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侯爵は鉄道のハイジャック犯は悪魔を崇拝する黒魔術師集団だと語った。だが彼らは偶然、たまたま、数奇な運命の元に世俗に反した行いをしているだけで、悪魔崇拝も黒魔術師も咎められる謂れはないとも。
悪魔崇拝や黒魔術に関して、悪感情を抱いている人は多い。その中でそういった発言ができる侯爵は変な人だ。話を聞いている限り、侯爵はどうやら研究者気質があり、魔力に関する事柄に目が無いらしい。
だから、魔物も、魔術も、魔法も、侯爵にとっては等しく愛しい存在なのだ。
「それで、どうする気でいたんだ?」
アルトゥールは侯爵をじっと見ながら問いかける。青い瞳が澄んだ光を放っていた。
「少し泳がすだけで、簡単に隠れ家を教えてくれましたよ。実行犯を捕らえるだけでは解決とは言えませんからね」
鉄道は車体だけでなく、線路にも特殊な技術が使われていて、今どこにあるかが分かるようになっているらしい。それから、線路に魔力を流して遠隔操作もできるのだとか。
なら、最初から遠隔操作をすれば鉄道を止める必要もなかったのでは? と思ったけれど……どうやら運転手が人質に取られているらしい。
「そこでボクの出番です」
「ローガさんの?」
「ああ。ボクは冒険者ギルドでAランクを戴いている魔術師なんだ」
どのギルドも、そのギルド独自の選定方法でランクが設けられている。冒険者ギルドのAランクとは非常に優れた強い冒険者であることを指す。
ランクは上から順にSABCDEFまであり、Fは登録したての見習い。Eは初心者から中級者。Dは一般的な冒険者で、一番人口が多い。Bは腕に覚えがあり、何らかの功績を成した者や歴戦の戦士だ。
冒険者ギルドでAランクというのは、上位数パーセントの上澄みなのである。ちなみに私はDだ。
「Aランクの冒険者を雇い、隠れ家ごと制圧……その後、鉄道を復旧するという流れか」
「ええ。しかし懸念点がありましてね」
ローガさんがしゅんと肩を落とす。
「ローガは近接戦が非常に弱い。一人でも充分な強さを持っていますが、彼女は私の姪。万が一があってはならない。そこで、彼女の護衛ができる者を探していました。」
対外的にはただの冒険者だから、侯爵家の騎士が護衛するわけにもいかないのだ、と続く。
侯爵とローガさんの視線が私に向いた。確かに私は近中遠距離全てをカバーできるオールラウンダーだ。ローガさんのサポートやフォローもしつつ、立ち回れるだろう。
けれど、私は護衛なんてやったことがない。彼女を守り切れる自信もなかった。
どうしたらいいかわからず、アルトゥールを見上げる。彼は暫し逡巡した後、私を安心させるように微笑んだ。
「どうしたい?」
アルトゥールは、私ならできると思っている。だから、私の好きなようにすればいいと。
信頼されている。私を信じてくれている。私はそれに応えたい。
「やります」
むかし、むかし、遠い昔。その一言が上手く言えなかった。私は多くのことを「私にはできない」と思っていたから、言えなかった。
けれど、今は違う。
私にだってできることがある。父と母が教えてくれて、自分一人でも頑張って。アルトゥールが傍で支えてくれる。
「私は手を出せないが、パーティメンバーの危機となれば話は別だ。屋敷で待機していよう」
「ええ。では、私とチェスでもいかがでしょう」
「お手柔らかに頼むよ」
作戦は至ってシンプルだった。
まずローガさんが魔術で包囲、制圧して、身柄の拘束や撃ち漏らしに関しては侯爵家の騎士が動く。私はローガさんの安全を保証する範囲で好きに動いていいとのこと。
決行は夜。少し仮眠したら出発だ。




