32
湖と反対側にある街の端には、ギルドのほか、冒険者向けの宿泊施設や大衆食堂が並んでいる。その中のひとつ、気になっていた大衆食堂の二階にはバルコニーがあり、街と湖を見下ろせるようになっていた。
「ティアーナは店選びが上手いな」
「ふふん」
リーズナブルかつ、美味しくて居心地もいいお店を探すのは得意だった。エルフの五感と私の勘による合わせ技だ。
「それで、これからのことだが――」
「ストップ! そのはなしは、ごはんをたべてからにしましょう」
空腹の時に悩んだって仕方がない。今考えるべきは何を食べるかだ。
というわけで、まずはご飯タイム。
魚料理は白身魚のフライとグリル焼き。よくわからないスパイスが効いていて、不思議な味。でも普通においしい。エキゾチックなかんじ?
それから、豆が入ったコロッケ。これにもスパイスとハーブが効いていて、風味が豊かだ。この辺はスパイスの原料が豊富なのかも? ソースもあったのに、素の味でも美味しくて、付けずに食べちゃった!
メイン料理ばっかり食べてる私と違い、アルトゥールはサラダやスープから丁寧に食べている。
私が同じことをしたら、最後まで食べられないからいいの!
最後に、小麦粉で作った生地にひき肉を挟んで焼いた、薄いパイみたいな、ミルフィーユ風の料理を食べて終わり! 満腹!
デザートはアルトゥールとのお話が終わったあとにする。……けど、その前にお茶だけ頼んでおく。ハーブティーっぽいのに、ほんのり甘くておいしいのだ。
「好き嫌いはないのかい?」
「いまのところ、ないですね……?」
アルトゥールはあまり冒険せず、どこでもよく見る組み合わせで食事を終えたらしい。サラダやスープ、メインにお肉、それから普通のパン。
好き嫌い、か……そう言われてみれば、好き嫌いを意識したことがなかったかも。
今はなんというか、食べたことないものを食べるのが楽しい時期で、珍しい料理を見つけたら挑戦してみることにしている。それで、おいしくない! ってなること、ないかも。
「そうか……見つかったら、教えてほしい」
「はい! きょうのごはんだと、おちゃがいちばんすきです」
私の言葉を聞いて、水しか飲んでいなかったアルトゥールが、店員さんにお茶を頼む。一口飲んで、「確かに、美味しいな……」と呟くものだから、得意げになってしまう。私、味覚の才能あるかも!
アルトゥールがお茶を飲み切ってから、私のと合わせておかわりを頼んだ。
さて、満腹になったら話をする時間だ。
「なんてかいてあったんですか?」
「用ができたから離れる……というのと、私の実家に向かうと」
「じっか……?」
「ああ。……いや、先生のではなく、私の実家だ」
「アルトゥールの」
アルトゥールの実家。それはつまり、彼が「殿下」と呼ばれる所以の。
「……あまり気乗りはしないが、機会をいただいたのなら、行くべきだとは思っている」
理由はわからないけれど、行きたくはない、というのが滲み出ている。
正直私も行きたくない。アルトゥールと行く以上、国の中枢になるわけだし、そうなるとルールとかマナーとかが面倒臭い。
しかし、私のことを手伝ってくれているのに、勝手に行ってこいと言うわけにもいかない。アルトゥールが行くのなら、行く。他に頼るあてもないのだから、ちょっとくらい寄り道したって変わらない。手掛かりが見つけられたら御の字だ。
「アルトゥールのはんだんを、そんちょう、します」
アルトゥールが行きたくないと言うのなら、それでもいい。私はまた、別の手掛かりを探すだけだ。エルフの里に片っ端から行ってみるのも良いだろう。
なんやかんや旅の中で路銀も稼げたから、選択肢は多い。
「……ありがとう。ティアーナ、ついてきてくれるか」
「もちろん!」
よし、話がまとまったらデザートだ。
選んだデザートは薄いパイ生地を何枚も重ねていて、その間にクルミが挟んである。あつあつのシロップがたっぷりかかっているから、ちょっとリッチな気分! ボリュームたっぷりなのも、幸せのスパイスだ。おいしいご飯とデザート、最高! ついでにヨーグルトドリンクも飲んだら完璧!
「んん〜!」
我ながら、自分の体のどこにこれだけご飯が入っているのか不思議だけれど、それもエルフだから、ってことにしておく。説明のつかない身体の不思議は、エルフを理由にしておけばよかろうなのだ。
「実家に連絡をするから、返事が来るまではこの街に滞在しよう」
「はい。あとむま? の、ちょーさですね」
物理攻撃専門の私は役に立てないから、その間はなにをしよう?
せっかく湖あるし、舟で出れたりしないかな。あ、普通に魚釣るのも楽しそう。ギルドで依頼を受けるのもいいかも!
明日が楽しみすぎて、昨日見た夢のことなんて、すっかり忘れてしまっていた。




