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09

迷宮が封鎖されてから三日が経った。


その間私はちょっと強い魔物とちょっと弱い魔物を狩って、効率の差を比較していた。その結果、どうやら私には、ちょっと強い魔物を狩るのが向いているらしいと気付いた。


魔物を狩って、爪や角で鏃を作り、矢を作る。作った矢で魔物を狩り、また矢を作る。


両親と暮らしていた頃と同じ、質素で凡庸な生活。それでいて、ちゃんと楽しい。自分で考えて行動し、結果を得るのは非常に難しいことだから達成感もある。

私って頭脳労働より肉体労働が向いてるのかも!


集めた魔石を大事にポーチへ仕舞う。目標額には届かなかったけれど、致し方なし。

一括で払った宿代の返金対応が可能らしいので、明日には立つ予定だ。


荷造り時間を作るべく、今日は早めに切り上げて帰路に着く。晩御飯前におやつも食べられちゃう時間だ。なにか食べようかな。今の街はほとんどお祭り騒ぎなので、おやつの種類が豊富なのだ。


クッキーと、ケーキと、プリンと、それからそれから……


近くの森に木の実がなっていたから、それを採って自分で作るのも良いかもしれない。作ったことはないけれど、父が作る姿をよく見ていたし、できるはずだ。たぶん。


寄り道しようと足を向けた先、遠くで響いた人の声。助けを求める声が聞こえ、自然と足が向いた。

耳をすませば獣の息遣い。逃げる足音も追う足音もひとつずつ。これなら、助けに入って私がやられるなんてこともないだろう。


足を進めながら地図を思い浮かべる。封鎖された迷宮に近い。進んでいくと小川がある方角。あの辺りは少し開けていたはずだ。闇雲に突っ込むと、矢をつがえる隙がなくなってしまう。


木々が途切れる一歩手前で観察する。肉食獣を素体とした魔物と、川を挟んで人が居た。


音を立てないように弓を引く。魔物の牙で作った矢だ。獣素体なら貫けるはず。


「モルモルシュー!」


なんとなく癖になっている掛け声と共に矢を放った。矢は魔物の頭を貫通して、向こうの木へと刺さる。

数拍置いて魔物が自壊。 魔石だけ残して跡形もなく消えた。


「おけがはありませんか?」


しりもちをついて震えているのは、中肉中背の男性だ。装備をつけてはいるけれど、古く貧相で簡単に壊れてしまいそう。


「だいじょうぶですか?」


あまりにも呆然としているから心配になる。頭を打って動けない可能性を考えて、視線を合わせるためにしゃがんだ。

私と目が合った男性が、血相を変えて後退る。


「み、見なかったことにしてくれ! 忘れてくれ! 俺には子供が二人居るんだ!」


今にも走って逃げ出しそうだ。けれど、腰が抜けてしまっているみたい。何をそんなに恐れているのだろう。


私が反応しないことで少し冷静になったらしく、男性は口を閉じた。次の行動を探るような目付き。


魔物に襲われているところを見られたくない……なんて話ではないだろう。恥じていると言うより、焦っているような……バツが悪いとでも言うか、なんと言うか。


ううん、見られてはいけないことをしていた? それは一体なんだろう?


「あ、あんた! よく見りゃガキじゃねーか! クソ、脅かしやがって……」


ようやく立てるようになって、私の背丈や体格に気付いたようだ。助けられておいてその言い草はなんなのだ、とは思う。でも、感謝されたくて助けたわけではない。

しかし、何故こんなにも敵視されているのか。


「その魔石半分よこせ。オレが引き付けてやったから仕留められたんだろ」


私の足元に転がる魔石。質はそこそこ良い。売れば多少の金額にはなるだろう。拾い上げて、はたと気付く。あの魔物を狩っても、魔石の質はそこまで良くなかったはずだ。それに、この辺りでは迷宮の中以外に居ない魔物なのだ。


つまるところ、彼は封鎖された迷宮に不法侵入したが魔物に歯が立たず、迷宮から逃げ出したのではなかろうか。それなら、開口一番「見なかったことにしてくれ」と宣うのも頷ける。

封鎖された迷宮に入るのは法に触れるのだ。暗に、子供のために迷宮へ入ったから、見逃してくれ……そう言っていたのでは?


「おい、話聞いてんのか」


気付いていないと踏むや否や、態度が急変するのも最低。人間性が最悪。そんな人に育てられる子供が可哀想だ。


「……わかりました。」


エルフ特製の魔石加工用ナイフでサクッと半分にして放り投げる。後で探しやすいよう、切断面に細工をした。名前を知らない人を探すために、今できるのはこれくらいだ。


「ハッ、最初からそうしろってんだ」


私が投げた魔石を乱雑に仕舞う様を見て、街に戻ったら通報しようと決意を固める。違反した場合、どんな刑罰を受けるのかは知らないけれど、彼の家族とは引き離してくれるように祈るしかない。


通報までの算段をつけていると、どこからともなく声が聞こえた。今の今まで気配も、音も、感知していなかったのに。


「……感心しないな」


強い風が吹く。青い外套をはためかせて立つ男は――


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