閑話『きみと見つける願い事』
「さーさーのーは、さ〜らさら〜」
自身の背丈より長い植物を持ったティアーナが、街を歩く。上機嫌に歌っている姿は幼子にしか見えないなとアルトゥールは考えた。彼女に伝えたら怒るだろうから言わないけれど。
訪れた街で、ちょうど行商の青空市が立っていた。この街に泊まる予定だったため、少し見てみようかと提案したのはアルトゥールだ。複数の隊商が参加しており、珍しい物が多く出ていた。勿論良い物も悪い物もある。アルトゥールはこれを機にティアーナの審美眼を確認してみようと考えていたのだが――
「その歌は?」
「ササのうたです」
武器でも服でも貴金属でも食品でもなく、東から来たという商人が店先に飾っていた植物に興味を示したのだ。
元は商品ではなく飾りだったのだが、他の装飾品なども買うことで譲り受けていた。何が彼女の琴線に触れたのだろうかと、アルトゥールは不思議で仕方がない。
「重くは」
「ないです」
ティアーナは体こそ小さいが、一般的な成人女性程度の力がある。問題はないかもしれないが、やはり小さな体躯に大きな荷物というのは、見ていて落ち着かないのがアルトゥールだ。騎士道精神を学んで育ったのだから、さもありなん。
しかし、収納魔法があるから代わりに持つと言っても、ティアーナは頑なに受け入れない。まるで子供がお気に入りのおもちゃを手放さないようだ。一体何が彼女をそこまでさせるのだろうか。
「それを何に使うのか、聞いても?」
「きょうはかざります」
「明日は?」
「これでヤをつくってみたくて! でもでも、ヤリやユミもつくりたい……クロスボウもいいかも……」
美味しいものを食べている時と同じ喜色満面の笑みに、アルトゥールは固まった。彼女にとって武器もおもちゃも大差無く、作るのも使うのも楽しいのだと気付いたからだ。
そして彼女には、どちらにも才能があった。
エルフだからと言われてしまえば、なるほど確かにエルフは創造も狩猟も得意な種族だと納得はする。
納得はするが、それ以上のものを感じるのだ。アルトゥールの勘でしかないけれど、勘が働くのなら、きっと何かある。
「アルトゥールは、なにかおねがいごとありますか?」
勘の正体を探るべく、思考に耽っていたため、ティアーナの言葉を理解するのに時間を要した。目を丸くしたアルトゥールを見上げて、ティアーナは首を傾げる。
「かなえたいこと、ないですか?」
「叶えたい、こと?」
「はい! わたしはせがのびますよーに……と、つよくなれますよーにってかきます!」
「書く?」
「ササといったらタンザクなので!」
わからない単語が多く、アルトゥールは頭を悩ませた。
これからやると言うので、とりあえず何をするのか見届けようとアルトゥールは紅茶を淹れて見守ることにした。
自身の願いについては未だよくわからない。
「それは……和紙、だったか」
「タイミングよく、うっていたので、これをつかいます」
和紙をナイフで長方形に切っている。ブレず真っ直ぐに切れるのは素直に感心。そして、何枚か長方形にしたあと、上部に穴を開けていく。さらにその穴へ糸を通したので、アルトゥールもティアーナが何をしようとしているのか察する。
あの紙で植物を飾るのだろう。
「はいどうぞ。アルトゥールの分です」
「私の……?」
アルトゥールは紙とペンを渡されて困惑する。
何をすればいいのだろうとティアーナを見ると、彼女は紙に願い事を書いて植物に吊るしていた。
先ほど言っていたのはこれか、と納得して――
「アルトゥール?」
願うことなど、ひとつもないと気付く。
アルトゥールは願えば願った瞬間に叶うような人生を送っていた。出自からして人よりも恵まれていたが、やりたいことをやりたいようにできる才能も持っていた。
何か、叶わないことを心から願った試しがない。
「……願い事が、見つからない」
せっかくティアーナが用意してくれたのに、アルトゥールには書けるものがない。
「なら、みつかりますようにってかけばいいのでは?」
「願い事が……?」
「はい!」
言われたままに『願い事が見つかりますように』と書いてみる。
これは、そんな願いでいいのか。
ティアーナはもう一枚長方形の紙を作り、そこに今度は『ケーキをいっぱい食べたいです』と書いている。
「アルトゥールは、なにがたべたいですか?」
「そうだな、私は……」




