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「ずるはするなよ! 能力使用禁止だからな!」

「見えてしまうものは仕方ないわ」

「あえて使わないようにするのは難しいね……」

「ズルしたヤツ、蒸留酒イッキな!」

「お前、まだ飲めねーだろ」


徳川さん、くらまさん、アルトゥール、それからドワーフの少年……名前は確か、ええと……オリビン? さん……だっけ?

どうやらその四人は、カードゲームを始めるらしい。辞退した私と、もう一人残ったのは獣人族の少女だった。

青みがかった灰色の癖毛は長く、座席に腰掛けたとき、自分で踏んでしまっている。痛くないのか気になるけれど、聞くのは憚られて心配だけ。長いまつ毛に彩られたまんまるの瞳には瑠璃色が嵌っていた。

朝焼け過ぎの、青に染まっていく世界を映したような少女。朝の清々しさをまとっているからか、純粋で澄んだ人だなという印象を受けた。


彼女は何も言わず、窓の外を眺めている。


私も自由にしよう。こういう時間には道具や装備の手入れをするのがちょうどいい。本があれば読みたいけれど、重いし嵩張るから持ち歩けないのだ。


どのくらい経った頃だろう。かなり集中していたため気付くのが遅れたけれど、視線を感じる。あまりにも見つめられるものだから、観念して顔を上げた。


「どうしました?」


驚いたのか、癖毛に隠れていた耳と尻尾が揺れている。それから視線が右往左往。表情は変わらないけれど、行動で動揺が分かりやすい。


「これ、きになりますか?」


ポーチやナイフを吊るすベルトの手入れをしていたので、持ち上げてみる。首を横に振られた。


「……あなたに、興味があります」

「えっ」


えっ?


美少女に見つめられてドギマギしてしまう。今度は私の視線が右往左往する番。目を見つめるのは恥ずかしくて、首の辺りを見ようとしたけれど、そこには無骨な首輪があって、倒錯的だ。


「気になりますか?」


視線に気付いたのか、首を傾げる美少女。立場がさっきと逆だ。私は取り繕うことも忘れて、頷いた。


「これはあなたのお仲間に付けられました」

「アルトゥールが……?」


鈍い色を放つ無骨な首輪は、少女の細い首には似合わない。それに、なにより重そうで、可哀想だとすら思う。悪環境で働く奴隷は首輪を付けられると聞いたこともあったから、余計に。

しかし、それをアルトゥールが付けたと言うのなら、何か理由があったのだろう。一体何が起きたのかは知る由もないけれど。


「これは封印、のようなものです」

「ふういん?」

「はい。無いと暴れます」

「あばれるの!?」


大きな声が出て、慌てて口に手を当てる。


幸い、アルトゥールたちはカードゲームに熱中していて、気付かない。


「なんで……?」

「……理由が必要ですか?」

「えっ、うん……はい。ふつう、りゆうなしに、あばれないとおもうので」


少女は、本当に不思議そうな顔をする。狼の獣人と言う割には小さな口が、弧を描いた。途端、ゾッとするほどの寒気に襲われる。


「丸呑みにしてしまいたいくらい、可愛らしいことを言いますね。まるで平和の子。つまらない」


口端から青い炎が零れて、目の前の少女がただの獣人ではないと識る。獣人に似た姿をしているだけで、本質は違う、もっと、恐ろしいもの。


「わたし、あなたのことが嫌いです」


私を見つめる目がすい、と細められる。瞳が青から金に変わっていく。満月の色だ、と思った。


「一より全を優先する英雄は、まだ許せます。全より一を選ぶ惨めで、哀れで、愚かで、高貴な者は、許せません。赦されるなら、わたしがあなたを噛み砕くのに」


深く憎悪が刻まれた呪詛だ。私は何をした覚えもないけれど、彼女の逆鱗に触れたらしい。一瞬狼狽えて、それから、見つめ返す。


「……おいしくなさそう」

「そこまでだ、ルードルフィ」

「トクガワ、さん?」


私と彼女の間に右手を差し込んで、徳川さんが首を振る。カードゲームはくらまさんとオリビンさんの二人で最下位対決をしているようだ。

……アルトゥールは?


「アルトゥールには昼飯取りに行ってもらってる。ルードルフィを殺されたら困るからな」

「命乞いはしませんよ?」

「知ってるっつの。だから俺がするんだわ」


彼女の瞳が青に戻っている。炎のようで、氷のような青色だ。美しいけれど、恐ろしい。


「ごめんな、ティアーナちゃん。忘れてくれ。借り、ひとつってことで」

「はい。あまりきにしてません」


頷くと、明らかにほっとした顔を見せる徳川さんは、思っていたのと少しだけ違う印象を受ける。あの騒々しい話し方はキャラ作りなのだろうか。


「んじゃ、ティアーナちゃんもカードゲームしようぜ!」


手を引かれて、慌てて立ち上がる。あの少女は、興味を失ったように窓の外を眺めていた。


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