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アルトゥールが持ってきた車内販売のお弁当は計三種類。つまり、争奪戦だ。
何でもいいと言うアルトゥールとルードルフィを除いた四人でカードゲームをすることになった。
「よし! ここは簡単にババ抜きでいこうぜ。ティアーナちゃんもいるしな」
「ババヌキ?」
くらまさんとオリビンさんが首を傾げると、徳川さんがルールを説明する。その間にアルトゥールがカードをシャッフルして、みんなに配っていた。阿吽の呼吸とまではいかないけれど、息があっている。性格も育った環境も全然違うだろうに、と少し驚いた。
「んじゃあ、準備はいいな?」
「待って。一位は最下位に命令する権利を得る、もルールに追加なさい」
「みんなもそれでいいか?」
「いいぜ!」
「はい」
配られた手札から、まずは捨てられる札を探す。初手で結構減らせたのはいいけれど……手札の一番端にJOKERの文字を見て、落胆。
私の手札は四枚。ババの他にダイヤのジャック、スペードの6、クラブの3だ。
目の前にいるくらまさんは七枚。斜め前のオリビンさんも七枚。隣の徳川さんは五枚だ。
順番は、オリビンさん、くらまさん、私、徳川さん。時計回りに進む。アルトゥールは私の隣で戦況を眺めていた。
「オレから行くぜ! ……おっ、キタ!」
ハートとスペードの5だ。
「余だな。早う寄越せ」
「アンタほんッと上から目線だな」
クラブとスペードの7。
「し、しつれいします……」
「ええ。失礼させてあげましょう」
スペードのジャック! やった!
「いくぜティアーナちゃん!」
「は、はい!」
クラブの3を抜かれて――ダイヤの3が場に出た。一巡目にして残り二枚というのは運が良いかなと思うけれど、残り少ないほど上がり難くもなる。考えるのはあまり得意ではないから、とりあえず流れに身を任せて運ゲーだ。
二巡、三巡と進み、徐々に緊張感が高まっていく。私は残り二枚の手札からいつジョーカーが出て行ってくれるかだけを考える。徳川さんは視線誘導が上手い。カードゲームに慣れているようだ。
誰もカードが減らない四巡目と五巡目が終わり、六巡目。オリビンさんがクラブとダイヤのキングを出した。徐々に終わりが近付いて、焦りが出てくる。
くらまさんがダイヤとハートの2。私の前二人は手札が一枚ずつになった。どうしよう。
七巡目、ジョーカーが私から徳川さんへ回った。ほっと息を吐く暇もない。この先は誰がジョーカーを持っているかわからないのだ。慎重に、徳川さんとオリビンさんを見守る。
「カードゲームってさ、このヒリついた感じがイイよな」
と言うのは徳川さん。
「ふざッけんなよ! 良くねぇ!」
頭を抱えるのはオリビンさん。これ多分、ジョーカーが移動したんだと思う。何となく、だけど。
「勝てばイイけれど、負けるとムカつくわ」
そう口にしたくらまさんの手札には、恐らくまだ、ジョーカーは移動していない。私はあと、6かクイーンが来れば上がれる!
目を瞑って深呼吸をしてから、カードを引いた。ハートの6だ!
「やったあ!」
「おめでとう、ティアーナ」
思わずアルトゥールとハイタッチ。はしゃいだのが恥ずかしくて、咳払いをしながらクイーンを徳川さんに渡す。
「おっけ、俺も上がるわ」
クラブのクイーンと合わせて、さらりと場に出した。二位は徳川さん。
最下位争いはオリビンさんとくらまさんだ。二人がじろり、と睨み合う。さっきも最後は二人が最下位を争ってた気がする。カードゲーム弱いのかな……?
「ふふ、此度は勝たせてもらうわ」
「やれるモンならな!」
「あっ……!」
「ヘヘン!」
二人とも、めちゃくちゃ分かりやすい。最初にジョーカーを持っていたのが徳川さんだったら、私負けてたかも。
「それで、ティアーナは何が食べたい?」
三種類のお弁当はそれぞれ、お肉メインなのが二つと、お魚メインが一つだ。お魚、気になるけど……きっとフロンに行ったらお魚食べれるし、ここはお肉だろうか。
「これにします!」
「はい、どうぞ」
手渡されたお弁当は、思ったより重い。なんでだろうと側面やら底面を見てみたら、底に魔石が嵌っていた。
「ああ、それは防腐と――」
押したらカチッ、と音がした。途端にお弁当がじんわりと温かくなっていく。
「押すと温めることができるんだ」
「すごい……!」
魔石には、こういう活用方法もあるんだ……感心。ということは、このお弁当箱は魔導具という判定になるのだろうか。
「すげーよな、魔力って。使い捨てにはなっちまうけど、色んな使い方できるし」
徳川さんも私と同じお弁当を選んだみたいだ。
最下位争いは、どうやらオリビンさんの勝利で決着がついたらしい。お魚のお弁当を選んでいる。くらまさんはお肉、アルトゥールはお魚、ルードルフィさんはお肉で、全員にお弁当が行き渡る。
「そうですね……わたしはつかえないので、より、みりょくてきにかんじます」
「エッ、使えねェの!?」
驚いた声を上げたのは、オリビンさん。若いドワーフのようで、見目はハーフリングに近い。人間の少年にも見えるかも。
「そのかわり、ゆみがとくいです」
「ヘェ……」
「純粋に技術だけなら、くらま以上だよ」
「ほう……気になるわね。今度手合わせしましょう」
「お、おそれおおいです……」
くらまさんはきっと、技術だけじゃなく、別の力も使って武器を操るタイプなのだろう。妖怪には独自の……妖術? という力の使い方があるらしいし。
「それで、そなたは何を望むの?」
お肉を頬張っていたら、くらまさんが私を覗き込む。何の話だと一瞬悩んで、さっきのゲームについてだと思い至る。
「あっ……えっと、それなら……おかず一口、ください」
「んんっ!」
「ン゛ッ」
「ふっ、ふふふ……本気?」
噎せるアルトゥールの背中をさすりながら、くらまさんに頷いた。オリビンさんは下を向いて肩を震わせている。
「ティアーナちゃんってさ、めっちゃ可愛いよな……」
そう言って、何故か徳川さんがおかずを分けてくれた。示し合わせたようにアルトゥールとオリビンさんもおかずをくれる。なんで?
「これは無効にしましょう。何か思いついた時でいいわ」
くらまさんもその上におかずを乗せるから、私のお弁当だけ大ボリュームになってしまった。くれるなら、嬉しいけれど……釈然としない。
「さっきの勝者は、アダマンタイト製の剣を打てとかぬかしやがったからな」
「ゲームなのに……?」
「きみが腕を賭けると言い出すからだろう」
あ、さっきの勝者ってアルトゥールなんだ。
「食べ終わったら再戦……と思ったが、そろそろ終点っぽいな」
「あら残念」
「次会う時はオレが勝つからな!」
賑やかな三人に、思わず笑みがこぼれる。
苦手だからと避けていたのに、なんだかんだ、楽しんでしまった。
でも、べつに、結果的には悪くはなかったかも。
なんて思ったり、思わなかったり、ラジバンダリ。




