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さて、アルトゥールについて、私が知っていることを整理しておこう。
彼が名乗る『アルトゥール・セラフィ』というのは聖人アルトゥールとしての名前であり、セラフィは家名ではない……というのは、知っている。
まあ、いくつも土地や爵位を持っている貴族なら、呼ばれ方が色々あるのも普通だし、そこはあまり重要ではないだろう。
それから、彼が神の寵愛を受けた人間だということも、知っている。故に彼には不可能がなく、望むもの全てが与えられるようにできている。彼のために世界が作り替えられることすら、あるだろう。
だから私は、彼とあまり近付きたくなかったのだ。
彼と一緒にいれば、私が私でなくなってしまう――そんな可能性を恐れていた。
彼が望めば、人の感情なんてものいくらでも変えてしまえると、思っていたから。
一緒に過ごすうちに、そうではないと気付いたけれど。
私としては現状の情報で足りているから、これ以上知りたいこともない。でも、話したいなら拒む必要もないよね。
「なんでもどうぞ!」
と、いうわけで。紅茶を淹れてお話タイムだ。
お茶請けには、さっき女将さんからお礼にもらった郷土菓子。たぶんアルトゥールの好みじゃないだろうから、こっそり隠し持っていたクッキーも出しちゃう。特別だよ!
「ありがとう……その、何から話すべきか、まとまっていないが……聞いてもらえるかい」
「はい」
対面だと話しにくいかと思って、隣……というか、斜めくらいに座ってみた。
「これから向かう先、マクレイド大公国の大公が私の父なんだ」
マクレイド大公国というと、山と川に囲まれていて、肥沃な土地を有した国だったと思う、たぶん。自然災害もほとんどなく、魔物の被害も少ない平和な国というイメージ。迷宮も無いから、行先候補からは早々に外していた。
アルトゥールという好青年が生まれ育った地としては、らしいというか、ぽいな〜というか。平和な場所だ。
「そして、マクレイド大公というのはアトムティア王の王弟だ。王位継承権もある。もちろん、その子である私にも」
アトムティア連合王国。なんかとにかくすごい大国で、南は砂漠、雨林、湿地帯を有し、北は亜寒帯までを有する超大国だ。現実味のない規模感に、ちょっと困惑。
「私の周りには王位に執着している人が少なかったけれど、人を殺してでもその地位が欲しいという人は少なからずいる。……貴方にも、迷惑をかける可能性がある」
申し訳なさそうに言うから、私は思わず首を傾げた。
「えっと……いいたかったのって、それだけですか? あっ、えっと、そうじゃなくて……うーん……」
どうでもいいとはちょっと違うし、でも、気にすることじゃないなって思うから、なんて言えばいいんだろう。
アルトゥールは私に何を言ってほしいのかな。
「……実際、事件は起きている。この街に来た時、違和感はなかっただろうか」
「いわかん?」
「建物の年代が、緩やかな変化ではなく二極化していただろう」
それは思った。どこかのタイミングで一気に建てたみたいになっているから、不思議だなと。そういう都市開発的な話があったのかなって、考えていた。
「私が産まれた際に、マクレイドで襲撃事件があったのだが」
「? ……はい」
「この街を管理していた貴族も、首謀者の一人だったんだ」
「はい」
「その結果、この街で大洪水が起きて――」
「どこではなしとびました!?」
話すの下手っぴすぎない!? あえて言わなかった部分があるよね? ツッコミ待ち?
アルトゥールがなんかちょっと、不貞腐れた子供みたいな顔をしている。大人っぽく見える部分もあるけれど、全然まだ子供なんだなあ。
言いたくないのはわかるけれど、言い始めたなら最後まで言ってほしい。気になっちゃうし。
「この街だけでなく、災害は各地で起きているんだ。それも、襲撃に関わった者の周りのみ。全て、襲撃時間と同時刻のことだった」
あ、話が読めてきた。つまり、それ全部私のせいだ! みたいなオチだ。私知ってる。
「私に害をなす者には、天罰が下るらしい。もしかしたら、この先のどこかで、貴方にも」
天罰が下るから、彼は聖人なのか。
それは違う。理由のひとつにはなるかもしれないけれど、それ以上に彼はたくさん人を助けてきたし、今もそのための努力をし続けている。
だから私は、思う所があれど、彼と行動を共にしているのだ。
「それなら、へーきですね」
「平気?」
「わたし、アルトゥールのみかたですから!」
――というわけで、アルトゥールの話はここまで。
ここからは、私の話をしなければならない。
さて、何から話そう?




