様誘拐して雲隠れする、一番のヤンデレじゃありませんか。

 そうツッコミたくても、私はツッコめなかった。一番のヤンデレ実兄、訳あって身分詐称にツッコミを入れるなんて命知らずなことをする私じゃないぜ。

 夕食の団欒中。

 男性陣は食卓に残って酒を飲んだり葉巻を吸ったりして和気藹々としている。

 待って、この話はヤンデレ乙女ゲームの世界だぞ。婚約者の座ゲットのために他の婚約者を陥れるのがミソな話だぞ。

 お前ら全員愛憎模様どうしたんだよというくらいに、人間関係が和やかな中、それをあからさまに不満げな顔で見つめている顔に気付いてしまった。

 ……常盤様が、むくれた顔で攻略対象たちを見つめている。

 私はそれを見て気付いてしまった。

 もしかしなくっても、乙女ゲームのシナリオが、根本から崩壊してしまってないかと。


****


「黄昏時なり我が人生」

「ひっぐ!?」


 夜間、常盤様のお召し物をずっと着ていた振袖から寝間着への着替えを手伝っているとき、ボソリと言った途端に、あからさまに常盤様は挙動不審になった。

 やっぱり。もしかしなくっても。


「あなた……まさかと思うけれど転生者?」

「あ……あのう……」

「転生者?」

「は、はいぃ……」


 そう答えられてしまったら、私はなんとも言えなくなった。

 私からしてみれば、スチル回収キャッホーと安全圏から乙女ゲームを楽しむつもりだったが、乙女ゲームのヒロインは違う。

 乙女ゲームのヒロインたるもの、フラグ管理は絶対。フラグを一本間違えたらその時点で好感度維持ができなくなり、破滅ルートが待っている。

 ヒロインが死ぬ。それは自己責任にしても。

 婚約者が死ぬ。変死。婚約者と死ぬ。焼死。婚約者庇って死ぬ。転落死。墜死。溺死……。とにかくバリエーション豊かに死ぬ。

 とにかくデッドオアデッドなのだから、数多の死亡フラグをへし折るために、本編開始前にあれこれとやって、死亡フラグもヤンデレフラグも改変してしまったのかもしれない。

 そうか……私は自分の趣味ばっかり優先していたけれど、違うのね。


「なんだかヤンデレ成分が全然足りないのだけれど、あなたがシナリオ改変していたのね……」

「……ですよ」

「えっ?」


 常盤様……的な転生者は震えた声で叫び出す。


「違うんですよ、私、ものすっごーくヤンデレ好きだから、わくわくしてヤンデレに突撃していったら、皆ヤンデレが空中分解してしまったんですよ!」

「……はい?」


 常盤様……的な転生者は、それはもう、泣きながら説明をはじめた。


「私前世のときからヤンデレむっちゃ好きだったけれど、周りには理解者もいなくって。現世では念願のヤンデレだらけの逆ハーレムになったんで、はりきってヤンデレな目に遭うぞと、それはもう全員を受け入れていったんですよ……ですけど、誰も、ヤンデレな目に、遭わせてくれないんですぅ!」


 ……ヤンデレとは、ぶっちゃけ愛だ。

 病むほどに相手を愛していなければ存在できない泡沫の感情。動きひとつで霧散してしまう繊細なそれは、光属性主人公が全部を受け入れてしまった途端に、全部消えてしまうのだ。

 だって、病むほど不安にならないから。

 だって、全部を受け入れてくれたら、病む必要もこじらせる必要も微塵にもなくなってしまうから。


「たとえば監禁されそうになったとき、私はしゃいで抱き着いちゃったら、そのまんま出してもらえちゃったんですよ。監禁してくれませんでした」

「……監禁しなくっても逃げないって判断したら、監禁する必要ありませんしね」

「首を絞められかけたときも、嬉しさのあまりにニタァーと笑っていたら、首絞めてもらえませんでした。むしろむっちゃ謝られました」

「……微笑みと共に全て受け入れられたと判断したんでしょう。病まなかった場合は罪悪感半端ないですし」

「そりゃ王道ハッピーエンド路線の乙女ゲームユーザーだったら、逆ハー最高になるかもじゃないですか。でももう私が誰を婚約者に選んだとしても、誰も病んでくれないんですよぉ。病んでくれなかったらヤンデレはじまんないじゃないですかぁ……!」


 なんということだ。

 私たちヤンデレ愛好家は、ヤンデレをおいしくいただけるというのに、それを嫌がる人でなかったらヤンデレを堪能できないということなのか。


「おバカ。なんでそんな全員光堕ちなんてさせちゃったの。スーパー変身ヒロインものじゃないのよ」


 とうとう私は暴言を吐いてしまうと、常盤様はなおも涙目で訴える。


「私だってヤンデレ大好きですよぉ。ヤンデレのまんま愛でる気満々でしたよぉ。私別に乙女ゲーム転生もの定番の死亡フラグ全部折りとか求めてませんでしたもんー。どうしてこうなったんですかぁ」

「おバカ。そんなのこっちが知りたいわよ。どうやったら全員病んでくれると思うっ!?」


 こちとらヤンデレが見たいからここで働いているというのに、ただの平和な逆ハー見たところで、なんの面白みもないんじゃ。

 それに常盤様が「ん-ん-ん-ん-……」と首を捻る。


「……ビジネス百合して、周りを動揺させて、それで皆に病んでもらうとかどうですかね?」


 それ、私安全圏にいられないじゃん。冗談じゃない。


「い・や・よ。そもそも今日思い出したばっかりなのに、どうしてヤンデレ見るために常盤様とビジネス百合しなけりゃならないんですか」

「私も百合よくわかりませんけどぉ。ちなみに大正時代ではエスって言ったらしいですねえ」

「この世界観大正風だからどこまで大正なのかは知りゃしませんけどねー」


 話し合いは平行線のまま、グッダグダで常盤様の着付けは終わり、部屋を出ることにした。

 私はただ、壁の花のようになって、ヤンデレを見守りたかっただけだというのに。

 ヤンデレ適性があり過ぎると、逆にヤンデレが壊れてしまう場合、どうやってヤンデレを愛でろというのか。

 頭が痛くなりながら、使用人室へと帰っていった。


<了>

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